グイン・サーガの登場人物一覧(グイン・サーガのとうじょうじんぶついちらん)では、栗本薫によるヒロイック・ファンタジー小説『グイン・サーガ』に登場する主要な登場人物の一覧を示す。"本作のテレビアニメ版の登場人物および担当声優についてはグイン・サーガ (テレビアニメ)を参照。"『グイン・サーガ』の主人公は、タイトルが示す通りグインに他ならないが、この物語はグインを含めた群像劇の要素が強く、それゆえ常にグインを中心に語られるわけではない。したがって、20巻以上にわたってグインが不在のままに物語が進行する場合もあり、その時には、他に主役級とされる登場人物や、中原の三大国をはじめとした諸国の宮廷、ときには庶民や脇役の視点までをも交えながら物語が展開することになる。物語中、歴史はよく運命神ヤーンの織るタペストリーに例えられる。ヤーンは、物語のカギを握る人物を糸とし、彼らをたぐり寄せ、絡ませあうことによって、愛憎や因縁を生みながら、大きな運命の模様を描いていくのである。以下に、その運命神ヤーンの糸たる人々について記す。文中、人物の肩書などは、特に注釈のないかぎり、正伝115巻現在(故人については物故時)のものとする。解説本『グイン・サーガ・ハンドブック』には、「グイン・サーガ人物名鑑」として、以下に挙げる8人についての作者による解説が掲載されている。そのことから、この8人がグイン・サーガにおける主役級の人物として位置づけられることが多い。初代ノスフェラス王にしてケイロニア王。妻はケイロニア皇女シルヴィア。後の愛妾に踊り子ヴァルーサ(外伝『鏡の国の戦士』参照)。豹頭人身で、身長2タール、体重100スコーンを越える、鍛え上げられた肉体を誇る巨漢。その身のこなしは巨躯と怪力に似合わず敏捷で、まさしく豹のようにしなやかでもある。怪我からの回復力にも驚異的なものがあり、北方の邪神ローキとの闘いで右腕をへし折られた際も、簡単に吊るしただけで旅を続けながら治癒させてしまった。無尽蔵の体力と、抜群の知能の持ち主で、一人の戦士としても、軍を率いる指揮官としても最強を誇り、未だかつて、どのような不利な状況にあっても敗れたことはない。施政者としても優秀で、性格は謹厳実直、冷静沈着、信義に篤く、ケイロニア臣民を始めとする多くの人々の多大な信頼を集めている。ノスフェラスでの愛称はリアード(セム語で豹の意)。正体不明の怪人として突然ルードの森に現れた時には、己の名である「グイン」、そして「アウラ」「ランドック」という謎の言葉を除いて、ほとんどの記憶を失っていた。だが、元々あらゆる分野に精通する知識を持っていたらしく、刻々と変化する状況に応じて湧き出てくる知識に従い、瞬時に適切に対応する能力に極めて秀でている。また、一般人であれば使いこなせないようなセム語、ラゴン語、ルーン語など、あらゆる言語にも精通している。ルードの森出現時の豹頭は仮面であったが、後に肉体の一部として生身化していった。物語当初は全く不明であった彼の出自も、物語が進むにつれて次第に明らかになってきた。どうやら彼は、ノスフェラスの星船やパロの古代機械に通ずる惑星外文明の中心地のひとつ、惑星ランドックの皇帝であったが、ある罪を犯し、彼の妻でもあるランドックの女神アウラ・カーによって追放され、ある使命を与えられてこの地へと送られてきた者であるらしい。つまり“ランドック”は故国の名、“アウラ”は妻の名だった(外伝「ヒプノスの回廊」など参照)。そのため、星船や古代機械から彼はマスターとして認識されており、この地の人間ではごく限られた何人かによってごく一部の機能しか使用することのできなかった、それら機械のほぼすべての機能を、自由に使用することが可能であるとされる。グインの肉体と精神に漲るエネルギーは、星から無尽蔵に送られてくるとも云われる。その膨大な生体エネルギーは、そのエネルギーを自らの技の源とする魔道師たちにとっては垂涎の的であり、そのため、グラチウスやヤンダル・ゾッグを始めとする魔道師や魔物達が、グインを自らのエネルギー源としようと、グインに対して様々な罠を仕掛けてくる。そのことが、後にケイロニアの首都サイロンに破滅的な災厄をもたらすことにもつながった(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。だが、グインのエネルギーとそこから引き出されるパワーは、魔道師の力をも上回っているようで、グインを我が物にしようとする試みは、ことごとく失敗に終っている。グインの名が歴史に登場するのは、黒竜戦役の際、古代機械によってモンゴールの辺境へ飛ばされた、パロ王太子(当時)レムスとその姉リンダを助けてからのことである。セム族、ラゴン族を率いてモンゴール軍の侵攻を退け、その功績をもって両種族からノスフェラスの王として崇められるようになる。レムスとリンダを、当時は流浪の傭兵だったイシュトヴァーンと共にパロの友邦アルゴスへ届けた後、自らの出自の謎を探るために単身で放浪の旅に出る。その旅の途中でマリウスと出会い、イシュトヴァーンと再会した後、やがてケイロニアに入ったグインは、夢に登場したヤーンのお告げに従って、当時の黒竜将軍ダルシウスの傭兵となる。その折に起こった皇帝アキレウス暗殺未遂事件が、彼の名声を中原に轟かせるきっかけとなった。自らの策略により皇帝の暗殺を未遂に防いで事件を解決し、事件の背後にユラニアの存在があることを明らかにした彼は、千竜長としてダルシウスに従い、ユラニアとの戦いに赴く。膠着状態に陥った状況を打破するため、グインは一時的に軍を離脱し、勅命に背いて1万の兵を率い、ユラニアの首都アルセイスを急襲する。結果、ユラニアとの間に講和を成し遂げ、帰国したグインは勅命に背いたとして拘束されるが、その直前に急逝していたダルシウスの遺志による進言もあって罪を許され、逆にダルシウスの後を継いで黒竜将軍に任命される。やがて、追放された皇弟ダリウスによる皇女シルヴィア誘拐事件が起こると、ダリウスと組んだユラニアに大軍を率いて攻撃、瞬く間にアルセイスを陥落させる。その際、救出した魔道師イェライシャから、シルヴィア誘拐の真の黒幕であるグラチウスの所在を聞いたグインは、単身軍を離れ、シルヴィアを求めてゾルーディア、さらにはキタイへと長い探索行に赴くことになる。キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグにより魔都と化した首都ホータンでの苛烈な冒険の結果、シルヴィアと、ともに幽閉されていたマリウスを救ったグインはケイロニアへ帰還し、その直後にシルヴィアと結婚、皇帝のもとで治政を行うケイロニア王に即位する。