婚外子国籍訴訟(こんがいしこくせきそしょう)とは、結婚していないフィリピン国籍の母と日本国籍を有する父との間に出生した原告らが、出生後に父から認知を受けたことを理由に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ、原告らが国籍法3条1項に規定する、国籍取得の条件を備えていないとして、日本国籍の取得を認められなかったため、父母の婚姻(嫡出子であること)を国籍取得の要件とする同項の規定は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するなどと主張して、国に対し、日本国籍を有することの確認を求めた訴訟である。最高裁判所は、国籍法3条1項の規定は、日本国憲法第14条1項に違反すると判断し、現憲法下8例目の法令違憲判決となった。訴訟としては、異なる原告から提起された退去強制令書発付処分取消等請求事件(以下(A)事件という。)と国籍確認請求事件(以下(B)事件という。)の二つの事件であるが、最高裁で同日に同様の内容の判決が下された。第一審の東京地裁は、(A)事件(平成17年4月13日判決)、(B)事件(平成18年3月29日判決)ともに、国籍法3条1項のうち準正要件を定める部分のみを違憲無効として、原告らが日本国籍を有することを確認した。これに対し、控訴審の東京高裁は、(A)事件(平成18年2月28日判決)、(B)事件(平成19年2月27日判決)とも、国籍をいかなる者に認めるかは、立法府の権限であり、裁判所が国籍法を違憲として規定に該当しない者に国籍を確認することは司法が立法行為をすることになり許されないとして、憲法判断をせずに、原告らの逆転敗訴を言い渡した。原告らが、最高裁判所に上告したところ、2007年9月5日、事件が大法廷に回付されたことから、国籍法3条1項に対して何らかの憲法判断を下すのではないかと予想されていた。2008年6月4日、最高裁は(A)事件、(B)事件ともに原判決を破棄し、本件区別については、これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの、立法目的との間における合理的関連性は、我が国の内外における社会的環境の変化によって失われており、今日において、国籍法3条1項の規定は、日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課し、日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して、日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ないとして、上告人(原告)の訴えを認めた。問題となる国籍法2条及び3条の規定は次のようなものである。上記のような国籍法の規定の結果、両親の一方が日本国民で他方が外国人の場合の、子の日本国籍取得については次のような取扱いとなる。なお、日本国民の子で日本に住所を有する外国人(日本国民を父とする生後認知を受けた非嫡出子も含まれる。)は、国籍法8条により、一般の外国人に適用される同法5条の帰化要件よりも緩和された要件によって、帰化申請を行うことができる。以上の規定の結果、(1)嫡出子、(2)日本国民である母と外国人の父との間に生まれた非嫡出子、(3)日本国民である父と外国人の母との間に出生した非嫡出子のうち、日本国民である父から胎児認知を受けたものは当然に日本国籍を取得し、また、(4)日本国民である父と外国人の母との間に出生した非嫡出子のうち、父から生後認知を受け、かつ、父母が婚姻したもの(準正子)は届出によって日本国籍を取得することができるが、(5)日本国民である父と外国人の母との間に出生した非嫡出子のうち、父から生後認知を受けたが、父母が法律上の婚姻をしていないもの(非準正子)は届出によっても日本国籍を取得できないという区別が生じている。(A)事件の第1審である東京地裁判決は、次のように判示した。国籍法3条1項の合理性について(1)国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件とした部分は、日本国民を父とする非嫡出子に限って、その両親が婚姻をしない限り、法律上の親子関係が認められても、届出により日本国籍を取得することができないという、非嫡出子の一部に対する大きな区別と不利益をもたらすこととなり、(2)同項が準正要件を設けた理由は、国籍取得のために、当該非嫡出子と我が国との強い結び付きないし帰属関係の存在を要求し、これを認めるための指標として、日本国民である父との家族関係ないし生活の同一性を想定し、これを法律上の婚姻という要件として定めることによって、法定化したものと考えられるところ、(3)国籍取得のために子と我が国との強い結び付きないし帰属関係を要求することは、我が国の国籍法上、父母両系血統主義と並び立つような重要な理念であるということはできず、(4)また、法律上の婚姻の成否によって、日本国民である父との生活の同一性の有無を一律に判断したり、生活の同一性の有無によって、我が国との強い結び付きや帰属関係の有無を一律に基礎付けることもできず、(5)法律婚の尊重、基準の客観性、偽装認知のおそれ及び各国の法制度という観点から見ても、いずれも上記区別を十分合理的に根拠付けることはできず、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する。