労働者災害補償保険(ろうどうしゃさいがいほしょうほけん、独:Arbeiterunfallversicherung)は、労働者災害補償保険法に基づき、業務災害及び通勤災害にあった労働者又はその遺族に、給付を行う保険制度である。労働者災害補償保険(以下、労災保険)は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする(第1条)。労災保険は、この目的を達成するため、制度上、労働者災害補償保険の主要事業として行われる、業務災害・通勤災害における保険給付と、独立行政法人労働者健康安全機構(旧・労働福祉事業団→労働者健康福祉機構)等が行う社会復帰促進等事業に基づく各種事業の二本立てとなっている(第2条の2)。通常は、保険給付と、社会復帰促進等事業の特別支給金等を併行申請する場合が多く、見かけ上は併科して支給される場合が多い(後述)。「労災保険は、政府が、これを管掌する。」と法定され(第2条)、厚生労働大臣がその責任者となる。制度全体の管理運営は厚生労働省労働基準局が行い、地方においては適用、保険料の徴収、収納の事務を都道府県労働局が行い、保険給付の事務(二次健康診断等給付を除く)は労働基準監督署が行う。また、厚生労働大臣は、労災保険の施行に関し、関係行政機関又は公私の団体に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができ(都道府県労働局長に委任可。ただし大臣自らその権限を行使することを妨げない)、協力を求められた関係行政機関又は公私の団体はできるだけその求めに応じなければならない(第49条の3)。労災保険の運営の費用は、事業主が納付する保険料によって賄われる。また、国庫は予算の範囲内において、労災保険事業に要する費用の一部を補助することができる(第32条)。労災保険は事業所単位で適用される。原則として労働者(労働基準法第9条でいう「労働者」)を一人でも使用する事業は強制適用事業とされる(第3条1項)。届出の有無は問わない。なお、船員保険の被保険者については船員保険法の適用となっていたが、2010年(平成22年)1月1日に失業部門(雇用保険相当)と共に船員保険法から分離され、労災保険法及び雇用保険法にそれぞれ統合されたため、本法の適用事業(「船舶所有者の事業」に分類)である。派遣労働者については、派遣元事業主の事業が適用事業とされる(昭和61年6月30日基発383号)。在籍型出向の場合、出向元・出向先双方の事業が労働契約関係の存在する限度で適用事業となる。国の直営事業・官公署の事業(国家公務員災害補償法・地方公務員災害補償法の適用となる)、特定独立行政法人の職員(国家公務員扱い)については、適用除外とされ、労災保険が適用されない(第3条2項)。ただし、地方公共団体の現業部門の非常勤職員、一般の独立行政法人の職員には労災保険の適用がある。同居の親族は、原則として労災保険上の労働者としては取り扱われないので、家族のみで事業を行っている場合は、適用事業場とはならない。なお、同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の要件を満たすものは労災保険法上の労働者として取り扱う。 個人経営の農林水産業については、以下の要件を満たすと暫定任意適用事業とされ、労災保険への加入は、事業主の任意となる。また労働者の過半数の希望があったときは、事業主は任意加入しなければならない。雇用保険とは異なり、事業主が任意加入しようとするときに、労働者の同意を得る必要はないし(労働者に保険料の負担義務がないため)、任意加入義務違反があったとしても罰則はない。事業主は、任意加入申請書を都道府県労働局長に(所轄労働基準監督署長を経由して)提出し、厚生労働大臣(都道府県労働局長に権限委任)の認可があった日に保険関係が成立する。事業主は、労災保険に関する法令のうち、労働者に関係のある規定の要旨、労災保険に係る保険関係成立の年月日及び労働保険番号を常時事業場の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、労働者に周知させなければならない。事業主は、その事業についての労災保険に係る保険関係が消滅したときは、その年月日を労働者に周知させなければならない(施行規則第49条)。 適用事業に使用され賃金を支払われていれば、適用労働者とされる。雇用保険や厚生年金の対象とならない小規模な個人事業に雇われている労働者、パートやアルバイト、試用期間中の者、さらに海外出張者(国内の事業所に使用される者)、日雇労働者、外国人労働者(不法就労者も含む)なども適用労働者となる。2以上の事業に使用される者は、それぞれの事業において適用労働者となる。雇用保険とは異なり、個々の労働者ごとの資格取得・喪失の届出は必要ない。労災保険は労働基準法における労働者に該当しない者(個人事業主、法人の代表取締役、家事使用人、同居の親族等)には適用されず、また、労災保険は国外の事業には適用されないので、海外派遣者(国外の事業に使用される者)は適用労働者とならない。これらの者で労災保険への加入を希望する者については、一定の要件のもとに特別加入制度が設けられている(第33~36条)。特別加入者が複数の事業を行っている場合、それぞれの事業において保険関係の成立・特別加入が必要であり、一の事業で特別加入していても他の事業で労働災害が発生した場合は保険給付の対象とならない(姫路労基署長事件、最判平成9年1月23日)。特別加入者は、政府の承認を受ければいつでも脱退することができる。ただし中小事業主等の場合は、脱退する場合も原則として事業に従事する者を包括して脱退しなければならない。また政府は、事業主等の法令違反があったときには特別加入の承認の取消・保険関係の消滅をすることができる。