シンハラ語(シンハラご、シンハラ文字: 、 または )とは、スリランカで話されているシンハラ人の言葉。インドヨーロッパ語族インド・イラン語派インド語派に属す。基本語順はSOV型であり、pro脱落言語としての特徴や語順、発音など、多くの日本語と共通した特徴がある。シンハラ語とタミル語はスリランカの公用語である。"シンハラ" ("Sinhala") という語は、この言語を指すサンスクリットの単語であり、ウィジャヤ王の「シンハラ国」建国後、シンハラ国の外部(サンスクリットを話す人々)からは彼らの言語を「シンハラ語」と呼んだことに由来する。サンスクリットから派生した中期インド語では "Sīhala" である。シンハラ語自身では古くは Elu ()、Hela、Helu と称した。サンスクリットと中期インド語での呼び名では、語頭にライオンを表す語 ("simba"、"sīha") がついている。スリランカの歴史書マハーワンサ(大史)によると、紀元前5世紀頃にウィジャヤ王と側近たちが北東インドからセイロン島にわたってきたことになっている。そのウィジャヤ王は、もともとセイロン島にいたヤッカ (Yakka) 族、ナガ (Naga) 族からなるヘラ (Hela) 族の人々を取り込んで、「シンハラ ("Sinhala") 国」を建国した。その後数世紀にわたってカリンガ国やマガダ国などインド東部やベンガル地方から渡ってきた人々により、プラークリットとの混合が進んだ。現在までのシンハラ語の変遷は、4段階に分けられる。その歴史の中で、大きな発音の変化がたびたび生じている。西方のプラークリットの特徴として、東方のプラークリットでは /b/ に変化した語頭の /v/ が残っていることが挙げられる(例:サンスクリットの (20) に対応するシンハラ語の "visi-" とヒンドゥー語の "bīs" など)。男性名詞の単数形の語尾が e で終わることも、シンハラ語に残る東方プラークリットの特徴である。サンスクリットの一つの単語 に対応する二つの単語 "mässā"(ハエ)と "mäkkā"(ノミ)などの二重語も見られるが、この例では地理的に異なるプラークリット "macchiā" と "makkhikā"(パーリ語)に由来するため、語幹が異なる。1956年に、スリランカの公用語を英語からシンハラ語に切り替えるとする法律が施行された ()。これは歴史研究の視点からは、多数派であるシンハラ語話者と、少数派であるタミル語話者の対立を煽るきっかけとなったと見られている。この年はスリランカ自由党が初めて政権を握った年であり、この法案は与党としての提出した最初の法案の一つであったが、タミル人の多くはこれを「シンハラ人の文化、言語、宗教(仏教)だけを国家の正式なものとする」法律であると受け取った。その後1958年に "Sinhala Only, Tamil Also" とも呼ばれる法案が成立し、現在はスリランカの公用語はシンハラ語とタミル語であることが憲法で定められている。シンハラ語には、他のインド・アーリア言語とシンハラ語を区別するに足る特徴がいくつかある。そのうちの一部はシンハラ語の元となったヴェッダ語から来ており、中期および古代のインド・アーリア言語には語源を遡れない、シンハラ語、またはシンハラ語とヴェッダ語にしか見られない語も多数ある。"Kola"(シンハラ語でもヴェッダ語でも"葉")、"Dola"(シンハラ語で"豚"、ヴェッダ語で"供物")という語などがその例である。またセイロン島全域で、"Rera"(鴨)、"Gala"(石)という語が地名に見られる。またシンハラ語成立以前のセイロン島の言語から、"Olluva"(頭)、"Kakula"(脚 leg)、"bella"(首)、"kalava"(腿)など身体の部分に関する多くの語が現在のシンハラ語に受け継がれている。13世紀頃に書かれたとされるシンハラ語文法の最古の文献 "シダトサンガラワ" (Sidatsangarava) では、「語源がセイロン島独自のものである語」という分類があることを記しており、"naramba"(見ること)、"kolamba"(砦、港)などをそれに挙げている。"kolamba" はセイロン島最大の都市コロンボ (Colombo) の語源でもある。シンハラ語には、英語版 Wikipedia にあるリストにある借用語、およびドラヴィダ語からの発音と文法の影響が見られ、それが北部インド・アーリア言語から発達した各言語とシンハラ語の相違点ともなっており、シンハラ語話者とドラヴィダ語話者の交流が深かったことを示している。現在見られるドラヴィダ語の影響は主に以下の4点である。"I know that it is new." それが 新しい ことを 私は 知っている"I do not know whether it is new."それが 新しいのか 私は 知らない "数世紀にわたって受けた植民地支配により、現在のシンハラ語には多くの、、の借用語がある。元々ポルトガルの植民地であったマカオの原住民社会で話されていたマカオ語(マカオ・クレオールとも、話者自身は Patuá パトゥアと呼ぶ)は、主にマレー語、シンハラ語、広東語、ポルトガル語から発達したクレオールである。現在では広東語の広まりによって話者は減少しており、マカオおよびマカオ外のマカオ人社会で使われている。マカオ語は主に、ポルトガル人男性とマラッカやスリランカの女性(中国ではなく)の間の子やその子孫の間で使われ始めた。そのため、マレー語やシンハラ語の影響が成立初期から強い。シンハラ語の数詞は、他の印欧語族の言語と良く似ている。セイロン島南部のゴールやマータラ、ハンバントタで使われているシンハラ語には独自の語がいくつかある。セイロン島中央部、北部中央部、南東部(ウバとその周辺地域)でも、同様に独自の語が見られる。しかし各地域の話者の間の意思の疎通に問題はなく、これらの違いを深刻とする理由はない。ヴェッダ人の言語は多くの点でシンハラ語に良く似ているが、独自の起源を持つ語が多い。と呼ばれる人々の社会では、シンハラ語の方言が使われている。