ツアーバスとは、日本において旅行代理店が貸切バスを借り上げて人員の輸送を行う募集型企画旅行商品、又はその目的で用いられる貸切バスをいう。この項目においては、バスを用いた募集型企画旅行商品のうちバスによる「旅行参加者の移動(輸送)」のみを提供するタイプのものを中心に取り上げることとし、「バスツアー」と呼ばれる、貸切バスで移動しながら観光地への入場や食事・買物等を伴う企画旅行としてパック化された商品や、バス以外の交通機関を経路の一部に組み込んだ商品については原則取り扱わない。道路運送法に基づき路線バス事業者が運行を行う長距離路線バス(いわゆる高速バス)とは異なり、旅行業法に基づき旅行代理店等の主催者が観光バスを借り上げて、募集型企画旅行の形態で旅行参加者(=乗客)を募集する形態をとる。このため、ツアーバスにおいては、代金は「運賃」ではなく「旅行代金」として収受され、バス事業者自らが旅行代理店として募集型企画旅行の主催者(又は受託者)となるもの以外は、参加者がバス事業者に代金を直接支払う事はなく、主催する旅行代理店(営業窓口、または集合場所等に駐在する証明書(外務員証)を携帯した旅行代理店の外務員)に支払うことになる。貸切バスで観光地などを巡る一般的な団体旅行(バスツアー)と大きく異なる点として、貸切バス事業者の職員である車掌・バスガイドは同乗しない、また、旅行代理店の職員である添乗員も随行しない、出発から到着までの間は運送(輸送)以外の役務提供は行われない。食事の提供、観光施設の入場や宿泊・休憩は旅行代金に含まれない。後述する2000年のバス事業に関する規制緩和以降、かつて(2013年7月まで)多く運行されていたのが、都市間ツアーバス(としかんツアーバス)あるいは高速ツアーバス(こうそくツアーバス)と称される、特定の都市(例:東京都内 - 大阪市内)間を高速道路経由の夜行便(一部は昼行便)で結ぶものである。国土交通省では、高速道路(高速自動車国道または自動車専用道路)を経由する2地点間の移動のみを主たる目的とする募集型企画旅行として運行される貸切バスを「高速ツアーバス」と定義づけていた。利用者側から見た移動の手段としてみれば、乗合バス事業者が運行する高速バス(路線バス)と較べて車両の内装や価格帯に大きな違いがなく、これら高速ツアーバスを含めて「高速バス」として取り上げるものもあった。しかし、高速ツアーバスは道路運送法に基づき認可を受けた路線(乗合)バスではないため、定時運行や利用者個人の支払う料金(運賃相当)、運転手の連続乗務時間と交代回数、車両の運用などに規定が及ばないことをはじめ、バスターミナルやバス停を使えない(大型バス対応の駐車場を使うか、それができない場合は路上駐車となる)、出先で点検整備を行う車庫(営業所)がない場合が多い、高速道路の通行料金区分が異なるなど異なる部分も多くある。この形態による都市間バスについては、後述のように催行・運行業者や設定コースの増大に連れ、既存の乗合バス(路線バス)制度との法的な整合性を中心に、かねがね議論の的になっていたが、2012年4月29日に関越自動車道の藤岡ジャンクション付近で発生した高速夜行ツアーバスの過労による居眠り運転事故を契機に、高速ツアーバスについては規制の方向に切り替えられるようになり、国土交通省・観光庁は両者の誤認を避けるために高速バス表示ガイドラインを2012年6月29日に通達し、「高速乗合バス」と「高速ツアーバス」の別などを明示するよう指導。後に制度変更が行われ、2013年7月末をもって募集型企画旅行としての高速ツアーバスを運行することはできなくなった。これにより、業界大手の企業については、体制を整備し、2013年8月から乗合バス事業の認可を得て、後述する「新高速乗合バス」に転換したが、「新高速乗合バス」に転換できる企業体力のない中小業者のほとんどは事業の停止・撤退を余儀なくされた。なお、以下の項では特に注釈が無い限りは「高速バス」は高速乗合バス(主に高速道路を運行する路線バス)、「ツアーバス」は高速ツアーバス(募集型企画旅行に属する貸切バス)を指すものとする。この節においては、貸切免許による乗合運送の特別許可から募集型企画旅行商品としてのツアーバスに至る一連の歴史について扱う。旅行商品の形態によるバスでの旅客輸送としては、お盆や年末年始を中心に帰省者を主な利用対象として大都市と地方都市の間で運行されていた「帰省バス」と称するものがある。