


急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん、poliomyelitis)は、ポリオ (Polio) とも呼ばれ、ピコルナウイルス科、エンテロウイルス属のポリオウイルスによって発症するウイルス感染症のこと。ポリオは、Poliomyelitis(ポリオマイアライティス)の省略形。ポリオウイルスが原因で、脊髄の灰白質(特に脊髄の前角)が炎症をおこす。はじめの数日間は胃腸炎のような症状があらわれるが、その後1パーセント以下の確率で、ウイルスに関連した左右非対称性の弛緩性麻痺(下肢に多い)を呈する病気である。「急性灰白髄炎」の名はポリオウイルスの3つの血清型、いずれの血清型に起因する感染症に対しても使用される。ポリオ感染の症状は大きく2つに分類できる。1つが不全型ポリオとも呼ばれる中枢神経系 (CNS) が関わらない軽微な症状、もう1つがCNSの関わる重篤な症状であり、後者は麻痺を伴う場合と伴わない場合がある。正常な免疫系を持ったヒトではポリオウイルスの感染はその約90 - 95%が不顕性である。稀にポリオウイルスの感染が上部気道感染症(咽頭痛、発熱など)、消化器障害(吐き気、嘔吐、腹痛、便秘、稀に下痢)、感冒様症状などの軽微な症状を引き起こす。ウイルスが中枢神経系に進入するのは感染者内の1%程度である。CNSの感染を伴う場合、多くの患者が頭痛、首痛、背部痛、腹痛、末端痛、発熱、嘔吐、脱力、神経過敏 (irritability) を伴う非麻痺型髄膜炎に発展する。1000人の感染者の内、1から5人が麻痺型の疾患へと進行し、筋力が低下、自立困難になり、最終的に急性弛緩性麻痺として知られる完全な麻痺状態に陥る。麻痺の部位に応じ、麻痺型のポリオは脊髄型、延髄型(球麻痺型)、延髄脊髄型(球麻痺・脊髄麻痺型)に分類される。脳自体に感染が及ぶ脳炎は稀であり、かつ基本的に新生児に限定される。脳炎においては錯乱、精神状態の変化、頭痛、発熱、そして稀に発作、痙性麻痺が生じる。急性灰白髄炎はポリオウイルスとして知られるエンテロウイルス属のウイルスの感染によって生じる。この属のRNAウイルスは消化器系で増殖し、特に咽頭や小腸を感染巣とする。初期徴候、症状までの潜伏期は3日から35日までの幅をとるが、一般的には6日から20日の間となる。ポリオウイルスはヒトのみに感染し、疾患を引き起こす病原体である。構造は極めて単純で、一本鎖の (+) 鎖RNAゲノムとそれを包むタンパク質の殻、カプシドのみによって構成される。カプシドはポリオウイルスの遺伝物質を保護するだけでなく、ポリオウイルスを特定の細胞に感染させることもできる。これまでに3つの血清型が同定されてきた。それぞれ1型、2型、3型と命名され、それぞれわずかにカプシドタンパク質に違いがある。3つの血清型全てが極めて病原性が高く、同一の症状を引き起こす。1型は最も感染頻度が高い型で、麻痺との関連性が最も強い。不顕感染であったとしてもポリオウイルスの曝露を受けたヒトはそれが自然感染でもポリオワクチンによる予防接種でも免疫を獲得する。免疫を持つヒトの体内には扁桃や消化器系にポリオウイルスに対するIgAが存在し、ウイルスの増殖を防ぐ。また、ポリオウイルスに対するIgGやIgMはウイルスが中枢神経系の運動ニューロンに進入するのを防ぐ。ある血清型に対する自然感染ないしワクチンは他の血清型に対する免疫を誘導しないため、完全な防御には各血清型の曝露を必要とする。稀にポリオウイルス以外のエンテロウイルスが感染することでポリオウイルス様の症状を引き起こすこともある。急性灰白髄炎は糞口経路(腸管が感染源)ないし口口経路(口腔咽頭が感染源)によって感染し、いずれの経路も感染性が高い。流行地域ではほぼ全てのヒトに野生型ポリオウイルスが感染する。