深発地震(しんぱつじしん、)とは、地下深いところで発生する地震のことである。深発地震は原則として、深く潜り込むリソスフェア(スラブ)内部の性質変化に起因するスラブ内地震である。プレートテクトニクスの観点からは海洋プレート内地震(沈みこんだ海洋プレート内で起こる地震)に分類される。深発地震は震源の深さが深い地震であるが、明確な定義はない。だいたい深さ60kmまでの地震を浅発地震()、60kmから200kmまでの地震を稍(やや)深発地震()、200km以深で発生する地震を深発地震という。深さ500 - 670kmで深発地震が発生することは多いが、670km以深ではほとんど発生しない。ただし、トンガ海溝やの特殊な地下構造となっている一部の地域では、これを上回る深さの深発地震も少数ながら発生している。文脈によっては、沈み込む海洋プレート内(とくに、プレート間地震が起こらない、深さ数十キロメートルより深い場所)で発生する地震を深発地震と称することがある。たとえば芸予地震は、前者の定義では深発地震や稍深発地震には当たらないが、後者の定義では深発地震となる。深発地震はプレート沈み込み帯の地下深くで発生し、それ以外の場所では海嶺下やホットスポット周辺も含めてまったく発生しない。そのため、世界で深発地震が発生する場所は限られている。地下において深発地震が発生する地帯は、緩やかなカーブを描いた面状に分布している。これを深発地震面という。深発地震面は、断面図上に震源分布をプロットしていくと現れる。これを1927年に初めて発見したのが和達清夫であった。1930年代には日本の地震学研究者の間では広く認知されていた。一方、欧米では同時期にソ連のヒューゴー・ベニオフが観測結果から深発地震の存在を予見しており、1950年代に研究成果を挙げて学界でも広く認められた。当時は地震は深くても数十kmほどまでの浅いところでしか発生しないと考えられており、この発見が地震研究にも大きな影響を与えた。以前は欧米を中心に深発地震面を「ベニオフ帯(Benioff Zone)」と呼んでいたが、近年は和達の功績を含めて「和達-ベニオフ帯」と呼ぶことが多い。深発地震の存在が定説となった1930年代には、諸説あったものの、地上の地震が地殻のごく表面で起こるのに対して、地下にはスラブという固い岩盤が存在し、そこで断層運動が発生しているのではないかと考えられた(スラブ内地震)。また、地下300km付近に深発地震の少ない地帯が存在することから、その上下を「稍深発」と「深発」に区分するようになった。1960年代に支持されるようになったプレートテクトニクスでは、プレートが海溝に沈み込んだ後の様子を示す1つの証拠として深発地震面が用いられた。この理論によりプレートの運動が深発地震と結び付けられたことで、深発地震のメカニズムに関して新たな考察がなされた。主なものとして、古いプレートのスラブは新しいものより温度が低いことが知られているが、この冷たく剛性の高いスラブが沈み込むことで深発地震が発生するという説が唱えられたが、スラブの性質変化と矛盾する部分があり、さらに温度変化との対応にも疑問が投げかけられたことから否定されている。ただし、この研究によって、深発地震面の下や隙間にも、深発地震を起こさないスラブが分布していることが分かった。現在は、以下のような説が支持されている。プレートの収束型境界で一方のプレートが沈み込むと、周囲のマントルに比べて低い温度を保ち剛体としての性質をもったまま深さ670kmまで沈み込む。しかしそこは遷移層と下部マントルの境界であり、これ以深では周囲のマントル密度が急激に増加するため、プレートがそれ以深に沈むことが難しくなり、スタグナントスラブが形成され、プレートが反ることになる。このためプレートに応力が加わり、プレートがそれに耐えられなくなったときに地震が発生する。
丸山茂徳らは、オリビンがスピネルに相転移する際に、岩石の弱い部分に変形が集中し発生すると主張している。ただし深発地震の震源は深さ500-670kmに広く分布する一方で、オリビンからスピネルへの相転移は深さ650〜670kmでしか起こらず、この説は疑問視されている。このほかに、結晶質が非晶質化(アモルファス化)することが原因とする説、間隙水圧の上昇により脱水反応が起きてスラブの摩擦強度が低下すること(脱水不安定・脱水脆性化)が原因とする説が有力である。このように複数の説がある背景には、沈み込み帯の深発地震面にもさまざまなタイプがあり、タイプによっては説明できない場合が生じるためである。深発地震は、P波が一度地表面で反射して伝わるpP波が明瞭である。P波とpP波の到達時間差から、震源の深さを概算することができる。