帰省バスの起源は1960年代にさかのぼる。大阪府に本拠を置く中央交通が1961年に日本で初めての帰省バスの運行を開始したと自称しており、西鉄バスでも1962年12月28日に福岡 - 大阪間で帰省バスの運行を開始したとしている。当時の帰省バスはバス事業者(主に都市部の大手私鉄や私鉄系バス事業者)が関連の旅行代理店を通じて企画して運行されることが多かった(自社の路線バスや鉄道施設に広告された)。これら帰省バスの多くは1980年代以降には高速バスの需要調査も兼ねることにつながり、石見銀山号など多客期の帰省バスの実績から定期運行に繋がった例も多い。一例として、1980年代前半に新宿 - 飯田間で帰省バスを運行していた信南交通が挙げられる。盆期・年末年始には4台連行で運行するなど好調で、後の中央高速バス伊那・飯田線の運行開始につながった。今日では高速路線バスの発達、高速ツアーバスの普及、法改正などにより、募集型企画旅行商品として季節(臨時)催行される、あるいは既存の路線免許を組み合わせるなどして路線認可を得た上で期間限定の高速路線バスとして運行する例がある程度である。スキーシーズンのスキー客の送迎を目的に大都市とスキー場との間でスキーバスが運行された。岩原スキー場(新潟県)によれば、最初の夜行日帰りスキーバスは1961年に運行されたとしており、西鉄バスでも1963年12月にはスキーバスの運行を開始したとしている。スキー場のロープウェイ、リフトや宿泊券等のバウチャーと一体化した旅行商品(当時の用語では主催旅行、現在の募集型企画旅行)として催行された。現在では、バブル崩壊に伴うスキーを含むレジャーブームの終焉により催行が少なくなっているが、西武グループの西武トラベルによる苗場ライナー等の例がある。同ツアーはスキーシーズンの毎週末に最少催行人数1名で、西武観光バスの貸切バスを使用し、品川プリンスホテル・サンシャインシティプリンスホテル等と苗場プリンスホテル間の移動手段のみを主に提供する。私鉄系旅行代理店による企画、私鉄系路線バス事業者の貸切部門による運行、集合・解散場所は関係会社の敷地という点を除くと都市間高速ツアーバスに近い催行・運行形態である。スキーバスに類似する催行形態として、登山バスがあげられる。さわやか信州号は登山バスが路線転換した例である。1980年代初頭、北海道稚内市の北都観光が、路線申請するほどの数は見込めないが、確実に需要の存在する札幌と稚内を結ぶ会員制バスの運行を開始したのが始まりで、1984年1月には、道内の貸切バス活性化の一環として、北海道運輸局が会員制バスの運行を充実する方針を明らかにしたことから、札幌から北海道内の各地を結ぶ会員制バスが多数設定された。しかし、路線バスの免許秩序が乱れるという理由で疑問を呈されていた。この状況下で1984年5月に北都観光・銀嶺バスが札幌と留萌を結ぶ会員制バスの運行を開始し、これに対して北海道中央バスが北海道運輸局に対して北都観光の留萌線の運行を廃止させるように要請した。しかし、北都観光では「違法ではなく需要もある」と反発した。最終的に、北海道運輸局では1984年12月に、会員制定期バスに対しては当時の道路運送法24条の2(貸切免許による乗合運送の特別許可)を適用することとなり、それまで会員制定期バスを運行していたバス事業者に加えて沿岸バスが道路運送法24条の2に基づいて申請することとなった。これを受けて、運輸省では1986年6月10日に通達「一般貸切旅客自動車運送事業者による乗合旅客運送の許可について」(昭和61年6月10日地自第124号、地域交通局長から各地方運輸局長等あて通達)を示し、「運行区間が乗合バス事業者の路線と全部又は一部で重複し、取扱旅客につき競合関係が生ずる場合」などの条件に該当する場合、道路運送法24条の2の適用を指導することとなった。1990年、名古屋-東京ディズニーランド(TDL)間に日本交通公社(現在のJTB)によるツアーバス「パンプキンX-PRESS」が定期催行された。このツアーはTDLの団体パスポートと組み合わせる事で主催旅行を設定した。以後、各旅行会社により各地からTDLに向かうツアーが登場しているが、「パンプキンX-PRESS」を含め、往路は出発地を夜に出て翌朝現地に到着・現地解散(以後は自由行動)、復路はその日の夜に集合し、その翌朝(出発日から数えて3日目の朝)に着くのが一般的で、1日遊んで宿泊費が要らないことから学生を中心に人気が出た。