それから間もなく勃発したパロ内乱に際し、その影にヤンダル・ゾッグの野望があり、この内乱がやがては中原全体の危機になると察知したグインは、長年のケイロニアの国是であった他国内政不干渉を破り、自ら大軍を率いて出兵する。ヤンダル・ゾッグの傀儡と化したパロ国王レムス率いる竜騎兵と戦ったグインは、ヤンダル・ゾッグらの強力な魔道に苦しめられながらも、これを撃破して首都クリスタルを陥落させる。その時、パロを事実上牛耳っていた精神生命体アモンとの対決において、アモンをパロから撤退させるために策略を弄し、アモンとともに古代機械によってノスフェラスへと飛ぶ。続くグル・ヌーの地下に眠る星船を舞台としたアモンとの戦いの際、自ら星船を起動させて離昇させ、アモンとともに宇宙空間へと飛び出していく。その際にも策略を弄したグインは、星船を操る人工知能にアモンを幽閉したままの自爆を指示、自らはカイザー転送機にてノスフェラスへと帰還する。だがその代償は大きく、グインは再びすべての記憶を失ってしまう。セム族、ラゴン族に助けられた彼は、徐々に体力を取り戻し、記憶が戻らないままに再び中原へと戻っていく。ルードの森にてモンゴール反乱軍討伐のためにゴーラ軍を率いて赴いていたゴーラ王イシュトヴァーンと出会い、その際に記憶喪失を悟られることなく一時拘束されるものの辛うじて脱出、流浪の旅を続けるアルゴスの黒太子スカールによって救出される。さらに、執拗に彼を狙うグラチウスの手からも、イェライシャの手を借りて逃れた彼は、記憶を取り戻すきっかけを得るために、パロの女王リンダと会うことを決意、イェライシャの助けにより再会したマリウスとともにパロへと向かう。パロへの途上、偶然出会ったイシュトヴァーンの知られざる息子スーティとその母フロリー、元パロ聖騎士伯リギアらと道連れとなり、豹頭人身の巨躯という目立つ外見を誤魔化すために旅芸人の一座を装う。この一座の公演が思いがけず評判を取り、「快楽の都」タイスの支配者タイ・ソン伯爵の目に留まる事となる。グンドという偽名を名乗ったグインは、タイ・ソン子飼いの剣闘士として戦うことを余儀なくされる。実力の違いを見せつけて、またたく間に頭角を現したグインは、クムの不敗の大闘王ガンダルに挑戦させられる。激闘の末、グインは辛うじてガンダルを倒す。しかし、彼もまた重傷を負い、タイスからの脱出は至難の業と思われた。窮地に陥る一行の前に現れたのはパロの魔道師宰相ヴァレリウスであった。彼の助けで危地を脱した一行は、様々な思いを秘めつつ再びパロへと向かう。到着したパロでグインはリンダと再会するが、その記憶は戻らなかった。記憶喪失と肩の傷の治療を受けている最中に、ヨナの勧めで古代機械に接触した際、古代機械が自動的に作動してグインの記憶を不完全な形で修正してしまう。それと同時に、ガンダルとの戦いで負傷した肩の傷も完治していた。この結果、グインは、ルードの森に出現した時からケイロニア軍を率いてパロ内乱に介入するべく出発するまでの記憶を思い出したものの、それ以降の記憶は戻らず、アモンとの戦いから帰還した後の記憶も失ってしまった。その後、パロ王宮の庭でフロリーとスーティに出会っても何も思い出さなかったが、スーティには何かを感じ取ったようだった。その後、迎えに来たハゾスと共にケイロニアに戻る。ケイロニアに戻ったグインは、自身が不在の間にシルヴィアが行った乱交を知り苦悩する。それでもシルヴィアとの関係を修復しようと努力するが、シルヴィアの心はすでにグインから離れていた。悩みぬいた末、グインはシルヴィアとの決別を決意し、それをシルヴィアに告げる。その後、義父であるアキレウス帝にそのことを曖昧に告げたところ、アキレウスはケイロニア皇帝位はそのままにケイロニアの統治権をグインに移行して自身は隠居することを決断し、グインはケイロニアの実質上の最高統治者として政務に励むこととなった。しかしそのしばらく後、サイロンに黒死病が大流行し、グインとハゾスはその対応に追われることになる。その最中に怪異が発生し、グインは単身サイロンに飛び出していった。そしてサイロンの裏で暗躍する魔道師たちと対決することになり、その戦いの最中にクムの踊り子ヴァルーサと、ヤンダル・ゾッグに関する記憶が欠落した状態でサイロンの怪異の黒幕であるヤンダル・ゾッグと出会い、激闘の末に魔道師たちとヤンダル・ゾッグを撃退して怪異を鎮めた。そして、この戦いを経て心を通わせたヴァルーサを自身の愛妾にした(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。間もなくして、ヴァルーサがグインの子を妊娠していることが明らかになった。パロの前聖王。レムス一世。妻はアグラーヤ王女アルミナ。長男はアモン。双児の姉にパロ現聖女王リンダ・アルディア・ジェイナ。父はパロ前々聖王アルドロス三世。母はアルドロス三世の妃ターニア。プラチナブロンドの髪、紫色の瞳の持ち主の美少年であったが、成長につれて髪の色はより薄く、瞳の色はより濃くなり、痩せ細って狷介な印象が強くなってきた。幼少時は双児の姉リンダと瓜二つで、「パロの二粒の真珠」などと呼ばれたが、性格的には正反対で、勝ち気な姉の影に隠れてしまうような、内気な目立たない少年であった。そのため、リンダや従兄のアルド・ナリスに対し、強い劣等感を抱いていた。その劣等感がレムスに、そしてパロに大きな災厄を招くきっかけとなる。黒竜戦役の際、リンダとともにリヤ大臣に操作された古代機械によって飛ばされた辺境の地・ルードの森からグインによって救い出された彼は、パロへ向けてノスフェラスを出発する際に、その劣等感につけこまれ、キタイの魔道師カル=モルの怨霊に憑依されることとなる。もっともその憑依は、ごく初期には彼にむしろ良い影響を与えたようにも見られ、以後、彼の内気な性格はしばらく影を潜め、冷静な知性と判断力を発揮して、アグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンを感服させ、その娘アルミナとの婚約を求められるまでになる。だが、それも長くは続かなかった。リンダとともにアルゴス入りしたレムスは、アルゴス軍を率いてパロ奪還の兵を起こすが、モンゴールに味方するカウロス公国軍との戦いに手間取り、パロ奪還に当たってさしたる功を挙げることなく、パロはナリスを中心とする人々の活躍により奪還されてしまう。