『蒼茫の大地、滅ぶ』(そうぼうのだいち、ほろぶ)は、西村寿行が著した長編パニック・サスペンス小説である。田辺節雄により漫画化もされている。講談社の雑誌『小説現代』1977年9月号から1978年7月号まで連載され、1978年9月に単行本として刊行された。中国大陸で大量発生した飛蝗(トノサマバッタ)が日本海を渡り、東北地方に襲いかかって農作物を食い尽くす。直接被害を受けた東北地方のみならず、日本全体に飢餓の危険が迫る。この未曾有の自然災害にあっても日本政府は、人々が飢え故郷を捨てるに至った東北地方を最優先に救済することはない。ついに東北6県は「奥州国」として日本国からの独立を図る。本作は架空の蝗害を題材にしつつ、発刊当時の日本の地方自治政策が抱える問題点をあぶり出し、中央集権の施策を批判する内容となっている。なお、作中に登場する市町村名や国名等は発刊当時のものとなっている。長らく絶版状態だったが、2013年に仙台市の出版社荒蝦夷から復刻された。1977年7月、幅10km、長さ20km、総重量1億9,500万tの飛蝗群が、日本海を越えて日本の青森県へ近づいてきた。空自のF-1による20機で威嚇したもののエンジンが飛蝗を吸い込み白神山地に墜落してしまう。岩木山付近に下りた飛蝗の群れは翌朝に活動を始め、津軽平野の田畑を食い荒らし、交通事故や列車事故まで引き起こす。蝗害が今後東北一帯に広がると考えた青森県知事・野上は、これから始まる混乱を収め蝗害に立ち向かうために、東北各県から1,000人ずつ、計6,000人の若者を集めての〈東北地方守備隊〉を結成する。しかし政府にとってこの守備隊の結成は、地方自治体に与えられた法律上の権限を越える行為と受け止められた。いっぽうで政府は日本国内にある備蓄米を全て都市部へ集めた上で配分する方針を立てる。6県の人口より東京都の人口が多いことも理由にし、東北地方の備蓄米まで接収しようとするが、五所川原市では接収にあたる県警機動隊を刑部ら守備隊と市民が追い返し、他県でも接収を阻止する。しかし青森県を中心に食料品、特に野菜が高騰する。飛蝗群は岩手県へと南下し始める。さらに盛岡市内に東京からの暴走族グループが侵入して婦女暴行の限りを尽くし、市民も食糧を強奪し始めパニックが広がり、守備隊がかろうじて押さえ込む。8月には青森県内の金融機関は閉鎖され、北上市などでは金融機関の焼き討ちが起きて、まだ蝗害を免れている秋田県から新潟県にまで取り付け騒ぎが広がり、インフレの恐れも出てくる。政府は野上の暗殺を図って刺客を送り込むも、守備隊に妨害され失敗。衆議院の地方行政委員会では、東北選出の与党議員が東北六県知事会への非常時大権の付与を訴えたが、そのさなかに野上は委員会に喚問される。彼は個人の基本的人権と同様に地方の自治体の自治権を国が奪うことはできないと語り、国税の政策によって国庫補助金に頼らざるを得ない地方自治体の財源の問題を指摘する。飛蝗禍は宮城県、福島県へ南下していき、望みの綱であった秋田県、山形県の穀倉地帯にもついに群れが向かい始めた。野菜は全滅し、食料品を強奪する暴動が起こる。失業者が増加し、女性の身柄が買われて彼女と共に家を捨てて去る一家が少なくない。強盗団が暗躍し放火が繰り返される。恐慌が関東にも広がり、9月には株価が大暴落して証券取引所も閉鎖される。さらに円の価値も下がっていった。閣議において政府が決定したのは、被災地にわずか6,000億円の救済費を割り当てることと、公共投資によって日本経済を立て直すということであった。9月末には飛蝗は交尾をし産卵のため一塊になって飛び立つが、風によって広がり、奥羽山脈を中心に広範囲に下りてしまう。それは卵塊を掘り出して殲滅するのが困難になったことを意味した。そのころには草本類は食い尽くされ、農地は真っ黒な糞で覆われていた。食糧の入手が困難となり、飼料も買えず家畜を手放し、さらに失業や農業収入の途絶により生活に困窮し、多くの人々が郷里を捨てて東京などへ出て行く。冬が過ぎ春になると、農作物が育ち始めた畑に飛蝗の幼虫が現れる。人々はこれらが成虫にならないうちにと殺し続けた。しかし5月には再び飛蝗が群れをなして飛び始める。6月には人々の間に暴動が広がる。救援物資を満載した列車が転覆し、人々が争って物資を強奪すると、国道が渋滞で戻ることもできないうちに飛蝗の大群が近づき人間を襲って物資を食べ尽くす。ついには東北地方から60万以上の人々が難民となって徒歩で東京へ避難し始めるが、途中の栃木県等で女性達は売春をして家族の食糧や現金を得、男達は地元の女性を強姦する。難民による掠奪も起こり、栃木県と埼玉県は県内への宿泊も滞在も拒否する声明を出す。さらに茨城県、群馬県、そして目的地の東京都も難民受け入れを拒否した。6月下旬にはすでに都内にいる60万の難民が暴動を起こし始める。荒川の新荒川大橋付近では、都内に入り込もうとする難民が機動隊と衝突する。6月25日、野上は5県知事と共に岩手放送会館のスタジオに入る。野上がマイクを通して、東北を去った150万人の難民に、そして東北中の人々に語りかける。……戊辰戦争では奥羽越大同盟を結んで戦うも、農民の協力が得られず、敗れて中央政府の隷属となった東北諸藩。山林を国有林にされ都会で低賃金で働かざるを得なくなった農民達。東北出身者は郷里で食えるからと解雇される差別。身売り、娘売り。最上婆ァと呼ばれる子買い。満州への移民。やがて東北地方に工場が建てられ経済が成長した半面、稲作は減反が命ぜられ酪農家は輸入飼料を買う。もう中央政府に幻想を抱いてはならない。我々は日本国から独立する。故郷に戻れば食糧を保証する。若者は最寄りの守備隊へ加わるように……。東京都の手前で足止めされていた難民がラジオでこれを聞き、北へ戻り始める。日本から独立した「奥州国」を国家承認したのはアメリカとソビエト連邦だけだったが2国から食糧援助を受けられることとなった。奥州国は首都を盛岡市に定め、行政の足固めを進める。6月29日、数日前から活動がおとなしくなっていた飛蝗群が一斉に飛び立ち、東北の大地から去った。群れが餌を求めて関東平野に流れ込めば、日本政府は奥州国を抑えるどころではなくなり、その間に奥州国は豊かに復興できる。しかし飛蝗群が向かったのは、奥州国・日本国の誰一人予想しなかった方角であった。1980年に田辺節雄によるコミック版が『プレイコミック』(秋田書店)に連載された。
出典:wikipedia
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