バクセラ（学名：）は、接合菌門接合菌綱ケカビ目エダケカビ科に属するバクセラ属の接合菌で、ケカビによく似たカビである。C. W. Hesseltine らによって記載された を基に1969年にたてられた属である。外見的には非常にケカビによく似たカビであるが、胞子嚢柄の側面から少数の小胞子嚢や分生子を形成することで区別される。現在は3種がこの属に置かれる。形態については を中心に説明する。通常の培地でよく成長し、よく発達した菌糸体を形成する。菌糸には隔壁がなく、多核体である。明瞭な気中菌糸は出さないが、胞子嚢柄がよく伸びて枝分かれするため、シャーレ内一杯に育つ。細長い胞子嚢柄の先端に球形の胞子嚢をつける。胞子嚢柄は、最初は先端がやや巻蔓状になっているが、次第に真っすぐに伸びる。当初は枝を出さないが、次第に仮軸状に分枝を出し、それぞれの先端に胞子嚢をつける。胞子嚢は褐色で球形、表面は細かい突起が並び、胞子嚢壁が崩れることで胞子を放出する。柱軸はドーム状、アポフィシスはない。胞子放出後は柱軸の基部に逆刺が並んでいるのが見える。胞子嚢胞子はほぼ球形。このような胞子嚢をいっせいに出す姿は全くケカビそのものである。異なるのはこの後、小胞子嚢や分生子を形成する点である。ただし、多くのエダケカビ類が決まった場所に比較的まとまった姿の小胞子嚢柄をつけるのに対して、バクセラは菌糸体のあちこちになんとなく不規則にそれをつける。多くの場合、大胞子嚢が成熟した後に、その柄の途中から出るが、基質表面の栄養菌糸から単独で出る場合もある。小さな枝の場合、先端に単一の小胞子嚢などがつき、より発達したものでは仮軸状に分枝した枝のそれぞれの先端に小胞子嚢などがつく。枝は巻蔓状に半巻きくらいするが、時には真っすぐな状態のものもある。小胞子嚢壁は褐色で、表面には細かい刺状の突起が並ぶ。内部には数個の胞子が入っているのが透けて見える。大きい胞子嚢とは異なり、胞子嚢の壁がくずれることはない。分生子と言われるものは、内部に胞子が1つしか含まれないもので、単胞子の小胞子嚢と考えられる。しかし、単純にいわゆる小胞子嚢の中身が胞子1つになったものではなく、例えばその基部で柄が急に狭くなっていたり、多少とも異なった特徴がある。有性生殖は接合胞子嚢の形成によるもので、その様子はほぼケカビと同じである。ただし、自家不和合性なので、観察できる機会は少ない。Ellisらは を記載した際、それがあまりにケカビに似ていること、特に当時はケカビ属 に所属させていた （当時は ）に似ているため、これをケカビ科に属すべきものと考えた。また、彼らはエダケカビ科との関係を考えるためにこの種と数種のエダケカビ科の種との間で交配を試み、不完全ながら接合胞子嚢の形成を観察し、この菌がケカビ科とエダケカビ科の間を橋渡しする存在である証拠と見なした。しかし、大胞子嚢と共に小胞子嚢を持つことから、その後この属をエダケカビ科とする研究者が多かった。ただし、このような形態に基づく分類体系が真の系統を反映していないことが分子系統の情報から明らかになり、現在、この群の分類は大きく見直されつつある。Hoffmann et al.(2013)ではこの属が1つのクレードに纏まること、それがケカビ属ともかつてエダケカビ科とされていたものとも離れた位置にくることを示し、この属単独でバクセラ科 Backusellaceae とするべきとしている。この研究によると、この科ともっとも近縁なのはミズタマカビ "Plobolus" など糞生菌として特化した群であるミズタマカビ科に近いことになっている。また、ケカビ属に含まれていたものでも、類似の特徴を持つものはこの属に含まれるようになることを示唆している。Benny & Benjamin(1975)はこの属に以下の3種を挙げている。 と は土壌にからよく発見される。 は世界の熱帯から暖帯に広く分布する。日本では本州南部以南の森林土壌や地上の植物遺体などで比較的普通に見られる。 はより暖かい地域に分布し、日本では沖縄等で森林土壌に普通である。

出典:wikipedia