おにぎり(御握り)は炊いた米、すなわちご飯に味を付けたり具を入れたりして、三角形・俵形・球状などに加圧成型した食べ物である。通常は手のひらに載る程度の大きさに作る。作り置きが可能である。さらに保存性・携行性に優れており、手づかみで食べられることから日本では古くから今日に至るまで携行食や弁当として重宝されている。もともとは残り飯の保存や携行食として発達したがその後は常食としてのおにぎりが主流となってコンビニエンスストアやスーパーマーケットでも販売されている。日本のコンビニエンスストアの世界進出とともに世界各国でおにぎりが販売されているほか、居酒屋や日本料理店の世界進出に伴って一部の国でも食べることが可能となってきた。弥生時代後期の遺蹟である杉谷チャノバタケ遺蹟(石川県鹿島郡鹿西町、現・中能登町)から、1987年(昭和62年)12月におにぎりと思われる米粒の塊が炭化したものが出土している。この炭化米から人間の指によって握られた痕跡が発見されており、当初最古のおにぎりとして報道された。その後の研究では、炊かれて握られたものというより、おそらく蒸された後に焼かれたものとされる。いわばちまき(粽)に近いものとされている。また、北金目塚越遺蹟(神奈川県平塚市)からもおにぎり状に固まった炭化米が発見されている。2009年(平成21年)12月10日には横浜市都筑区の港北ニュータウンの古墳時代後期の遺跡から弁当箱に入れられたおにぎりと見られる炭化した米の塊が発見され、おにぎり弁当であると話題になった。おにぎりの直接の起源は、平安時代の「頓食」(とんじき)という食べ物だと考えられている。この頃のおにぎりは楕円形のかなり大型(1合半)で、使われているのは蒸したもち米であった。鎌倉時代の末期頃からは、うるち米が使われるようになった。おにぎりと言えば海苔が付きものというイメージがあるが、板海苔が「浅草海苔」などの名で一般にも普及したのは元禄の頃からで栄養もあり、手にごはんがくっ付かない便利さとも相まっておにぎりと海苔の関係ができた。古くから戦場における携行食としても活用された。大日本帝国陸軍では兵食の基本となる米麦飯を1合ずつ球形に握り、それを1食あたり2個携行するのが標準であった。しかし熱帯など高温多湿な環境下では腐敗しやすく、逆に寒冷地では凍結しやすい難点があるため、乾パンなどさらに保存性に優れた糧食も開発・採用されることとなった。家庭で作られる物のほか、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの市場において販売される物がある。お弁当コーナーを支える商品としておにぎりは重要視され、特にコンビニでは各社ともに熾烈なおにぎり新商品開発合戦・顧客獲得合戦を繰り広げている。また、居酒屋のメニューとしても人気がある。日本国内でも、地方あるいは家庭によっては「おむすび」(御結び)や「握り飯」などと呼ばれる。単に「むすび」や「握り」などと呼ぶ場合もある。地域的には西日本は「おにぎり」、東日本は「おむすび」である。東京でも古くは「おむすび」であったが、上方から新しく言葉が広まった。「握りまま」(青森県)、「おにんこ」(栃木県)、「にんにこ」(和歌山県)といった方言もある。おむすびというのは元は御所の女房言葉であった。おむすびと言えば三角に握ったものというイメージが強い。「おむすび型」というように三角形をした物のことを指す代名詞として使われる場合がある。おにぎりやおむすびの語源、両者の違いについては種々の説がある。おにぎりを構成する主な要素は、形・飯・具・包みである。形は他にも様々なものが存在する可能性が考えられるが、各種ある。特に決まりというものはないが、大方の慣習としてとも言われる。日本で主食として食べられるジャポニカ米で炊いたご飯は、冷めてもでん粉が硬くなりにくく、味も落ちにくいため、他の品種と比べておにぎり作りに向いている。コンビニエンスストアなどで販売されているおにぎりの中には、「冷めても美味しい」性質が一段と高い低アミロース米が用いられることも多いが、家庭で作られる物は、普段食されているうるち米を炊いた物とするのが普通である。一番多いのは白飯であるが、他にも様々なバリエーションがある。おにぎりに入れる具は白飯と相性が良く、味の濃い物(防腐の意味もある)が多い。炊き込みご飯や混ぜ込みご飯のようにご飯自体に味が付いている場合は、具を包み込まないのが一般的である。具は中央に埋め込まれるのが一般的だが、スパム(ランチョンミート)・鱒寿司・松茸などのように表面に張り付けるような物もある。具は梅干しや削り節・昆布などの佃煮などが昔からの定番である。これは携帯食として利用されていた頃は高い保存性、殺菌作用が具材に求められていたからであり、味付けも腐りにくいように塩分を濃くしていた。一方で以下のようなものもよく使われる。具は単品で入れることが多い(具が入らない場合は「塩むすび」と呼ばれる)。
