朝鮮民主主義人民共和国の文法論(ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこくのぶんぽうろん)とは、朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)の社会科学院や金日成総合大学などを中心に展開されている朝鮮語文法論を指す。以下に1980年代以降の北朝鮮の文法論を中心に形態論と統辞論を概観する。北朝鮮の文法論の歴史は、おおよそ以下のように区分することができる。解放直後から朝鮮戦争までの時期は、北朝鮮言語学の出発点の時期である。解放前から研究活動を行っていた洪起文(1903~1992)・李克魯(1893~1978)・金寿卿(1918~)らが中心となって朝鮮語学を牽引した。この時期は伝統的な文法研究に加え、新たにソ連言語学の諸概念がもたらされた時期であった。ただし、この時期にはまだソ連言語学が十分に消化されていなかったように見える。また、金奉(1890~?)が朝鮮語新綴字法(1948年)でいわゆる「6字母」を考案するなど、さまざまな実験的な試みがこの時期になされている。朝鮮語文研究会による『朝鮮語文法』(1949年)では、「助詞」のような従来の概念を受け継ぎつつも、「語辞結合」(語結合)などソ連言語学の概念も導入している。なお、この書籍は金奉の「6字母」を用いた正書法で書かれたものとして、非常に希少価値が高い。朝鮮戦争後から1960年代にかけて、北朝鮮言語学はソ連言語学の影響を強く受けつつも、それを消化して朝鮮語学の分野に適用し一大発展をとげた。科学院言語学研究所が発行した『朝鮮語文法1』(1960年)、『朝鮮語文法2』(1963年)はその集大成であり、ここで示された文法論はその後の北朝鮮文法論の基礎を成したといえる。この時期にはソ連・中国などの研究論文がたびたび翻訳されるなど、社会主義陣営の言語学も盛んに紹介された。1970年代から主体思想が本格的に台頭し、「自力更生」の思想が言語学においても支配的になった時期である。ソ連など外国の言語理論の導入はあまり見られず、1960年代に形成された文法論を北朝鮮内部で独自に再生産する傾向が強い。そのため、停滞的な一面も見受けられ、1980年代後半以降、文法論の基本的な枠組みはほとんど変わっていない。1960年代の文法論では、品詞・造語の分野が形態論()に含まれていたが、1980年代以降はそれぞれ品詞論()・造語論()として形態論から切り離されている。単語を形作る形態素として、語根()・接頭辞()・接尾辞()・「吐()」を認めている(「」は南北でともに固有語とされているが、古来「吐」の字を当てており、ここでもそれに従い仮に「吐」と表記する)。「吐」とはもともと口訣を指すものであったが、北朝鮮の文法論では語幹の後ろに付く接辞類を指し、『朝鮮語大辞典』(1992年)によれば「膠着語としての朝鮮語において、文法的な形を作る付属物」とある。すなわち、語幹の後ろに付いて文法的な機能を担う部分を吐と規定しているのである。韓国の文法論でいう助詞・語尾・接尾辞(先語末語尾)がこれに当たる。吐はあくまで単語を形作る形態素であるので、韓国でいう助詞のように品詞(すなわち単語)として認めていない。現在区分されている吐は以下の通りである(〔 〕内は韓国の用語)。接続吐()と修飾吐()については、後記「#用言の語形」の節を参照。転換吐()には、体言を用言化する「」と、用言を体言化する「,」がある。強調吐()は各種の吐の後ろに付き、その意味をさらに限定するものを指す。例えば「」の「」や「」の「」などである。韓国の研究者の一部はこれらのものを指して「後置詞」と称している。体言の文法範疇には格・関連・数の3つの範疇を認めている。「関連」とは補助吐()によって形作られる範疇、「数」とは複数吐()によって形作られる範疇をいう。「関連」・「数」を体言の文法範疇と見るか否かについては議論があったようで、1960年代の段階ではまだ明確に文法範疇とは規定していない。格に関しては、韓国においても何を格助詞と見なすか、格をいくつに区分するか意見が分かれるが、北朝鮮においても事情は同様のようで、やはり時代によって格の数や格吐()の種類に若干の違いが見られる。現在では主格()・対格()・属格()・与格(,,)・位格(,)・造格()・具格()・呼格(,,)・絶対格(ゼロ接辞)の9つに分類している。用言の語形は以下の4つを区分する(〔 〕内は韓国の用語)。接続形は複文を形作る連結形であり、「,,,」などがこれに該当する。修飾形は用言を修飾するいわゆる「副動詞形」であり、「,,」などがこれに該当する。韓国の文法論ではともに連結形に分類されている。用言の文法範疇(文法カテゴリー)には叙法・待遇法・態・尊敬・時制の5つの範疇を認めている。態は北朝鮮では「(相)」と呼ばれる。また時制は「(時間)」と呼ばれるが、これはロシア語の「(時間・時制)」の翻訳と思われる。なお、相(アスペクト)・回想(,など)は文法範疇と認めていない。また、用言の文法範疇は総合的な形式(synthetic form)の一部をなしているものに限られており、分析的な形式(analytic form)は用言のパラダイムに含めていないので文法範疇に組み入れられていない。統辞論()はソ連言語学を踏襲して、単語と単語の結びつきに関する部門と、文に関する部門の2つの部門に大きく分かれる。この部門はソ連言語学では語結合()に関する部門である。ソ連言語学における語結合は「従属的な文法的関係により2つ以上の自立語が結びついた統辞論的な構造」()である。語結合の理論が北朝鮮にもたらされたのは解放直後と見られるが、それが朝鮮語に積極的に適用されるようになったのは1960年代以降である。統辞構造が異なるロシア語と朝鮮語にあって、ソ連言語学の語結合をどのように導入すべきかについて1950年代後半から盛んに議論がなされた形跡がある。その結果、1960年刊行の『 1』(音韻論・形態論編)では語結合()を認めたが、1963年刊行の『 2』(統辞論編)ではソ連式の語結合をそのまま認めず、「諸単語の文法的連結()」というより広い概念で処理された。基本的にはこの立場で1970年代以降現在に至るまで単語の結びつきは処理されている。現在、北朝鮮で認められている単語の結びつきは以下の通りである。文に関する部門においても北朝鮮の理論はソ連言語学の影響を強く受けている。まず、文の定義、すなわち文を文たらしめているものは何かについて、ソ連言語学では陳述性()が文を形作る基礎であるとしたが、北朝鮮の文法論でも同様に陳述性()を文のマーカーと規定している。ただし、陳述性を巡っては語結合の場合と同様に1950年代から1960年代にかけて活発な議論が交わされた模様である。現在、北朝鮮では陳述性は以下のような諸要素によって形作られるとしている。これを見る限り、北朝鮮でいう陳述性は叙法・時制といった述語の文法範疇とイントネーションという2つの要素が中心となっており、ソ連言語学における陳述性の定義とほぼ同様であることが分かる。文の成分()は以下のように区分されている。単独成分はすなわち陳述語であるが、これは一語文における述語を指す。一語文の場合、用言のみならず体言や副詞などが単独で文を構成しうるため、これを1つの成分と見なして陳述語としたものである。文の類型は以下のように区分されている。単純文とは文の1次的な成分からなる文、拡大文とは2次的な成分によって拡大された文を指す。非展開文は文の成分のうち主導成分のみからなる文、展開文は依存成分を含む文を指す。単独構成文は一構成文()ともいい1つの文の成分からなる文、相関構成文は二構成文()ともいい2つ以上の文の成分からなる文を指す。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。