協力ゲーム理論および社会選択理論において、中村ナンバー (なかむらナンバー、Nakamura 数、) とは、(投票ルールに代表される) 集合的意思決定ルールの合理性の度合いをはかる指標 (整数) である。その一方で、すなわち選択の合理性は選択肢数とこの数の大小関係に左右され、大きい中村ナンバーを持つルールほど多くの選択肢を矛盾なくあつかえる。たとえば多数決の中村ナンバーは (投票者が4人のケースを除けば) 3であることから、2個までの選択肢なら (パラドックスなど起さずに) うまくあつかえることが分かる。「中村ナンバー」という名称は、上記事実を定理として証明した日本人ゲーム理論家中村健二郎 (1947-1979) にちなむものである。中村ナンバーの正確な定義を与える前に、中村ナンバーを付与することのできる意思決定ルールの例を挙げる。いま、1, 2, 3, 4, 5 からなる個人の集合を想定すると、たとえば「多数決ルール」の背後には、過半数である3人以上をふくむ「提携」(個人の集合) のあつまりが存在するはずである。意思決定ルールの背後にある、この種のあつまりが中村ナンバーを与えることのできる対象であり、こういう任意の提携のあつまりのことを「シンプルゲーム」(単純ゲーム; 投票ゲーム) とよぶ。そして、そういうあつまりに属する提携をそのシンプルゲームおける「勝利提携」とよび、それ以外の提携を「敗北提携」という。勝利提携に属する個人 (上の例では最低3人) 全員が選択肢 x を選択肢 y より好ましいとするとき、(上の例では5 人の) 社会全体としてもそれと同じ順序付け (「社会選好」) が実現する。シンプルゲームの「中村ナンバー」とは、インターセクションが空集合となるような勝利提携のあつまりのうちもっとも提携数が少ないものの、その提携数のことである (この数だけ勝利提携を集めることでインターセクションを空集合にできることがあるが、これ未満の数を集めてもけっしてインターセクションを空にはできない)。たとえば上の例におけるシンプルゲームの中村ナンバーは3である。なぜなら任意の2つの勝利提携のインターセクションは少なくともひとりの個人をふくみ、その一方で次の3つの勝利提携のインターセクションは空になるためである: formula_3, formula_4, formula_5.中村の定理 (Nakamura, 1979) は、シンプルゲームがすべての選好プロファイル (各個人の選好の列) にたいして非空の「コア」を持つ(つまり「ベストな」選択肢の集合が空集合にならない) ための必要条件として以下を挙げている (選択肢集合が有限のばあいは十分条件でもある):選択肢の数がそのシンプルゲームの中村ナンバーよりも小さいこと。ここで「与えられた選好プロファイルについてのシンプルゲームのコア」とは、ある勝利提携に属する個人すべてが formula_6 より好むような選択肢 formula_7 が存在しないような選択肢 formula_6 の集合 (すなわち社会選好の極大要素の集合) のことである。上記の過半数シンプルゲームの例でいえば、選択肢が3個以上あるばあい、選好プロファイルの選び方によってはコアに属する選択肢がなくなる (「ベスト」といえるものが存在しない) ことをこの定理は意味する。中村の定理にはいくつかの変種があり、たとえば以下の各条件をみたすようなすべての選好プロファイルにたいしてコアが非空になるための条件を挙げている:(i) 「非循環性」をみたす選好;(ii) 「推移性」をみたす選好;(iii) 「線形順序」となる選好。また、これらとは異なる変種として、合理性にかんする弱い要件である「非循環性」さえ取り除いた定理 (Kumabe and Mihara, 2011) があり、その定理は極大要素を持つような個人選好からなるすべてのプロファイルにたいしてコアが非空になるための条件を挙げている。選択肢を「順序づけること」にかんしては、社会選択理論における「アローの不可能性定理」という有名な定理が存在し、個人の集まりが3つ以上の選択肢に順序を与えることの困難さを指摘している。与えられた選択肢集合からなんらかの選択肢を「選ぶこと」にかんしては、(順序を持つとは限らない社会選好の極大要素の集合である「コア」に注目した) 中村の定理がより直接的な関連性を持っている。この定理の主張を考えると、「中村ナンバーはどれだけ大きくなりうるか?」という疑問が興味深いものであることが分かる。この疑問については、以下の結果を挙げることができる:「拒否権を持つプレーヤー (すべての勝利提携に属する個人) が存在しないような、(有限あるいは) 計算可能なシンプルゲームが3より大きな中村ナンバーをもつためには、そのシンプルゲームが「強い」ものであってはならない。」これは、ある敗北提携で、その補集合も敗北提携になっているようものが存在することを意味する。このことは、3つ以上の選択肢を持つ集合でコアがつねに非空になるためには、コアのなかに互いに比較できない複数の選択肢をふくまざるをえないことを意味する。formula_9 を (有限または無限の) 非空な「個人」の集合とする。集合 formula_9 の部分集合を「提携」とよぶ。シンプルゲーム (投票ゲーム) とは、提携のあつまり formula_11 のことである。ここでは formula_11 は非空で空集合をふくまないと仮定する。formula_11 に属する提携は「勝利」提携、属さない提携は「敗北」提携という。シンプルゲーム formula_11 が「単調である」とは、任意の formula_15 と formula_16について、formula_17 がなりたつことをいう。formula_11 が「プロパーである」とは、任意の formula_15 について、formula_20 となることをいう。formula_11 が「強い」とは、任意の formula_22 について、formula_23 となることをいう。「拒否権プレーヤー」とは、すべての勝利提携に属する個人のことである。シンプルゲームが「弱い」とは、それが拒否権プレーヤーをもつことを意味する。