そのことが、ナリスに対する劣等感をさらに強める結果となり、その直後に即位して聖王となったレムスと、摂政宰相として彼を補佐することとなったナリスとの間に、大きな亀裂を生んでいく原因となる。その劣等感と、早く人々に認められたいという焦りからか、王としてのレムスの施政は苛烈なものとなる。それが却って人々の反感を招き、民の人気はますますナリスへと傾いていく。アルミナが婚約者としてそばにやってきてからは、その苛立ちも少し落ち着きを取り戻したように見えたが、ナリスとリンダの結婚によって、再び人々の人気がナリスとリンダに集中し始めると、彼は一層ナリスを疎んじはじめる。やがて人々の間に起こったナリスの即位を求める声に、一部国王派が暴走し、ナリスを拉致監禁、拷問するという事件が起こる。実はその事件の背後には、レムスに憑依したカル=モルの亡霊を通じて彼を操るキタイの意図があった。間もなくその陰謀が明るみに出て、その首謀者であったカルファンことキタイ出身の学者カル・ファンが死亡すると、カル=モルの影はレムスから消滅し、彼は正気を取り戻したかに思えた。ところが、キタイによるレムスの洗脳は終っていたわけではなかった。カル=モルを通じてではなく、自らレムスを操るようになった魔道竜王ヤンダル・ゾッグによって、次第に首都クリスタルは魔都へと変貌していく。それに気づいたナリスは、宰相ヴァレリウスとともに反乱を起こし、神聖パロ王国の設立を宣言する。それに対してレムスは、ヤンダル・ゾッグの魔道である「魔の胞子」によって洗脳された武将たちを率いて対抗し、ここにパロを二分する内乱が起こることとなる。その頃、レムスとアルミナとの間に誕生した長男アモンは、実はヤンダル・ゾッグがレムスを通してアルミナの胎内に送り込んだ、強力な魔力を持つ精神生命体であった。ヤンダル・ゾッグとアモンとに操られたレムスには、もはや自我と呼べるものも乏しくなり、完全にキタイの傀儡となってしまう。内乱は、キタイの竜騎兵、ヤンダル・ゾッグやアモンの強力な魔道により、レムス側優位に推移するが、やがて参戦したグイン率いるケイロニア軍の活躍によって形勢は逆転、クリスタルは陥落し、キタイ勢力はパロから撤退するに至る。レムスはようやくキタイによる洗脳や憑依から解放されるが、神聖パロ側に捕らえられ、王位及び王位継承権を剥奪される。現在は王宮クリスタル・パレス内にて監禁生活を余儀なくされているが、彼の将来的な復位をほのめかすかのようなリンダの予言もあり、今後の彼の運命がどのようなものとなるかは、未だ予断を許さない状態である。パロ聖女王。夫はクリスタル大公・神聖パロ前国王アルド・ナリス。双児の弟にパロ前聖王レムス・アル・ジェヌス・アルドロス。父はパロ前々聖王アルドロス三世。母はアルドロス三世妃ターニア。プラチナブロンドの髪、紫色の瞳の持ち主の、中原一とも云われる絶世の美女。幼少時は双児の弟レムスと瓜二つで、「パロの二粒の真珠」などと呼ばれた。少女時代は勝ち気な、少年のような性格の持ち主として知られたが、成長とともに勝ち気なところは影を潜め、誰もが認める淑女へと変貌した。極めて優れた予言者で、その能力は、多くの魔道師や予言者を輩出したパロ聖王家にあっても特に強力なものであり、パロ建国王アルカンドロスの娘で伝説の予言者「リンダ処女姫」に匹敵すると云われる。リンダ自ら占いなどによる予知を行うこともあるが、その能力が最も発揮されるのは、彼女の意志とは無関係に訪れる予知の際である。そのような予知が彼女を訪れる場合、彼女はほとんど意識を失っており、意識を回復した後も、自分がどのような予言を行ったのか憶えていない場合が多い。その中には、たとえばレムスが即位した際に訪れた予知のように、彼女に意識があれば口にするのをはばかったであろう不吉な予言もあり、彼女に不運や不幸を招くきっかけとなることもある。その美貌ゆえ、リンダの崇拝者となる男性は多い。レムスとともに飛ばされたノスフェラスからの帰途、グインとともに彼女達を守護した傭兵イシュトヴァーンもそのひとりである。リンダとイシュトヴァーンは恋に落ち、アルゴスで別れる際に、3年後までに王になって迎えに行くという約束を交わしたが、この恋はほどなくして破れ、実ることはなかった。パロへ帰還した後に、このイシュトヴァーンとの恋が、リンダに哀しみをもたらすことになる。彼女を密かに自分好みの女性に育てようとしていたナリスは、その思惑など知らぬリンダがイシュトヴァーンへの恋心を無邪気に告白したことに腹を立て、以後、リンダに冷たくあたるようになる。そのナリスの行動は、リンダの崇拝者の1人であるアウレリアス伯爵の怒りを買い、ついにはナリスとアウレリアスの決闘へと発展してしまう。自分を争って2人の男性が決闘にまで至ったこと、そしてその決闘でナリスが重傷を負ったことに衝撃を受けたリンダを予知が襲い、彼女は人事不省に陥る。だが、そこから目覚めた時、彼女は自らがナリスとの婚姻を宿命づけられていたことを知る。ナリスのもとを訪れてそのことを告げたリンダは、間もなくナリスと結婚することになる。その結婚生活は幸福ではあったが、実は夫と肉体的に結ばれることはなかった。それは、彼女が持つ予知能力は、処女性を失うと著しく減退すると云われていたため、ナリスがそれを避けようとしたことによる。そして、新婚生活の幸福は長くは続かなかった。結婚から半年ほどした頃、国王レムス派と宰相ナリス派との対立が深刻化し、その煽りを受けてナリスが国王派に拉致監禁され、手足が不自由になるほどの重傷を負ってしまったのだ。それからというもの、彼女は、宰相職を退いてマルガで隠遁生活を送ることとなったナリスを介護する日々を送ることとなる。その彼女を再び激震が襲ったのは、キタイの傀儡と化したレムスに対してナリスが起こした反乱だった。その反乱の動きをいち早く察したレムスによって身柄を拘束されたリンダは、ヤンダル・ゾッグの魔道によって夫の死を目撃させられ(実際にはナリスの計略による佯死であった)、その後、長らく意識不明状態に陥ることとなる。その彼女を救ったのは、単身クリスタル・パレスに乗り込んできたグインであった。グインの不思議なパワーによって目覚めた彼女は、やはり彼女の崇拝者であるアドリアン子爵の手助けもあって脱出に成功する。グインとともに急いで夫ナリスのもとへ向かったリンダだったが、そこに待っていたのは、夫との永遠の別れであった。病身を押しての反乱がナリスから最後の体力を奪ってしまったのだ。夫の死を受けて、リンダは神聖パロ王国の解散を宣言したものの、夫の遺志を継ぎ、パロをキタイの手から解放すべく戦い続けることを決意する。