ミノサイクリン塩酸塩(, 略称: MINO)は、広域スペクトル性のテトラサイクリン系抗生物質である。静菌性の抗生物質に分類される。テトラサイクリン系では脂溶性が高く組織移行性が良好で生体内半減期も長い。経口摂取時の生物学的利用能がほぼ100%。投与日数制限は設けられていない。動物用医薬品としても使用される。ミクログリアの活性化を抑制する薬剤として知られる。ミノサイクリンは脳の発達や神経回路形成に影響することが、生きた動物の脳で直接観察し実証された。統合失調症の研究で注目されている薬剤である。ミノサイクリンは天然に存在する抗生物質ではなく、米国のレダリー研究所によって1966年に天然テトラサイクリンから半合成された。レダリー研究所は、後にワイスと合併し、2009年にファイザーに買収された。ミノサイクリン塩酸塩は、6-デオキシテトラサイクリンを半合成することで得られる。6-デオキシテトラサイクリンは、全合成によって生成する。主に皮膚感染症やライム病の治療に使用され、テトラサイクリン系抗生物質の中でも第一選択となることが多い。これはドキシサイクリンと並び生体内半減期が長いため、1日の服薬回数が少なくて済むことと、テトラサイクリン系抗生物質に対する耐性菌にも効果が期待できるためである。β-ラクタム系耐性菌に有効な場合があり、β-ラクタム耐性アシネトバクターによる疾患や、一部のMRSA感染症の治療に使用されることもある。髄膜炎菌への活性も有するなど、他のテトラサイクリン系よりも幅広い抗菌スペクトルであるが、予防投与は副作用(目眩や光線過敏)の問題と耐性のつきやすさのために現在は推奨されていない。動物のリボソーム80Sには作用せず、細菌のリボソーム70Sに特異的に作用すると報告されている、細菌のリボソーム30Sサブユニットに特異的に作用することから、選択毒性を有すると報告されている。妊娠中や妊娠の可能性がある場合は他のテトラサイクリン系と同様に選択されない。小児に対しては第一選択とならない。特に8歳未満の小児において歯牙の着色やエナメル質形成不全、また、一過性の骨発育不全などを起こす可能性があるためである。しかし耐性などの問題で本剤以外に選択肢がない場合は例外となりうる。ミノサイクリンに感受性のあるブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、淋菌、炭疽菌、大腸菌、赤痢菌、シトロバクター属、クレブシエラ属(肺炎桿菌を含む)、エンテロバクター属、緑膿菌、梅毒トレポネーマ、リケッチア属、クラミジア属、マイコプラズマ、アメーバ性赤痢、炭疽症、コレラ、淋病(ペニシリンが投与できない場合)、融合性細網状乳頭腫症(グジュロー・カートイド症候群)、ライム病、腺ペスト、歯周病、肺炎など呼吸器疾患、ロッキー山紅斑熱、梅毒、尿路感染症、直腸の感染症、ある種の微生物感染による子宮頚部の症状、精神刺激薬精神病など。尋常性ざ瘡(にきび)に対し、カプセル剤はざ瘡に対する有効性を示しているものの、ざ瘡への適応は有していない。日本皮膚科学会による2016年版ガイドラインでは、副作用の懸念から推奨度A*(推奨する)に評価が引き下げられた。39件のランダム化比較試験をもとにしたコクラン共同計画のシステマティック・レビューでは推奨されていない。欧米で推奨されているのは生物学的同等性を有していない1mg/kg徐放剤である。日本では徐放剤は認可されていない。酒さに対し、「丘疹膿疱性酒さ」への有効性を示した低品質なエビデンスがある。ほか、アメリカ合衆国ではリウマチ学会のガイドラインに記載され疾患修飾性抗リウマチ薬として使用されている。また、統合失調症に対する抗精神病薬としての臨床試験が行われ、メタアナリシスでその有効性が報告されている。エイズ患者のトキソプラズマ症に対する 土壇場治療薬としても使用されている。アレルギー、アナフィラキシー、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、自己免疫性肝炎、重篤な肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑(全身性エリテマトーデス様症状)、剥脱性皮膚炎、光線過敏症、血液障害、また、急性熱性好中球性皮膚症(Sweet病)が起こることがあるや、発がん性の報告もある。肝障害、腎障害、食道通過障害を有していると副作用が強く出る、経口摂取の不良な患者又は非経口栄養の患者、全身状態の悪い患者では、ビタミンK欠乏症状があらわれることがある。また、他のテトラサイクリン系よりも頻繁に深刻な有害事象が報告されている。頭蓋内圧亢進、肝障害、自己免疫疾患、好酸球増加症候群がミノサイクリンで多かった。テトラサイクリン系の有害事象報告は「ミノサイクリン > ドキシサイクリン > テトラサイクリン」の順で頻繁かつ深刻であった。非免疫性の甲状腺機能障害。耳鳴り、目眩、運動障害といった内耳前庭障害である。この副作用は女性に起きやすく、ミノサイクリンを服用している女性の50〜70%に発症する。発症率がかなり高く不快なため、女性患者に投与されることは滅多にない。