ただし特別加入者たる地位を失っても、既に発生した特別加入者の保険給付を受ける権利はそのことによって変更されない。また特別加入期間中に生じた事故によるものであれば、特別加入者たる地位を失った後に初めて受給権が発生した保険給付であっても受給することができる。特別加入の申請に対する都道府県労働局長の承認は、「申請の日の翌日から30日以内で申請者が加入を希望する日」となる。特別加入者がその要件を満たさなくなったとき、団体の構成員でなくなったときはその日に、団体が解散したときはその解散の翌日に、特別加入者としての地位が消滅する。金融業、保険業、不動産業、小売業については常時使用する労働者数が50人以下、卸売業、サービス業については100人以下、その他の事業については300人以下の規模の事業を行う中小事業主と、その者が行う事業に従事する者(労働者でない者)は、第1種特別加入者となる。第1種特別加入者が特別加入するためには、中小事業主が特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければならない。この承認を受けるためには、以下の要件を満たさなければならない。特別加入者の従事する作業が以下のものである場合は、加入申請書にその者の業務歴を記載しなければならない(第2種でも同様)。業務に従事した以下の期間により、特別加入の際に加入時健康診断を受診しなければならない(受診費用は国庫負担)。健康診断の結果、療養に専念することが必要と診断されれば加入は認められず、また加入前の業務に主たる要因があると認められる疾病については保険給付は行われない。2以上の事業を行う事業主は、承認基準を満たしている限り、2以上の事業について特別加入することができる。徴収法の規定により労災保険の保険関係が一括され、元請負人のみが事業主となる場合であっても、下請負人である中小事業主は労災保険に特別加入することができる(この場合であっても雇用保険の保険関係については一括の制度はない)。以下の事業を労働者を使用しないことを常態とする自営業者(いわゆる「一人親方」等)、並びに特定作業従事者は、第2種特別加入者となる。「特定作業従事者」とは、以下の作業に従事する者であって労働者でない者である。第2種特別加入者が特別加入するためには、一人親方等の団体が特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければならない。この承認を受けるためには、以下の要件を満たさなければならない。以下の海外派遣者は、第3種特別加入者となる。第3種特別加入者が特別加入するためには、国内の派遣元の団体・事業主が特別加入申請書を、所轄労働基準監督署長を経由して所轄都道府県労働局長に提出し、政府の承認を受けなければならない。この承認を受けるためには、派遣元の団体・事業主が行う事業について労災保険に係る保険関係が成立していなければならない(保険関係が消滅した場合、従来は保険関係消滅届の提出が義務付けられていたが、平成25年4月から事務手続きの簡素化により提出義務は廃止された)。年金額等の算定には、あらかじめ定められた算式によって決定される「給付基礎日額」を用いる(第8条)。大きく3つに分けられ、がある。そして、業務災害(通勤災害)に関する保険給付としてがある。通勤による災害は、直接には使用者側に補償責任はないため、業務災害の各給付(年金)名から補償という文字をはずした名称を用いる。政府は、保険給付に関して必要であると認めるときは、保険給付を受け、又は受けようとする者に対し、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができるほか、当該医師等に対してその行った診療に関する事項について報告もしくは物件の提示を命じ、又は当該職員に物件を検査させることができる。その者が命令に従わないときは、保険給付の支払いを一時差し止めることができる。年金たる保険給付の受給権者は、1月から6月生まれの者は毎年6月30日、7月から12月生まれの者は毎年10月31日までに、定期報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。傷病(補償)年金の受給権者の場合は、これに医師等の診断書(提出期限日前1月以内に作成されたもの)を添付しなければならない。保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならず、事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない(施行規則第23条)。事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害または通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができ、これにより意見の申出があったときは、これを保険給付に関する決定にあたっての参考資料として活用することとされる(施行規則第23条の2)。2014(平成26)年度の労災保険給付の新規受給者数は619,599人であり、前年度に比べ16,672人の増加(2.8%増)となっている。そのうち業務災害による受給者が545,007人、通勤災害による受給者が74,592人となっている。業務災害・通勤災害により、労災病院(労災保険法に基づく社会復帰促進事業として設置された病院をいう。以下同じ)・労災指定医療機関等(都道府県労働局長の指定する病院又は診療所をいう。