グインの活躍によってキタイの手から解放されたクリスタルへ入ったリンダは、レムスを聖王位から退位させ、自ら聖女王として即位する。女王としての彼女の最初の仕事は、内乱で疲弊し、多くの人材も失われたパロの再建であった。そして、ケイロニアからの援助と、宰相ヴァレリウス、宰相代理ヨナの補助を受けつつ、パロ再建という難しい課題へ挑むこととなった。その後、パロを訪れて記憶の一部を取り戻したグインがケイロニアに帰還し、次いでヨナがヤガへ旅立った後に、イシュトヴァーンが一千のゴーラ兵を率いてクリスタルへの入城を望んでいるとの知らせが入り、リンダはその対応に追われる。そしてクリスタルへ入城したイシュトヴァーンを歓迎する宴の最中にリンダはイシュトヴァーンに求婚されるが、リンダは極秘裏にナリスの弟王子アル・ディーンと婚約しているという嘘をついて求婚を断る。その後、マルガにあるナリスの墓標への参拝を望むイシュトヴァーンやヴァレリウスと共に、マルガへ向かうことになる。そしてマルガでの参拝を終えて、クリスタル・パレスでのイシュトヴァーンとの宴の最中に、グインがサイロンでの黒死病の大流行を鎮めた後に愛妾を作り、しかもその愛妾がグインの子を身籠ったことをイシュトヴァーンから聞かされた時には、動揺を露わにした。ゴーラ王。妻はモンゴール前大公アムネリス。長男はドリアン。またイシュトヴァーン自身もカメロンに告げられるまで知らなかった、ドリアンより年長の息子として、アムネリスの侍女であったフロリーとの間に生まれたスーティ(小イシュトヴァーン)がいる。母はヴァラキアの娼婦イーヴァ。父は不明。黒髪、黒い瞳、浅黒い肌、すらりとした長身の美青年。傭兵時代は極めて陽気な楽天家にして自信家で、自らを「災いを呼ぶ男」「紅の傭兵」などと呼び、すべての災いは自分を避けるとして、運の良さを誇っていた。が、モンゴールの将軍となった頃から、その陽気さに陰がさし始め、短気で衝動的な一面ばかりが目立つようになってきた。モンゴール将軍からゴーラ王へと至ったイシュトヴァーンの道程は、多くの戦いと殺戮、裏切りに満ちて血塗られており、残虐王、殺人王と呼ばれる所以となった。沿海州ヴァラキアの娼婦の子として生まれて間もなく孤児となり、伝説の賭博師コルドに育てられたイシュトヴァーンは、幼少時から将来は一国の王になることを公言してはばからなかった。その根拠は、彼が誕生した時の予言にある。彼が生まれた時、掌中に白い玉石を握っていた。それを見た産婆の老予言者は、彼が将来〈光の公女〉の手によって王座に就くことになるであろうと述べたのだ。事実、彼の才気とカリスマ性は幼少時から際立っており、その出自にもかかわらず、ヴァラキア提督カメロンから後継者に切望されていたほどである。伝説の海賊クルドの財宝を巡る冒険に失敗した後、中原へ向かい、モンゴールの傭兵となった彼は、配属された先で城主の勘気を被って投獄されるが、その牢獄でグイン、リンダ、レムスと出会う。彼ら一行に加わり、セム族、ラゴン族とともにモンゴールと戦ったノスフェラス戦役では、モンゴール軍に間諜として潜入し、モンゴールの伯爵マルス率いる一隊を全滅させる。だがこの行為に対する罪悪感が、彼を長く苦しめることとなる。レムスとリンダをアルゴスに届けた後、北方での冒険で資金を得た彼は、サイロン郊外で醜い占い師アリストートスと出会う。王となる器の持ち主を探していたというアリストートスの言葉に興味を引かれた彼は、モンゴールを足がかりにゴーラの王座を手に入れるというアリストートスの策を聞き、彼を軍師として以後行動をともにすることとなる。その後、赤い街道の盗賊の首領となった彼は、ノスフェラスからの帰途にあったアルゴスの黒太子スカールの一行を襲撃して返り討ちに遭い、瀕死の重傷を負う。その際、スカールの妻リー・ファを殺害したため、スカールから生涯の仇敵として狙われるようになる。どうにか一命を取り留めた彼は、再び盗賊を率い、クムに幽閉されていたモンゴール公女アムネリスに接近する。首尾よくアムネリスを救出した彼は、彼女のもとに集まってきたモンゴールの残党とともに戦い、首都トーラスの奪還に成功する。モンゴール救国の英雄として将軍となったイシュトヴァーンだったが、その地位は却って自由を愛していた彼の心を鬱屈させることとなった。彼を探し求めてモンゴールを訪れてきたカメロンとの再会によって、彼の心は少なからず癒されるが、それがイシュトヴァーンに執着するアリストートスの嫉妬心を招く原因ともなってしまう。そしてその嫉妬心は、第二次ケイロニア-ユラニア戦役に参戦した際に、イシュトヴァーンがアルセイスで出会い、弟のように思い始めていた少年リーロの暗殺を引き起こすなど、イシュトヴァーンの心に深い闇をもたらしていくことになる。やがてアムネリスと結婚した彼は、間もなくしてアルセイスで起こった、ユラニア三公女とクム三公子との合同結婚式のクーデターに遭遇する。それをきっかけとして起こったゴーラ三公国による三つ巴の戦いでは、途中でユラニア側からクム側に寝返るという変わり身を見せ、当時のクム大公タリオを討ち取ってクムを弱体化させるとともに、ユラニアを滅亡に至らせる。また、アリストートスが嫉妬心からこれまで密かに行ってきた様々な悪行を知り、激怒して自らアリストートスを殺害する。その後、ゴーラ最後の皇帝サウルからの啓示を受けたとして、イシュトヴァーンは旧ユラニアを版図とするゴーラ王国の建国を宣言、自ら初代ゴーラ王を名乗る。だがその直後、ノスフェラス戦役での彼の間諜行為がモンゴール首脳の知るところとなる。トーラスで裁判にかけられた彼は、その証人に憑依したアリストートスの亡霊による告発に恐怖し、自ら罪を認めてしまう。辛くもその場を脱出したイシュトヴァーンは、予め伏せておいたゴーラ軍によってトーラスを制圧、妻であるモンゴール大公アムネリスを新生ゴーラの首都イシュタールに連行し、幽閉する。臨月だったアムネリスは夫への憎悪を抱きながら男子ドリアンを産み落とし、自害する。やがて勃発したパロ内乱に際し、密約を結んでいたナリス側に味方するべく、イシュトヴァーンは自ら軍を率いて参戦する。だがその中途、彼を仇敵と狙うスカールの奇襲を受けて孤立した彼の前に、レムスに憑依したヤンダル・ゾッグが現れて後催眠の暗示をかけられる。そしてヤンダル・ゾッグの催眠術にかかった彼は、突如ナリス軍を攻撃、その拠点であるマルガを瞬く間に陥落させ、ナリスを捕虜とする。続くグインとの戦いに敗れ、ヴァレリウスによって催眠術を解かれたイシュトヴァーンは続いてのナリスの死に動揺し、ほとんど何も得られないままパロ内乱は終結し、イシュトヴァーンはゴーラへ帰国する。