おにぎりの包みには大抵は海苔が使われるが、関東では焼き海苔、関西では味付け海苔が好まれる他、板海苔を使う地方もある。また、海苔以外に下記のような食材で包まれたおにぎりもある。長野県では野沢菜、富山県や石川県、福井県(昆布の一大加工産地)ではとろろ昆布、和歌山県では高菜の漬物、鹿児島県奄美地方の徳之島や奄美大島では「たまごおにぎり」として薄焼き卵を使うなど、地域性が出る物や、チキンライスを薄焼き卵で包んだオムライス風おにぎりなどである。植物の葉には雑菌の繁殖を抑える成分を含む物もあり、保存性を高める一面もある。海苔での包み方は様々である。三角形のお握りの場合は、などの方法がある。一方、包みを施さずにふりかけ類をまぶすという技法もある。胡麻(黒または白)・田麩・のりたま・柚子胡椒などが使用される。具を入れない「塩むすび」では、少量の胡麻を表面に振る物もある。おにぎりを包装するためには、主としてラップフィルムやアルミホイル、和紙などが使用される。おにぎりには色や匂いが移りやすいので、色落ちするもの、臭気のあるもの(金属臭も含む)は避けられる。かつては、竹の皮におにぎりを包むのが一般的であった。竹の皮は殺菌作用や適度な通気性があるためラップやアルミ箔よりも保存性に優れている。コンビニエンスストアが定着し始めた1980年代中頃おにぎりの開封方法は各社で規格が異なり統一されていなかった。その後、上部の尖った部分のフィルムをひねって(あるいは切って)開け、中のフィルムシートを引っぱって出すパラシュート型と呼ばれるタイプが、シノブフーズにより発案、「ひっぱるだけのおにぎりQ」というキャッチフレーズで発売された。しばらくして他社でもこの方式が多く採用された。開封するのに慣れていない場合は中のシートを引っ張りだす際に上の方だけを持ってしまい、米飯が中のフィルムに残るといった短所もあった。現在では上部からカットテープのラインに沿ってフィルムを回して左右に分けて開けるセパレート型と呼ばれるタイプが主流となっている。なお、ローソンは2004年に「手巻四角型包装」と称する海苔をUの字に曲げただけのものを発売した。コンビニエンスストアで販売のおにぎりの包装に関しては、長年改良が進められて来てはいるものの、利便性の面から広く普及したセパレート型に至っても海苔の端が千切れる問題は解決できていない。本来、おにぎりの店頭販売のために開発された個別包装のための「おにぎりフィルム」が、現在では一般家庭向けにも市販されている。携行食としてのおにぎりは、なるべく細菌が繁殖しない状態を維持することが重要とされ、時間・表面積・温度・湿度が関係する。様々な方法があり、組み合わせ方は様々である。おにぎりは以下のようにして作る。手についている黄色ブドウ球菌などがおにぎりに移らないようにするために、ラップに包んで握るのもよい。生活雑貨店等で市販されているプラスチック製の「おにぎりの型」を使うと、ご飯を詰めるだけで簡単におにぎりの形に仕上がる。大量生産を目的とする弁当工場などでは「おにぎり成形機」が用いられる。現在では色々な場面でおにぎりが食されるようになった。その大部分は携行性より美味しさを求めて、以下のように配慮する。焼きおにぎりと呼ばれる調理法もある。焼きおにぎりとは、白飯を握ったのち焼き網やグリルなどで焦げ目が付くまで焼き、醤油や味噌を塗って、さらにあぶったたものである。調理には焼きおにぎりを焼くための専用の道具である焼きおにぎり器が用いられることもある。焼きおにぎりは冷凍食品としても市販もされている。沖縄県石垣市ではふりかけをまぶした、または炊き込みご飯(ジューシー)の三角おにぎりとウスターソースなどを付けた鶏肉の笹身フライをポリ袋に入れて、にぎり寿司のように合体させて食べる「オニササ」という食べ方がある。沖縄県立八重山農林高等学校の生徒が近所の知念商会というスーパーマーケットでおにぎりとおかずを購入するなかで、考案したもので、現在は市内の多くの食品店、総菜店で買ったおにぎりでこの食べ方をする人が見られる。おにぎらずは、ご飯を手で握らず、大判の海苔で風呂敷包みのように包むだけのおにぎりの一種。「おにぎりとは違って手でギュッとは握らない」ため、おにぎらずと呼ばれている。