以下同じ)で療養(治療)を必要とする場合は、療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、死亡又は症状が固定化して療養の必要がなくなるまでの間、原則として必要な療養の給付(現物給付)が行われる(第12条の8第2項)。業務上の疾病が治って療養の必要がなくなってもその後にその疾病が再発した場合は、原因である業務上の疾病の連続であって独立した別個の疾病でないから、引き続き補償は行われる(昭和23年1月9日基災発13号)。給付請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受けたうえで、病院等を経由して所轄労働基準監督署長に提出することで行われる。指定病院等を変更する場合も同様の届出が必要である。給付の範囲は以下のとおり(政府が必要と認めるものに限る)である。例外として、療養の給付をすることが困難な場合、又は療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる(現金給付)。労災指定医療機関以外の医療機関に緊急の必要でかかった場合や、最寄りの医療機関が指定医療機関等でなかった場合は、療養の費用は一旦自己負担となるが、療養の費用請求書に、「負傷又は発病の年月日」「災害の原因及び発生状況」について事業主の証明を受け、「傷病名および療養の内容」「療養に要した費用の額」について診療担当者の証明を受けて、直接所轄労働基準監督署長に提出することで、後日償還される。この支給は、業務災害の場合は自己負担なしで受けられるが、通勤災害の場合は以下の者を除き、200円(健康保険法による日雇特例被保険者は100円)の一部負担金がある(療養に要した費用が200円(100円)に満たない場合は、その現に療養に要した費用の総額が一部負担金となる)。この一部負担金は、休業給付の最初の支給額から控除されることで徴収される。なお、労災の対象になる場合は、健康保険等の対象外となり、第三者行為の如何に関わらず、初めから健康保険を適用して受診することができない。療養の給付に関して、労災の対象となるかどうかは、労働基準監督署長が諸事情を考慮して決定する(未決期間は業務上として取り扱う)。ただ、後日に「業務起因性がない」として、「初回から労災として認めない」との決定を受ける場合がある。この場合、初回分から改めて健康保険等での受診として計算し(健康保険を適用しない場合は原則自由診療となり、医療機関は比較的自由に診療費用を設定できる)、患者は医療機関に自己負担金(自由診療の場合の費用や健康保険適用の場合の差額など)を支払う必要が生じる場合がある。この決定が、数年後という場合もあるため、自己負担金が高額となり、患者の経済的な負担や、医療機関の未収金などの問題となる場合もある。療養の給付は現物給付なので時効にかからないが、療養の費用の給付は、療養に要する費用を支払った日の翌日から起算して2年の時効にかかる。業務災害又は通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき、休業の4日目から休業の続く間、支給される(第14条)。給付は休業日が途中で断続していても、休業の続く限り支給される。ただし、労働者が刑事施設、労役場、少年院その他これらに準ずる施設に拘禁・収容されている場合には支給されない(第14条の2)。また、傷病(補償)年金を受けることとなった場合は打ち切られる(傷病(補償)年金を受給後に障害の程度が該当しなくなった場合は、再度休業(補償)給付を請求する)。支給要件として要求されるのは以下の通りである。支給額は、休業補償給付・休業給付は、労働不能の日ごとにその翌日から起算して2年の時効にかかる。なお、"労災の休業補償給付・休業給付とは別枠で"、社会復帰促進等事業の休業特別支給金(後述)を申請すれば、休業の4日目から給付基礎日額の20%が追加で支給される。休業特別支給金の申請は、原則として休業補償給付・休業給付の支給申請と同時にしなければならない(申請書も同一の用紙である)。業務災害又は通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても治らない(固定化しない)場合に、傷病等級(6ヶ月以上の期間にわたって存在する障害の状態によって、1〜3級に認定する)に応じ支給される(第12条の8第3項)。なお、傷病(補償)年金は、休業(補償)給付に切り替えて支給される給付なので、傷病(補償)年金を受給した場合は、休業(補償)給付は受給できない。労働者が、1年6ヶ月経過後1ヶ月以内に「傷病の状態等に関する届」を所轄労働基準監督署長に提出し、(労働者の請求がなくても)所轄労働基準監督署長の職権により支給が決定・変更される。よって時効にかかることはない(昭和52年3月30日基発192号)。平成28年1月からは、「傷病の状態等に関する届」には、申請者の個人番号の記載が必要となる。また、労働基準法にこれに対応する災害補償はなく、労災保険独自の規定である。年金支給額は、1級の場合は1年につき給付基礎日額の313日分、2級は277日分、3級は245日分となる。障害の程度に変更があった場合は、その翌月から新たな傷病等級に対応した年金額となる(第18条の2)。賃金等の調整規定はないので、事業主から一定の手当等の支払いを受けていたとしても減額されることはない。療養の開始後3年を経過してなお傷病補償年金を受けている場合(業務災害の場合)は、労働基準法に定める打切補償との関係の問題が生じる。労働者が傷病補償年金を受けている場合、使用者は、療養開始日から3年経過後(3年経過後に受給権が発生した場合は、その受給権発生日)に打切補償を支払ったものとみなして解雇制限が解除される。ただし実際の解雇に当たっては労働基準法第20条に定める手続きが必要である。なお、傷病年金の場合(通勤災害の場合)は、3年経過しても解雇制限は解除されない。