温帯気候においては季節性に流行し、夏から秋にかけて新規感染が増加する。一方、熱帯地域ではこの流行の季節性はほとんど不明瞭となる。潜伏期 (incubation period) として知られる曝露から初期症状までの期間は、通常6日から20日で、最短で3日、最長では35日間となる。ウイルス粒子は初期感染の後、数週間に渡って糞便中に排泄される。ポリオは基本的には汚染された食べ物や水の摂取による糞口経路で伝播する。一方で偶発的に口口経路によって伝播することもあり、特に公衆衛生が整備された衛生的な地域によって観察される。ポリオの感染性は発症の前後7から10日の間に最も高くなるが、唾液や糞便中にウイルスが存在している限り感染の可能性がある。ポリオの感染や重篤化の危険性を高くする因子として、免疫不全、栄養失調、麻痺発症直後の物理的運動、ワクチンや治療薬の接種による筋骨格系の損傷、妊娠がある。、胎児は母体のポリオワクチン接種にも影響を受けないようである。母体の抗体もまた胎盤を通過し、新生児を生後2、3ヶ月に渡りポリオ感染から保護する受動免疫を与える。ポリオウイルスは口から体内に侵入し、最初に咽頭か小腸粘膜の細胞に感染する。細胞への感染においては細胞表面に発現し、ポリオウイルス受容体としても知られる免疫グロブリン様受容体、CD155分子に結合することで細胞内へ進入する。細胞内へ侵入したウイルスは宿主細胞のセントラルドグマを乗っ取り、複製を開始する。ポリオウイルスはおよそ1週間で消化器系の細胞内で増殖し、そこからさらに扁桃(特に扁桃の胚中心にいる、ろ胞樹状細胞)、パイエル板のM細胞を含む腸管リンパ組織、および頸部ないし腸間膜リンパ節へと感染を広げ、その場で十分に増殖を重ねる。そしてウイルスはさらに血流へと進入する。ウイルス血症として知られる血流へのウイルスの拡散により、ポリオウイルスは全身へ拡散する。ポリオウイルスは血中およびリンパ液中で長期間生存、増殖可能で、17週間にわたり循環することがある。少数の症例においてはウイルスが褐色脂肪、細網内皮系、筋などの他の組織でも増殖する。この持続的なウイルスの増殖は重度のウイルス血症を招き、軽微な感冒様症状の発展につながる。稀にこれがさらに進行し、ウイルスが中枢神経系へ侵入、局所的な炎症反応を誘起する。中枢神経系にウイルスが侵入してもなお、多くの症例では脳を包む層状の組織、髄膜に炎症が限局し、これは非麻痺型無菌性髄膜炎と呼ばれる。CNSへの感染がウイルスに与える利点は無いと考えられており、CNSへの感染は通常の消化器感染から事故的に生じるようである。ウイルスがCNSへと広がる方法はほとんど理解されていないが、基本的には偶発的であるようで、感染者の年齢、性、社会経済学的地位はCNSへの移行の有無にはほとんど影響しない。感染者のおよそ1%でポリオウイルスは特定の神経線維にそって感染を広げ、脊髄、脳幹、運動皮質の運動ニューロンを好んで細胞内において増殖、これを破壊する。これが麻痺型急性灰白髄炎の形成につながる。麻痺型のポリオの様々な臨床型(脊髄型、延髄型、延髄脊髄型)は神経が受ける損傷の大きさと炎症が起きる部位、影響を受けるCNSの部位が異なるだけで本質的には同一である。神経細胞の破壊は後根神経節内に病変を形成する。同様の病変は網様体、前庭神経核、小脳虫部、深部小脳核にも形成されうる。麻痺に関連した破壊的変化はは他にも前脳領域、特に視床下部と視床に発生する。ポリオウイルスが麻痺を起こす分子機構はほとんど理解されていない。早期麻痺型ポリオの症状は高熱、頭痛、背部と首のこわばり、様々な部位における非対称性の筋力低下、接触への過敏、嚥下困難、筋肉痛、表在反射と深部反射の消失、痺れ、神経過敏、便秘、排尿困難などである。