深さ600kmで発生した場合、陸上観測点との距離は最低でも600kmあり、ある程度規模の大きな地震でなければ捉えられない。そのため、ふつう深発地震といえば比較的大規模なもの(マグニチュード6以上)を指す場合が多い。近年では地震計の性能向上などにより、小規模な深発地震も観測されている。地震波は剛体であるプレート上を伝わりやすく、マントル中はやや伝わりにくい。そのため深発地震の震源からは、地震波は沈み込んでいるプレートに沿って斜め上方に伝わり、震源直上(震央)よりも、震央から離れた場所で大きな揺れとなる場合が多い。たとえば日本海やロシア沿海州の直下で発生した深発地震で、日本の東北地方太平洋側で有感となり、日本海側やロシアでは無感となる例が多数ある(異常震域)。また、深発地震の地震波はすぐにマントル中を伝播する。マントルの地震波速度は大きく、"Dziewonski & Anderson(1981)"によれば、深さ600kmでのP波速度は秒速10kmである。これは地殻中のP波速度のおよそ2倍弱である。従って、比較的早く遠方に到達する。地震波の反射及び伝播速度の違い、地盤毎に異なる固有の共振周波数の違いなどにより震源の直上が最も強い揺れとならず、離れた地点で最も強い揺れを観測することがあり、この現象を異常震域と呼ぶ。日本周辺の深発地震では、オホーツク海南部や日本海を震源とする地震に於いて異常震域を観測しやすい。2006年に発生した大分県西部地震や2008年に発生した岩手県沿岸北部地震では強い揺れと異常震域を観測している。日本国内は気象庁、日本国外はアメリカ地質調査所の記録による。Mjは気象庁マグニチュード、Mwはモーメントマグニチュード、Mbは実体波マグニチュードである。日本ではマグニチュード6以上の深発地震は、年間に4 - 5回程度発生している。2015年現在では、緊急地震速報は150km以深の地震については一般向けに対象から除外している。これは大きな揺れに結びつく可能性が低く震度の予測も難しいためとされている。高度利用者向けでも震度予測に関しては発報されていない。やや深発地震(200km以浅)では、浅発地震(60km以浅)と比較し同じマグニチュードならば被害は少ないが、マグニチュード7規模以上の地震となると地表でも強い揺れとなり、被害を生じさせることがある。なお津波については今村・飯田や羽鳥の研究によると、100km以深の地震によって津波が発生することはほぼないと考えられている。1993年1月15日に発生した釧路沖地震(深さ101km、Mj 7.5)では、釧路市で最大震度6の烈震を、半径約150kmの広範囲で震度5の強震を記録し、死者2名・負傷者966名、全壊53棟・半壊254棟・一部損壊5311棟、その他51棟の被害が報告されている。また、2011年4月7日に発生した宮城県沖地震(深さ66km、Mj 7.2)では最大震度6強の揺れとなり、死者4名を出したほか広域停電も発生している。この他、死者は出ていないものの強い揺れになった例として2005年7月23日に発生した千葉県北西部地震(深さ73km、Mj 6.0)があり、東京都で最大震度5強を観測し関東地方南部の各地で停電やエレベーター閉じ込め事故などが発生した。さらに、2014年5月5日に発生した伊豆大島近海地震(深さ162km、Mj 6.0)では150km以深でありながら、東京都で最大震度5弱の地震を観測している。さらに2015年5月30日に発生した小笠原諸島西方沖地震(深さ681km、Mj 8.1)では、小笠原諸島、神奈川県二宮町で震度5強を観測したほか、全都道府県で震度1以上を観測し、関東地方を中心に停電、エレベーターの緊急停止による高層難民、交通機関のマヒなどの大きな影響が出た。深さ数百kmの深発地震で被害を生じることは稀であるが、1994年6月8日のボリビア深発地震(深さ631km、Mw 8.2)では、震源の深さが極めて深かったにもかかわらず死者10人の被害があった。また、カナダでも有感となったとの記録がある。日本付近で発生する幾つかの深発地震は、浅発地震の前兆となっている可能性を指摘する研究者も少数ながら存在する。太平洋プレートの沈み込みにより発生する飛騨地方のM5以上の稍深発地震と関東地方の40kmから70kmの深さで発生するM5.5以上の地震には、有意な相関が認められる。1952年と2003年の地震ではM8クラスの本震の発生に先立って、プレートのもぐり込み先を震源とする深発地震が増加していた。
出典:wikipedia
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