さらに2000年、「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」(平成12年5月26日法律第86号)が公布され、2002年2月1日に施行された。これは乗合バス・タクシーの需給調整を廃止するとともに、道路運送法の目的から「道路運送に関する秩序の確立」を除くものであり、バス事業の大幅な規制緩和をもたらすものであった(この法律施行に伴い、1986年の通達が廃止されている)。これらの動きに呼応するように、ディズニーランドツアーから派生する形で2001年4月14日に新宿・横浜-ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)間に近畿日本ツーリストによるツアーバス「ベイドリームライナー」が定期催行された。このツアーは、往復の他に片道の参加を可能とし、USJの他に京都、新大阪での中途解散も設定され、宿泊やパスポートを付帯しないプランも設定された。ベイドリームライナーに続き、2001年5月にオリオンツアーが「関西バス」を催行開始、2001年7月には西日本ツアーズ(現・WILLER TRAVEL)が東京 - 大阪間で催行開始した。2005年7月28日、国土交通省自動車交通局は「ツアーバスに関する当面の対応方針について」と題した通知文書(自動車交通局旅客課新輸送サービス対策室長・同課旅客運送適正化推進室長から各地方運輸局旅客第一課長等あて事務連絡)を示した。この中で「旅行業者が募集型企画旅行(改正前旅行業法では主催旅行と定義)で行う、観光やスキーといった移動以外の目的を伴わない、2地点間の移動のみを主たる目的とした「ツアーバス」が、一般乗合旅客自動車運送事業類似行為ではないかとの疑義」に対して、「2地点間の移動を目的とした募集型企画旅行であっても、正規の貸切契約に基づく運行については、旅行会社に対して道路運送法上の責任は問えない」との指針を示した(これにより、ツアーバスの業態が法的に事実上認知されたような受け止め方をされたという指摘もある)ことを踏まえ、旅行会社の主催によるツアーバスの催行が急速に増加し、2006年時点でツアーバスを催行する旅行業者が既に約30社に上っていたといわれる。2008年には、任意団体「高速ツアーバス連絡協議会」が業界団体として設立されているが、同団体の組織率は、企画実施会社(主催者)が観光庁把握の52社中37社(71 %)、運行会社(貸切運行受託会社)が国土交通省把握の235社中38社(16 %)にとどまっている。括弧内はツアーバス商品名。下記以外にも多数存在する。以下は高速乗合バスへ移行した主なツアーバスである。ただし乗合移行後に運行を中止した路線も含まれる。高速ツアーバス同様、貸切バスを利用しながら輸送に特化した旅行商品としては、スポーツ観戦やコンサートなどのイベント開催時にイベント参加者の交通の便を確保する目的で、周辺の都市から輸送するイベントツアーバスがある。この場合はイベントの主催者が提携する旅行代理店を斡旋し、その旅行代理店がスポット的な募集型企画旅行を主催する形を取る。遠方発着の場合は観戦・観劇チケットを含んで「バスツアー」として催行されることも多いが、最寄り駅からの交通の便確保のために観戦・観劇チケットを含まない形態のイベントツアーバスが催行される場合もある。尚、イベントツアーバスは、目的となるイベントの参加がツアー参加の条件に加えられ目的外利用が禁じられた。空港や新幹線停車駅などの交通拠点から観光地を経由して主要宿泊地または交通拠点へ向かう(あるいはその逆)形態。バスガイドの乗務や途中観光地での見学時間を設定することなどからバスツアーの類型の一つとも言えるが、観光地での行動(食事や観光施設への入場)は任意となっており、旅行商品としてはあくまでもバスでの移動のみを提供する。旅行代理店が主催するため定期観光バスには該当せず、単純往復で運行されるものでもない。観光客誘致のために自治体や観光団体が主導する例がある。航空会社系の旅行会社(ANAセールスやジャルパック等)の募集型企画旅行商品の一部として組み込まれる場合もあり(写真の北海道リゾートライナーもそのようなケースがある)、高速ツアーバスとは異なる内容が多い。また、伊東園ホテルや湯快リゾートや大江戸温泉物語の送迎バスも観光地周遊型に分類される。