メディアスクラム()とは、立法議会や会合といった出来事の外で直ちに開かれることが多い即席の記者会見である。メディアスクラムは、カナダの政治において中心的な役割を果たしており、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドでも見られる。語源は、ラグビーの試合開始の形式の一つであるスクラムである。公人の注意を引くため周りに記者が群がる様がスクラムにおいて、選手がボールを争い密集する様子に似ている。日本においてメディア・スクラムは、放送局・全国紙・スポーツ新聞・週刊誌などの全国に渡って情報を配信することが可能なメディアによる報道関係者が大人数で取材対象者・対象地域に押しかけて執拗に付きまとい、必要以上の報道合戦を繰り広げることの意味で用いられる。集団的過熱取材などとも表現される。様々な事件・スキャンダルにおいて、在京局・全国紙を中心としたマスコミは取材活動を行い、その取材結果を報道している。だが、視聴率・発行部数の大幅な向上に繋がる社会的関心の高い出来事では、現場取材を指揮するディレクター職や現場で動く末端のスタッフにとっては自身への高評価を目当てにした取材活動となることが珍しくない。また、事件・事故・スキャンダルの取材対象となる現場では、時として膨大な人数の「報道関係者」であふれかえる。こと日本では、日本国内におけるテレビ番組制作のシステムにおいて、在京キー局を中心としたテレビ番組単位で取材班が存在しているため、同じ系列局の異なる番組取材班が同じ人物に繰り返し同一の内容を取材していることもある。取材班は自局の人間もいれば番組制作会社の人間、さらには外部委託の出来高契約で動いている人間もいて、同じ取材班でも日によって人間が入れ替わり立ち代わりの上に、同一の社局であっても視聴率などを巡って番組間でライバル意識を持たされることも多く、概して番組を超えたスタッフの情報の伝達と共有はほとんどなされていない。それらの他にラジオ・新聞・週刊誌などの取材陣、さらには「一発屋」などと呼ばれる新聞社・出版社に写真を売り込んで生計を立てるフリーランスのカメラマンまでもがそれに加わり、センセーショナルなスクープをつかむべく行動しており、言わばマスメディア全体がパパラッチのような様相を呈している。これは、日本の場合大抵の場合は記者クラブ経由での報道が多く、しかも大手テレビ局及び新聞などごく一部に限られている事から、所謂スクープや話題性に欠ける事、そして速報性・番組制作の時間的余裕などの観点により、取材の成果は即座に求められると言う日本特有の傾向があり、これにより「成果を確実につかむためには手段を選ばない」という風潮が存在する。さらに、アメリカでは大学及び大学院におけるジャーナリズム教育が盛んであり、この過程で報道倫理教育が行われるし、取材に対する苦情を申し立てる機関も存在しているが、日本の報道機関では新卒一括採用を行い社内でOJTを行う事が基本であり、ジャーナリズム教育を行う大学は早稲田大学大学院のJ-SCHOOLをはじめとして極めて少数である。これにより、慣習による取材を身に着けることになり報道倫理の教育機会も無いが故に、メディアスクラムや所謂マスコミ不祥事が多発する要因ともなっている。この風潮から2000年代頃からネット掲示板などにおいて、皮肉の意味を込め「マスゴミ」(「マスコミ」+「ゴミ」の合成語)または「マズゴミ」(「マズい」+「ゴミ」の合成語)という蔑称がつけられているゆえんでもある。このような業界体質のために、事件・事故・スキャンダルなどの報道に際して各キー局の番組間で報道が競合し、他社・他局はもとより同じ社局の他番組のスタッフすらをも出し抜くスクープをつかむべく取材活動が異常にヒートアップしてゆくことは珍しいものではなく、往々にして各番組・各メディアの取材陣・カメラマンが相互に競い合い、取材現場の雰囲気が歯止めの効かない暴走状態に陥り、報道内容も扇情主義に根ざしたものに成り果ててゆくことがある。この場合、マスコミは報道の自由という大義名分のもとに、被害者・容疑者・当事者およびその関係者、あるいは近隣住民に報道陣を殺到させ、取材対象のプライバシーまでをも侵害したり社会生活を妨げたり、あるいは本来ならば保護されるべき特定の個人情報にもつながるデータ・情報について、「公共の利益」の名の下に興味本位に社会に暴露してしまう場合がある。これらによって取材対象に深刻な身体的・精神的・経済的な悪影響を引き起こす場合もある。同志社大学教授の浅野健一は、「メディアスクラムとは本来はジャーナリズムが団結して権力を追及する良い意味のもので、集団的過熱取材のことはメディアフレンジーと呼ぶのが正しい」としているが、こと日本で実際に現在使われている用法として見る限りでは、この2つの言葉に違いは事実上存在していない。科学的・客観的な情報を軽視する一方で、断片的な警察情報や取材結果などを根拠にマスコミが独自に描いた疑惑の構図の中で、メディアスクラムの発生とさらなる加熱取材によって特定の取材対象に対するメディア・リンチの様相を呈することがある。その結果として、取材対象やその家族の日常生活・人間関係・経済環境・名誉、場合によってはその家庭すらをも徹底的に破壊し尽くして、取材対象とした人物を一個の人間としても再起不能の状態に追い込む、いわゆる「社会的抹殺」という状況に追い込んでゆく事態を引き起こすことがある。メディアスクラムはメディアパニッシュメント(犯人視報道・報道断罪)の問題とも密接に結びついており、万一にも、マスコミが本格捜査前から犯人と決め付けて扱い事実上の「社会的抹殺」の状況に追い込んだ人物が、警察の本格捜査で真相が明らかになってみれば無関係であったり、さらには被害者であったことが明らかとなった場合には、いくら謝罪の意を示そうと収拾がつかないことになる。だが、マスコミが「犯人」扱いしたことでその人物から奪った名誉・生活基盤・社会的地位・職位・収入などを、マスコミ関係者が責任をとって回復させることは期待できず、メディアスクラムによる報道被害を被った人物はその後の生涯にわたって誤解・偏見・社会的疎外・経済的困窮などに苦しめ続けられ、社会人としての再起はおろか、もはや人間としての尊厳すら取り戻せないこともある。さらには、マスコミ報道が加熱した結果として、直接の事件・スキャンダルの当事者のみならず、その周囲の人物の心身をも追い詰め著しく疲弊させ、精神疾患・アルコール使用障害・一家離散・自殺などにの結果に至らせることもある。また、目前で起こされた事件に大きな精神的ショックを受けている児童たちにマイクを次々と突きつけて強引に感想や泣き顔を引き出そうとするなど、刺激的な映像が欲しいために被害者や目撃者の心理を無視したり心的外傷をわざわざ刺激するような非常識な取材を行った事例も附属池田小事件を始め枚挙にいとまがない。同様に、マスコミ報道で何度も紹介された結果、事件現場や容疑者・被害者の自宅がある種の時事ネタ的な観光地と化してしまい、週末に野次馬が押し寄せたり、何台もの観光バスが現場近くの路地までわざわざ入り込んできたり、悪質ないたずらや器物損壊・放火などのさらなる犯罪行為を招くこともある。このようなマスコミの取材姿勢やそれによる悪影響が事件の捜査や後の審理にも悪影響を及ぼしかねないものとなることもあり、実際に被告の自宅が一時的に観光地化した挙句に放火されるなどの事態が発生した和歌山毒物カレー事件の和歌山地裁での裁判では、判決に際して裁判長がマスコミに対して厳しい苦言を呈している。
出典:wikipedia
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