その他、社会復帰促進等事業としての傷病特別支給金、傷病特別年金がある。実務上は傷病補償年金・傷病年金の支給決定を受けた者については、傷病特別支給金の申請があったものとして取り扱われている(傷病特別支給金、傷病特別年金については職権で支給決定されるものではない)。業務災害又は通勤災害による傷病が治った(症状が固定化した)後に、一定の基準により障害等級に基づき、年金(障害等級1〜7級)または一時金(障害等級8〜14級)が支給される(第15条)。年金を受けている者が就職して賃金を得た場合であっても、年金の支給が停止・減額されることはない。障害による労働能力(一般的な平均労働能力のことを指し、個々の労働者の特有の諸条件は含まない)の喪失に対する損害の填補が目的とされる。1~3級はおおむね労働能力の永久的全部喪失、4~7級は労働能力の永久的過半喪失に該当する。同一の事故による身体障害が2以上ある場合は、原則としてそのうち重いほうを適用する(併合)。年金支給額は、1級の場合は1年につき給付基礎日額の313日分、2級は277日分であり、7級は131日分となる。一時金支給額は、8級の場合は給付基礎日額の503日分、9級は391日分であり、14級は56日分となる。年金受給者の障害の程度に変更があった場合は、その翌月から新たな傷病等級に対応した年金額となる(一時金の支給を受けた者の障害の程度が自然的に増悪・軽減した場合については、変更の取り扱いは行われない)(第15条の2)。平成28年1月からは、障害(補償)給付の申請には申請者の個人番号の記載が必要となる。年金の受給者の負傷又は疾病が再発した場合は、年金の受給権は消滅し、再度療養(補償)給付を受けることになる。そして、再度治癒・症状の固定化があったときに、あらためてその該当する年金または一時金が支給される。一時金の受給者の負傷又は疾病が再発した場合は、再治癒後に残った障害の程度が従前より悪化したときのみ、差額支給が行われる。障害(補償)年金受給権者の障害の程度に変更があった場合、遅滞なく所轄労働基準監督署長に文書で届出なければならない。一方、当該障害にかかる負傷又は傷病が治った場合(再発して治った場合を除く)は、届出は不要である。当分の間、年金を受ける権利を有する者は、請求により1回に限り障害(補償)年金前払一時金の支給を受けることができる(附則第59条)。前払一時金支給額は、1級の場合は給付基礎日額の1340日分、2級は1190日分、7級は560日分までの範囲で受給権者が選択する。この請求は、治癒した日の翌日から起算して2年以内かつ年金の支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。前払一時金を受給した場合、障害(補償)年金はその額に達するまでの間支給が停止される。また、年金の権利者がその限度額に満たない額しか受けないまま死亡した場合は、遺族(生計を同じくしている者が優先)の請求により障害(補償)年金差額一時金が支給される(附則第58条)。障害補償給付・障害給付は、傷病が治った日(症状が固定化した日)の翌日から起算して5年(前払一時金は2年)の時効にかかる。その他、社会復帰促進等事業としての障害特別支給金、障害特別年金(一時金)がある。(後述)業務災害又は通勤災害により労働者が死亡した場合、遺族(労働者の収入によって生計を維持していた(労働者の収入によって生計の一部を維持されていれば足りる。したがって共稼ぎ等もこれに含まれる。昭和41年1月31日基発73号)受給資格者のうち最先順位者が受給権者となる)に年金、遺族(補償)年金の支給対象となる遺族がいない場合(受給権者の権利が消滅した場合を含む)は一時金が支給される(第12条の8第2項)。対象となる遺族(受給資格者)の順位は次のとおりである。ここでいう「障害の状態」とは、労働者の死亡当時に障害等級5級以上または傷病が治らないで身体の機能もしくは精神に労働が高度の制限を受けるか、もしくは労働に高度の制限を加えることを必要とする程度以上の状態をいう。18歳の年度末までにある子・孫・兄弟姉妹は18歳の年度末に、障害の状態にあるものはその事情がなくなった場合に、受給権は消滅する(失権)。なお労働者の死亡当時に18歳の年度末までにある子・孫・兄弟姉妹が障害の状態にあった場合、子・孫・兄弟姉妹が18歳の年度末に達してもその事情がなくならない限り失権しない。年金額は、受給権者及びその者と生計を同じくしている受給資格者(若年支給停止者を除く)の人数により、1人の場合は給付基礎日額の153日分(55歳以上又は障害の状態にある妻については175日分)、2人の場合は201日分、3人の場合は223日分、4人以上の場合は245日分である。平成28年1月からは、遺族(補償)年金の申請には、申請者の個人番号の記載が必要である。遺族の数に増減を生じたときは、その翌月から年金額が改定される。遺族(補償)年金を受けている者が老齢厚生年金を受けるようになっても年金額は減額されない。受給権者が死亡、婚姻等により失権した場合、後順位者がいれば次順位者に支給される(転給)。また、労働者の死亡当時に遺族(補償)年金の受給資格者がないときは、所定の受給権者(生計を維持していない配偶者等)に給付基礎日額の1000日分の遺族(補償)一時金が支給される。遺族(補償)年金の受給権者が失権した場合において既に受給した遺族(補償)年金が給付基礎日額の1000日分に満たない場合はその差額が所定の受給権者に遺族(補償)一時金として支給される。当分の間、年金を受ける権利を有する遺族(若年停止者を含む)は、請求により1回に限り遺族(補償)年金前払一時金の支給を受けることができる(附則第60条)。前払一時金支給額は、給付基礎日額の200〜1000日分の範囲で受給権者が選択する。