ツアーバスは募集型企画旅行の参加者への移動をサービスを提供するものであるが、貸切バスを借り切り、会員が年会費等の範囲内で、高速道路を経由する2地点間の移動サービスを一定期間乗り放題とする(会員に対する一種の無償運送)バスが会員制高速バスである。この形態の例として、一般社団法人YOKAROが福岡市と平戸市・竹田市など九州各地の観光地を結ぶ「YOKAROバス」や、貸切バス事業者大川陸運株式会社(平戸観光)が主宰する「平戸観光旅行クラブ」が福岡市と平戸市を結ぶ「ロマン号等がある(但しロマン号は2012年9月30日を以て運行を休止と発表された)。昼行便・夜行便ともに、高速バス用ではなく観光バス用の車両が用いられることが多い。観光バス用車両は座席配置が前後11列もしくは12列・横4列で、トイレや洗面台、フットレストやレッグレストなど、長距離高速路線バスでは基本装備に挙げられるものは装備していない場合が多く、路線バスでは設置が義務づけられている車いす席も、設置義務がないため設置されていない。都市間ツアーバスに特化した貸切事業者の中には、座席を前後10列で横4列または3列とし、フットレスト・レッグレスト・トイレ・個別のプライバシーカーテン・本革シートなどの夜行路線バスと同等の接客設備を備えた車両を導入している事業者もある。また横2列配置で個室に近い座席配置とした車両も存在する。これらについては料金が割高に設定されている。新高速バス制度施行直前の時期は、新制度への移行を見越し一般の高速路線バス仕様車両が各社で導入されていた。高速バスが、旅客運送事業の許可や路線の届出のために停留所やバスターミナル施設を設置しなければならないのに対し、ツアーバスはこれらの義務がなくコスト低減の一助となっている。しかし、乗合バス用の停留所やターミナルの大半は利用できないため、一般的な企画旅行同様に立ち入り・停車(客待ちを行う場合は駐車も)禁止場所以外の路上や駐車場、観光バス乗り場等から出発することが多い。利用の際は、事前に集合場所や受付方法を把握することが求められるほか、悪天候時でも、屋根の無い路上で待たなければならないこともある。ツアーバス自体の台数の多寡や、路上駐車や道路工事などの状況如何でも乗車場所が変わる。中には「まがり角から5m以内」や「横断歩道、自転車横断帯とその側端から前後に5m以内」のように、道路交通法違反(駐車違反)となる場所で客待ちをしているケースも見られる。上記の問題に対応するため、ツアーバス事業者(旅行代理店)自身が専用のターミナルやデスクを開設する例がある。国土交通省東北運輸局では、2008年に高速バスおよびツアーバスの利用実態調査を行い、その結果を公表している。この調査は仙台駅周辺における関東発着便に限定しての調査だが、ツアーバスのサービスのうち、運行頻度、料金、予約・発券、座席の配置等に対する満足度は高速バスより高いという分析がされ、ツアーバスのサービスは総じて良好に受け止められていることが明らかになったとしている。また、ツアーバス利用者の75%が40歳未満と若年層の利用が多く、利用目的も「観光・娯楽目的」が多い。また、ツアーバスを選択した要因として、ツアーバス利用者のほぼ全員が「他の交通機関と比較し、料金が安いから」という点を掲げている。加えて、自家用車でのドライブ等からツアーバスに移行する旅客も増えているという報道がなされている。この報道でも楽天バスサービス関係者の話として、ガソリン高の影響により割高感のあるマイカー旅行に比べて、ツアーバスの格安さに注目が集まっているのではないかとの分析を行っている。2000年と2002年に道路運送法が改正され、バス事業の規制緩和が行われたことにより貸切バス事業へ参入する会社が急増した。これにより貸切バス事業者間で過当競争状態が生まれ、貸切バス運賃の値下げを希望する旅行代理店と運賃を値下げしてでも稼働率を上げたいという貸切バス事業者の思惑も相まって、ダンピングが進行し、運賃の低下が急速に進んでいる。加えて、貸切バス事業者(特に零細事業者)が燃料高騰などに伴う運行経費抑制の観点と、運転士の確保困難の状況から、運転士一人あたりの稼働率を上げる方策をとり、結果的に運転士の過労運転が問題となっている。ツアーバス運転士の過労運転が原因とされる事故としては、吹田スキーバス事故(2007年2月、添乗員が死亡)、関越自動車道高速バス居眠り運転事故(2012年4月、乗客7人が死亡)などの例がある。