ベクタースキャン(Vector Scan)とは、ブラウン管の輝点やレーザーなどを、直接、図形の形状に沿って振り動かし(スキャン、日本語で走査と言う)、図形を描画する方式のことである。プロッターによる描画も一種のベクタースキャンといえるであろう。民生機器ではかつて、ビデオゲーム(コンピュータゲームを参照)、特に専用ハードウェアをよく使うアーケードゲームにおいて使われていた。またコンシューマーゲーム機(ゲームコンソール(を参照))においても、表示装置をセットで販売したという例があり、同機は日本では「光速船」の名で発売された。なかには、ベクタースキャンしか出さないゲーム会社も存在した。この記事では(いまのところ)もっぱらゲームにおける利用に関して説明している。最初のベクタースキャンディスプレイはWhirlwindで開発され、SAGEで使用された。業務用機器では、解像度の限界なしに図形を表示できることからCADに使われた。CAD用にはメモリが安くなってVRAMがふんだんに使えるようになり高精細度のラスタースキャンディスプレイが出てくるまでは使われていた。航空管制用レーダーの一部機種にも、ベクタースキャンで航空機の情報をオーバーレイ表示するものがある。ベクタースキャンはラスタースキャンと対置される。ラスタースキャンは、点で直線状にスキャン(走査)して線を、その線で直角方向にスキャンして面を構成し、点の輝度(や色彩)の変化によって画像を描画する。走査によって描画する線を走査線と言う。液晶テレビやプラズマテレビは輝点を振っているわけではないが、画面全体を常に描画しているという点ではラスタースキャンのブラウン管と共通している。これに対しベクタースキャンは、要するにオシロスコープをX-Yモード(オシロスコープ#トリガの種類を参照)で利用しているようなもので、英語においてはベクタースキャンを"X-Y Plot"等とも呼ぶ。図形を描画する線を、輝点をその線に沿って動かして、直接描くわけである。走査によって描画する線はベクタースキャンでもやはり走査線であるが、一般に「走査線」の語はラスタースキャンのそれを指す感が強い。オシロスコープでは掃引(スウィープ)や掃引線(トレース)の語が使われる。ベクタースキャンのブラウン管には、ふつうのラスタースキャンのブラウン管と同様一定時間(リフレッシュレート)毎に再描画(リフレッシュ)するものと、一旦閾値以上の輝度で光らせた点は光り続けるよう工夫された蓄積管(、記憶装置タイプのブラウン管(ウィリアムス管)と区別するためDVST(Direct-View Storage Tube)とも。も参照)というブラウン管を使い、図形を描くコマンドが出た時のみ、画面上のある座標からある座標まで輝点によって線を引くという処理を行うものとがある。蓄積管は、一旦表示したものは全部いっぺんに消すことしかできない。蓄積管によるベクタースキャンディスプレイは、インタラクティブな表示が必要なゲームには向かないが、これをビデオ表示端末に応用した場合、ホストコンピュータとの間はわずかな帯域幅の通信機能でよい、表示装置自体が記憶装置を兼ねているため端末装置にはVRAMのような記憶装置が全く必要ない、などの利点があり、動画の必要性のないCADなどでは使われた。こうした仕様のため、描画できるのは「点」と「線」のみである。「線を組み合わせた簡単な図形や英数字」や「円や曲線」には向いているが、塗りつぶしやビットマップ画像の表示は困難である。しかし、細かくハッチングをするような処理をソフトウェア的に行えば不可能ではない。たとえば、光速船用ソフトでは、標準で文字描画にソフトウェアによる疑似ラスタースキャン描画を行っており、一部の海外製の光速船用同人ゲームではゲーム画面そのものを全てソフトウェアによる疑似ラスタースキャンで描画しているものもある。ワイヤーフレーム技術やポリゴン技術(ただしポリゴンの場合はエッジと可視性()処理のみ)で処理された図形や、ベクタ形式のイメージ(やはり塗り潰しを除く)の表示と相性が良い。しかしこれらと同一の技術ととらえるのは正しくない。