フッ化硫黄（フッかいおう、sulfur fluoride）はフッ素と硫黄とから構成される無機化合物で、異性体を含めて以下の6種類が知られている。十フッ化二硫黄のみが常温常圧で液体であり、他は気体の化合物である。二フッ化二硫黄（にフッかにいおう、disulfur difluoride）には F−S−S−F と S=SF の二種類の異性体が知られている。一フッ化硫黄（いちフッかいおう）と呼ぶことがある。F−S−S−F の融点は−133、沸点は15である。線形構造の分子で S−S 間距離が189pm、S−F 間が164pm、∠SSF = 108 の "C" 対称形である。他のハロゲン類縁体と対照的に、こちらの異性体は不安定である。F−S−S−F は真空中でフッ化銀 AgF と過剰の硫黄を加熱して反応させると生成するが、速やかに S=SF に異性化する。S=SF は融点−165、沸点−10.6の三角錐形構造で、S−S 間距離が186pm、S−F 間が160pm、∠SSF = 108 の "C" 対称形である。こちらの異性体は比較的安定で、250まで安定だが、それ以上の温度では不均化する。また、フッ化水素 HF や三フッ化ホウ素 BF のような酸触媒で速やかに分解する。 どちらも水と反応し硫黄、フッ化水素とポリチオン酸を発生する。二フッ化硫黄（にフッかいおう、sulfur difluoride）は化学式 SF であるが、生成させるのが困難で気相中で観測されているのみである。S−F間距離が1.59pm、∠98 の "C" 対称形である。四フッ化硫黄（しフッかいおう、sulfur tetrafluoride）は化学式 SF の無色気体の化合物である。融点は−121、沸点は−38.6であり、ひずんだ4角錐形構造で S−F 間距離は165pmと154pmの "C" 対称形である。四フッ化硫黄は二塩化硫黄 SCl をHF/ピリジン (70:30) と反応させるか、アセトニトリル中で SCl とフッ化ナトリウム NaF を反応させると得られる。反応性に富み、フッ素化剤として用いられる。すなわち他の置換基の存在下でも C=O 基、P=O 基のフッ素化が可能であり、C=O 基、P=O 基、COOH基、および PO(O)H 基をそれぞれ CF、PF、CF、PF に変換する。そして水とは瞬間的に反応して分解し、二酸化硫黄 SO と HF を与える。六フッ化硫黄（ろくフッかいおう、sulfur hexafluoride）は化学式 SF の無色無臭の気体で、熱的・化学的に安定な化合物である。十フッ化二硫黄（じゅうフッかにいおう、disulfur decafluoride）は化学式 SF の無色揮発性の液体である。五フッ化硫黄（ごフッかいおう）とも呼ばれる。きわめて毒性が強い。融点は−52.7、沸点は30であり、S原子を中心として8面体形が連結した構造で、S−S 間距離が221pm、S−F 間が156pmの "D" 対称形である。次式に示す光化学反応によって得られる。水またはアルカリ性では常温下では加水分解しない。アセトン溶液中でヨウ化カリウム KI をヨウ素 I に酸化する。また特色ある酸化的フッ素化剤として利用され、その反応は S−S 間のラジカル解裂を開始反応とすると考えられている。

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