KH-12 (キーホール12、Key Hole 12) は、アメリカ合衆国の軍事画像偵察衛星 (いわゆるスパイ衛星) のキーホールシリーズに属すると考えられる、衛星のシリーズに対して非公式に与えられた名称 (軍事ワッチャーなどが便宜的につけた通称) の一つである。この衛星はキーホールシリーズに属することが公表されている (Crystal) の後継機であり、ロッキード・マーティン社によって製造された。地上目標の分解能は恐らく数 cm に達すると考えられる (詳細後述)。運用はアメリカ国家偵察局 (; NRO) が行っている。NRO が、KH-8、KH-9、および KH-11 と続いた連番の公開名称の後で、衛星をランダム付番原則 (たとえば NROL-20。NROL は の意) で命名することを決定したため、公式の命名システムでは KH-12 という名称は存在しないことになっている。ただし、同じアメリカ合衆国政府機関であるアメリカ航空宇宙局 (NASA) のNSSDC衛星データベースでは、USA-86(1992-083A)、USA-116(1995-066A)、USA-129(1996-072A)の3基については、それぞれ KH-12-1、KH-12-2、KH-12-3 の名称があからさまに用いられている (NSSDCにおける記載例:1992-083A = KH-12-1)。2013年8月30日にワシントン・ポスト紙は、エドワード・スノーデンがリークした資料の中に含まれていた米国政府の諜報プログラムの2013会計年度予算の米国議会への予算説明書 (National Intelligence Program - FY 2013 Congressional Budget Justification) から、今まで謎に包まれていた米国の諜報活動に関する新たな事実が判明したと報じた。この資料の中には複数のスパイ衛星の名称が記述されており、下表の KH-12-6, KH-12-7に該当する衛星の正式名称は EIS (Enhanced Imagery System) であるらしいことが判明した。シリーズのこの2基以外の衛星も EIS と呼ばれているかは不明である。この後継機として2012会計年度から EECS (Evolved Enhanced CRYSTAL System) の整備が始まることも明らかになっている。このリーク資料の一部はで閲覧可能である 。この衛星は、「発展型ケンナン」 ()、あるいはコードネームにより「アイコン」 ()、または「改良型クリスタル」 () などの名称でも知られている。「改良型クリスタル」というニックネームが暗示するように、多数の軍事ワッチャーは KH-12 はほとんどの点で KH-11 に追加的な改良を施したものであると考えており、何人かの軍事ワッチャーはこれを KH-11 として分類している (これと同様に現在は後継の KH-13 開発プログラムが存在するが、ある者はこれを 「KH-12B」と呼んでいる)。打上げ質量は、打上げに用いられたタイタンIVロケットの能力から推定して 19600 kg ( によれば 16300 kg)に達すると考えられている。KH-11 と同様に KH-12 は光を捕捉するのに大型の主鏡を持つカセグレン光学システムを使用し、恐らく全体の大きさと形状はハッブル宇宙望遠鏡 (HST) に似ているであろうと考えられている。KH-11 同様にデジタル・イメージング技術を用いており、前身の設計にシギント(信号諜報)機能と、おそらく赤外線までに至る、より広いスペクトル範囲に渡る光学的検知能力を付加したものであると考えられている。主鏡の直径は 2.9 から 3.1 m と考えられており( によれば 直径 4.0 m)、これは直径 2.3 m と考えられている KH-11 の主鏡や、直径 2.4 m のハッブル宇宙望遠鏡の主鏡よりもやや大きい。ジェーン・ディフェンス・ウィークリー誌はカセグレン光学システムの副鏡は大幅に可動であり、これが衛星では通常は不可能なアングルでの撮像を可能にしていると示唆している。また、同誌には衛星は5秒ごとに1枚の映像を撮像可能であるとの示唆もある。データは通信衛星の中継ネットワークを通じて地上へ送信されるが、 (Satellite Data System)、MILSTAR、またはTDRS (Tracking and Data Relay Satellite System) といったいくつかの異なる中継衛星の組が利用可能であり、衛星が利用しているのはこの何れでもあり得る。どれを使っているかについては、ニュースソースにより意見が異なる1990年2月から1996年12月にかけて最低でも3基の KH-12 が打上げられ、それ以降もおそらく数基が打上げられている。これらの打上げにはタイタン4ロケットが使用された。各々の衛星の価格は10億米ドル以上であり、打ち上げ費用は4億米ドルに近いと見積もられている。KH-12 衛星は1997年に一般に公開されたロシア連邦と中国の画像、および1998年に一般に公開されたスーダンとアフガニスタンの画像 (これは1998年 アメリカ大使館爆破事件への報復と関係している) のソースであると考えられている。KH-11、KH-12、KH-13 などの画像偵察衛星は、高度が低いほうが当然地表の目標物の分解能は良い。一方、低高度においては極くわずかではあるが大気の抵抗を受け、位置エネルギーが減衰するので高度が低下してくる。