帰国したイシュトヴァーンは、モンゴールで勃発した反乱の鎮圧に自ら乗り出す。その際、ルードの森で偶然グインと出会い、一時的に捕虜とする。だが、スカールの助けを得て逃亡したグインを追う際に、グインとの一騎討ちに敗れて重傷を負い、生死の境を彷徨うこととなる。その後、辛くもイシュタールへ帰還し、しばらく療養と内政に専念していたが、それでも新たな戦場と野望を模索しているようであった。ブランがイシュタールに帰還する直前に、カメロンからフロリーとその息子(スーティ)のことを聞き、二人がパロに向かったことを聞かされる。イシュトヴァーンはそれに興味を抱き、リンダと結婚してパロを併合したいという野望も併せて、カメロンに独断で一千のゴーラ兵を率いてパロへと向かう。そして国境でのヴァレリウスとの協議の末に、二百の手勢だけでクリスタルへと入城し、リンダと面会する。そして開催された宴の最中、二人きりになった時にリンダに求婚するが、リンダはナリスの異母弟アル・ディーンと内々で婚約していると告げ、求婚を断わられる。それでも諦めずにクリスタルに滞在し続け、ヴァレリウスと二人きりで話している時にフロリーとその息子(スーティ)の話題を出し、二人に会わせろと要求する。しかし、ヴァレリウスはフロリー親子はパロを離れたとだけ告げて面会は叶わなかった。また、この時にイシュトヴァーンはフロリーとの間に出来た息子の名前が自分と同じイシュトヴァーンであることを知った。その後、イシュトヴァーンはフロリー親子とヨナがミロク教の聖地ヤガへ向かっていると推測し、かねてより申し入れていたマルガにあるナリスの墓標への参拝をした後は、そのままヤガへ向かう意向であることをヴァレリウスに告げる。そしてマルガでの参拝を終えた後、クリスタル・パレスでの別れの宴でリンダにグインの近況を告げた後でゴーラ軍を率いてクリスタルを出発した。そのままヤガに向かうかと思われたが、途中で針路変更して北上を開始した。神聖パロ王国聖王にして、パロのクリスタル大公。妻はリンダ・アルディア・ジェイナ。異母弟にパロ王子アル・ディーン(吟遊詩人マリウス)。父はパロ王子・ヤヌス大祭司長アルシス。母はアルシスの妻ラーナ大公妃。黒髪、黒い瞳、痩身の絶世の美青年で、男女を含めて最も美しい人物であるとまで讚えられた。その美は外見ばかりではなく、彼のあらゆる立ち居振る舞いや趣味にまで及んでおり、極めて洗練されたセンスによって「典雅の裁決者」との異名を得るにも至った。キタラ(ギターやリュートに似た弦楽器。古代ギリシャの弦楽器キタラとは形状が異なる)などの楽器、歌、舞踊の名手としても知られ、また武器を取ってはレイピアの達人でもあり、パロの文武両面の頂点に立つクリスタル公爵の地位に就く者として、正にふさわしい人物であった。その能力は魔道や学問にも及んでいる。自らも初級の魔道師資格を持つ彼は、魔道に対する造詣が深く、自ら直属の魔道士部隊を指揮して、戦時や平時の情報収集などに大いに活用していた。またあらゆる学問に対して深い興味を抱き、未知なるものに対する強い憧憬を抱いていた。中でも、彼が唯一の〈マスター〉として操作を許されていた古代機械に対する関心は極めて高く、カラヴィアのラン、ヨナ・ハンゼと云った若い優秀な学者とともに、その研究に熱心に取り組んでいた。その端正にして優雅な姿や挙措、それに似付かわしい能力の高さから、パロ宮廷内や国内における人気は極めて高かったが、その反面、密かに周囲の人々を見下し、侮蔑するようなところもあった。その侮蔑は、とりわけ彼を熱狂的に支持するような人々に対して向けられることが多かった。また、自分自身や他者の生に対する執着が希薄で、それぞれの命を弄んで見せるような一面もあった。彼の性格に、そのような小昏い一面が加わることとなった理由は、彼の生い立ちにある。父アルシスは弟アル・リース(後のアルドロス三世。リンダとレムスの父)と王位を激しく争い、内乱の末に敗れたという経緯があったため、ナリスは生まれた当時から謀反の旗頭となりうるとして王から警戒され、地方都市マルガにてほぼ軟禁状態におかれたまま成長したという経緯があった。またその父母は、純血の掟に従った愛なき結婚であったがために、ナリスは父からも母からも愛されることはなかったのである。異母弟アル・ディーン(後のマリウス)と、守り役である聖騎士侯ルナンの長女リギアの2人だけを友として育ったナリスは、病弱を押して努力を重ねて知識と教養、そしてレイピアの腕を身につけていく。そして、成人となった18歳の誕生日に見事な宮廷デビューを果たし、パロの文武の長たるクリスタル公の大任に任ぜられる。だがその代償として、宮廷生活に馴染めなかった弟の出奔を招き、そのことがナリスの内面に大きな影を落とすこととなる。クリスタル公に任ぜられた当初は一部から大きな反発も招いたが、その才能とカリスマ性は宮廷内に次第に確固たる地位を築いていった。しかし、モンゴール軍によりパロの首都クリスタルが急襲された黒竜戦役の緒戦において重傷を負い、戦線からの離脱を余儀なくされる。モンゴール占領下のパロでしばらく潜伏したのち、クリスタルに潜入するもナリスに懸想するサラの密告により捕らえられ、モンゴール公女アムネリスとの政略結婚を強制されることとなる。だが、それを逆に好機と捕らえた彼は、恋の達人としての手管を弄してアムネリスを籠絡する。そしてアムネリスとの婚礼の際、彼を暗殺する動きを利用して自らの死を装い、再び潜伏に成功する。やがてパロの下町アムブラで起こった暴動を利して反乱を起こした彼は、パロ各地の武将とも呼応してモンゴール軍を撃破し、クリスタルの解放に成功する。続く第二次黒竜戦役で、アルゴスの黒太子スカールらとの連合軍により、モンゴールを滅亡させたナリスは、帰国後、従弟レムスの聖王即位に伴い、摂政宰相に任ぜられる。だが、パロ解放の最大の立役者として国民からの熱狂的な支持を受けるようになったナリスの絶大な人気が、レムスの悋気を誘い、後に国内が国王派と宰相派とに二分されていく一因となっていく。やがて従妹リンダと結婚したナリスは、しばし幸福な結婚生活を味わう。だが、その結婚によってもたらされた彼のさらなる人気が、彼の聖王即位を求める動きを呼び、一部国王派の暴走をも招くこととなる。ナリスは拉致監禁の上に暴行を受け、右脚を切断、残る手足の自由をもほとんど失ってしまう。それをきっかけとして、ナリスは宰相の座を辞し、後任に魔道師ヴァレリウスを指名して、故郷とも云うべきマルガにて妻リンダと隠遁生活を送ることとなる。