南アジアの他の言語と同様にシンハラ語にもダイグロシア(二言語使い分け)が見られる。シンハラ語の文語と口語の間には多くの面で相違点がある。文字で書かれるシンハラ語はすべて文語であり、正式な発言(公式なスピーチ、テレビやラジオのニュースなど)も文語で行われる。一方で、日常会話には口語が使われる(などを参照のこと)。シンハラ語の文語には、サンスクリット由来の語が多く含まれている。シンハラ語の文語と口語のもっとも大きな違いは、口語には動詞の語形変化(屈折、活用)がないことである。これは中世や古期の英語でも見られたことで、当時のグレートブリテン島では、学校の生徒たちにとって文語の英語はほとんど外国語を習うのと同じであった。シンハラ語の文字体系は"ホディア" (Sinhala Hodiya) と呼ばれ、他のインド・アーリア語の文字と同様、古代のブラーフミー文字から派生したものである。シンハラ文字は音節文字に近く、ක のような基本的な文字は、母音の指定を伴わないときには既定の母音(この場合 ka [kə])を伴って発音されることで一つの音節を表すことなどから、アブギダあるいはアルファシラビック alphasyllabic であると言われる。この、指定されない場合に補うことになっている母音は、ピラ "pilla" と呼ばれる母音記号(発音区別符号)をその音節文字につけることで変わり、たとえば කා kā, කැ kä, කෑ kǟ, කි ki, කී kī, කු ku, කූ kū, කෙ ke, කේ kē, කො ko, කෝ kō のようになる(この母音の並びは日本語の五十音と同じであり、サンスクリットとも共通する。後述)。ピラ(複数形では "pili")は子音文字の上、下、左、右、あるいはそれ以外の場所にも付きうる。シンハラ語にはまた、母音が欠落していることを明示的に示す書記素によって二種類に変化する"ウィラマ" ("virama") 記号や"ハル・キラマ" ("hal kirama") と呼ばれる記号がある。シンハラ語全体の文字体系は"エル・ホディア" ("Elu Hodiya") と呼ばれ、基本的な文字は54種類である。そのうち母音が18個、子音が36個であるが、口語である"スッダ・シンハラ"("Suddha Sinhala"、白シンハラ)では36個(母音12個、子音24個)しか使われない。使われない文字は言語の歴史的変化(帯気音の消失など)によるものであり、サンスクリットやパーリ語からの借用語を記述するために使われる。シンハラ語の文章では文字は左から右に並べられる(英語や現代の日本語と同じ)。シンハラ文字はシンハラ語だけで使われており、他のインド・アーリア言語では用いられない。しかし他のインド・アーリア言語と同様、いわゆるアルファベット順は他の印欧語族の言語とは異なっており、以下のようになっている。これはサンスクリットとよく似ている。a/ā ä/ǟ i/ī u/ū [ŗ] e/ē [ai] o/ō [au] k [kh] g [g] ṅ c [ch] j [jh] [ñ] ṭ [ṭa] ṭ [ṭh] ḍ [ḍh] ṇ t [th] d [dh] n p [ph] b [bh] m y r l v [ś ṣ] s h ḷ fシンハラ語の名詞には格、数、定性、有生性がある。シンハラ語の格には、多くの言語に見られる主格、対格、属格、与格、奪格の他に、他の言語には少ない具格などがある。格の種類は、その定義に揺らぎがあるため、一般的に厳密な種類やその数は示されない。たとえばなにか有生の具格および処格の語尾は "atiŋ" と "lagə" だが、それぞれ独立した単語("with the hand" と "near" の意味)としても用いられるため、これを接尾辞とするべきではないとする説もある。学術的な文法化の過程において、ある語の文法化がどれだけ進められているかは、その語が格変化を起こすかどうかが判断の一助となる。母音記号の長さのところがカッコ付きになっているのは、それがたとえばアクセントをつけずに発音される場合には長母音が短くなる場合があることを示す。シンハラ語名詞の数は単数形と複数形であり、有生、無生、英語から借用語で異なった変化を示す。有生の名詞では、複数形では語尾に "-o(ː)"、子音重複 ()と "-u"、 "-la(ː)" のいずれかが付く。無生ではほとんどの場合、形態素の欠落が生じる ()。英語からの借用語では単数形の語尾に "ekə" が付くが複数形としての形にはならないため、単数形であると考えられている。上の表の左側の方に挙げられているものでは複数形の方が語長が長く、右の方では最後の paːrə ("street") を除いて逆である。有生の語彙は主に左側、無生なら右側のグループになる。不定冠詞にあたる機能は、有生の場合は "-ek"、無生なら "-ak" が担う。単数形には定性がなく、これにのみ不定冠詞が用いられる。複数形では定不定はとくに示されない。シンハラ語の動詞の変化には3種類ある。しかし口語では人称、数、性による変化はない(文語ではその変化がある)。つまり口語では、主語と動詞の一致 (Subject-Verb-agreement) がないということである。シンハラ語には指示語幹が以下の4つあり、直示には4種類あることになる(他の言語と比べると稀な例である)。シンハラ語は日本語と同様、pro脱落言語の一つである。主語が文脈から明らか場合に省かれるのはイタリア語などと同様であるが、主語以外の目的語やその他の語も省かれることは「超pro脱落言語」とも呼ぶべき特徴であり、これは日本語と共通している。たとえばシンハラ語の " は、英語にすると "where went"(行った場所)であり、とれる意味としては "where did I/you/he/she/we... go"(私/あなた/彼/彼女/我々... が行った場所)となる。この二語だけでは意味に曖昧さの残る部分は、前後の文脈から判断される。
出典:wikipedia
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