この請求は、年金の支給決定通知日の翌日から起算して1年以内に行わなければならない。遺族補償年金・遺族年金は、労働者の死亡の日の翌日から起算して5年(前払一時金は2年)の時効にかかる。その他、社会復帰促進等事業としての遺族特別支給金、遺族特別年金(一時金)がある(後述)。なお労働者が平成28年3月26日までに石綿による業務上の疾病により死亡した場合、石綿救済法により、要件を満たせば平成34年3月27日までに請求することにより、死亡から5年経過後であっても遺族特別支給金が支給される。業務災害又は通勤災害により労働者が死亡した場合、葬祭を行なう者(通常は遺族であるが、遺族がいない場合に社葬を行った場合は当該会社になる。昭和23年11月29日基災収第2965号)に支給される(第12条の8第2項)。支給額は、「給付基礎日額の30日分に315,000円を加えた額」「給付基礎日額の60日分」のいずれか高い方である(第17条)。葬祭料・葬祭給付の請求をする者が遺族補償年金の受給権者である必要はなく、また請求の際に葬祭に要した費用を証明する書類等の提出は必要ない。なお、傷病補償年金を受給していても、私傷病が原因で死亡した場合は葬祭料・葬祭給付は支給されない。葬祭料・葬祭給付は、労働者の死亡の日の翌日から起算して2年の時効にかかる。障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であって、1級又は2級(2級は精神神経、胸腹部臓器の障害に限る)のものにより、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ、常時又は随時介護を受けているときに、当該介護を受けている間(入院中や障害者自立支援法による施設等において生活介護を受けている場合を除く)、介護費用が当該労働者に対し実費支給される(第12条の8第14項)。上限は常時介護を要する状態にある場合は月104,290円、随時介護を必要とする状態にある場合は月52,150円である。親族等による介護を受けた日のある月は、介護費用を支出していなくても最低保障額として常時介護を要する状態にある場合は月56,600円、随時介護を必要とする状態にある場合は月28,300円が支給される。なお介護を要する状態にあっても実際に介護を受けている場合でなければ支給されない。労働基準法にこれに対応する災害補償はなく、労災保険独自の規定である。なお介護を受け始めた月については、以下の取扱いとなる。障害(補償)年金を受ける権利を有する者が介護(補償)給付を請求する場合には、当該障害(補償)年金の請求と同時に、又は請求をした後にしなければならない。傷病(補償)年金の受給権者の場合は、当該傷病(補償)年金の支給決定を受けた後に請求を行う。介護補償給付・介護給付は、介護を受けた月の翌月の初日から起算して2年の時効にかかる。二次健康診断等給付は、労働安全衛生法に基づく健康診断(一次健康診断)の結果、過労死等の原因となる脳血管疾患等及び心臓疾患に関連する血圧、血中脂質、血糖、肥満度(腹囲又はBMI)の4つの検査すべてに異常の所見があると診断された労働者に対し、当該労働者の請求により以下の給付(現物給付)を行う(第26条)。なお、特別加入者は、労働安全衛生法でいう労働者ではないため同法の適用を受けず、二次健康診断等給付は受けることができない(平成13年3月30日基発第233号)。また、二次健康診断等給付はその性質上、脳血管疾患等及び心臓疾患を予防するための給付であるため、すでに脳血管疾患等及び心臓疾患である労働者は給付を受けることはできない。二次健康診断等給付は、労災病院、又は労災指定医療機関等で行われる。二次健康診断等給付の請求は、天災その他やむをえない理由がある場合を除き、一次健康診断を受けた日から3ヶ月以内に、当該病院等を経由して所轄都道府県労働局長に対して行わなければならない。事業主は、二次健康診断の日から3ヶ月以内に労働者からその結果を証明する書面の提出を受けたときは、提出の日から2ヶ月以内に、結果に基づいた労働者の健康保持のための意見を医師に聴かなければならない。二次健康診断等給付は、労働者が一次健康診断の結果を了知しうる日の翌日から起算して2年の時効にかかる。もっとも、二次健康診断等給付の請求は、原則一次健康診断を受けた日から3ヶ月以内に行わなければならないことから、時効が問題となるのは特定保健指導を受ける場合に限られる。社会復帰促進等事業は、政府が独立行政法人労働者健康安全機構等に行わせる各種事業である(第29条)。次の事業がおこなわれる。業務災害・通勤災害に遭った労働者が労災保険の各種給付と同時に、各種特別支給金を申請する場合が多いが、基本的には労災保険の各種給付とは別枠の制度である。したがって、事業主からの費用徴収は行わず(不正受給者からの費用徴収は、不当利得として民事上の手続きにより返還を求めることになる)、損害賠償との調整も、社会保険との併給調整も行わない(特別支給金支給規則に、労災保険法を準用する規定がない)。前払一時金を受給しても、特別支給金は支給停止されない。特別支給金の申請は原則として保険給付の請求と同時に、所轄労働基準監督署長に対して行い、支給事務も労働基準監督署長が行う。申請は支給要件を満たすこととなった日の翌日から5年以内(休業特別支給金のみ2年以内)に行わなければならない。なお特別支給金の決定に不服があっても、不服申立てをすることはできない。交通事故等の第三者行為を原因として業務災害・通勤災害を被った場合に特別支給金の給付を受けても、支給元(機構)は加害者への損害賠償請求権を代位取得することはない。