先進旅客列車 (Advanced Passenger Train、APT) は、イギリス国鉄が開発していた車体傾斜方式の高速列車である。1970年代から1980年代半ばにかけて開発が行われていた。1970年代、イギリス国鉄では日本の新幹線やフランスのTGVの影響で高速鉄道の導入の機運が高まっていた。その中で、まず試験的にロンドン - エディンバラ間のイースト・コースト本線に高速列車を導入することになった。続いてロンドン - グラスゴー間のウェスト・コースト本線にも導入されることになった。しかしながら、高速走行に適した直線区間が十分ではなかった事や、新幹線やTGVのLGV区間のように新規に高速鉄道を建設する予算が不足していたイギリス国鉄の財政上の問題から、コスト抑制のために在来線を改良することになった。在来線の改良にあたっては、信号の改良や曲線区間の高速運転に対応した強制車体傾斜式車両を導入することになった。結果的にAPT計画は失敗に終わったが、一部の技術はインターシティー225などに受け継がれている。同時に並行して高速鉄道 (HST) 計画が進行していた。これは後にインターシティー125として実現する。APTの開発が苦戦したのに対してHSTの開発は順調に進み、その後30年にわたって使用されている。APTの導入には3段階の計画があった。まず第1段階ではガスタービン式のAPT-Eが開発された。第2段階では電気式のAPT-Pがインターシティーに投入されたが、結果は思わしくなかった。第3段階ではAPT-Sが導入予定だったが実施されなかった。1972年、第1段階としてガスタービン式のAPT-Eが製造された。これは4両編成で、両端の動力車が2両の付随車を挟む編成になっていた。APT-Eは1976年まで各種試験が行われた。1978年、第2段階として、ガスタービンに代えて動力集中方式とした交流25000V架空電車線方式のクラス370 APT-Pが製造された。APT-Pは車体傾斜機構や流体式ブレーキシステム(水タービンブレーキ)、地上信号連動ブレーキシステムなどを備えていたが、不具合が多発し、1981年から1984年にかけてインターシティーとしてロンドン - グラスゴー間で試験運用がされたものの異常なしの状態で走ったのはわずか1回だけであった(後述)。第2段階では、動力付き制御車・客車・動力なし制御車による10両編成、動力無し制御車・客車・動力車・客車・動力無し制御車による11両編成(動力車1両)・14両編成(動力車2両)が想定されていたが、実際には動力車2両の14両編成のものが製作された。これらは後に車体傾斜機構を除いてインターシティー225の編成に影響を与えた。第3段階として計画されたAPT-Sは、後にAPT計画自体の破棄により計画段階のまま終わっている。1978年に登場し、長期の試運転の後にロンドン - グラスゴー間での試験的な暫定営業運転を開始したAPT-Pであったが、試運転開始後からトラブルが頻発し、まともに走る事が出来ない状態が続いた。特に車体傾斜制御のトラブルが著しく、カーブ区間を走行中に突然機能が停止し、車体が直立したために強力な超過遠心力が急激に働いたため、乗客がカーブの外側に向って投げ出されるというトラブルが発生し、途中で緊急停止してそのまま運転を打ち切るなど試験的な運転ながら正常なダイヤが組む事すら出来ないという事態を招いた。直線区間を走行中にも車体傾斜機構が誤作動を起こし、車体が傾いたまま走ったためにプラットホームを掠りながら通過した事もあったといわれている。車体傾斜機構のトラブルのみならず、ブレーキの異常発熱で立ち往生してしまうトラブルもたびたび起こしていた。また、車体傾斜機構のトラブルが原因で脱線事故を起こすなどしたため、結局APT-Pは1985年12月に突然運転休止を表明し、1986年にはイギリス国鉄がAPT計画自体を公式に破棄してしまった。試作された編成は殆ど解体処分された。APT計画と平行して進められていたHST計画で、「インターシティー125」がクラス43ディーゼル機関車とマーク3客車によるプッシュプル方式を用いて大成功を収めた事とは対照的に、車体傾斜機構やAPT-Eで開発された流体式ブレーキ(液体式変速機の機構を流用したブレーキシステム)などは実験的要素が非常に多く、野心的過ぎたAPT-Pの技術の未熟さが露呈する事となった。APT-E編成は現在、ヨークのイギリス国立鉄道博物館(本館)とのに保存されている。APT-P編成はのとシルドンのイギリス国立鉄道博物館(分館)に保存されている。APT-Pの車体傾斜機構はイタリアのフィアットに売却され、ペンドリーノに使用されている。イギリスではクラス390電車に車体傾斜機構が受け継がれている。APT-Pの車体デザインや技術は、クラス91電気機関車やマーク4客車、それらを用いたインターシティー225に影響を与えた。APTと比べ、新幹線やTGVは高速運転用の車両だけでなく、高速運転に適した軌道を新規に建設した。これにより新幹線やTGVは高速鉄道として大きな成功を収めることができた。車両だけ高速運転用であっても、軌道が高速運転に適していなければ十分な性能を発揮することはできない。 →も参照。
出典:wikipedia
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