クマゼミ(熊蝉)"Cryptotympana facialis" は、カメムシ目(半翅目)・ヨコバイ亜目(同翅亜目)・セミ科に分類されるセミの一種。分類学上、エゾゼミやコエゾゼミとはかなりの近縁である。日本特産種の大型のセミである。成虫の体長は60-70mmほど。アブラゼミやミンミンゼミに比べて頭部の幅が広い。日本産のセミの中ではヤエヤマクマゼミに次いで大きな体をしている。翅は透明で、付け根付近の翅脈は緑色。背中側は艶のある黒色だが、腹部の中ほどに白い横斑が2つある。また羽化から数日までの個体は、背中側が金色の微毛で覆われる。腹部は白、褐色、黒の組み合わさった体色で、オスの腹部には大きな橙色の腹弁がある。温暖な地域の平地や低山地に棲息し、都市部の公園や街路樹などにも多い。成虫が発生するのは7月上旬から9月上旬くらいだが、特に7月下旬から8月上旬、大暑から立秋にかけての最も暑い頃が発生のピークである。成虫の寿命は2週間程度とされているが、大阪市立大学の調査では30日生きたメスが捕獲されたという研究結果も報告されている。オスは腹を激しく縦に振りながら大きな声で鳴く。鳴き声は「シャシャシャ…」や「センセンセン…」などと聞こえるが、その前後には「ジー…」という長い声が入る。また、オスを捕まえると「ジー」とも「ゲー」とも聞こえる大声を出し続けてもがく。羽を羽ばたかせる力も強力で、近くでは「ブーン」という羽の音が聞こえる。手足の力も強く、素手で捕まえようとすると引っ掻き傷をつけられる可能性があるので注意が必要である。鳴く時間帯はおもに日の出から正午までの午前中で、日が照って温度が上がる午前7時頃から午前10時頃まで最もさかんに鳴く。棲息地では朝日が昇ってから昼近くまで、鳴き声が騒がしいほどに響きわたる。鳴き終わるとすぐに別の場所に飛んで移動するという習性があり、朝の時間帯は空中をクマゼミが飛び交っている様子がよく見られる。雨の日や午後はあまり鳴かず、センダンやキンモクセイ、サクラなどの木の幹に止まって樹液を吸う。ただし、曇っていたり、午前中が雨で午後から天候が回復した時などは、時間をスライドさせて鳴くことがある。朝の鳴いている時間帯は高い場所にいるが、昼間は木の根元付近まで降りてきている。またアブラゼミと共存している地域では、午前11時ごろまではクマゼミのみが鳴き、それから後はアブラゼミのみが鳴くという「鳴き分け」が見られる。幼虫はアブラゼミと似ているが、わずかに大きくて体に艶がなく、頭部や腹部に泥が付くので区別できる。他のセミと比較しても割と高い位置まで登っていって羽化する。樹木だけでなく、民家の外壁やコンクリートブロックをよじ登るなど、幼虫も強い手足の力を持っている。羽化したばかりのクマゼミの成体は白っぽい色をしており、一晩かけて徐々に黒く染まっていく。翌朝には成虫としての身体が出来上がって飛ぶことも可能だが、その時点ではまだ完璧に鳴くことはできない。幼虫の生態について「湿った所にアブラゼミ、乾いたところにクマゼミの幼虫がいる」との説があるが、京都成安高等学校(現:京都産業大学附属高等学校)生物部と高校教諭・米澤信道による10年間の調査では、「アブラゼミ、クマゼミはそれぞれ好む木、嫌いな木があり(樹種嗜好性)乾湿によってきまるものではない」との立場をとっている。なお、センダンには脱皮殻がまったくつかないという統計結果がある。ミンミンゼミとクマゼミの鳴き声は、実際に人間の耳で聞く限りは全く違って聞こえる。しかし、この2種のセミの鳴き声のベースとなる音はほぼ同じであり、その音をゆっくりと再生すればミンミンゼミの鳴き声に、早く再生すればクマゼミの鳴き声となる。このように両種のセミの鳴き声には共通点があるため、クマゼミとミンミンゼミは互いに棲み分けをしていると言われる。それは、環境による棲み分けの場合もある(城ヶ島では、平坦な台地においてクマゼミが、傾斜地においてミンミンゼミが発生している)が、時期的な棲み分けのほうが主流である。つまり、クマゼミがほぼ終息した頃にミンミンゼミの発生が始まるということである。