ピアノ協奏曲嬰ヘ短調 作品20は、アレクサンドル・スクリャービンが1896年から1897年にかけて作曲したピアノ協奏曲。ショパンやセルゲイ・ラフマニノフのピアノ協奏曲を彷彿とさせる抒情的で美しい作品で、ギャリック・オールソン、アシュケナージ、ウゴルスキ、コンスタンティン・シチェルバコフ、ネイガウス等が録音を残している。スクリャービンによるピアノと管弦楽のための作品は、このほかに『プロメテウス―火の詩』しかない。演奏時間は約26分。この協奏曲は初期作品の一つであり、抒情的な表現においてショパンの影響が明確に表れている。一方で、リズム語法や調性の選択、左手の超絶技巧、簡潔で緊密な楽曲構成、翳りと愁いを含んだ物憂い表情など、ショパンとは異なる独自の発想も明らかにされている。スクリャービンの助言者であったリムスキー＝コルサコフは、この作品の管弦楽法のバランスに難色を示し、手ずから改訂しようと申し出たがスクリャービンはこれを拒否、自力で部分的に修正を加えるにとどめた。独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネットA管2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽五部。序奏つきソナタ形式。伝統的な協奏的ソナタ形式によらず、オーケストラの短い導入部を経てすぐピアノが登場する。恋愛のワンシーンを思わせるような抒情的で情熱的な第1主題と、マズルカ風の第2主題からなる。スクリャービンが生前に発表した唯一の変奏曲（他には1887年作曲の『エゴロワ変奏曲』が死後に遺作として出版されている）。変位記号の多い調号の選択は、初期から中期まで続いたスクリャービンの音楽的趣味の一つである。単純な三部形式による主題は12歳ごろにさかのぼると言われ、その性格は素朴で甘美である。それに続く変奏は、ブラームスやセルゲイ・ラフマニノフが好んだ性格変奏（主題が原形をとどめないほど変化を加えられるもの）ではなく、むしろ古典的な装飾変奏によっている。ロンドソナタ形式。ポロネーズ風の勇壮な第1主題と、抒情的で歌謡的な第2主題によっている。コーダで嬰ヘ長調に転じて華々しいクライマックスが形成され、締めくくられる。

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