イギリス国鉄標準クラス9F(BR Standard Class 9F、2-10-0)は、イギリス国鉄設計製造の最後にして最大の蒸気機関車である。この形式は1954年にブライトン工場()で設計され、スウィンドン工場ならびにクルー工場 () で 92000-92250号の251両が生産された。イギリス国鉄での蒸気運転停止のため、多くが廃車を待たず数年で運用から外された。1948年の鉄道国有化により、イギリス国鉄は戦時調達として建造された多数の重貨物機関車を継承した。LMSクラス8F 2-8-0 666 輌のほか、夥しい数のイギリス軍需省簡易型2-8-0 () および イギリス軍需省簡易型2-10-0 () である。イギリス運輸委員会 () は既存の蒸気機関車をディーゼルおよび電気動力で置き換える無煙化を提案した。しかし、全線電化を希望するイギリス国鉄首脳部は、委員会の意見を無視して電化までの繋ぎとして新たに「標準」設計の蒸気機関車群を発注した。クラス9Fはそのうちの「標準型」重貨物用機関車である。クラス9Fは時速35マイル (56 km/h) で900英トン (914トン) までの貨物列車を最善の燃料効率 () で牽引する様設計された。元々の提案ではBR標準クラス7「ブリタニア」4-6-2 のボイラと 2-8-2 軸配置との組合せであったが、R. A. リドルスが自身の設計である簡易型2-10-0同様の 2-10-0 軸配置を望んだと考えられている。その結果、ブリタニアに比べ火室がわずかに小さくなった。工場地帯での急曲線に対応するため、直径 5'0" の動輪のうち第3軸にはフランジがなく、第2および第4軸のフランジは背が低かった。クラス9Fは標準設計クラス中最良のものであることが徐々に示され、かつて設計された蒸気機関車のなかで最良のものの一つであるとさえ言われている。設計目的である重高速貨物列車の牽引での使用は非常に良好で、イギリス鉄道網の広範囲で用いられた。1982年9月には、動態保存機である92203号機 「ブラックプリンス」が、イングランド、サマセットにあるフォスター・ヨーマン () のトール工場 () 採石場で 2,162英トン (2,196 トン) 列車の引出しに成功し、イギリスにおける蒸気機関車の牽引重量記録を樹立した。クラス9Fは旅客用としても威力を発揮し、小径動輪にもかかわらず高速走行が可能であった。あるとき、クラス9Fがグランサムからキングスクロスまで急行列車を牽引したことがあった。乗車していたさる鉄道愛好家の計測では、時速90マイル (145 km/h) を越えることが二度あったという。その証拠に、乗務終了後、機関士に、期待されているのは時刻厳守をであって「音の壁を破ることではない」("not break the bloody sound barrier!") と注意があった。機関士応えて曰く、乗務した機関車には速度計がなく、高速でもあまりになめらかな乗り心地であったので、安全と思われる範囲で走らせたまでだ、と。クラス9Fの高速度達成例はこれだけではなく、92220「イヴニングスター」もカーディフ-ロンドン間の急行「レッド・ドラゴン」を牽引していて時速90マイルに達したと言われている。しかし、高速走行に伴う高速回転による走行装置の摩耗損傷を懸念した運行管理部は、クラス9Fの急行列車での運用を禁じた。クラス9Fは新技術のテストベッドとしても用いられた。どの改造でも効率、出力、コストの改善がみられたが、クラス9F自体初期故障が解決した後は高効率と実に高い信頼性を示したため、広く適用される事はなかった。1955年に製造された 92020-92029 の 10 輌ではフランコ-クロスティ式ボイラ() が試用された。これは主ボイラの下に設置された補助ボイラに煙室からの火室ガスを導き、機関車右側歩み板に設けられた煙突から排気し、排熱を利用して給水加熱しようとする設計である。煙室にも通常の煙突はあったが、これは点火時に用いられるだけで、点火後は蓋でふさがれていた。実験では期待程の蒸気発生効率向上は見られず、製造コストの上昇と設計の複雑さに伴う管理コストの上昇に見合うものではなかった。向かい風では煙が運転室に吹き込んで運転しづらく、二次煙室の燃焼ガスが低温であったため生じた硫酸による深刻な腐食がみられた。全機通常ボイラに換装されたが、一部外見から容易に識別できた。92165-92167号機の3両は機械式ストーカー付きとして製造された。螺旋状スクリューによってテンダーの石炭は火床まで運ばれ、4本の蒸気管により石炭を火格子に均等散布する様になっていた。機械式ストーカーにより低質炭を利用できると期待されたが、機関助士が手でくべるよりも多くの低質炭が供給され、不首尾であった。92250号機にはギースル式イジェクターが取り付けられ、より少ない排気背圧での同程度の排気、あるいは、効率を下げることのない排気の増加が可能となった。通常の単一排気管と違い、排気は煙室ガスに順次送り込まれる様になっていた。潜在的可能性に対してまたしてもクレームがついたが、試験工場や実際の運用から出たものではなかった。92250 号機では廃車までさまざまな排気管が試用された。わずかながらも確認可能な改善をもたらした唯一の改造は、92178 号機以降のクラス9F 全機に設置さた二本煙突であった。これにより蒸気発生余裕ができ、より高出力が可能となった。1960年、92220 「イヴニングスター」 ("Evening Star") は、番号こそ最大ではなかったものの、イギリス国鉄が製造した最後の蒸気機関車となった。これを記念するため、命名されるとともに、通常の貨物機の黒一色の塗装ではなく、旅客機の緑塗装が行われ、煙突には銅の縁どりがつけられた。「イヴニングスター」はある種特別な機関車として扱われ、特別列車にしばしば用いられた。1960年夏にはロンドン-カーディフ間の「キャピタルズ・ユナイテッド」急行に用いられた。イギリス国鉄の最終製造機という地位により保存機として指定され、1965年の廃車とともにナショナルコレクションに加えられた。「イヴニングスター」は1980年代初期に再度火が入れられ、レイルツアーに頻繁に用いられた。92134 号機、 92203 「ブラックプリンス」 ()、92207 「モーニングスター」、92212 号機, 92214 号機, 92219 号機, 92220「イヴニングスター」、92240 号機、92245 号機の 9 台が現存している。.同型機がきかんしゃトーマステレビシリーズに、サイズと力に反し平和と静けさを愛するとして登場している。www.92214.co.uk - レストアされたクラス9F 92214 号機の詳細。クラス 9F の詳しい仕様あり。
出典:wikipedia
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