西日本の、両種が棲息している地域ではおおむねそのような棲み分けが行われている。特に、広島県東広島市の市街地では非常に明確に棲み分けられている。ところで、台湾や中国南部の低山帯に棲息するタイワンクマゼミは、クマゼミとミンミンゼミのちょうど中間のような声で鳴く。このセミの鳴き声もまた、ベースとなる音はクマゼミ・ミンミンゼミと全く同じなのである。そしてタイワンクマゼミは、台湾ではタカサゴクマゼミと環境的な棲み分けをしている。タカサゴクマゼミは、日本のクマゼミとよく似た声で鳴くためである。沖縄県の石垣島・西表島でクマゼミとヤエヤマクマゼミが棲み分けをしているのと同じ原理である。また、ミンミンゼミとクマゼミはともに午前中によく鳴く種類であるが、このことも両種のセミが時期的な棲み分けを行っている原因の一つである。例えば鹿児島県の屋久島ではクマゼミとクロイワツクツクが市街地において完全な時期的棲み分けをしており、クマゼミがほぼいなくなってからクロイワツクツクが発生する傾向があるが、クロイワツクツクもまたクマゼミと同じく午前中によく鳴く種類である。クマゼミとアブラゼミ、もしくはミンミンゼミとアブラゼミの場合でも、クマゼミ・ミンミンゼミが午前中、アブラゼミが午後に鳴いており、棲み分けができている。なお、ミンミンゼミとクマゼミが同時期に出現し、時期的な棲み分けをしていない地域もある(城ヶ島など)。そのような地域では、クマゼミが午前中に、ミンミンゼミが午後に発声活動を行っている。いずれにせよ、ミンミンゼミとクマゼミが同時に合唱をするケースはほとんどない。近年の光回線の普及で、光ファイバーケーブルを枯れ枝と間違えて産卵し断線するケースが、西日本で数多く報告されている。NTT西日本の事業エリアでは2005年、2006年共に1,000件近いクマゼミ被害が報告されたという。主に家庭への引き込み線が被害に遭うケースが多く、2006年からはケーブルの形状を改良しているという。クマゼミは南方系のセミであるため、温暖な西日本以南の地域にしか棲息できない。そのため、西日本から東海地方の太平洋側と関東地方南部に多数棲息しているが、山陰地方以北の日本海側と内陸部では冬の寒さによって棲息数が少なくなり、北日本には棲息しない。分布域は関東南部、東海、北陸地方と西日本(近畿、中国、四国、九州、南西諸島)である。なお、台湾、中国に分布するという報告もあったが、台湾の記録の多くが近縁のタカサゴクマゼミの誤同定で、中国大陸の分布も疑わしい(中国南部の低山帯では、クマゼミとよく似た声で鳴くマンダリンクマゼミというセミも棲息する)。近畿・九州地方(鹿児島市を除く)などの西日本の平地では個体数が多く、都市域でも普通に見られる。伊豆半島の東海岸では、南部(下田市など)では昔から非常に多いが、北部(熱海市など)ではそれほど多くはない。これは夏場の北東気流(やませ)の影響であると考えられる(南部では北東気流の影響は小さい)。最近でこそ、北東気流の卓越しやすい東京や横浜でもクマゼミの声が聞かれるようになっているが、南方系であるクマゼミにとって、冷涼な北東気流の影響を夏場でも受けやすい関東沿岸地帯の気候は、本来は適合していない。クマゼミに関しては気候要因からは説明不可能な事例がいくつも存在している。クマゼミは南西諸島にも棲息するが、鹿児島県奄美群島の喜界島、奄美大島、徳之島には従来分布しない。周辺の沖永良部島や与論島ではごく普通に見られるが、上述の奄美三島だけが「クマゼミの空白地帯」になっている。その理由を気候要因から説明するのはほぼ不可能であり、現在でも謎に包まれている。奄美大島と徳之島では近年になって棲息が確認された(喜界島では未発見)が、これは人為的移入とみられている。なお、最近の奄美大島ではクマゼミの棲息数が順調に増加しており、島内の色々な地域で鳴き声が聞こえるようになったと報告されている。なお、最新の研究では、この分布空白の謎が少しずつ解明されつつあるという。それは、奄美三島における日照時間の少なさをもとに説明するものである。