そのまま何もしなければ、高度が下がれば下がるほど大気の抵抗が大きくなるため、かなり短時間で大気圏に落ち込むことになる。もし、低軌道で長時間活動するのであれば、定期的にスラストをかけて高度を高くする必要があり、これを「リブースト」 (reboost) と呼ぶ。例えば高度約 350km 程度の低軌道を周回する国際宇宙ステーション (ISS) も定期的にリブーストを実施している (詳細は、国際宇宙ステーション#高度制御を参照)。高度が高いほど空気抵抗は小さくなるので、高度約 560km を周回するハッブル宇宙望遠鏡では、リブーストは3年に一回程度で十分になる。リブーストのために燃料を消費するが、画像偵察衛星の活動可能期間は燃料の残量で決まると考えてよいほど燃料は貴重であるので 、燃料節約のため、平時は近地点の高度が約 300km 以上の軌道を周回し、何らかの非常事態が発生した場合は近地点の高度を約 150km 程度まで低下させ、目標の撮影に適した軌道に移るという運用を行うのが一般的である。この作戦用の軌道変更を「マニューバー」(maneuver)と呼ぶ。前節でも触れたが KH-11 および KH-12 の大きさと形状はハッブル宇宙望遠鏡に非常に似ており、異なる点は、前者がマニューバー用の大量の燃料とスラスターを搭載していることであろうと考えられている。また、KH-11 に対して KH-12 は質量がかなり増加しているが、この大部分はマニューバー用の燃料のものと考えられている 。KH-12は、スペースシャトルにより燃料補給を受ける設計となっていたと考えられているが、これが実際に実行されているか、あるいは別の代替手段 (例えば無人宇宙機) により燃料補給が為されているかは不明である。地上目標に対する分解能 (地表分解能) は高度な軍事機密であり、当然公式には明らかにされていないし、軍事ワッチャーの間でも、30cm以下であることでは意見の一致が見られるが、30cm、15cm、10cm 以下など意見は分かれている。宇宙開発関係者の間では 5cm という意見も頻繁に聞かれるが、今のところ信頼できるニュースソースによるとは言いがたい。しかし、前節で触れたとおり、KH-12 はハッブル宇宙望遠鏡に非常に似ているという点から考えると、この 5cm という値があながち誇張ではない(むしろそれを上回る可能性がある)という状況証拠がある。次の3つの表は、を整理したものである。各表とも視角と角度分解能の単位は秒角 (1°の 1/3600 = 4.848μrad (マイクロラジアン))に統一してある。表2にあるHST観測機器の掃天観測用高性能カメラ (ACS) は、2002年2月に Faint Object Camera の代替として取付けられたもので、現在の HST の主力観測機器である。特に ACS の High Resolution Channel (機器障害のため現在使用不可)の角度分解能は 0.0270秒角に達し (この値はイメージセンサーの1ピクセルの幾何学的サイズであり、光学系としてこの角度分解能が常に達成可能という意味ではない)、150km の距離から 2.0cm の大きさの物体を、210km の距離から 2.8cm の大きさの物体を見分けられることが分かる(210km とは高度 150km で 45°斜め下の物体を見た場合を想定した距離である)。ただし、表3からこの分解能が可能であるのは波長約 0.26μm より短い光 (紫外線領域) の場合であることが分かる。これらの短い波長の光はオゾン層で吸収されやすいため偵察衛星で実用的に利用可能かは不明である。実用的には 0.40μm よりも長い波長の光が適していると考えられるが、回折限界のために波長が長くなるほど角度分解能は悪くなる。KH-12の主鏡の直径を 3.0m と仮定した場合、波長 0.40μm における角度分解能は表3から 0.0336秒角であり、表1から高度 150km から真下を見た場合の地表分解能は約 2.5cm、高度 150km から 45°斜め下を見た場合は約 3.5cm となる。後者の場合、人物の表情または車両のナンバーがかろうじて判読できる可能性がある。なお、大気の乱れにより光の経路が乱されて発生するシーイングと呼ばれる現象により画像がぼやける可能性があるが、これは現在ではスペックル・イメージング技術によりほぼ 100% 解決可能である。また、開口マスキング干渉法を用いることにより、カセグレン光学システムの分解能をほぼ回折限界まで引き出すことが可能である。発射場は全てヴァンデンバーグ空軍基地 (Vandenberg AFB ; カリフォルニア州サンタバーバラ郡)である。 衛星は、レーダーに対する不可視 (ステルス性) があり、可視光線でも検知されにくいように改造された、KH-12 衛星からの派生型であると考えられている。2基の Misty 衛星が既に打上げられていると信じられている。1基は でスペースシャトル・アトランティスからリリースされた。他の1基 USA-144 は1999年5月22日に、タイタン4Bロケットでヴァンデンバーグ空軍基地から打上げられた 。これらの衛星は時に KH-12 と見なされる場合がある。
出典:wikipedia
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