国籍法3条1項が違憲となる範囲について法律の規定は、できるだけ合憲的に解釈すべきであるから、同項のうち、一部を違憲無効と解することで足りるのであれば、そのように解するにとどめるのが相当であるというべきである。しかるところ、既に判示したところによれば、国籍法3条1項の全部を合憲有効と解することはできない。他方、同項の全部を違憲無効とすれば、出生時に法律上の親子関係が認められる場合の国籍の取得が認められるのみで、血統主義を採りながら、出生後に法律上の親子関係を認められた子の国籍取得の余地は全くなってしまう。そして、前示のとおり、生後認知を出生後の事由として国籍の取得原因とすることには合理性があることや、既に認定判断してきたところによれば、国籍法3条1項を制定した立法者の最大の眼目は、国籍取得の要件を拡大して、父母両系血統主義を拡充し、日本国民の実子は日本国籍を得られるであろうという国民的な期待にこたえることにあったと考えられることに照らすと、その拡大、拡充に不十分な点があるからといって、国籍法3条1項の全部を違憲無効と解することは不合理であり、むしろ立法者の意思に反するというべきである。このように考えると、前示のとおり、国籍法3条1項は、父母両系血統主義を採る同法2条1号による国籍の付与を更に拡充する規定であり、同号は法律上の親子関係を要求するものの、父母の婚姻関係まで要求していないことにもかんがみれば、同法3条1項における中核的な要件は、日本国民である父又は母から認知された子という部分(条文の文言としては、「認知により…(中略)…身分を取得した子」と同項後段の部分)であって、準正要件は、重要ではあるものの、中核的なものではないと解するのが相当である。以上によれば、上記両部分が本来的に可分であり、準正要件については合理性が認められず、また、準正要件は中核的なものではないと解される以上、国籍法3条1項のうち、準正要件を定める部分のみを違憲無効と解すべきである。仮に、このような規定の一部分の違憲無効を認めないとすると、国籍法3条1項が憲法14条1項に違反して無効であるとしても、非準正子たる原告らの国籍が認められる余地はなくなってしまい、原告らは、同項全体が違憲無効であるとして被告の立法不作為を争うしかなくなるが、これは余りに迂遠であり、結局、原告らに対し実質的な救済までの道を長くすることとなり、相当とはいえないと考える。以上によると、国籍法3条1項の規定は、準正要件を定める部分、すなわち条文の文言でいえば、「婚姻及びその」並びに「嫡出」の部分に限って憲法14条1項に違反し、違憲無効であるというべきである。(A)事件の控訴審である東京高裁平成18年2月28日判決は、要旨次のように判示した。国籍法3条1項違憲を理由に生後認知をうけた子の認知を請求することは、日本の国籍を取得する規定の効力が失われるだけであって父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度が創設されるわけではないから、そのような主張は法理論上失当である。法3条1項を類推ないし拡張解釈もできないし、これを認めると、裁判所に類推解釈ないしは拡張解釈の名の下に国籍法に定めのない国籍取得の要件の創設を求めるものにほかならないというべきところ、裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは許されない。(B)事件の控訴審である東京高裁平成19年2月27日判決は、要旨次のように判示した。法3条1項は、日本人父の子の出生が父母の婚姻前であるか後であるかによることのみによって国籍取得の在り方に違いが生ずることの不均衡をできるだけ是正することを目的として定められたものであり、日本人父の準正子は、類型的にみて、父母の婚姻により日本人父の家族関係に包摂され、我が国との結び付きが密接になることから、法務大臣に対する届出による伝来的な国籍取得を認めたものと解することができる。また,同条項が法務大臣に対する届出により国籍を取得できる要件として、「父母の婚姻及び認知により嫡出子たる身分を取得した子」と明示し「婚姻」、「認知」、「嫡出子」という明確な概念によって立法者の意思も一義的に示されているといえ、類推や拡張解釈はできない(最判昭和41年11月16日)。