つまり、盛夏でも日照時間がかなり少ない奄美大島とその周辺の地域は、ほかのセミと比べて明るい場所を好む陽性的なクマゼミの生息には適していないとする説である。この説の真偽については定かではない(奄美大島における夏の日照時間が極端に少ないのは事実)が、本当であるならば、現在奄美大島で増加中であるクマゼミは将来は再び減少に転じる可能性が高い。また沖縄県の八重山諸島では、石垣島のクマゼミと西表島のクマゼミとでは発生時期に1ヶ月ものズレがあるが、これも気候からは全く説明のつかない現象である。南西諸島では、クロイワツクツクと同じように島によってクマゼミの遺伝形質が異なると考えるしかない。1980年代以降、大阪市などの西日本の都市部で、セミ全体数に対するクマゼミの割合の増加が観測されている。従来はアブラゼミが最もよく見られるセミで、クマゼミは九州などの温暖な地域に多いセミで、本州では珍しいセミであったが、近年は頻繁に確認されるようになった。また1990年代頃から南関東や北陸地方でクマゼミ棲息地の東進・北上が報告されている。神奈川県における東限・北限は、昔は花水川・城ヶ島であったが、最近は花水川以東の平塚・茅ヶ崎・藤沢、あるいは横須賀・横浜・東京23区などでも鳴き声が聞こえるようになっている。特に茅ヶ崎では近年クマゼミが急増している。2002年、茅ヶ崎中央公園を中心に市内の様々な所で大発生が確認されたが、それ以降も広域の市街地で毎年安定して多くのクマゼミの鳴き声が聞こえる状態が続いており、年々増加傾向にある。2008年、茅ヶ崎中央公園では過去最多のクマゼミ抜け殻が採取され、市内の住宅街でもうるさいほどの鳴き声が聞かれた。さらに2011年には、この2008年の記録が大幅に更新された。また平塚では、平塚市総合公園内を中心に数を増やしている。このセミの昔からの棲息域に入る小田原では、1990年代に入ってクマゼミの急増が確認され、現在はアブラゼミに次ぐ第2のセミとなっている。このように、湘南では近年急速にクマゼミの増加がみられる。城ヶ島以北においても、三浦市では市中心部や油壺地区で現在は普通のセミである。横浜では、中心部の関内地区(特に駅前)において近年クマゼミの合唱が安定して聞かれるようになっている。これらをすべて考慮すれば、太平洋側におけるクマゼミの最前線は横浜の関内駅周辺ということになる。なお、2014年8月には、神奈川県の対岸である千葉県木更津市において、確認されている。一方、日本海側の金沢市でもクマゼミの抜け殻が見つかるようになっている。金沢市はスジアカクマゼミの棲息地として有名だが、クマゼミのほうも年々増えており、市中心部では毎年のように合唱が確認できるほどの状態となっている。ただし、冬の寒さが金沢より厳しい福井市や富山市では、今のところクマゼミ増加の兆しはない。このようなクマゼミ増加の原因には、下のように大きく分けて2種類が存在する。クマゼミは大昔の温暖期(縄文時代など)には南関東の広域で棲息していたが、寒冷期(弥生時代以降)になって南関東の大部分でクマゼミが死滅し、冬でも比較的温暖な房総半島南部や三浦半島南端のみ(特に城ヶ島)に生き残るだけとなったと言われている。これは、温暖期に北海道の広域でミンミンゼミが棲息していたが寒冷期になって、冬でも比較的温暖な道南や地熱の高い屈斜路湖の和琴半島のみに生き残ったのと同じ原理である。そして、再び現在の温暖期になり、南関東の広範囲でクマゼミが棲息可能地域となった。さらに近年の急速な温暖化とあいまって、クマゼミの北上・東進が目立っている。特に茅ヶ崎・平塚や横須賀市南部、あるいは北陸の金沢では最前線に近い地域となっている。しかしながら、この説に従わないデータも多数存在する。たとえば、温暖なはずの山口大学キャンパス内でクマゼミが存在せず、アブラゼミのみ存在するという報告があり、現在よりも寒冷であった100年ほど前の京都市でクマゼミの目撃証言があることから地球温暖化との関連性を否定する説も多い。もともと関西のクマゼミは昔から、田園部ではアブラゼミと並んでたくさん棲息していたが都市部ではあまり多くなかった。