


オイラー=ラグランジュ方程式(オイラー=ラグランジュほうていしき、)は汎関数の停留値を与える関数を求める微分方程式である。オイラーとラグランジュらの仕事により1750年代に発展した。単に、オイラー方程式、ラグランジュ方程式とも呼ばれる。ニュートン力学における運動方程式をより数学的に洗練された方法で定式化しなおしたもので、物理学上重要な微分方程式である。オイラー=ラグランジュ方程式を基礎方程式としたニュートン力学の定式化をラグランジュ形式の解析力学と呼ぶ。オイラー=ラグランジュ方程式は、物理学における最大の指導原理の一つである最小作用の原理から導かれる。これは以下のような原理である:運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの"差"(エネルギー保存則の場合は両者の"和")をラグランジアンと呼び、ラグランジアンの時間積分を作用と呼ぶとき、物理現象は作用を最小化(厳密には極小化)するように動作する。オイラー=ラグランジュ方程式は、最小作用の原理を満たす物体の軌跡を変分法で求める事によって導出された方程式である。最小作用の原理はもともとはニュートン力学(さらにさかのぼれば光学におけるフェルマーの原理)で発見されたものだが、電磁気学、相対性理論等でも成り立つ物理学の根本的な原理である。したがってそれらの分野においてもオイラー=ラグランジュに相当する方程式を立式でき、その方程式はこれらの分野の基礎方程式(ニュートンの運動方程式、マクスウェルの方程式、アインシュタイン方程式)と等価になる。(ただしこれらの方程式におけるラグランジアンは前述の「(運動エネルギー)-(ポテンシャル)」とは限らない)。このように最小作用の原理からオイラー=ラグランジュ相等の式を得るという方針は、様々な基礎方程式に統一的な視点を与える事ができる。ニュートン力学の場合ラグランジアンをルジャンドル変換する事でハミルトニアン(=エネルギーに対応する物理量)を得る事ができ、オイラー=ラグランジュ方程式をハミルトニアンを使って書き直す事でハミルトンの正準方程式が得られる。これもニュートン力学における基本的な方程式の1つである。オイラー=ラグランジュ方程式や正準方程式で記述したニュートン力学を解析力学という。なお、ニュートン力学以外の分野の場合、ラグランジアンからハミルトニアン(あるいはその逆)に容易に変換可能であるとは限らない。また新たな物理学の分野を探求する際、ラグランジアンやハミルトニアンを定義できれば、そこからオイラー=ラグランジュ方程式や正準方程式相等の方程式を定式化できる為、この方程式は未知の領域において基礎方程式を導出する為の強力な道具となる。ニュートンの方程式がデカルト座標を用いて運動を記述する必要があるのに対し、オイラー=ラグランジュ方程式は任意の座標(一般化座標)を用いる事ができる。この点においてもオイラー=ラグランジュ方程式の方がニュートンの方程式よりも本質的である事が伺える。またラグランジアンから一般化運動量、一般化力という、運動量と力を一般化した概念が定式化可能で、これらを用いると、オイラー=ラグランジュ方程式は一般化力=(一般化運動量の時間微分)という形にかける。ニュートンの運動方程式は、力=(運動量の時間微分)であるので、オイラー=ラグランジュ方程式はニュートンの運動方程式を一般化座標に拡張したものと捉える事もできる。一般化座標を用いる事ができるという事実は、実際に運動を計算する際有利に働く。例えば振り子の運動を考える場合、ニュートンの方程式ではデカルト座標を用いねばならない関係上、縦軸方向と横軸方向の2つの変数を必要とするため式が煩雑になるが、オイラー=ラグランジュ方程式の場合は任意の座標系を用いる事ができるため、振り子の角度に着目する事で、角度という1変数のみで運動を記述でき、より簡単な方程式が立てられる。(ここでは振り子の長さは一定であると仮定している)。もちろんニュートン方程式で立式した後極座標に変換すれば同一の式が得られるが、オイラー=ラグランジュ方程式の利点はこのような煩雑な変換を施す事なく角度に着目した方程式を最初から直接得られる事にある。オイラー=ラグランジュ方程式はシンプレクティック幾何学という、解析力学を起源とする数学の分野でも用いられる。またリーマン幾何学における測地線方程式は、曲線の長さをラグランジアンとした場合のオイラー=ラグランジュ方程式である。なお測地線は相対性理論では光の航路を表すので、これはフェルマーの原理の近代的な定式化になっている。以上ではオイラー=ラグランジュ方程式の物理学的な側面を説明してきたが、方程式そのものは物理学とは無関係に定式化できるので、まず物理学的な背景から離れて方程式を説明し、その後で方程式のニュートン力学的な解釈を説明する。C 級関数を考える。としたとき、オイラー=ラグランジュ方程式とは formula_1 に関する以下の連立偏微分方程式のことである。ここで formula_2 は x による偏微分を表す。なお通常は記号を疎漏に用い、上の方程式をと表記する事が多い。この表記では F に代入される値としての formula_3 がF の変数としての formula_4 と混用されている。さらにベクトル表記により f 個の式を一括してとも書き表す。ニュートン力学においては、関数 formula_5 は一般化座標 formula_6 であり、その変数は時間 t である。一般化座標の次元 f を系の(力学的な)自由度という。関数 F はラグランジアン L がその役割を果たす。オイラー=ラグランジュ方程式はとなる。なお、ドットは時間による微分を表す。この式を特にラグランジュの運動方程式と呼ぶこともある。一般化運動量はで定義され、これを使うとオイラー=ラグランジュ方程式はと書き換えられる。上式右辺を一般化力と呼ぶ事にすると、上述の方程式は「一般化運動量の微分=一般化力」を意味する。ニュートン方程式は「運動量の微分=力」であったので、オイラー=ラグランジュ方程式はニュートン方程式を一般化座標に拡張したものであるとみなす事ができる。3次元デカルト座標 formula_7 の場合を考える。このとき時間微分 formula_8 は速度である。また、ポテンシャルは速度には依らないものとする。ラグランジアン L は『運動エネルギー - ポテンシャル』の形をしており、である。このとき、ラグランジュの運動方程式はとなり、ニュートンの運動方程式に一致する。汎関数を考える。オイラー=ラグランジュ方程式は適当な境界条件の下で汎関数の停留条件 formula_9 から導かれる。停留条件を満たす解を formula_10 とする。積分領域の境界 formula_11 で 0 となる任意の関数 formula_12 を考え、formula_13 と書くことにする。このとき、停留条件は formula_14 を ε の関数としてみたときにである。この微分を計算するとend{align} となるが、被積分関数の第二項を部分積分すると、end{align} となる。積分領域の境界 formula_11 で formula_16 なので第一項は 0 となる。最終的に、が得られる。この式が任意の formula_12 について言えるには、括弧内が 0 でなければならない。(変分学の基本補題、)従って、オイラー=ラグランジュ方程式が導かれる。
出典:wikipedia
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