麻痺へは通常、発症の1日から10日後に進行し、2日から3日継続、発熱が収まるとそれ以上進行しない。麻痺型ポリオ発症の期待値は年齢と共に増加し、麻痺の範囲も同様である。小児においてはCNSに感染した症例でも非麻痺型髄膜炎に帰結する事がほとんどであり、麻痺は1000件当たりでわずか1件においてのみ発生する。一方で成人の場合、麻痺型は75件当たり1件の頻度で発生する。5歳以下では片方の脚の麻痺が最も多い。しかし、成人では胸部および腹部を冒す広範な麻痺が四肢にも影響する(頸髄損傷)事がより多くなる。麻痺型の頻度は感染したポリオウイルスの血清型によっても変化し、一番高い1型では1/200、一番低い2型では1/2000の頻度でそれぞれ麻痺を生じる。脊髄ポリオは麻痺型ポリオで一番多い型で、前角、すなわち脊柱の腹側にある灰白質の運動ニューロンへウイルスが侵入した結果として生じ、この運動ニューロンは胴部、四肢、肋間の筋肉を含む、筋肉の運動を支配する。ウイルスの侵入は神経の炎症を生じ、運動ニューロンの神経節の損傷と破壊に繋がる。脊髄の神経細胞が死ぬと、ワーラー変性が発生、死んだ神経細胞が元々支配していた筋肉は弱ってしまう。神経細胞の破壊によって被支配筋は脳や脊髄からの信号を受け取れなくなり、神経刺激を受け取らなくなった筋は萎縮、弱った筋肉は制御困難になって最終的に完全な麻痺に至る。麻痺の重篤度は急速に最大に達し(2日から4日)、通常発熱と筋肉痛を伴う。深部腱反射にも影響はおよび、消失ないし低下する。一方で麻痺した四肢の感覚障害が起こることはない。脊髄麻痺の範囲は影響を受けた神経の領域に依存し、頸部、胸部、腰部の各領域に影響が及ぶ可能性がある。ウイルスの影響が体の両側におよぶこともあるが、多くの場合、麻痺は非対称的である。どの四肢も、そしてどの四肢の組み合わせも麻痺になりうる。つまり、方脚の事もあれば片腕の事もあり、また両脚両腕におよぶ事もある。麻痺はしばしば遠位(指先やつま先)よりも近位(上腕や大腿の付け根)でより重篤となる。麻痺型ポリオの2%を占める延髄ポリオはポリオウイルスが脳幹の延髄において神経を侵し、破壊する事で発生する。延髄領域は大脳皮質を脳幹へと繋げる白質経路である。この部位の神経細胞の破壊は脳神経に支配される筋力を低下させ、脳炎症状を引き起こし、呼吸困難、発話障害、嚥下障害を招く。この型のポリオによって影響を受ける神経で重要なのは舌咽神経(嚥下と喉の機能、舌の運動、味覚を部分的に支配)、迷走神経(心臓、小腸、肺へ信号を送る)、および副神経(上頸部の運動を支配)である。嚥下機能に対して与える影響により、粘膜分泌物の気道流入が増加、窒息を招く。他の徴候、症状として顔面麻痺(頬、涙管、歯肉、および顔面と上記の構造の周囲の筋を支配する、三叉神経と顔面神経の破壊によって生じる)、複視、咀嚼困難、呼吸数、呼吸深度、呼吸リズムの異常(呼吸停止に進行しうる)がある。肺水腫とショックも生じる事があり、死に至る事がある。全麻痺型ポリオ症例のおおよそ19%は延髄症状と脊髄症状の両者を示し、この型のポリオは呼吸障害型ポリオ (respiratory polio)、あるいは延髄脊髄ポリオと呼ばれる。この場合、ウイルスは頸髄の上部(頸椎のC3からC5まで)に障害を与え、横隔膜の麻痺が生じる。この型のポリオで影響を受ける神経で重要なのが横隔神経(横隔膜を動かして肺を膨らます)と嚥下に必要な筋を支配する神経である。これらの神経を破壊する事で、この型のポリオは呼吸に影響し、患者は人工呼吸器による補助無しには呼吸困難、あるいは呼吸不可能な状態となる。また、腕や脚の麻痺を生じうる他、嚥下と心機能にも影響を与える事もある。患者が急性に脱力麻痺を一本ないし数本の四肢において発症し、他の明らかな原因無しに麻痺した四肢の腱反射が減衰ないし消失し、かつ知覚や意識の消失が無い場合、臨床症状から麻痺型ポリオが疑われる。