元々は漫画『クッキングパパ』のCOOK.213「超簡単おにぎり おにぎらず」(1991年5月23日刊行の単行本22巻収録)で紹介されたものだが(考案者は漫画作者のうえやまとちの夫人であるという)、2014年9月に料理レシピサイト・クックパッドの人気検索キーワードにランクインし、これをクックパッドが特集ページで紹介したことをきっかけに人気となり急速に広まった。人気となった理由について、クックパッドでは「簡単で作りやすい」「いろんな具がはさめる」「小さな子供も食べやすい」ことを挙げている。2015年3月16日には、海苔メーカー各社からおにぎらず専用海苔も発売され、人気商品となっている。クックパッドが紹介した「クッキングパパ」の元祖おにぎらずの作り方は以下の通り。また、読売新聞が紹介したおにぎらずの作り方は以下の通り。どちらも、海苔の周辺部分には具材やご飯を敷き詰めないのが上手く作るコツとしている。具材に使える食材の幅が通常のおにぎりよりも広く、コロッケや天ぷら、半熟卵、唐揚げ、金平ごぼう、焼きそばなど、多くのバリエーションが生み出されている。スパムと目玉焼きを包んだハワイ風のものやスモークサーモンとクリームチーズを包んだオードブル風なども考案されている。日本と同じ米作地帯である中国、台湾、朝鮮半島(韓国・北朝鮮)、タイの一部などでもおにぎりは作られる。しかし、世界的に炊飯前に米を研ぐという風習はあまりなく、そうして炊かれた飯は冷めると味が落ちることもあり、調味しない飯を食す習慣も持つ中国や朝鮮半島では「炊いた飯は温かい状態で食べるもの」という意識が強く、おにぎりなどの冷や飯というものに対し「施しを受けた下賤な者が仕方なく食べる物」「やむを得ない場合の携行食」といった悪いイメージが強く根付いており、中国では「」(ファントゥアン。「飯団子」の意)、朝鮮半島では「チュモクパプ」(、「握りこぶし飯」、または「げんこつ飯」の意)などと呼び、日常的に食べられることはまずなかった。中国福建省には「草包飯」(ツァオバオファン、cǎobāofàn)というおにぎりの一種があるが、これはご飯の中に肉、ソーセージ、椎茸などを具として入れ、これらを編んだ草の袋に詰め込んで携行するというもので、やはり日本人がイメージするものとはかなりの開きがある。また、タイでは通常おにぎりに不適なインディカ米を主食としているが、うるち米ではなくもち米(カオニャオ)を主食とするタイ東北部では球状にまとめた米飯を草の葉に包んで携行するという習慣が伝統的に見られる。台湾では駅弁や寿司なども含め日本の食文化が広く知られていることもあり、おにぎりに対して下賤なイメージは以前程ない。現地で売られているおにぎりは日本のものとは異なり、もち米で作られている場合がある。具材も肉鬆(豚肉の田麩)や揚げパンなど、日本のものとは少々趣が異なる。四角状で通常の1.5倍程度の大きいものに人気がある。日系企業のコンビニが台湾や上海などに上陸し普及するようになると、現地で日本式のおにぎりも人気を博した。これを受けて、日本の米に近い品種の米を使ったおにぎりが現地工場で製造され販売されるようになった。韓国では、日本のコンビニおにぎりを参考に1990年代初めから国内のコンビニでの販売が開始されたが、先述の「チュモクパプ」という言葉のイメージの悪さからか、発売当初は定着しなかった。しかし具をキムチ入りにしたり、海苔や精米の開発をするなどの創意工夫により、2000年代初頭から売れ始め、現在では「三角キムパプ」の名称でコンビニのみならず、専門店もできるほどの人気食品となった。韓国でのコンビニの売上に占める割合では、2006年度には40%以上にまで達したが、2007年度にはパン食志向に押されて30%台となった。 一方、ハワイや沖縄県では、スパム(ランチョンミート)を具としたおにぎりが「スパムむすび」「ポーク玉子おにぎり」(おにポー)などという名で販売されている。オーストラリアなどでも、おにぎりがファーストフードのメニューとして扱われているというケースもある。おにぎりとは別のカテゴリーにはなるが、ハンバーガーでバンズの代わりに同じ形に成形したごはんを使うものは「ライスバーガー」と呼ばれる。米食の多い日本ではハンバーガーショップで定番メニューとなっているところもあり、和風に味付けした肉系の具材を挟む場合が多い。おにぎりと同じく立ったままでも手軽に食べられるものではあるが、作られてすぐの温かい状態で食べることを前提にするものが多い。ご飯を上下2つに分けているためおにぎりと比べ大きな具材を使える。
出典:wikipedia