このことはつまり、賠償、自動車保険(自賠責、人身傷害、対人保険)、示談、訴訟上の解決等により、損害の補填を受けた場合であってもなお、社会復帰促進等事業の特別支給金を受ける事ができることを意味する(一部例外あり)。例として、交通事故により第三者行為として通勤災害を被り、自動車保険(自賠責、人身傷害、対人保険)からの休業補償を、休業損害額の満額(100%)の支払いを受けた場合であっても、社会復帰促進等事業の休業特別支給金を申請する事によって、休業の4日目相当分から、給付基礎日額の20%(合計で休業損害額の120%)の給付を受ける事ができる。なおこの場合、労災保険からの休業補償給付等は受けることができない。対人保険の過失相殺により休業損害額の100%未満を受領した場合は、まず休業補償給付の支給調整により損害額が100%に満ちるまで(ただし最大60%)の休業補償給付を受けて、加えて休業特別支給金20%が支給調整なしに支給されることになる。仕組み上、労災保険の各種給付と同時に給付される場合が多い。算定基礎が給付基礎日額である場合は、要件を満たしたときはスライド改定が行われる。業務災害・通勤災害発生時から過去に1年間に支払われた賞与(労働基準法第12条4項でいう「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」をいう。以下同じ)の総額(150万円か、給付基礎日額の365倍の20%の、いずれか低いほうが上限)を基礎として算定される(算定基礎年額)。年金または一時金として支給を受けることができる。なお、ボーナス特別支給金については、特別加入者には支給されない。要件を満たしたときはスライド改定が行われる。一部前述のとおり、労災保険の各種給付は、特別支給金も含めて政府が被災労働者に対して行うものである。この場合に労働災害の発生が、第三者の行為を原因とする場合には、いったん政府から労働者に保険給付が支払われた後で、政府から、その原因を生じさせた第三者に対して価額の限度で求償権の行使(請求)が行われる(ただし、特別支給金については前述のとおり求償は行われない)。当該第三者から同一の事由について先に損害賠償を受けたときは、その価額の限度で政府は保険給付をしないことができる。損害賠償との調整は、災害発生後3年間に支給事由が生じたものについてのみ行うこととされる(平成25年3月29日基発032911号)。示談が真正に成立し、かつその内容が損害全部の填補を目的としているときには、保険給付(災害発生後7年を経過した場合の年金給付を除く)は行われない。調整の対象となる損害賠償は、保険給付によって填補される損害を填補する部分に限られるので、精神的損害や物的損害に対する損害賠償(慰謝料、見舞金、香典等名目は問わない)は損害賠償を受けても調整の対象とはならない。なお第三者行為による場合、その旨(第三者が不明である場合は、不明である旨)を届け出ることとされ、この届出をしないときは、政府は保険給付の支払いを一時差し止めることができる。事業主が有責者である場合において、障害(補償)年金または遺族(補償)年金の受給権者(前払一時金を請求することができる者に限る)が、同一の事由について事業主からこれらの年金給付に相当する民事損害賠償を受けることができるときは、事業主は、年金給付の受給権が消滅するまでの間は前払一時金の最高限度額の範囲内で、履行を請求されたとしても損害賠償の履行をしないことができる(履行猶予)。そして履行猶予された場合において受給権者に労災保険から年金または一時金が支給されたときは、事業主はその支給額の範囲内で損害賠償の責めを免れる(免責)(附則第64条)。この部分については、通常支払う事業主はいないが、もし事業主が支払った場合は、被災労働者は事業主からと労災保険からと二重に填補を受けることになる。また、対応する保険給付がない精神的損害や物的損害に対する損害賠償、労災保険給付に上積みして支給される企業内の補償金、受給権者本人以外の遺族が受けた損害賠償については調整の対象とはしない。支給調整は、9年か、就労可能年齢を超えるに至った時までの期間のうちいずれか短い期間を限度として行う。なお同僚労働者が加害者であって事業主に使用者責任が成立する場合、政府は求償を控える扱いとなっている。原因を生じさせた第三者が、元請けほか営業上の得意先である場合、取引関係上の問題が生じる。つまり、労働者が労災保険により、得意先を第三者行為の対象として申請すると、労災保険から得意先に求償請求が回ることになる。そのため、事業主と被災労働者との話し合い(労災給付分を事業主が肩代わりするなど)により、労災保険の各種給付の請求を行わない場合もある。労働者の労災給付請求権は労働者の固有の権利であり何人にも妨げられる性格のものではないにもかかわらず、である(ただし特別支給金は求償されないため、特別支給金のみの請求は可能である)。このような場合においても、労働安全衛生規則第97条の死傷病報告書を提出すれば、いわゆる「労災隠し」の問題は生じない。同一の事由により、労災保険の年金給付と、社会保険(国民年金・厚生年金等)の年金給付が支給されるとき、当該労災保険の年金給付額に所定の調整率(0.73〜0.88)が乗じられて減額支給される(社会保険の側では調整されない。ただし共済年金の場合は、労災保険は減額されない。)。同一の事由である限り、それぞれの受給権者が異なる場合であっても調整の対象となる。ただし、調整により受給総額が減少してしまう場合、調整前の労災保険給付額から社会保険給付額を引いた額を調整後の労災保険給付額とする。つまり、少なくとも併給により年金受給総額の低下が発生しないようになっている。なお同一の事由により遺族厚生年金・障害厚生年金の受給の開始・終了・額の変更があったときは、遅滞なく所轄労働基準監督署長に文書で届出なければならない。