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モリヌークス問題

モリヌークス問題(モリヌークスもんだい、"Molyneux's Problem")は、哲学問題の一つ。弁護士で光学研究の専門家でもあるウィリアム・モリノー(モリヌークス)(1656-1698)がジョン・ロックに宛てた書簡の中で示した疑問で、触角・視覚による認識の違いと経験についての問いである。概要は「球体と立方体を触覚的に判別できる先天盲者が開眼手術を受けたとき、開眼した盲人は視覚だけで球体と立方体を判別できるか?」というものである。妻の失明を経験したモリヌークスが尊敬していたジョン・ロックにこの疑問を手紙で送ったのは『人間知性論』の刊行以前であった。ロックは『人間知性論』の初版ではこの疑問を取り上げなかったが、モリヌークスから二度目の手紙(1693年3月2日付)を受け取って、第二版(1694年)でこの問いを紹介した類似した問題は、12世紀初期にイブン・トファイル(アブバーケル)によっても提示された。これは、彼の著書『ヤクザーンの子ハイイ』(小説形式の哲学書)に見える。しかしながら、トファイルは主として形ではなく色を扱ったという違いがある。この問題は、「立方体」「球」といった幾何学的概念は経験によって獲得されるのか、それとも幾何学概念は一般的概念と同様に"先天的"に備わっているのか、という伝統的な哲学問題と関わっている。特にデカルトが『屈折光学』(1637年)で、盲人が対象の大きさを認識するときに杖を交差させて対象に触れその角度によって判断することを挙げ、眼球が光線の交差を使って対象の大きさを認識するとしたことが、モリヌークス問題の前提にある。デカルトが触覚と視覚に類比関係をたてたこと、および、二つの知覚を幾何学的観念のもとに還元したことに、ロックは反対したのである。幾何学的概念も知覚という経験によって形成されるのであって先天的に備わっているのではない、というのがロックにとってモリヌークス問題(モリヌースクの疑問)の主眼であった。この問題は18世紀のイギリス・フランスでホットな問題として盛んに論じられ、そのあと異種感覚間の問題として展開され、広範囲に影響を及ぼしながら今日に至る。知覚の様式(ここでは視覚と触覚)と事実認識の関係については、現在でも脳科学やメディア工学の領域でクロスモーダルの研究として進行形である。また、モリヌークス問題は当時の哲学者たちがこれにどう応えたかによってそれぞれの哲学的個性が浮き彫りになった点でも興味深い問題だった。開眼者は13才の先天性白内障の少年だった。当時の開眼手術は白内障だけで、光が網膜に届くのを邪魔している白濁した水晶体を針で眼球の中(ガラス体)に堕として邪魔ものをなくし眼底まで光を通す、という紀元前から行われている墜下法(couching)だった。手術の歴史は長く、それなりに確立した手技だったが成功する保証はなかった。少年の手術は成功したが、開眼直後の報告では彼は対象の区別ができず、当然距離も判らず「すべての対象が」「眼にくっついてる」ように感じた。少年は術前から昼夜はわかり、光が強ければ白と黒と緋色(Scarlet)を判別できる程度の視能は持っていた。が、開眼直後それらの色は異なって見え、少年は色と色名を結びつけられなかった。こういった報告は地元のバークリーのみならず、ヴォルテールによってフランスにも伝えられ、コンディヤックもディドロもモリヌークス問題を論じた著作の中で取り上げた。

出典:wikipedia

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