formula_11 が「有限である」とは、ある有限集合 (キャリアとよばれる) formula_25 が存在して、任意の提携 formula_26 について、formula_15 と formula_28 が同値になることをいう。formula_29 を (有限または無限の)「選択肢」の集合とし、その濃度 (要素数) formula_30 は最小でも2とする。ここで (強い; 狭義の) 選好とは、formula_29 上の「非対称的な」関係 formula_32 を指す:すなわち formula_33 (「formula_6 は formula_7 より好まれる」の意) ならば、formula_36 となる。選好 formula_32 が「非循環的である」(「サイクル」をふくまない) とは、任意の有限個の選択肢formula_38 について、もしformula_39, formula_40,…, formula_41 ならば、formula_42 となることをいう。非循環的な関係は非対称的であるため、選好に該当することに注意。(選好) プロファイルとは、個人の選好 formula_43 の列 (リスト) formula_44 のことである。ここで、formula_45 は個人 formula_46 がプロファイル formula_47 において、選択肢 formula_6 を選択肢 formula_7 より好むことを表している。「譲渡可能な効用を前提としない投票ゲーム」(選好つきシンプルゲーム) とは、シンプルゲーム formula_11 とプロファイル formula_47 のペア formula_52 のことである。いま formula_52 が与えられたとき、 formula_29 上の「支配関係」(社会選好) formula_55 を次のように定義する:formula_56 とは、ある勝利提携 formula_15 が存在して、すべての formula_58 にたいして formula_45 となること。formula_52 のコア formula_61 とは、formula_55 によって支配されない選択肢の集合(formula_55 にかんして formula_29 上で極大要素となる選択肢の集合) である:シンプルゲーム formula_11 の中村ナンバー (Nakamura 数) formula_69 とは、インターセクションが空集合となるような勝利提携のあつまりのうちもっとも小さなものの濃度 (提携数) のことである: formula_70 (拒否権プレーヤーが存在しない) となるとき、それ以外のケースでは formula_72 (任意の濃度より大きい) とする。formula_11 が拒否権プレーヤーなしのシンプルゲームであれば、formula_74 となることは簡単にしめせる。有限人のばあいの例 (formula_75) (Austen-Smith and Banks (1999), Lemma 3.2 を参照).以下で formula_11 は単調でプロパーとする.たかだか可算個の個人がいるばあいの例 (formula_91).シンプルゲームにかかわる代表的な性質 (単調かどうか、プロパーかどうか、強いかどうか、拒否権プレーヤーなしかどうか、有限かどうか) がその中村ナンバーにあたえる制限については、Kumabe and Mihara (2008) が徹底的に調べ上げている(その結果は以下の表「可能な中村ナンバー」に要約されている)。特に、アルゴリズムによって「計算可能」でかつ拒否権プレーヤーをもたないシンプルゲームが3より大きい中村ナンバーをもつとき、そのシンプルゲームはプロパーかつ強くないことが分かっている。中村の定理 (Nakamura, 1979, Theorems 2.3 and 2.5).formula_11 をシンプルゲームとする。非循環的な選好からなる任意のプロファイル formula_47 にたいしてコア formula_61 が非空となることは、formula_29 が有限かつ formula_96 となることと同値である。リマークこのセクションでは「非循環的な選好」という通常の仮定を捨てることにする。そのかわり与えられた「アジェンダ」(agenda, 個人のグループが当面直面している「機会集合」) 上で極大要素を持つような選好をここでは考える。ノーテーションを節約するため、ここでは集合 formula_29 自体をアジェンダとみなすことにする。選択肢 formula_115 が選好 formula_43 にかんして「極大 (要素) である」(あるいは formula_43 が「極大要素 formula_6 を持つ」) とは、formula_119 となるような formula_120が存在しないことである。もし選好が選択肢全体の集合上で非循環的であれば、その選好は任意の「有限」部分集合 formula_29 上で極大値を持つ。中村の定理の変種 (variant) を述べる前に、「コア」を強めた解概念を導入しておく。たとえある提携が存在してそれに属するすべての個人 formula_46 が選択肢 formula_6 に「不満を持っている」(各 formula_46 がなんらかのべつの選択肢 formula_125 を formula_6 より好むの意) としても、選択肢 formula_6 がコア formula_61 には属してしまうことがある。次の解概念はそのような選択肢 formula_6 を除外するものである:以下の結果は容易にしめせる: formula_131 は各人の選好の極大要素集合だけに依存し、それらの集合のユニオンにふくまれる。また、任意の選好プロファイル formula_47 について、formula_139 となる。中村定理の変種 (Kumabe and Mihara, 2011, Theorem 2).formula_11 をシンプルゲームとする。以下の3つのステートメントは同値である:リマーク
出典:wikipedia
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