法令により労務管理が的確に為されている高速路線バスに比べて、高速ツアーバスは安全面に問題があると指摘されている。これについては監督官庁である国土交通省が吹田スキーバス事故を受ける形で、省内に「貸切バスに関する安全等対策検討会」を設けて2007年6月6日から2007年10月15日まで検討会を開催、同年10月に報告をまとめた。これを受けて、2007年12月14日に通達「貸切バスにおける交代運転者の座席の確保等の安全確保の徹底」(平成19年12月14日国総観事第297号、総合政策局観光事業課長から(社)日本旅行業協会・(社)全国旅行業協会等あて通知)により、交替運転者が車内で身体を伸ばして休息できる設備の確保を徹底させるとともに、2008年6月2日には旅客自動車運送事業運輸規則を改正し、着地における乗務員の睡眠施設等の確保義務を明確化した。また、長距離運行にかかる安全面への対応としては、2008年には国土交通省から「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交代運転者の配置」に関する試行的指針が示され、運転者の1日の最大走行距離は、勤務時間等基準告示で定められた2日を平均した1日当たりの運転時間の上限(9時間)の運行距離に相当する670キロメートル(高速道路のみ走行の場合)とされた。ただしこの指針には拘束力がなく、違反した場合の罰則規定もない。ただし、これらの指導は(ツアーバスを主催する)旅行代理店に対する指導ではなく運行に携わる貸切バス事業者に対するものが中心であったことから、行政による指導監督としては不十分という結果となり、2010年の総務省による行政指導、さらには高速バスとツアーバスの「一本化」に向けた動き(新高速乗合バスの制度発足)につながることになる。都市間ツアーバスと高速路線バスは運行形態は異なるものの、バスによる都市間の移動手段という意味では共通していることから、競合するケースが増加している。但し、高速バス運行とツアーバス催行の両方を行うバス事業者(弘南バスや奈良交通、アルピコ交通やイルカ交通など)や、既存の高速路線バスを廃止して同一区間を走行するツアーバスに転換する会社(サンデン交通や南部バス)もある。その他、地元では路線バス事業を営みながらも、自社または系列の旅行代理店が主催するツアーバスの運行を一手に担う形で、都市間輸送へ実質的に進出している中小バス事業者もある(高知駅前観光やイーグルバス、平成エンタープライズなど)。また、手続きが簡便なことから、ツアーバス形式で需要調査を兼ねた運行を行った上で路線バスに移行するケース(中央高速バス伊那・飯田線やエディ号)や、路線バス運行の認可前にツアーバス形式で運行を開始する例(常磐高速バス茨城空港線)もみられる。ツアーバスの催行される区間では、既存の高速バスが厳しい競争にさらされる例が多い。中でも首都圏 - 京阪神間は競争が激しく、JRバスの「青春ドリーム号」、近鉄バス系の「カジュアル・ツィンクル号」「フライングスニーカー号」、京成バスの「きょうと号」など、ツアーバスと同程度の低運賃を打ち出し対抗する事例も見られる。その一方、JRバス「プレミアムドリーム号」のような高級志向のサービスによって、廉価主義のツアーバスとの棲み分けを模索する動きもあるが、この分野においても、大型シートを設置した高価格帯のツアーバスが現れるなど、競争の回避は難しくなっている。ツアーバスの台頭が、高速路線バスの廃止や統合などに繋がるケースも多い。地方の路線バス事業者には、生活交通路線の慢性的赤字を高速バスの収益で補填することで経営を維持しているケースも多く、高速バス部門の減収が生活交通路線の削減・廃止につながった例もある。「日経スペシャル ガイアの夜明け」 第268回 町からバスが消える「~ 規制緩和で揺らぐ地域の足 ~ 」(テレビ東京系、 2007年6月19日放送)では、ツアーバス台頭による高速バスの減収でJRバス東北が生活交通路線を廃止せざるを得なくなった現状が紹介されている。また、西鉄バスは路線バス事業の赤字を、高速バス事業と鉄道事業で補填していたが、雇用減少による通勤客の減少・高速道路の無料化社会実験により赤字拡大と高速バス収入が伸び悩み、2009年度から不採算路線の減便・廃止、営業所の統廃合、社員の解雇などが行われた。以下に高速ツアーバスと路線高速バスの主要な相違点を示す。