通常、実験室的な診断は糞便試料か咽頭拭い液からポリオウイルスを分離することによって行われる。ポリオウイルスに対する抗体にも診断的価値があり、発症初期の試料とそれから3週間後の試料を比較し、力価が4倍増加した場合はポリオウイルス感染が示唆される。ただし、入院時には既に多量の抗体を検出することがあり、力価の増加は必ずしも検出されない。腰椎穿刺によって得られる患者の脳脊髄液の解析は、白血球数(基本的にリンパ球)の増加やタンパク質レベルの軽度増加を証明する。脳脊髄液からのウイルス分離も麻痺型ポリオに対する診断的価値を持つが、めったに検出されない。急性脱力麻痺に陥った患者からポリオウイルスが分離された場合はさらにDNA指紋法や、最近ではPCR法によるさらなる検査が行われ、分離されたウイルスが野生型(自然感染によって感染するウイルス)か、それともワクチン株(ポリオワクチンを生産するために用いられる株に由来するウイルス)かを明らかにする。野生型ポリオウイルスによって生じる麻痺型ポリオ症例一件につき、200から3000人の感染性を持つ不顕性キャリアが存在すると算出されるため、ウイルスの感染源を明らかにするのは重要である。ポリオには特異的な治療法は無い。近代における治療の焦点は症状の緩和、回復の補助、合併症の予防に置かれてきた。支持療法は萎縮した筋の感染を防ぐ抗生物質、痛みを緩和する鎮痛薬、軽い運動、栄養療法を含む。ポリオの治療はしばしば長期に渡るリハビリを必要とし、作業療法、理学療法、運動療法、装具装着、靴型装具装着などが行われ、そして整形手術が行われる事もある。移動型の人工呼吸器が呼吸の補助のために必要になる事もある。歴史的に患者が自発呼吸をできるようになるまで(一般的に1週間から2週間)、鉄の肺とも呼ばれる非侵襲的な陰圧呼吸器が急性ポリオ感染時における人工的な呼吸の維持のために使われた。現在では永続的な呼吸麻痺を持つ多くのポリオ生存者が胸から腹を覆う、近代的なジャケットタイプの陰圧呼吸器を使用している。他にも歴史的ポリオ治療法として水療法、電気療法、マッサージと受動運動、腱伸長法や神経移植などの外科療法などが行われた。不全型ポリオの場合、患者は完全に回復する。無菌性髄膜炎のみに終わった場合、症状は2日から10日継続するが、これも完全に回復する。脊髄ポリオの場合、ポリオウイルスの影響を受けた神経細胞が完全に破壊されると、麻痺は永続的となる。一方で神経細胞が破壊されず、一時的な機能不全に陥った場合は発症後4から6週間で回復する。脊髄ポリオ患者の半分は完治し、四分の一が軽度の障害を持ち、残りの四分の一は重度の障害が残る。急性期の麻痺も生涯にわたる麻痺も、その重篤度はウイルス血症の度合いに比例し、かつ免疫の強度に反比例するようである。脊髄ポリオが死に至る事は珍しい。呼吸の補助が無い呼吸器症状を伴う急性灰白髄炎の帰結は窒息や分泌物の吸入による肺炎を含む。麻痺型ポリオ患者全体で5 - 10 %の患者は呼吸筋の麻痺が原因で死に至る。致命率は年齢によって異なり、小児で2 - 5%、成人で15 - 30%までの患者が死亡する。延髄ポリオは呼吸補助が無いとしばしば死を招く。呼吸補助があれば致命率は患者の年齢によって25から75%の幅をとる。間欠性陽圧呼吸器が利用できれば致命率は15%まで低下しうる。急性灰白髄炎の麻痺は多くの場合一時的なものである。麻痺していた筋への神経刺激は1ヶ月以内に復活し、通常6から8ヶ月で完全に回復する。麻痺型急性灰白髄炎の回復に関する神経生理学的行程は完全に効果的であり、元々の運動ニューロンが半分失われたとしても筋肉は正常な機能を維持できる。感染後12から18ヶ月後に筋力がわずかに回復する事もあり得るが、麻痺が1年経過してもなお継続する場合は永続的な麻痺になるようである。