『黒馬物語』(くろうまものがたり、英:"Black Beauty: The Autobiography of a Horse")は1877年11月24日に出版されたイギリスの女流作家アンナ・シュウエルの生涯唯一の小説で、同時に代表作にもなった。シュウエルが病気療養中であった1871年から1877年にかけて執筆され、シュウエルは翌1878年に没している。主人公である馬のブラック・ビューティーによる一人称形式の物語である。イギリスの牧場で生まれ育った気楽な仔馬時代に始まり、ロンドンでの辛い馬車馬生活を経て、田舎の牧場で静かな老後を送っている主人公の自叙伝的な小説である。主人公には数多くの苦難に出会い、また馬に対する虐待や親切を受けたエピソードを数多く述べている。各々の短い章は主人公の人生に訪れた事件を語っているが、それらから馬への思いやり、共感、待遇への理解を説いた教訓として含まれており、作者であるシュウエルの馬の行動に対する詳細な観察と描写により多くの現実味を帯びた作品となっている。舞台は19世紀後半のイギリス。牧場で生まれた美しい黒馬ブラック・ビューティーは母馬や牧夫の愛情を受けて育まれた。やがて人間の手により調教を受け、ゴードン家の厩舎で主人の馬車馬や乗用馬として使役されることになる。気難しいが美しい栗毛の牝馬ジンジャー、小さいけれど利口なポニーのメリーレッグス、未熟な厩務員見習いの少年ジョーといった仲間に囲まれ、休暇の際は広大で緑豊かな放牧地で仲間達と楽しい時間を過ごしていた。やがてゴードン一家が屋敷を手放して移住することになると、残された馬や厩舎の人々は散り散りになり、ブラック・ビューティーも数々の人手に渡っていく。そしてメリーレッグスは牧師に売られ、ビューティーとジンジャーは300ポンドでW伯爵の元に売られることになった。ゴードン邸の3 - 4倍の広さというW邸では伯爵夫人に手厳しく扱われ、やがて傷ついたビューティーは今度は貸し馬屋に売られることになった。次いでロンドンの辻馬車屋ジェリーに買われ、都会の喧騒な暮らしながらも馬も大切にするジェリー一家のために働いた。ある時街角ですっかり痩せ細り、精根尽き果てながらも馬車を曳いていたジンジャーに出会った。それからしばらくしてジンジャーの遺体を曳いた馬車がビューティーの前を通り過ぎていった。「さらば、愛しきものよ」。ジェリーもやがて体調を崩し辻馬車屋を引き上げることになり、ビューティーは穀物商人の元で重荷を曳かされた。次いで再び辻馬車屋に売られ、過労でビューティーもとうとう倒れこんでしまったが、馬市に売られることになり、わずか5ポンドで心ある農場主のサラグッドに買われた。回復したビューティーに余生を送らせるべくサラグッドは知り合いに譲ることにした。そこでの厩務員は新しく入ってきた老馬に見覚えがあった。「この馬はブラック・ビューティーにそっくりだな。彼はいま頃、どうしているんだろう」。そう、厩務員はゴードン家の少年・ジョーだったのである。老馬がビューティーと気が付いたジョーに最後の住処を与えられ、悠々自適の暮らしを送りながら、ビューティーは時々ジンジャーやメリーレッグスと楽しく過ごしていた昔を思い出すのであった。19世紀後半のイギリスはモータリゼーション以前、蒸気機関車こそ登場していたが交通手段としては馬が主流だった時代である。作中に登場する貸し馬屋は現代でいうならばレンタカー、辻馬車はタクシー、乗合馬車は乗合バスといった具合である。また荷物の運搬や農耕用、そして軍用として馬は欠かせない存在であったが、同時に馬に対する扱いについても多くの問題が生じていた。当時のロンドンは既に過密状態で、渋滞や交通事故も少なくなかったという。若くして足が不自由となった作者は、父の送り迎えに馬車を多用したが、その頃から馬への関心を与えたとされる。また母マリー・ライト・シュウエル(1797年 - 1884年)は児童向け福音書のベストセラー作家であったため、アンナは若い頃から編集を手伝っていたことも執筆へのきっかけとなっている。シュウエルは「この小説には馬への思いやり、共感、待遇への理解を説いた特別な狙いがある」と述べている。またこの作品は作者が以前に読んだホレース・ブッシュネル(1802年 - 1876年)の著書『動物についてのエッセイ』に影響を受けたとされる。シュウエルは出版の5ヵ月後に死亡したが、小説は即座にベストセラーとなり、存命中にこの小説の成功を認めるには十分な期間があった。働く動物の窮状に対する作者の同情的な描写は、動物の権利保護に対する関心への大きな発露につながり、特に「止め手綱」の習慣の廃止に尽力したとされる。馬の立場から見た世界を自叙伝形式によって馬の人生を物語るという、文学的にも新たな手法であった。この作品の成功について旋丸巴は特筆すべき2点として、馬による一人称形式が用いられた点、動物としては馬特有とされる流浪の生涯を描ききった点を挙げている。小説は当初は児童向けではなく、馬に携わった人々を読者に捉えていた。しかしながら間もなく、児童向けの教育的な古典小説とされた。動物の権利保護を表面上示唆しながらも、人々を思いやり、同情と尊敬の念をもって待遇する方法についての寓意的な教訓を含んでいる。後に発行された学生版では、さらに学習的な問題として各々の章において道徳的なテーマが強調されている。マーガレット・ブラウントは著書『アニマルランド』において黒馬物語を「最初の本当の動物小説」、「古今でもっとも有名で愛されている動物の本」、そして「おそらく最後の教訓的な物語」と述べている。スーザン・チッティは黒馬物語の3000万部以上の売り上げから「おそらくこれまでに最も成功した動物物語」としている。日本語訳の書籍も数多く出版されているが、現在では入手・閲覧が困難なものも多い。記事作成にあたっては以下を参考にした。また英語版ウィキソースに原文()が収録されている。黒馬物語は何度か映像化されている。
出典:wikipedia
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