ただし、路線・運行事業者・主催者により取扱いが異なる場合がある。前述のようにバス事業の規制緩和により誕生したツアーバスであるが、一方で厳しい規制を強いられている高速(路線)バス事業者側からは早い段階から批判があった。両備ホールディングス(両備バス)社長の小嶋光信は、ツアーバスについて「路線バス事業まがい」の事業を「法の不備を突かれて」認めてしまったと批判しているほか、2012年発行の著書「日本一のローカル線をつくる」においても「同じ路線事業行為を行って、一方は規制されてコスト高を免れず、他方はフリーハンドで経営できるという、アンフェアな競争状態」と批判している。2005年7月の通達では「旅客数に応じた運賃収受の場合は、乗合運送の無許可営業が考えられる」「事業運営の適正化が望ましいと判断される場合は、乗合許可申請を指導する」として乗合運送の類似行為に一定の歯止めをかける方向性が示されたものの、2006年5月の道路運送法改正では第一条に「道路運送の分野における利用者の需要の多様化及び高度化に的確に対応したサービスの円滑かつ確実な提供を促進する」という文言が書き加えられたこともあってむしろツアーバスを事実上認容するような動きが加速し、2006年6月30日付の通達「ツアーバスに関する取扱いについて」では「運送の発地又は着地のいずれかが営業区域内に存在し、運送契約等が確認できれば経由地における旅客の取扱いは道路運送法上問題がない」との指針が示され、ツアーバスの運用の弾力化が図られることになり、これによってツアーバスのさらなる拡充につながったとの指摘もある。しかしながらその一方で、特に貸切バス事業者へのしわ寄せの面(上述)で問題が顕在化するようになったことから、2006年6月30日付の通達「『ツアーバス』に関する募集型企画旅行の適正化について」(平成18年6月30日国総旅振第101号、総合政策局旅行振興課長から(社)日本旅行業協会・(社)全国旅行業協会等あて通知) にて、旅行業者に対して、道路運送法・労働基準法・道路交通法等の関係法令への違反行為の教唆、幇助となる可能性がある貸切バス事業者への強要行為を行わないよう指導するとともに、乗合バスの手配旅行と誤認させるような広告の禁止・旅行契約の締結の際に旅行条件の説明を行う事・乗車券の代わりとなる契約書書面等の交付(または代替措置)を行う事・旅行代金の収受を貸切バスの乗務員ではなく旅行業者等の外務員資格保有者が行うことなどの指導を行った。しかし、2007年2月28日にあずみ野観光バスのスキーツアーバスが乗員・乗客を死傷させる交通事故が発生。事故原因が運転手の過労運転によるものとされたことから、貸切バス事業者に対して様々な指導が行われることとなった(上述)。これらの状況を踏まえ、所管官庁の国土交通省とは別に、総務省行政評価局が2008年8月から2010年9月までの期間で貸切バスの安全確保対策等についての行政評価・監視を実施した。この行政評価に伴う調査対象は、国土交通省のみならず、厚生労働省、公正取引委員会、国家公安委員会(警察庁)、事業者、関係団体等と多岐に及んた。この調査の一環として、総務省行政評価局が2009年3月に貸切バス事業者4,304者と東京・大阪・京都の貸切バス駐車場で待機中のドライバー500人に対してアンケート(実態調査)を実施、事業者の61.1%(2,629者)とドライバーの27.2%(136人)から回答を得た。その結果、貸切バス事業者と契約先(旅行代理店)との運送契約内容に関し、回答者の約40%が契約先から安全性を度外視した無理な要求は「ない」とする一方で、同数に近い事業者が、無理な要求が「常にある」又は「時々ある」と回答。また、158社は契約先からの運賃や契約内容に関する無理な要求が原因で事故・違反になったことがあると回答している。加えて、貸切バス業界そのものにおいて、9割以上が国交省への届出運賃を収受できていないと回答、届出運賃を下回る契約が常態化することで貸切バス事業者の経営を圧迫している実態が明らかになった。また、ドライバーの労働環境については1日当たりの拘束時間について運転者の60%近くが違反を経験、1日当たりの休息期間は運転者の3人に1人が日常的に違反、さらに1日当たりの運転時間については、運転者の78.0%が違反しているという実態が明らかになった。