同一の事由により、労災保険の障害(補償)一時金と、厚生年金の障害手当金が支給される場合、障害(補償)一時金が全額支給され、障害手当金は支給されない。なお、同一の事由によらない場合は、労災保険の年金給付と社会保険の年金給付は併給できる。例えば、親の死亡により遺族補償年金を受けている者が、配偶者の死亡により遺族基礎年金を受けることになった場合、両者は併給できる(同一人の死亡でないため)。保険給付を受ける権利は、実際に労働災害が起こった会社を退職しても消滅することはない。また譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえをすることもできない(第12条の5)。ただし、年金たる保険給付を独立行政法人福祉医療機構が行う小口貸付の担保に供する場合は例外である。なお休業(補償)給付については受任者払いが認められていて、労働者が事業主等にその受領を委任しているときは、原則として当該事業主等に支払われる。保険給付を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者に未支給の保険給付(請求自体がなされていないものを含む)があるときは、死亡当時その者と生計を同じくしていた遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹。公的年金とは異なり「3親等以内の親族」は含まない。また「生計維持」までは求められていない)は、自己の名でその未支給の保険給付の支給を請求することができる(第11条)。未支給の保険給付の請求権者がいない場合、死亡した受給権者の相続人が請求権者となり、未支給の保険給付の請求権者がその支給前に死亡した場合、その志望した請求権者の相続人がその支給を受けることができる(昭和41年1月31日基発73号)。なお遺族(補償)年金については転給があるため、受給権者の遺族ではなく死亡した労働者の遺族が未支給の保険給付を受給することになる。さらに租税その他の公課は、労災給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない(第12条の6)。労災保険に関する書類に印紙税は課されない(第44条)。なお特別支給金については保険給付とは異なるため、譲渡等の対象となる(退職後の権利や公課の禁止は運用上保障されている)。労働者が故意に事故を生じさせた場合は、保険給付は全く行われない(絶対的支給制限、第12条の2の2)。ここでいう「故意」とは、「結果の発生を意図した故意」をいい、事故発生の直接の原因となった行為が法令上の危害防止に関する規定で罰則の附されているものに違反すると認められる場合について適用される(昭和52年3月30日基発192号)。労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により事故を生じさせた場合は、給付額(休業・傷病・障害(補償)給付)の30%を減額される場合がある(相対的支給制限。ただし年金給付については、療養開始後3年以内に支払われる分に限る)。「故意の犯罪行為」とは、事故の発生を意図した故意はないが、その原因となる犯罪行為が故意によるものをいう(昭和52年3月30日基発192号)。労働者が正当な理由なく療養上の指示に従わず悪化、または回復を妨げた場合は、休業(補償)給付の場合は10日分、傷病(補償)年金の場合は10/365の相当額を減額される場合がある(相対的支給制限)。労働者が正当な理由なく報告書等の届出・物件の提出をしないときは、保険給付の支払いを一時差し止めをすることができる。労働者が少年院、刑事施設等に収容等の場合、休業(補償)給付の支給は行わない(未決勾留の場合を除く)。特別加入者の場合、次の事故に係る保険給付及び特別給付金の全部または一部を行わないことができる。保険給付に関する決定に不服のある者は、各都道府県労働局に置かれる労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができる(第38条、40条)。この審査請求は、審査請求人が原処分のあったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月を経過したときは、することができない(労働保険審査官及び労働保険審査会法第8条)。保険給付に関する決定の処分の取消の訴えは、審査請求に対する労働保険審査官の決定を経た後でなければ提起することはできない(審査請求前置主義)。労働保険審査官の決定に不服のある者は、厚生労働省内に置かれる労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる(二審制)。再審査請求は、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2ヶ月を経過したときは、することができない。なお2016年の改正法施行により、再審査請求と処分の取消の訴えのいずれを選択するかは申立人の任意となった。また審査請求の日から3ヶ月を経過しても労働保険審査官による審査請求についての決定がないときは、労働保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができる。「保険給付に関する決定」以外の処分(事業主からの費用徴収に関する処分、不正受給者からの費用徴収に関する処分、特別加入の承認に関する処分等々)について不服のある者は、最上級庁たる厚生労働大臣に対して直接審査請求を行う(一審制、第41条)。これらの処分の場合は審査請求前置主義は適用されないこととなったため、審査請求を行うか、あるいは審査請求をせずに直接処分の取消の訴えを提起するかは任意となる。保険料は労災保険の趣旨から事業主が全額負担する。