しかし高度経済成長期あたりから都市部でも増加し始め、現在の大阪市内ではアブラゼミを完全に凌駕している。このような、特定の種類のセミがそれ以外の種類のセミを凌駕する傾向は、セミの種類こそ異なるものの長野市・仙台市・山形市においても見られる。このような、さまざまな都市に見られるセミの栄枯盛衰現象の原因が地球温暖化によるものであるかどうかは現在でもよくわかっていない。しかし、セミ類以外の昆虫(チョウやコオロギなど)では明らかに地球温暖化の影響と見られる事例(ナガサキアゲハやヒロバネカンタンの棲息域拡大など)が相次いで指摘されており、セミの増減に限って温暖化との関連を完全に切り離した説明をすることは困難であるとも言われている。昆虫とは、それほどに気候の変化による影響を受けやすい動物なのである。クマゼミの棲息域の拡大の原因として、地球温暖化の影響との説があるが、樹木の移植の際に根の周囲に幼虫が混入しているという説や樹木環境の変化を挙げる説もあり、全てが地球温暖化が原因であるとは断言することはできない。逆に、京都市ではむしろクマゼミの全体数の減少を示すデータや産地の減少が確認されている。従来、アブラゼミが多かった都市において、クマゼミの棲息数が増えてアブラゼミが減少した原因についても地球温暖化とヒートアイランド現象の影響とする説もあるが、野鳥の捕食が関連するという論文もある。これはクマゼミとアブラゼミの天敵回避方法の違いによるもので、アブラゼミは近くの樹木に隠れる習性があるがクマゼミは木には隠れず遠くへ飛んで逃げるため、樹木の少ない都市部ではアブラゼミは逃避に手間取ってしまい野鳥に捕食されやすいというものである。例えば、東京ディズニーランド内の人工林や東京都大田区の平和島公園、埼玉県蕨市の蕨市民公園などでは局地的にクマゼミが毎年発生しており、とりわけ蕨市民公園では発生数が多いが、これは後述のように植樹によって幼虫が持ち込まれたことが原因と考えられている。多摩地区や川崎市の公園でもそのようなケースが多数確認されている。また上述のように、奄美大島・徳之島におけるクマゼミの発見も樹木の移植が原因と考えられている。さらに札幌でもこのセミの声がごくまれに聞かれることもあるが、これも樹木の移植が原因である可能性が極めて高い。他の昆虫であれば、幼虫が持ち込まれても冬を越せない、繁殖できないなどの理由で、翌年には姿をみせなくなることが多い。しかしセミ類の場合、気候の影響が比較的少ない地中で、幼虫として何年も過ごす。すなわち、樹木の根にクマゼミ幼虫が混入していた場合、何年もクマゼミが羽化し続けることになる。幼虫がすべて羽化し終わるまで、クマゼミが発生し続けるが、成虫は繁殖できず、定着できていない可能性も十分ある。実際にクマゼミが発生した地点で、定着したかと思われていたが、10年経つとぱったりと姿を見せなくなった事例も多い。以上が「樹木の移植説・野鳥の捕食説」である。クマゼミの増加が指摘されるが、その一方で減少しているという研究結果も存在する。京都産業大学附属中学校・高等学校の米澤信道の研究では京阪神地区では近年クマゼミの棲息数がやや沈静化しつつあり、様々な公園でクマゼミの減少が指摘されている。関西のクマゼミは安定期から後退期に移行した可能性がある(下記外部リンク「米蝉ナール」参照)。さらに京阪神(特に神戸市や阪神間)では、アブラゼミが復活傾向にあることも報告されている。なお、鹿児島市では2000年代以降クマゼミが激減している。冬でも暖かく、クマゼミにとってちょうど良い気候のはずの鹿児島でクマゼミの棲息数が減っているという事実は不可解である。九州の他の県庁所在地(那覇市を含む)ではこのような傾向は全くない。上述の奄美地方でも、この鹿児島市と同様の経緯をたどってクマゼミが減少しついには分布しなくなった可能性があり、今後の鹿児島市におけるクマゼミの棲息状況が注目される。
出典:wikipedia
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