さらに運転中の睡魔やヒヤリ・ハット体験はアンケートに回答したドライバーの9割が経験しており、その原因について「運行スケジュールが厳しく疲労が蓄積」(61.2%)、「休日や休息の不足による過労運転」(59.7%)を挙げているという現状が明らかになった。この結果を踏まえ、総務省行政評価局では「貸切バス事業については、多数の法令違反があり、安全運行への悪影響が懸念」があると指摘。2010年9月10日に国土交通省に対して以下の4項目の勧告を行った。これを受ける形で、国土交通省では自動車局が中心となって、学識経験者・高速バス関係者・ツアーバス関係者らで組織する「バス事業のあり方検討会」(座長:竹内健蔵東京女子大学教授)を2010年10月24日に設置。12回の審議を経て、2012年3月30日に最終報告書をまとめ、4月3日に公表された。報告書では、(高速)ツアーバスについて「実態としては高速(乗合)バスと同様の定時・定路線での運行であり、高速(乗合)バスと同じ規制の下で、乗合バスとして運行することが適当」と指摘。「安全性・利便性を確保する仕組みが整えられている」高速バスと「供給量や価格の柔軟な変更が可能」なツアーバスのそれぞれの長所を活かし、柔軟な供給量調整や価格設定等が可能な新たな高速(乗合)バス規制を導入することとし、(高速)ツアーバス事業者に対して新たな高速(乗合)バスへ移行させ、新たな高速(乗合)バス規制の下での一本化を図るべき、とまとめている。2012年4月29日、関越自動車道上り線で、高速ツアーバス運転手の過労運転が原因とされる交通死亡事故が発生(関越自動車道高速バス居眠り運転事故)。これを受けて、国土交通省自動車局は2012年5月29日、安全政策課内に「高速ツアーバス等の過労運転防止のための検討会」(座長:酒井一博公益財団法人労働科学研究所所長)を設置し、専門家を交えた検討を行い、パブリックコメントの実施を経て、2012年7月18日に国土交通省通達「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」を改定、交代運転者の配置基準を「実車距離が400km(安全点呼等の特別な安全措置を行い、これを公表した事業者については500km)を越える場合」「1人の運転者の乗務時間が10時間を越える場合」に厳格化する措置を定めると共に、同日から高速ツアーバスを運行する貸切バス事業者の安全への自主的な取組や、国土交通省が実施した最近の監査状況(法令違反や行政処分の有無など)の情報の公開を開始した。検討会の最終報告書は2013年4月2日に公表された関越道での事故を受けて、国土交通省は高速ツアーバスを運行する貸切バス事業者を対象に緊急重点監査を実施したところ、立ち入り時点で何らかの法令違反を指摘された事業者が298者中250者(調査対象の83.8%)に上り、そのうち48者 (同16.1%) が重大又は悪質な法令違反を指摘されていたことが明らかになった。また、各地方運輸局の管内の主要な駅等で2012年7月20日から8月31日にかけて貸切バスの一斉点検を実施した所、332台中73台に問題があり行政指導を実施した旨が発表された。なお、行政処分を受けた事業者のうち新潟県の小千谷観光バスは処分に対し異議申立てを行ったことを公式サイトで発表している。観光庁・都道府県庁は旅行業者を対象に集中的立入検査を実施、高速ツアーバスを主催する旅行代理店59者中、何らかの法令違反(大半が取引条件説明書面等の未交付、記載不足等)を指摘された会社が28者 (47.4%) という結果であった。さらに厚生労働省労働基準局は高速ツアーバスを運行する貸切バス事業場に対する監督指導を実施し、高速ツアーバスの運行に関わる339事業場の内、329事業場(全体の95.6%)に労働基準法違反(労働時間の超過、休日の非付与、割増賃金の不払等)を確認、260事業所(全体の76.7%)に改善基準告示違反(総拘束時間超過、最大高速時間超過、休息時間の非付与、最大運転時間超過、連続運転時間超過、休日労働等)が認められた。国土交通省では、関越道での事故等を踏まえ、当該事故の緊急対策において引き続き検討すべきとされた運行管理者制度その他の幅広い事項について検討する場として、改めて「バス事業のあり方検討会」(座長:中村文彦横浜国立大学大学院教授)を設置。2012年10月25日から2013年3月29日まで、計6回に渡り検討を行い、2013年4月2日に結果を報告した。