特別加入者であっても同様である。保険料率(一般保険料率)は、保険給付及び社会復帰促進事業に要する費用の予想額に照らし、将来にわたって労災保険の事業に係る財政の均衡を保つことができるものでなければならないとされ(徴収法第12条2項)、原則として3年に1度、労災保険の適用を受けるすべての事業の過去3年間の業務災害・通勤災害に係る災害率、二次健康診断等給付に要した費用の額、社会復帰促進等事業として行う事業の種類及び内容その他の事情を考慮して、厚生労働大臣が定める。現在の保険料率は2015年(平成27年)4月1日改定のものである。おもな保険料率(一般保険料率)は、以下のとおりであり、55業種につきそれぞれ事業の種類により0.25〜8.8%とされている。労働災害発生の可能性が高いとされる、いわゆる「3K」(きつい・危険・汚い)業種の保険料率が高くなっている。事業主が同一人であって業種が異なる2以上の部門が場所的に分かれ、それぞれ独立した運営が行われている場合は、それぞれの部門が独立して一の事業として取り扱われ、それぞれの部門ごとに、その事業の種類ごとに定められた労災保険料率が適用される。派遣労働者については、派遣元が適用事業主として保険料の納付義務を負うが、保険料率は派遣先の実態に応じて決定する。特別加入者の保険料率(特別加入保険料率)は、労災保険率は、業種によって災害のリスクが異なることから、事業の種類ごとに定められているが、事業の種類が同じでも、作業工程、機械設備、作業環境、事業主の災害防止努力の違いにより、個々の事業場の災害率には差が生じる。そこで、事業主の保険料負担の公平性の確保と、労働災害防止努力の一層の促進を目的として、その事業場の労働災害の多寡に応じて、一定の範囲内で労災保険率または労災保険料額を増減させる制度(メリット制)を設けている。継続事業(有期一括事業を含む。以下同じ)では、その業種に適用される労災保険率から、非業務災害率(全業種一律0.6/1000)を引いた率を40%の範囲で増減させて、労災保険率(「メリット料率」)を決定する。対象となる事業は、労災保険料率を上げ下げする基準は、基準日における保険料に対する保険給付の割合(「メリット収支率」)により、メリット収支率が85%を超え(保険給付が多い≒労災が多い)または75%以下となる(保険給付が少ない≒労災が少ない)場合は、事業の種類に応じて定められている労災保険率から非業務災害率を減じた率を40%(確定保険料が100万円未満の一括有期事業は30%)の範囲内で上げ下げし、これに非業務災害率を加えた率を、基準日の属する保険年度の翌々保険年度において当該事業に適用する労災保険率とする。有期事業(有期一括事業を除く、以下同じ)では、事業終了後、いったん確定精算した労災保険料の額を、メリット制により増減する。対象となる事業は、改定確定保険料は、算定したメリット収支率によって継続事業と同様にメリット増減率を判定し、その増減率に基づき40%(立木の伐採の事業は35%)の範囲内で上げ下げし算定する。有期事業のメリット制によって確定保険料が引き上げられた場合、所轄都道府県労働局歳入徴収官は通知を発する日から起算して30日経過後を納期限として事業主に納入告知書で通知しなければならない。逆に引き下げられた場合、事業主は10日以内に差額還付請求が行えるが、未納の労働保険料その他の徴収金がある場合は優先的にそちらに充当される。中小企業における労働災害防止活動を一層促進する目的で、所定の安全衛生措置を講じた中小企業事業主を対象に「特例メリット制」が設けられている。対象となる事業は、特例メリット制による労災保険率の増減は、継続事業のメリット制と同じ方法で算定するメリット収支率を基準として行う(通常は最大40%のメリット増減率を最大45%とする)。安全衛生措置を講じた保険年度の翌々保険年度から3年間、特例メリット制による労災保険率の増減が適用される。労災保険への加入手続は前述の通り、労働者を1人でも雇用したら行わなければならないものであるが、実際には、事業主による手続忘れや故意による未手続も多い。そのため未手続事業主の注意を喚起し労災保険の適用促進を図ることを目的として1987年(昭和62年)に費用徴収の制度が設けられた。さらに2005年(平成17年)11月より徴収金額の引き上げや徴収対象とする事業主の範囲拡大がなされている。政府は以下のような事故について保険給付を行ったときは、その保険給付(療養(補償)給付、介護(補償)給付、二次健康診断等給付を除く)に要した費用の全部または一部を事業主から徴収することができる(第31条)。ただし、これによって労働者に対する保険給付が制限されるわけではない。費用徴収は、療養開始日(即死の場合は事故発生日)の翌日から起算して3年以内に支給事由が生じたもの(年金給付については、この期間に支給事由が生じ、かつ、この期間に支給すべきもの)について、支給の都度行われる。なお、算出された額が1,000円未満の場合には費用徴収を行わず、また徴収金には延滞金を課さないとされる。行政機関等からの指導・加入勧奨については、当該行政機関等が事業の存在を把握したものについて順次行われる。特に、事業の開始に際し、行政機関等への登録、届出、許認可等が要件となっている事業については、それらの行為に基づいて事業の存在が把握されるため、原則として指導等の対象となるものと考えてよい。なお、行政機関は事業の存在を把握しているに過ぎず、労災保険の適用・非適用までは把握していないので、労災保険の非適用事業であっても指導等の対象となる(ただし、この場合は非適用事業である旨を確認して指導等が終了する)。
出典:wikipedia
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