その彼に再び転機をもたらしたのは、当時復活したモンゴールの将軍であったイシュトヴァーンによる極秘の訪問であった。彼との会談により心動かされたナリスは、今や無二の側近ともなったヴァレリウスに、レムスに対する反乱の決意を告げる。それは、彼の生い立ちによって宿命づけられていたと云っても過言ではない決意ではあったが、その決意に至るにはもうひとつの理由もあった。それは、聖王レムスの背後に彼が見ていた、キタイによる侵略の影だった。奇禍による重傷を装い、その治療のためとして再びクリスタルへ戻ったナリスは、病身に鞭打って密かに賛同者を募り、反乱への準備を固めていく。だが、その動きはすべて、レムス側の知るところとなっていた。反乱を起こそうとした矢先にレムス側に機先を制されたナリス側は常に後手に回ることとなり、非常な苦戦を強いられる。クリスタルからの敗走の途中、全滅の危機こそスカール率いる援軍によって免れたが、その直前、全軍にナリスの死が伝えられる。だが、それはヴァレリウスが助けを求めた大魔道師イェライシャの秘薬を用いた佯死であった。その策略を持ってレムス側との停戦にこぎ着け、ナリスは軍とともにマルガへと帰還することに成功する。しかし、その味方をも欺いた策略を卑劣としてスカールは怒り、ナリスと袂を分かつこととなる。マルガへ到着したナリスは、マルガを中心とした地域を領域とする神聖パロ王国の独立を宣言し、その初代国王に即位する。なおも内乱における苦戦は続いたが、イシュトヴァーン率いるゴーラ軍の参戦により、一旦は戦況は好転したかに思えた。だが、そのイシュトヴァーンをキタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの魔の手が襲う。ヤンダル・ゾッグの催眠術にかかったイシュトヴァーンは、自軍に対してマルガ攻撃を指示、圧倒的な兵力を誇るゴーラ軍にマルガは瞬く間に陥落し、ナリスはイシュトヴァーンの捕虜となってしまう。その後、ヴァレリウスとグインの活躍により、イシュトヴァーンの後催眠は解かれ、ゴーラ軍との間に改めて同盟が結ばれることとなる。が、その捕虜生活は、長引く戦いの中で悪化していたナリスの病状をさらに悪化させることとなってしまった。もはや自らの命が旦夕に迫ったことを悟ったナリスは、グインとの会談を切望する。その席でナリスは、グインに自らが知る古代機械の秘密を託し、その直後、股肱の臣ヴァレリウスの腕の中で静かに息を引き取った。吟遊詩人。異母兄に神聖パロ前国王アルド・ナリス。妻はケイロニア皇女オクタヴィアだが、事実上離婚状態にある。娘にケイロニア皇孫マリニア。父はパロ王子・ヤヌス大祭司長アルシス。母はアルシスの愛妾エリサ。栗色の巻き毛と黒褐色の瞳の、愛嬌あふれる美青年。自由と平和、音楽と旅をこよなく愛し、戦いを忌み嫌っている。この上ない美声の持ち主で、またキタラの名手でもあり、旅先のあちらこちらで歌や音楽を披露しては、たちまち喝采を集め、人々に褒め称えられる「カルラア(音楽の神)の申し子」である。その声の美しさは人間以外のものも魅了するほどで、北方の国ヨツンヘイムを守る怪物ガルムを、その歌声で眠らせたこともある(外伝『氷雪の女王』)。吟遊詩人らしく性格は夢見がちで、何かを思いつくや否や行動に移してしまう無鉄砲なところもある。反面、他から責任を課せられることを極端に嫌い、何かというと理由を見つけては責任を放棄して旅に出てしまうため、憎めない性格ながらも周囲にとっては悩みの種となることも多い。今でこそ止まらぬおしゃべりと朗らかさが代名詞のようなマリウスであるが、その影には、幼少時に抱いていた異母兄アルド・ナリスへの憧憬とコンプレックスのないまぜになった葛藤があった。5歳の時、母とともに父のもとに引き取られたディーンは、それからというもの、兄とは異なり、2人の愛情を存分に注がれて暮らしていた。だが、彼が8歳の時に父が事故死し、母もその後を追って自殺してしまったため、彼は孤児となり、ナリスのもとに引き取られてマルガで暮らすようになる。幸いナリスとの仲はよく、守り役ルナンの娘リギアと3人で、実の姉弟のように穏やかに成長していくこととなる。だが、流浪の一族ヨウィスの民の血を引くともいわれる母の血がなせる業なのか、王族としての義務を伴った生活にはなかなか馴染むことができず、また優秀な兄に対するコンプレックスもあって、次第に彼は無口でおどおどとした少年になっていった。ディーンが16歳になったとき、兄ナリスがクリスタル公に任ぜられる。それを機に、ナリスはディーンに、今後はより一層の勉学を重ね、いずれはナリスのもとで一軍を率いて補佐して欲しい、と告げる。だが、それはディーンにとって、心が欲してやまない音楽と、そして自由な生活からの完全な決別を意味していた。その未来図に絶望した彼は、ついに兄と決別してパロを出奔し、吟遊詩人マリウスとしての生活をはじめることとなる。やがて黒竜戦役が勃発し、パロが滅亡の危機を迎えると、マリウスは魔道士を通じてナリスと接触し、間諜をつとめるようになる。パロに潜入しようとしていたアストリアスを眠らせてヴァレリウスに引き渡した後、敵であるモンゴールの首都トーラスへもぐり込んだ彼は、ひょんなことからモンゴールの公子ミアイルの側付として雇われる。姉アムネリスへの憧憬とコンプレックスを持つ、心優しいミアイルに、かつての自分の姿を見たマリウスは、ミアイルに対して強い愛情を注ぐようになる。だがそこへ、ミアイルを暗殺せよとのナリスからの非情な命令が届く。マリウスはそれを拒否するが、ミアイルはナリスが派遣した魔道士ロルカによって暗殺され、マリウスはその犯人に仕立て上げられてしまい、逆上して襲い掛かってきたユナスを心ならずもその手にかけてしまう。魔道士ロルカの力によりその場は逃れたマリウスだったが、ミアイルを失ったことと咄嗟とはいえユナスを殺害してしまった衝撃は大きく、ナリスとの永遠の決別を決意して、トーラスを旅立っていく。その後グインやイシュトヴァーンと出会い、いくつかの冒険をともにした後、ケイロニアの首都サイロンに入る。そこでもキタラと歌と美貌と愛嬌で瞬く間に人気者となった彼は、美青年イリスと出会う。折しも起こっていたアキレウス帝の後継者を巡る陰謀に、知らず知らずのうちに関わることとなったマリウスは、その陰謀の鍵を握る人物であったイリスと何度か言葉を交わす内に、次第に彼に魅かれていくものを感じ始める。実はイリスは、アキレウス帝の愛妾ユリア・ユーフェミアの娘オクタヴィアが男装した姿だったのだ。