ラスタースキャンの映像を生成する方式は、おおざっぱに2分すると、フレームバッファを利用するものと、スプライトを利用するものに分けられ、以下の説明は、それぞれそのどちらかに対してのものが多いが、特に注記しない。アーケードビデオゲーム史にベクタースキャンをからめて語る際に欠かせない人物が、ラリー・ローゼンタール (Lally Rosenthal)である。ローゼンタールはマサチューセッツ工科大学を1976年に卒業しているが、このマサチューセッツ工科大学は全てのテレビゲームの祖とも言われる『スペースウォー!』が作られた場所である。ノーラン・ブッシュネルは『スペースウォー!』のアーケード化を目指し「コンピュータースペース」を作り上げたが、これはラスタースキャン式であった。ローゼンタールは『スペースウォー!』にも使われていたベクタースキャン技術を(詳細は後述)、アーケードにも使える様さらに改良、この権利をアタリ(前述のブッシュネルが創業)やミッドウェイにも売り込んだが、売り上げをローゼルタールと売り込み先で折半するという無茶な要求だったため、断られていた。そこにアタリ『ポン』の大ヒットをきっかけに、ジム・ピアーズなどがサンディエゴ近辺で創業したシネマトロニクス社が現れる。同社は新しいゲームを作る力が無く倒産しかけていた為、ワラをもつかむ思いでローゼンタールに飛びついた。そして発売された『スペースウォーズ』は、アメリカでは『ポン』と『スペースインベーダー』の間で最もヒットしただけでなく、当時のアメリカとしては長期間ヒット保ったゲームとなり、同社はベクタースキャンゲーム専門の最も有名なゲームメーカーとなった。ローゼンタールも権利料で大きな収入を得たが、他社もベクタースキャンを使用する際にはローゼンタールに膨大な権利料を払う必要があり、この時期にベクタースキャンゲームを出した会社の数が限られていたのは、ローゼンタールの権利料の問題があったためと思われる。だが『スペースウォーズ』完成後、ローゼンタールはシネマトロニクスの販売担当者のビル・クレーバンズと共にシネマトロニクスを退社してしまい、この時開発ツールをはじめ、開発に関するあらゆる資料を持ち去ってしまった。そこでシネマトロニクスでは入社したばかりのティム・スケリーが技術解析を行った事で、その後の危機は回避する事が出来た。このスケリーが最初に作ったゲームが『スターホーク』である。そしてローゼンタールは同年末、クレーバンズとベクタービーム社を創業、『スペースウォーズ』とほとんど同じゲームを販売した。これは訴訟にまで持ち込まれたが、結局一年後にシネマトロニクスがベクタービームを100万ドルで買収する事で合意、ローゼンタールはこれに満足したのか、やっとゲーム業界から去った。ただしベクタービームの資産は半年たたない内にすぐエキシディ社に売却されている。しかもシネマトロニクスはローゼンタールに払った金額が多すぎた為、今度は資金難に陥ってしまった。なおシネマトロニクスはベクタースキャン専門と記したが、晩年にはレーザーディスクゲーム『ドラゴンズレア』でもヒットを飛ばし、寿命を少し伸ばす事ができた。1980年代半ばになるとコンピュータの技術が飛躍的に向上し、ラスタースキャンでも何ら処理速度は変わらず、視覚的効果ではむしろベクタースキャンを上回る様になり、ベクタースキャンゲームは作られなくなった。しかしその独特の映像に、今でも魅力を感じるファンは多い。現在は前述通りラスタースキャンの技術が進歩した為、家庭用ゲーム機の復刻ゲームやMAMEにおいて、当時のベクタースキャン映像を体感する事が出来る。ただしあくまで描画をソフトウェアによりラスタースキャンモニタ上にエミュレートするのみであり、描画エミュレート方法も日々進化しているが、物理的な問題から見た目では依然大きな差が付いている。アーケードゲーム基板として、ラスタースキャンとベクタースキャンどちらでもカラーで対応可能なG80基板を採用している。なお晩年には技術部門がやはりエキシディに売却されている。
出典:wikipedia
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