遷延性意識障害（せんえんせいいしきしょうがい）とは、重度の昏睡状態を指す症状。植物状態（しょくぶつじょうたい）といわれる状態のこと。持続的意識障害、持続的植物状態（）ともいわれる。日本脳神経外科学会による定義（1976年）以上6項目が、治療にもかかわらず3か月以上続いた場合を「遷延性意識障害」とみなす。大脳の全面的または大部分または広範囲が壊死または損傷することにより発症する。主要な原因は下記の種類である。「植物状態」は、一般的には大脳を広範囲に損傷し、大脳が機能出来ない状態にあるが、生命維持に必要な脳幹、中枢神経系、循環器・呼吸器・消化器の臓器は正常に機能している状態で、自発的な呼吸・循環・消化がある。植物状態の場合は意識の回復は簡単ではないが、下記の回復の可能性の節、回復事例の節に記載されているように、多数の回復事例が報告されている。植物状態と異なり、脳死は生命維持に必要不可欠な脳幹機能が不可逆的に損傷している状態のこと。脳死の場合は意識は回復せず心拍や呼吸も停止して死に至る。英ケンブリッジ大のエードリアン・オーウェン博士によると、正常な意識があり、脳スキャナーによって思考の伝達が可能な植物状態の患者もいる。ただし、この場合でも今の所、こちらが出す質問に「はい/いいえ」と回答してもらうのが限界であり、複雑な会話はできない。遷延性意識障害になった場合は意識の回復は困難であるが、世界の諸国の臨床の現場から、遷延性意識障害患者に対する意識回復のための治療と、多数の意識回復事例が、臨床医療論文として報告されている。回復の程度は、最小意識状態、高次脳機能障害、知的障害、発症前と同等の健常者状態など多様である。有名人の事例として、F1レーサーであったミハエル・シューマッハは2013年12月29日に、スキー中の事故で脳を損傷し、意識が回復せず遷延性意識状態になったが、事故から5か月と18日(169日)後の2014年6月9日に意識を回復してリハビリ病院に転院してリハビリを開始し、事故から8か月と11日(254日)後の2014年9月9日に退院して自宅に戻り在宅療養・リハビリに移った。2014年11月～12月の時点で、シューマッハの主治医、家族、マネージャーは、シューマッハの回復状況に関する報道で、シューマッハの主治医であるジェラール・サイヤンはFIAの広報担当者を通じてAFP通信に対して、マネージャーであるザビーネ・ケームはドイツの新聞ビルトに対して、主治医であるジェラール・サイヤン、妻であるコリーナ、マネージャーであるザビーネ・ケームによる公式発表などの一次情報の出典がない伝聞による情報・報道は信ぴょう性がないと述べている。シューマッハのマネージャーであるザビーネ・ケームは2014年11月23日時点で、ドイツのテレビ放送RTLに対して、シューマッハの状態には「ケガの深刻さに合った進歩」しているが、事故前の健常者だった状態に回復する可能性や、回復にかかる時間は、現時点では断言できない、どの程度まで回復するにしても、長い時間がかかり、困難な過程になると予想されると述べた。交通事故の場合には被害者が脳に激しい衝撃を受けて遷延性意識障害になる例が多いことから、事故被害者の支援業務を行う独立行政法人自動車事故対策機構 (NASVA)では、交通事故による遷延性意識障害者を、植物状態からの回復を目指した治療・看護を行なう専門の療護センター（病院）を、千葉県千葉市、宮城県仙台市、岡山県岡山市、岐阜県美濃加茂市、北海道札幌市、福岡県久留米市、大阪府泉大津市、前記の全国7か所の病院と業務提携して設置・運営している。1984年に最初の病棟が開設されて以来、2014年12月31日までの30年間に、下記の７病院合計で、累計で1,092人の患者を受け入れ、277人の回復実績が報告されている。千葉県千葉市にある医療法人社団誠馨会の千葉療護センターは、遷延性意識障害患者の治療病床を80床（2005年4月から30床増床）保有し、1984年2月の開設から2014年12月31日までに、累計で281人の患者を受け入れ、そのうち35人が遷延性意識障害から回復し退院した。宮城県仙台市にある一般財団法人広南会の東北療護センターは、遷延性意識障害患者の治療病床を50床保有し、1989年8月の開設から2014年12月31日までに、累計で130人の患者を受け入れ、そのうち26人が遷延性意識障害から回復し退院した。岡山県岡山市にある社会福祉法人恩賜財団済生会支部岡山県済生会の岡山療護センターは、遷延性意識障害患者の治療病床を50床保有し、1994年6月の開設から2014年12月31日までに、累計で333人の患者を受け入れ、そのうち128人が遷延性意識障害から回復し退院した。岐阜県美濃加茂市にある社会医療法人厚生会の中部療護センターは、遷延性意識障害患者の治療病床を50床保有し、2001年7月の開設から2014年12月31日までに、累計で245人の患者を受け入れ、そのうち71人が遷延性意識障害から回復し退院した。北海道札幌市にある社会医療法人医仁会の中村記念病院は、遷延性意識障害患者の治療病床を12床保有し、2007年12月の開設から2014年12月31日までに、累計で35人の患者を受け入れ、そのうち12人が遷延性意識障害から回復し退院した。福岡県久留米市にある社会医療法人雪の聖母会の聖マリア病院は、遷延性意識障害患者の治療病床を20床保有し、2007年12月の開設から2014年12月31日までに、累計で52人の患者を受け入れ、そのうち5人が遷延性意識障害から回復し退院した。大阪市泉大津市にある泉大津市立病院は、遷延性意識障害患者の治療病床を16床保有し、2013年1月の開設から2014年12月31日までに、累計で16人の患者を受け入れ、そのうち遷延性意識障害から回復し退院した患者は0人である。藤田保健衛生大学医学部脳神経外科では、遷延性意識障害患者に対する意識回復のための治療方法として、脊髄後索電気刺激(Dorsal Column Stimulation)療法と、上位頸髄損傷や中枢性呼吸障害に対する呼吸ペースメーカー(横隔膜ペーシング)療法により、1985年～2009年まで24年間に下記の患者139人中96人の回復事例が報告された。外傷による患者64人中、11人は言語理解・意思疎通・経口摂取・随意運動が可能な状況まで回復し、34人は追視・限定的嚥下・感情表出・筋肉の緊張緩和の状況まで回復した。脳卒中による患者33人中、7人は言語理解・意思疎通・経口摂取・随意運動が可能な状況まで回復し、17人は追視・限定的嚥下・感情表出・筋肉の緊張緩和の状況まで回復した。低酸素脳症による患者42人中、5人は言語理解・意思疎通・経口摂取・随意運動が可能な状況まで回復し、22人は追視・限定的嚥下・感情表出・筋肉の緊張緩和の状況まで回復した。睡眠導入薬として処方されることの多いゾルピデムにより昏睡状態から回復する報告があったことから現在臨床試験が行われている。

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