やがて恋に落ちたマリウスとオクタヴィアは結ばれ、ともにサイロンを旅立っていく。間もなく、旅の途中でオクタヴィアが妊娠する。当面の落ち着き先をトーラスに決めたマリウスは、滞在先の〈煙とパイプ亭〉で厄介な相談を受ける。亭の若主人ダンの友人が、モンゴールの英雄となったイシュトヴァーンによるものと思しき非道を目撃したというのだ。そのことをどこに訴えるべきか、という相談にマリウスは悩んだあげく、グインの助力を求めることを思い立ち、サイロンへと旅立つ。だが、その中途、魔道師グラチウスの罠にかかり、彼はキタイへと拉致されてしまう。やがて、同様にグラチウスに拉致されていたケイロニア皇女シルヴィア共々グインによって救出されたマリウスは、トーラスへと戻り、オクタヴィアと、生まれていた娘マリニアとの対面を果たす。その際、2人の素性を知るグインの「このままトーラスにいては危険だ」という助言に従い、一家はケイロニア皇帝アキレウスのもとで暮らすことを決意する。だがそれは、自由を奪われ、義務を課されることを忌み嫌うマリウスにとっては耐えようもない日々だった。鬱屈する日々を送っていたマリウスは、パロの内乱でナリスが死亡したという報(実は佯死)に対する動揺もあって、サイロンを飛び出してパロへと向かう。魔道師イェライシャの助けもあって、ナリスの死の直前にマルガへ到着したマリウスだったが、ほんのわずかなためらいによって、ナリスと再び会う機会を永遠に失ってしまった。内乱が終結した後、疲弊した祖国パロの様子を目の当たりにして、マリウスも一旦はパロに留まり、リンダを助けていこうと決意を固める。だが、その決意もやはり長くは続かなかった。再び宮廷での生活に倦み、自由を欲しはじめた彼は、行方不明となったグインの捜索隊が派遣されるのを機にパロを出て、捜索隊に同行してサイロンへと向かう。そこで再会した妻オクタヴィアとの話し合いの結果、もはや宮廷での生活には戻れないとして離婚を決めた彼は、そのまま捜索隊とともにゴーラの辺境へと向かう。そしてマリウスは、イェライシャの助けを借りてユラ山中でグインと再会し、自らの記憶を求めて密かにパロへと向かうというグインに同行する。グインたちと共にタイスに立ち寄った際、タイス伯爵タイ・ソンに気に入られて愛人にされる。やがて、タイ・ソンの残虐さが自分たちに及ぶのを恐れて、武闘大会の会場に詰めかけた大衆の前でマーロールがタイ・ソンを告発した際に、タイ・ソンの残忍さを示す証人として名乗り出た。この証言が決定打となり、タイ・ソンはタイス伯爵位を剥奪された。その後、マーロールによって救出され、グインたちと合流した後にパロへと向かう。パロに到着した後、しばらくはリンダたちを助けるためにクリスタルに滞在していたが、イシュトヴァーンが一千のゴーラ兵を率いてクリスタルへの入城を求めていると聞き、イシュトヴァーンと顔を合わせたくないマリウスはリンダやヴァレリウスとの協議の末に、イシュトヴァーンがクリスタルに滞在している間は、マルガのベック公の別邸へと避難することになった。しかしイシュトヴァーンがナリスの墓標のあるマルガに参拝しに来た時には、いち早くマール公爵領の中心都市マリアへと避難し、マール公の許に滞在している。ゴーラ王妃にしてモンゴール大公。夫はゴーラ王イシュトヴァーン。長男はドリアン。父はモンゴール前大公ヴラド・モンゴール。母はヴラド大公妃アンナ。弟にモンゴール公子ミアイル。豊かな金髪と美しい緑色の瞳、大柄でグラマラスな美女。男勝りの性格で、10代の頃から父ヴラドの右腕として一軍を率い、公女将軍と称された。物語の開幕当初は、その苛烈で冷徹な性格を評して〈氷の公女〉などとも呼ばれたが、その性格は父ヴラドの期待に応えるために無理をして装っていた部分もあったようで、物語が進むにつれ、恋に情熱を燃やす感情的な性格が表に出てくるようになった。アルド・ナリス、イシュトヴァーンの2人と激しい恋に落ちたものの、どちらも彼女が真実の愛を得るに至るものとはならず、却って彼女を不幸な運命へと導く結果となった。アムネリスが物語に登場したのは、物語が開幕して直後のことであった。モンゴールによるパロ奇襲に端を発した黒竜戦役と時を同じくして、彼女は辺境ノスフェラスへの侵攻を命ぜられる。それはキタイの魔道師カル=モルがもたらした、恐るべきグル・ヌーの秘密を手中にし、モンゴールによる世界征服の野望の足がかりとするためのものであった。だが、その侵攻の前に立ちはだかったのが、グイン率いるセム族であった。ノスフェラスの怪物イドを用いた奇策や、イシュトヴァーンを間諜とした奸計、そして幻の民ラゴン族の参戦により、アムネリスは守り役でもあるマルス伯を失うなど予想外の惨敗を喫し、ノスフェラスからの撤退を余儀なくされる。トーラスへ戻った彼女に、父ヴラドはパロの王族、クリスタル公アルド・ナリスとの結婚を命ずる。それが彼女にパロの王位継承権を与えるための政略結婚であると理解したアムネリスは、モンゴール占領下のパロの首都クリスタルへと向かい、ナリスと対面する。その対面が彼女の運命を大きく変えていくことになる。ナリスの美貌と洗練された挙措に、アムネリスはたちまち恋に落ちてしまう。ナリスもまた、アムネリスを〈光の公女〉と呼んで愛をささやき、政略結婚であったはずの2人は真実の愛で結ばれたかのように思えた。だが、それはナリスの策略であった。2人の婚礼の日、ナリスは巧みに身代わりをたて、暗殺されたように装って姿を隠す。その真相に気づかず、ナリスが殺されたものと信じたアムネリスは悲嘆にくれ、トーラスへと戻っていく。だがしばらくして、身を潜めていたナリスが軍を率いて反乱を起こし、クリスタルを奪還したとの報がトーラスに届く。初めてナリスに騙されていたことに気づいたアムネリスは激怒し、自ら軍を率いて再びパロへと向かう。だが、黒太子スカール率いるアルゴス軍、沿海州海軍の参戦、さらには父ヴラドの急死、そしてゴーラの友邦であるはずのクムまでもが敵方として参戦したことで、彼女はなすすべもなく敗れ、モンゴールは滅亡、アムネリスはクムにて幽閉されることになる。クムの首都ルーアン近くの都市バイアに幽閉されたアムネリスは、ナリスを真似てクム大公タリオを籠絡し、その愛妾となって油断させ、機を窺いつつ日々を送る。その彼女にチャンスをもたらしたのは、当時、盗賊の首領となっていたイシュトヴァーンであった。イシュトヴァーンの助力によってクムを脱出した彼女は、旧モンゴール勢力と合流し、モンゴール奪還の兵を起こす。