ポリオからの回復に関わる修復機構の一つに神経終末端の発芽がある。この機構によって脳幹や脊髄の運動ニューロンは新たな枝分かれや軸索発芽を構築する。新しい分岐はポリオ感染の急性期に神経支配を失った筋繊維に再び神経刺激を与える事ができ、筋繊維は収縮能力を回復して強度を改善できるようになる。終末端の発芽は数本の著しく肥大した運動ニューロンを生み出し、肥大した運動ニューロンは以前の4から5倍の仕事をこなす。例えば、ある運動ニューロンが元々200本の筋繊維を支配していた場合、その運動ニューロンは800から1000本の筋繊維を支配するようになる。リハビリの段階において生じ、筋力の復元に寄与する他の回復機構として、運動による筋繊維肥大と、II型筋繊維のI型筋繊維への変換がある。以上のような生理学行程に加え、生体は麻痺の後遺症を持っていても機能を維持するために代償機構を数多く持っている。代償機構には弱い筋を本来の収縮能力を超えて用いたり、元々あまり使われない筋の運動能力を成長させたりする事が挙げられる。麻痺型ポリオにおいて、後遺症となる合併症は、回復期の最初の段階に続いて発生する。筋の不全麻痺と麻痺は骨格の変形、関節の拘縮、運動障害を生じる事がある。一旦四肢の筋が脱力状態に陥ると、他の筋の機能までを妨害する。この他の筋の機能妨害によって生じる典型的な徴候が尖足(内反足に似た状態)である。尖足のような骨格の変形は、つま先を下に下げる筋(底屈)が働く一方でつま先を挙げる筋(背屈)が働かない時に発生し、足は自然と倒れ込むようになる。この変形が治療されず放置されると背側のアキレス腱が収縮し、足を正常な位置に置く事ができなくなる。内反足に至ったポリオの犠牲者はかかとを接地できず、普通の歩き方ができない。また、同様の現象は腕の麻痺でも生じうる。患者によってはポリオの影響を受けた脚の成長が阻害され、反対側の脚が正常に発育する事もある。結果的に一方の脚がもう一方の脚に比べて短くなり、患者は片側に傾きながら脚を引きずる。そして脊椎側彎症のような脊椎の変形に至る。幼少期において麻痺型ポリオを発症した人の25%から50%は急性症状の回復から数十年後に、特に新たな筋力低下や極度の倦怠感などのさらなる症状を発現する。この状態はポストポリオ症候群(PPS、ポリオ後症候群)、ポストポリオ後遺症として知られる。ポストポリオ症候群の症状は麻痺型ポリオの回復期に形成された過剰に肥大した運動単位の失調が関与していると考えられている。ポストポリオ症候群のリスクを増大する寄与因子には運動単位の喪失を伴う加齢、急性期からの回復後に残った後遺症の存在、神経の過剰使用と無使用の両者が含まれる。ポストポリオ症候群はゆっくりと進行する病気で、これに対する特異的な治療法は存在しない。ポストポリオ症候群は感染によって起きるものではなく、この症状を発現した人はポリオウイルスを排出しない。経口生ポリオワクチン(3価又は1価)又は不活化ポリオワクチン(3価)の接種がいずれも有効である。野生株流行時はワクチンが予防効果を発揮する。生ワクチンでは弱毒化した生きたポリオウイルスそのものを接種し感染させるため、ワクチンウイルス感染による麻痺性ポリオ発症が一定の確率で生じる。ポリオはウイルスが中枢神経に感染することによって引き起こされるので、ホルマリン処理されウイルスが生きていない不活化ワクチンを接種してもポリオは発症しない。野生株によるポリオ感染が無くなった地域・国では、麻痺を起こさない、より安全な不活化ワクチンへ移行しつつある、3価の経口生ポリオワクチンの場合、1回目の接種では最も強い2型が主に腸管内で増殖する。この際、生ワクチン株の各型のウイルス同士が干渉するために、1型と3型のウイルスは充分に増殖せず抗体も産生されにくい。