法3条1項のうちの上記要件のみが憲法14条1項に違反して無効であるとして、そのことから非嫡出子が認知と届出のみによって日本国籍を取得できるものと解することは、法解釈の名の下に、実質的に国籍法に定めのない国籍取得の要件を創設するものにほかならず、裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは憲法81条の違憲立法審査権の限界を逸脱するものであって許されない。また、法3条1項の趣旨からすると、被控訴人(原告)ら主張の上記要件が憲法14条1項に違反して無効であるとすれば、法3条1項全体が憲法14条1項に違反して無効となると解するのが相当であるが、仮に法3条1項が無効とされるとすれば、父母の婚姻及び日本人父による認知の要件を具備した子が日本国籍を取得できる根拠規定の効力が失われるだけであり、そのことから,出生した後に日本人父から認知を受けたものの、父母が婚姻しないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本国籍を取得する制度が創設されるわけではないことも明らかであるといわざるを得ない。そして、当該法条が違憲無効である場合に、いかなる内容の立法をするかは国会の権能に属するのであり、裁判所が、立法政策として日本人父の認知と届出のみによる日本国籍取得を認める方法しかあり得ないと判断し、そのような解釈をして日本国籍の取得を認めることは許されない。最高裁判所大法廷は、平成20年6月4日判決で、次のような判断を示した。これは島田、泉、才口、今井、中川、那須、涌井、田原、近藤各裁判官による多数意見である。泉徳治裁判官の補足意見、今井功裁判官の補足意見(那須、涌井両裁判官がこれに同調)、田原睦夫裁判官の補足意見、近藤崇晴裁判官の補足意見がある。藤田宙靖裁判官の意見(適用違憲、請求認容)は、要旨次のとおりである。国籍法は、子の国籍の取得に関する原則を定めるほか、特に3条1項に定める一定の要件を満たした者について、届出による国籍取得を認めているものというべきである。したがって、同項が準正要件を定めているのは、準正子でありかつ同項の定めるその他の要件を満たす者についてはこれを特に国籍取得の上で優遇する趣旨なのであって、殊更に非準正子を排除しようという趣旨ではない。言い換えれば、非準正子が届出という手続によって国籍を取得できないこととなっているのは、同項があるからではなく、2条及び4条の必然的結果というべきなのであって、3条1項の準正要件があるために憲法上看過し得ない差別が生じているのも、いわば、同項の反射的効果にすぎないというべきである。それ故また、同項に準正要件が置かれていることによって違憲の結果が生じているのは、多数意見がいうように同条が「過剰な」要件を設けているからではなく、むしろいわば「不十分な」要件しか置いていないからというべきなのであって、同項の合理的解釈によって違憲状態を解消しようとするならば、それは「過剰な」部分を除くことによってではなく、「不十分な」部分を補充することによってでなければならないのである。もっとも、立法府が違憲な不作為状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、司法権がその不作為に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しかしながら、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではない。横尾和子、津野修、古田佑紀各裁判官の反対意見は、国籍法3条1項を合憲とし、請求を棄却すべきとするものである。甲斐中辰夫、堀籠幸男各裁判官の反対意見は、国籍法3条1項は違憲としながらも、請求を棄却すべきとするものである。その要旨は次のとおりである。法務省は、婚姻要件を削除すると共に、虚偽の国籍取得届を提出した者に対し、て1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する旨の罰則の新設を骨子とした国籍法改正案を国会に提出し、2008年12月5日成立した。改正法では、2003年1月1日以降改正法施行日前において改正法によれば国籍取得要件を満たす者に対して改正法施行後3年以内に届出を提出すれば日本国籍を取得できるなどの所要の経過措置も設けられている。その他、虚偽認知の防止や父子関係の科学的な確認方法の導入の要否、及び当否に関して検討を行うなどの附帯決議が可決された。
出典:wikipedia
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