イシュトヴァーンらの活躍により見事、トーラスを占領していたクム軍に勝利した彼女は、モンゴールの復活を宣言、亡き父を継いでモンゴール大公の地位に就く。やがて、イシュトヴァーンとの恋に落ちたアムネリスは、戦功を重ねてモンゴールの右府将軍となったイシュトヴァーンと結婚、妊娠し、幸福の絶頂を迎えたかに思えた。が、その幸福感が彼女を盲目にしていたのか、イシュトヴァーンが次第に彼女を疎んじ始めていることに気づくことはなかった。ユラニアの首都アルセイスを舞台としたクーデターと、それに続く戦役によるユラニア滅亡を経て、ユラニアに留まったイシュトヴァーンが自らゴーラの王位に就くことを宣言すると、彼のもとを訪れていたアムネリスはモンゴール大公としてそれを承認し、自らもゴーラ王妃となる。だが、そのことをモンゴール政府に認めさせるために戻ったトーラスで、思いもよらぬ事態が起こる。かつてのノスフェラス戦役で彼女が率いた軍が敗れたのは、当時傭兵であったイシュトヴァーンの裏切り行為があったからだとして、イシュトヴァーンが告発されたのだ。半信半疑のまま、イシュトヴァーンをトーラスに迎えたアムネリスは、イシュトヴァーンの何気ない一言から、その告発が真実であることを知る。その後、トーラスの金蠍宮で行われた裁判で、イシュトヴァーンの自白を耳にし、彼女は茫然自失の状態に陥る。その時、イシュトヴァーンが密かに伏せておいたゴーラ軍が金蠍宮を急襲してこれを制圧、モンゴールはあっけなく敗れ、再び滅亡の憂き目を見ることになる。なすすべもなくイシュトヴァーンに投降したアムネリスは、彼への激しい憎悪を抱いたまま、ゴーラの新首都となったイシュタールの塔に幽閉されることとなる。そして、その獄中で彼女はイシュトヴァーンの息子を産み落とす。夫への憎悪を込めて、その子に悪魔神ドールの子を意味するドリアンの名を与えた彼女は、息子をゴーラ宰相カメロンに託し、隠し持っていたナイフを自らの胸に突き刺して自害を果たした。死の間際、アムネリスは、自分がイシュトヴァーンを許せずに憎んでいたのは、イシュトヴァーンがモンゴールを再度滅亡させたからではなく、自分の侍女であったフロリーを抱いたからであったことをカメロンに告げた。アルゴスの前王太子。内縁の妻にグル族長グル・シンの娘リー・ファ。異母兄にアルゴス王スタック。父はアルゴス前王スタイン。母はスタインの愛妾リー・オウ。恋人にパロ聖騎士伯リギア。黒髪、黒髭、黒く太い眉の精悍な顔つきの逞しい男。常に黒を基調とした衣服を身にまとっており、〈黒太子〉と呼ばれている。兄スタックに男児が誕生したことと、自らの病を機に王太子の座からは退いたが、〈黒太子〉という呼び名そのものは彼一代限りの通称として使用が認められている。信義に厚く、義理堅いが、草原の独特の価値観がその行動原理の根本にあり、しばしば中原の価値観を持つ人々とのあいだに軋轢を生じる原因ともなっている。パロの王女を母に持つ兄とは違い、騎馬民族グル族出身の母を持つこと、そして彼自身、宮廷での生活は好まずに、主にグル族とともに草原での遊牧生活を好んで送っていることから、アルゴスの人民の中心をなす騎馬民族からの人気は非常に高いものがある。そのため彼の率いる軍は、アルゴス正規軍とは別に、騎馬民族によって構成される遊軍としての性格が強い。その騎馬民族特有の勇敢さと、常識に囚われない神出鬼没ぶりで、小規模ながらも世界最強の軍の1つとして怖れられている。王太子時代は兄との仲も極めて良かったが、兄に男児が誕生してからは、アルゴス国民の間での彼の人気を兄が疎んでか、兄から猜疑の目を向けられるようになった。もっとも、スカール自身にはいまだ兄への悪感情もさほどなく、しばしば兄から暗殺者を送られることもやむなしとして受け入れている節もある。スカールが物語に登場するのは、黒竜戦役勃発からしばらく経った頃のことである。騎馬民族軍を率いた彼は、黒竜戦役時にたまたまアルゴスを訪れていたパロの王族・ベック公ファーンを助け、パロ奪還へ向けての戦いを開始する。中原との間にそびえる、踏破不可能と云われたウィレン山脈越えによる奇襲を成功させた彼は、クリスタル公アルド・ナリスが起こした反乱鎮圧のためにクリスタルへ向かっていたアムネリス軍を急襲し、これを打ち破る。さらにナリス軍と合流してモンゴールの首都トーラスへと攻め入り、これを陥落させ、モンゴールの滅亡に大きな役割を果たすこととなる。このトーラスの金蠍宮で偶然手にした文書が、彼の運命を大きく変えることとなる。そこには、失敗に終わったモンゴールのノスフェラス侵攻の動機となった、グル・ヌーについて記されていた。そのグル・ヌーの秘密を探るべく、彼は数千人のグル族のみを率いてトーラスを密かに脱出し、ケス河を渡ってノスフェラスへと入る。そこで出会ったセム族の助力を得て、グル・ヌーを目指したスカールだったが、ノスフェラスの苛酷な気候と、そこに住まう怪物たちが彼ら一行を苦しめる。そしてついに、志半ばで倒れるか、という寸前に、彼の前に世界三大魔道師のひとり、賢者ロカンドラスが現れる。ロカンドラスに誘われ、彼はグル族と別れてグル・ヌーへと向かう。そして、そこで彼は、グル・ヌーの地下に眠る星船の秘密を目の当たりにする。このことにより、彼は世界に対して野望を燃やす様々な人物や魔道師の興味の対象の中心人物の1人となっていく。ロカンドラスのバリヤーの効果で、生身の人間としては初めて、スカールはグル・ヌーからの生還を果たす。だが、おそらくは放射線と思われるグル・ヌーの瘴気は、ロカンドラスの力でも完全に防ぐことができず、それによってスカールの健康は著しく蝕まれてしまう。わずかな部下に守られながら、スカールは病身をおして故国を目指す。だが、その途上、イシュトヴァーン率いる赤い街道の盗賊たちに襲われる。その戦いの中で、リー・ファがスカールの身代わりとなって命を落とす。スカールは最後の力を振り絞ってイシュトヴァーンに重傷を負わせ、かけつけたパロの国境警備隊によって保護される。警備隊の手によってパロの首都クリスタルへと連れてこられたスカールは、そこで手厚い介護を受ける。この時、リギアと恋仲となる。パロの優れた医学によって、やや健康を持ち直したスカールだったが、ノスフェラスで得たスカールの知識を狙う魔道師カル=モルの亡霊や、ナリスの手から秘密を守るため、病身を押してクリスタルを脱出し、アルゴスへの帰国を果たす。兄スタックに男児が誕
出典:wikipedia
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