これを受けて、国土交通省では「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」を立案、委託者・受託者が一体となった安全管理体制(運輸安全マネジメントの実施)を2013年4月以降に構築するとともに、業界団体を中心とした適正化事業(コンサルティング)の導入を2013年5月以降に導入し、過労運転防止の為の交代運転手の配置基準を路線バスにも2013年8月より適用することとなった。1日当たりの運転手の走行距離制限が厳格化されたことから、日帰りバスツアーでも2013年8月からは設定できなくなったコースがある。(旧)バス事業のあり方検討会の報告書並びに関越道での事故を受け、2012年7月30日には、国土交通省自動車局が従来の「高速(乗合)バス」と「(高速)ツアーバス」を一本化した「新高速乗合バス」制度を定め、省令や通達の改正を行った。「高速・貸切バスの安全・安心回復プラン」でも、高速ツアーバスの新高速乗合バスへの移行・一本化を2013年7月末までに行うことが明記されており、同日をもって従来の旅行代理店等が主催する募集型企画旅行商品である「(高速)ツアーバス」は乗合バス事業者による「新高速乗合バス」に収斂された。具体的には、というものである。これにより、過去からツアーバスを主催している旅行代理店が引き続き同様の事業を継続するには、移行期間の間に営業所、車庫、車両及び運転手等を自己で準備し、一般乗合旅客自動車運送事業の許可を受け、乗合バス事業者に業態変更する必要があるとされている。なお、バス停留所の確保は、参入を希望する乗合バス事業者の責務ではあるが、場所によってはかなりの困難が予想される事から、国土交通省は2012年11月30日に「高速ツアーバス等の高速乗合バスへの移行のための高速バス停留所調整ガイドライン」を策定して、大都市の一部の地域の調整にあたる事になり、実際に2013年3月1日に第1回新宿駅周辺高速バス停留所調整協議会、2013年3月25日に第1回東京駅八重洲口周辺高速バス停留所調整協議会を開催した。高速ツアーバス連絡協議会では、協議会内部に停留所対策委員会を設置し、関係各所への訪問に加え、バスターミナルや路上の新設停留所の確保、既存停留所の共用等の調整を開始するとしている。また、会員各社の取組例として、旅行会社による貸切バス子会社の新設(乗合事業許可も取得予定)や、貸切バス事業者が新車を乗合バス仕様で購入する例が紹介されている。ツアーバスから新高速乗合バスへの転換実例としては、アルピコ交通のさわやか信州号(季節催行)がある。同便は2012年度までは同社の貸切バス部門(アルピコハイランドバス)が運行するツアーバス形式で運行されていたが、2013年度の運行分から路線バスに転換した(ただし、アルピコ交通自体が元々高速路線バスの運行事業者であり、いわゆるツアーバス専業の事業者とは事情が異なる)。一方、高速路線バス事業者の中にも新制度を活用する動きが見られ、2012年12月には既存の高速路線バス事業者である京王電鉄バスが西東京バス・アルピコ交通に管理の委託を開始、西日本ジェイアールバスにおいても格安便を中心に日本交通 (大阪府)や帝産観光バスに管理を委託する動きが見られている。運賃の変更についても京王電鉄バスが、新宿-甲府線の2枚綴回数券運賃を期間限定で2000円(普通運賃片道は1950円)とするなど、各社がいわゆる季節性運賃の導入を発表している。2013年(平成25年)7月30日、国土交通省は新高速乗合バス事業を営む49社、及び新高速乗合バスの受委託を行う30社に対して道路運送法に基づき許認可を行った。翌31日をもって旅行業法に基づく都市間ツアーバスの運行は終了し、31日夜出発便から新高速乗合バスとしての運行を開始した。従来の都市間ツアーバスを運行していた事業者のうち7割は新高速乗合バス事業に参入していない。事業者の減少に伴い路線・便数の減少や運賃の上昇が懸念されるが、太田昭宏・国土交通大臣は記者会見で、2013年8月のピーク期に新高速乗合バス大手6社が運行するバスの便数は前年同月比で約3割減少していることを指摘した上で、「(既存の)高速バスを含めた全体の中でツアーバスのシェアは6%程度。その中の3割減少ということ」と述べた。
出典:wikipedia
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