『孤島の鬼』(ことうのおに)は、江戸川乱歩の著した長編探偵小説。主人公の蓑浦はまだ30歳にもならない青年であるが、髪は見事な白髪である。彼の体験したある恐ろしい出来事の、そのあまりの恐怖のために黒かった髪が一晩にして真っ白になってしまったのだ。彼の妻の体にはむごたらしい傷跡があり、また恋人と友人を立て続けに亡くした経験を持つが、それも同じ出来事に関連した結果であった。過去のこと、蓑浦は同僚の初代と恋に落ち結婚を決意する。初代は3歳の時に実の親に捨てられ、育ての親に拾われ大事に育ててもらい、養父亡き今は養母と仲良く暮らしていた。初代が捨てられた時に持たされていた系譜図は肝心なところが破れていて、やはり身元はわからないのだが、初代はお守りがわりのように肌身離さず持ち歩いている。結婚指輪を贈る蓑浦に初代は「私はお返しできるような値打ちのあるものは何も持っていないから、命の次に大事なこれを」と系譜図を贈るのだった。そんな折、初代に猛烈な求婚を申し込む相手が現れる。家柄も収入も学歴も蓑浦より格段に上のその男は諸戸といい、蓑浦の知り合いだった。蓑浦と諸戸は学生時代に知り合い、蓑浦は尊敬できる先輩といった風に諸戸を慕っていた。諸戸は快活で頭のよい美男子だが実は同性愛者であり、女性に興味がないどころか汚いものだとさえ感じ、またそんな自分を恐ろしくも思い、そして蓑浦に恋情を寄せていた。蓑浦はわずかにそれを悟っていた。酒の勢いで蓑浦に対する恋情を暴露してしまった後は気まずくなり会うことも少なくなったが、いまでも熱烈な手紙をよこす諸戸とつい最近出かけたこともあった。蓑浦に同性愛者の性癖はなかったが、立派な男性として尊敬できる相手である諸戸にそういった感情をむけられることで少しばかり自尊心がくすぐられる向きもあったのだ。蓑浦は諸戸が初代に求婚したのは、初代と自分の仲を引き裂くためではないかと疑う。ある日自宅で初代が殺され、いつも系譜図を入れていた手提袋などが盗まれる。自宅の鍵はすべてかけられており侵入の痕跡は見当たらない。蓑浦は諸戸を疑わずにはおれず、ひそかに初代の復讐を誓って探偵業を営む友人をたずねるが、彼もまた犯行など不可能と思われるような混雑した海水浴場で白昼堂々殺されてしまう。現場検証を見守る群衆の中に諸戸の姿を発見した蓑浦はいよいよ諸戸に対する疑いを深くするが、その後はこの頃考えていたよりももっと複雑な、おぞましく不幸に呪われた、残酷な「鬼」の所業ともいえる恐ろしい出来事に巻き込まれてゆく…。大衆雑誌『朝日』(博文館)に、1929年(昭和4年)1月から翌1930年(昭和5年)2月まで連載され、のち改造社から単行本として刊行された。乱歩は、博文館の編集部長だった森下雨村から、同社が創刊する雑誌『朝日』の創刊号に、『新青年』誌に掲載した「陰獣」のような小説を執筆するよう依頼された。乱歩は、執筆と避寒を兼ねて三重県鳥羽の漁村に滞在し、当時、同性愛関連の資料蒐集をともにしていた旧友の岩田準一を宿に呼び出した。そのとき岩田が持参していた『鴎外全集』のなかの森鴎外の随筆に着想を得たのが、「孤島の鬼」であった。その鴎外の随筆では、中国で見世物のために人間の身体を改造する話が描かれていた。帰京した乱歩は古本屋で見世物用人体改造の資料を漁り、「見世物にするために嬰児を小さな箱に詰めた」という中国の『虞初新誌』内の説話を本書着想の柱とした。「主人公たちが恐怖で総白髪となる」、「暗闇の洞窟で生死を彷徨う」といった描写設定には、乱歩が子供のころに「身も心も震撼するような感銘を受けた」という、黒岩涙香の『白髪鬼』が影響している。また、本作では「同性愛」がストーリー展開の推進力となっており、これは乱歩自身も認めながらも、作品を振り返って「筋を運ぶ上の邪魔ものにさえなった」と述懐している。本作で乱歩は「密室の殺人」、「衆人環視の中での殺人」という推理トリックに挑戦している。筒井康隆、深谷忠記、皆川博子、中井英夫ら、乱歩の最高傑作として挙げる人も少なくない。明智小五郎が登場しない作品であるが、高木彬光によれば乱歩自身もまた、長編では本作が一番出来が良いと考えていたようである。『光文社文庫・江戸川乱歩全集』は、今日の観点から見て、問題視される表現・用語を修正しており、その点は、「孤島の鬼」だけに限らない。『光文社文庫・江戸川乱歩全集』江戸川乱歩作品は、時代の相違上、現代では問題とされる表現を修正して出版しているシリーズである。これに対し、創元推理文庫(創元社)や角川ホラー文庫に収録された本作品は、光文社文庫版では修正された表現も原文のまま掲載されている(巻末の編集部後記には、この点について、あえて原文通りにした旨が述べられている)。創元推理文庫(創元社)では、本作品が雑誌「朝日」に連載されていた際の全ての挿絵・扉絵・見出し(竹中英太郎作)が合わせて収録されている。
出典:wikipedia
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