2回目の接種では2型の局所免疫ができているので2型は増殖せず、代わりに1型が主に増殖する。2回接種で95%、3回接種で99 - 100%の接種者が免疫抗体を獲得し、免疫は一生涯続くと考えられている。ポリオは1988年のWHOの総会において2000年までの根絶が決議されたが、2010年現在で1型/3型ポリオは根絶されていない状況である。根絶計画により流行地域は非常に狭まっており、2012年現在で常在国はナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンとなっている。しかし、渡航者などによる飛び火で、周辺国でも報告例が相次いでいるので、感染症情報には常に注意を要する。日本では厚生労働省検疫所がナイジェリア、パキスタン、アフガニスタン、およびその他の流行地への渡航者に対しての追加接種を推奨している。WHOの推奨では、この追加接種は、経口生ポリオワクチンか不活化ポリオワクチンの接種を3回以上完了していることが前提である。一般には脊髄性小児麻痺(略して小児麻痺)と呼ばれることが多いが、これは5歳以下の小児の罹患率が高い(90%以上)ことからで、成人も感染しうる。季節的には夏から秋にかけて多く発生する。1961年から予防接種が実施されている。日本では、1980年に野生株によるポリオ感染が根絶され、その後は定期接種で行われる経口生ポリオワクチン(OPV:Oral Polio Vaccine)からしか発症していないが、海外では流行している地域がある。世界保健機関 (WHO) は根絶を目指している。ポリオは1988年には世界125カ国において年間35万症例が発生していたが、日本を含む国際社会の真摯な取り組みにより、2009年には約1600症例にまで減少した。その後の推移は2010年1349例、2011年650例、2012年は223例、2013年は385例、2014年は359例、2015年は71例となっている。現在、ポリオの常在国はパキスタン、アフガニスタンの2カ国のみとなり、根絶へ向けた最終段階に入っている。しかし、これらの国々は何れも政治・社会的な理由から子どもたちへの予防接種が困難であったり、資金量の低下によってポリオ根絶に向けた足踏み状態が続いている。しかし、ここでポリオ根絶に向けた取組みを加速化させなければ、ポリオ発症例数が増加に転じ、さらに周辺国への感染被害を引き起こし、これまでの根絶への努力が無駄になってしまう恐れがある。実際に、2011年現在、常在国4カ国の周辺17カ国においてもポリオ症例が報告されており、子どもたちの健康を脅かしている。2012年2月、12ヶ月間新たなポリオの発生がなかったインドは正式に常在国から削除された。大きな前進である。2014年3月27日にはWHOにより以下の地域を含む東南アジア地域におけるポリオの根絶が宣言された:インド、インドネシア、スリランカ、タイ、朝鮮民主主義人民共和国、ネパール、バングラデシュ、東ティモール、ブータン、ミャンマー、モルディブ。これらの地域が追加されたことにより、世界人口の80%がポリオの根絶された地域に住んでいることになる。なお、長年にわたって常在国リストだった国にインドとナイジェリアがある。日本では1960年に不活化ワクチン (IPV) の本格製造が開始され、1961年から不活化ワクチンの定期接種が開始された。しかしながらライセンス生産を開始した千葉血清、阪大微研が製造した日本製不活化ワクチンは充分なポリオ免疫がつかず検定に合格できなかった。1961年に使用できたのは当初の計画(6ヶ月 - 18ヶ月の約60%が3回接種すると想定)で国産ワクチンの不足を補う予定であった全体の40%相当の輸入不活化ワクチンのみしか使えなくなった為、不活化ワクチンの在庫が払底し接種が不可能になった。