他のテトラサイクリン系よりも高い頻度で突発性頭蓋内圧亢進を引き起こす可能性があり、頭痛、視野の揺らぎ、目眩、嘔吐、混乱がある。長期服用では、皮膚の灰青色への着色。2008年〜2009年にアメリカ食品医薬品局の有害事象報告制度から、潜在的な安全性の問題を特定したと公表があり調査中であるが、服薬の中止を意味するものではない。ミノサイクリン使用と甲状腺疾患、小児自己免疫疾患、が関連を示した。精子形成異常、発癌性などが米国の添付文書には記載され、男女共に妊娠を希望している場合には使用できない。ヒトへの限られた研究では、精子形成に有害であることが示唆された。動物研究では、甲状腺腫と甲状腺癌が有意に増加した。アルミニウム・カルシウム・マグネシウムを含有している制酸剤、または鉄含有製剤によって損なわれるが、乳製品を含む食事と同時にミノサイクリンを摂取しても、吸収の程度と時間は、絶食条件下との差は認められなかった。カプセル剤においてざ瘡(にきび)への有効性が示されているものの、適応を有しておらず、公知申請や55年通知に該当していないため、適応外使用となる。レセプトは表在性皮膚感染症でなければ保険適用されない。ざ瘡への適応を有しているクリンダマイシン外用との同時処方は混合診療に該当する。"SolodynやMinocycline ERのような放出調整剤は日本で認可されていない。"ミノサイクリンは小膠細胞の活性化を抑制する薬剤として知られている。最近の研究では、神経細胞を死滅させ、小膠細胞を増加させることが示唆された。マウスに対する動物実験では、自発運動の抑制が認められた。ラットに対する動物実験では、一過性の自発運動の亢進が認められた。また、ウサギに対する動物実験では、脳波に明らかな抑制波の出現が認められる。九州大学で行われた、成人男性(健常者)を対象とした臨床試験において、信頼ゲームで強い状態不安が観察され、スコアが低い傾向であった。1日200mg(朝夕100mg)のミノサイクリン投与群における実験のスコアと、やの尺度との間に相関を認めた。健康な男子学生での実験では、ミノサイクリン(200mg)単回投与で徐波睡眠が明らかに減少し、偽薬に変更後2回の夜も持続した。レム睡眠は全ての夜で減少しなかった。小学生の頃から覚せい剤を使用していた17歳の覚せい剤精神病患者(女性)が、抗精神病薬などの複数の薬剤で数カ月治療を続けたが目立った効果がなく、ミノサイクリン100mg/日(朝夕2回)を追加したところ大幅な改善が見られ、副作用もなかったとのことである。PANSS総合スコアを改善。2014年6月までの「PubMed、、Google Scholar、Cochrane Library databases」のランダム化比較試験をメタ解析した結果では、の陰性症状スコア(SMD=-0.86)と総合スコア(SMD=-0.70)が改善し、副作用の錐体外路症状スコア(SMD=−0.32)がプラセボよりも低く、忍容性が良好であった。陽性症状スコア(SMD=-0.26)と抑うつスコア(SMD=−0.28)はプラセボと有意差がなかった。東京大学医学部附属病院でミノサイクリンの鎮痛効果を検証する第III相の臨床試験が行われている。近年の研究結果では、ミノサイクリンが、神経変性疾患、とくに多発性硬化症、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、パーキンソン病といった一連の神経変性疾患に対して、神経保護と抗炎症作用を示しうることが報告された。抗炎症薬としては、ミノサイクリンは、炎症を起こす前のサイトカインの出力を抑制することによって腫瘍壊死因子 (TNF-α) のはたらきを減弱させ、これにより細胞のアポトーシスを阻害する。この効果は、活性化T細胞と小膠細胞へミノサイクリンが直接作用することによってもたらされ、その結果、T細胞の小膠細胞との連絡能力を減衰させ、T細胞-小膠細胞シグナル伝達によるサイトカインの産生を減少させる。ミノサイクリンは、NF-κBの核内転写を阻害することにより、小膠細胞の活性化も抑制する。ミノサイクリンの神経保護は、その抗炎症能とは無関係に機能すると考えられている。炎症性サイトカイン誘発の神経幹細胞に対する神経膠腫遺伝子効果を軽減する。ミノサイクリンの神経保護には、脳の老化に関係している炎症酵素のアラキドン酸-5-リポキシゲナーゼ阻害作用がかかわっている可能性があり、アルツハイマー症患者への適用が研究されている。ミノサイクリンはALSやハンチントン病のモデルマウスで神経保護を示し、またヒトで2年間以上にわたってハンチントン病の経過を安定させることも示された。2007年の研究では脳虚血発作を起こしてから24時間以内に200mgのミノサイクリンを5日間にわたり服用した患者では、プラセボを服用した患者と比較して、脳機能と発作の激しさが3か月以上にわたって改善されるという結果が出た。【目次へ移動する】
出典:wikipedia
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