その為、当時大流行していた九州において、未承認・未検定の経口生ポリオワクチン(OPV)の総計35万人に及ぶ臨床試験(事実上の緊急接種といって支障ないと思われる)が行われ、更に1300万分の経口生ポリオワクチンの超法規的措置により旧ソ連及びカナダから緊急輸入が行われ、世界で最初の徹底した全国一斉投与(National Immunization Days:NID)が実施された(当時の用語はブランケットオペレーション、後にWHOによりポリオ根絶の世界戦略として採用された)。これにより患者数が激減(患者数 1960年:6500人→1963年:100人以下)し、1981年以後ポリオの発生が見られず2000年にWHOに対しポリオの根絶を報告した。日本では、野生株による麻痺性ポリオ患者の発生は1980年を最後にみられないが、経口生ポリオワクチンを接種することで稀に麻痺性ポリオを発症することがあるほか、ワクチン株由来のウイルスによる小児以外の患者発生も報告されている。2008年3月までに予防接種健康被害認定審査会において生ポリオワクチン接種後に麻痺を発症したと認定された事例は、1989年度以降80件である。また、同審査会においてワクチンを接種された者からの二次感染と認定された事例は、2004年度以降5件である。この経口生ポリオワクチンによるポリオ発症が問題とされて、不活化ワクチンの再導入を求める民間の声が上がった。その後、日本国内での国産不活化ワクチンの再導入は2012年度末の見込みとなったが、このことがかえって接種控えを生み出す結果となってしまった。こうした事態を受け、2011年4月に神奈川県知事に当選した黒岩祐治が未承認の不活化ワクチンを希望する者に提供する方針を決定。厚生労働省はこうした動きには批判的であったが、やがて不活化ワクチンの承認前倒しに傾いた。2012年4月19日に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が開催され、承認申請が行われている不活化ワクチンのうち1種について製造販売を行なっても問題ないとの結論に達し、2012年9月1日よりポリオの定期接種は生ワクチンから不活化ワクチンに切り替えられた。輸入不活化ワクチンは1964年まで使用されていたが、国民のニーズがOPVにうつり需要が見込めなくなった為に承認をとりさげ、以後、再度の承認申請は行われていない。OPVはごくまれ(100万人に2 - 4人)に手足の麻痺が生じる。このため、近年ではIPVを輸入する医師が急増しているが、不活化ワクチンによる健康被害の補償が十分されるかの保証が明らかでない。なお、IPVは海外100ヶ国以上で使用されている。日本は、1997年に日本を含むWHO西太平洋地域において達成したポリオ根絶の経験を生かし、世界におけるポリオ根絶イニシアティブにおいても先駆者として貢献してきたが2011年8月、日本政府はビル&メリンダ・ゲイツ財団との官民パートナーシップのもと、革新的な手法を用いて約50億円のポリオ根絶支援を実施することを発表した。これは、パキスタン政府によってポリオ根絶事業が一定の成果を出すことができれば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がパキスタン政府に代わって日本政府に債務を返済するという「ローン・コンバージョン」と呼ばれる手法で、これによってパキスタン政府のポリオ根絶に向けたより一層の努力を引き出しつつ、最終的にパキスタン政府に債務負担を課すことなく、ポリオ根絶対策を支援することが可能となる。
出典:wikipedia
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