年金記録問題(ねんきんきろくもんだい)とは、第1次安倍内閣当時の2007年2月以降、国会の社会保険庁改革関連法案の審議中に社会保険庁のオンライン化したデータ(コンピュータ入力した年金記録)にミスや不備が多いこと等が明らかになり、国会やマスコミにおいて社会保険庁の年金記録のずさんな管理が指摘され、国民から批判されたことである。第21回参議院議員通常選挙で与野党の逆転を招いた原因の一つと言われている。第45回衆議院議員総選挙で政権交代した後、鳩山由紀夫首相は、問題解決への国民の期待が政権交代の原動力になったと述べている。2007年秋頃から厚生年金基金においても類似の記録問題が明らかとなった。1997年1月の基礎年金番号導入時、社会保険庁は、基礎年金番号通知書と共に、「現在加入している制度以外に公的年金に加入したことがあるかどうか(複数の年金番号を持っているかどうか)」を回答するハガキを送り、申し出た人と氏名、性別、生年月日の3項目による名寄せを行うことにより、合計約1,818万件を対象に、1998年度から2006年度にかけて順次照会を行い、年金手帳の基礎年金番号への統合を進めてきた。2007年2月に社会保険庁は平成19年(2007年)度の事業計画案の中で、特別強化体制により、基礎年金番号への過去記録の統合・整理等を進めるとした。しかし、2006年6月時点において、コンピュータに記録(年金番号)があるものの、基礎年金番号に統合・整理されていない記録が約5000万件(厚生年金番号4000万件、国民年金番号1000万件)あることが判明し、社会保険庁が年金記録をきちんと管理していないことが指摘された。これが、いわゆる「宙に浮いた年金記録」である。社会保険庁は、約5000万件の統合されていない過去記録(年金番号)は、まだ年金を受給していない人の年金番号であり、年金を受給する段階では基礎年金番号に統合されること、また、死亡したり、受給資格を満たさなかった、年数が足りなかった等で受給要件に達しなかった人の年金番号も残っているとし、問題はないとする見解を示した。しかし約5000万件の過去記録の中には、現在、年金を受給中の人の基礎年金番号に統合されていない記録(年金番号)が含まれており、本来受け取れる年金額より少ない金額が支給されている(年金支給漏れ)のではないかという疑惑が持たれた。また、過去の紙台帳からコンピュータへの記録の転載が不正確なことも判明した。さらに、納めたはずと主張する国民年金保険料の納付記録が、社会保険庁のデータ(年金記録)や自治体の台帳になく、保険料の領収書を残していなかったことで納付証明ができず納付と認められないケースや、給料から天引きされていたはずの厚生年金保険料の納付記録(被保険者記録)が、社会保険庁のデータにないことが判明したケースがあった。これが、いわゆる「消えた年金記録」である。加えて、社会保険事務所が、厚生年金の標準報酬等の記録をさかのぼって訂正した不適正な事務処理「消された年金記録」も判明した。2007年6月に日本国政府は、社会保険庁や市町村に年金記録がなく、本人にも領収書等の証拠がない場合(消えた年金記録)には、全都道府県にある総務省行政評価局の相談窓口に設置する「年金記録確認第三者委員会」(弁護士や社会保険労務士等で構成)が、年金を支給するかどうかの総合的な判断を示すとした。また、総務省に「年金記録問題検証委員会」を設置し、外部有識者に今回問題化した年金記録の管理・事務処理について、経緯、原因、責任等の調査や検証等を行わせたが、10月に出した報告書では、社会保険庁における多くの問題に対して、組織的に十分な改善対策が長期にわたって執られてこなかったことが今回の年金問題につながったとし、業務の総括責任者である歴代の社会保険庁長官を始めとする幹部職員の責任は最も重いとされた。政府の年金記録問題への取組は、2007年7月の政府・与党取りまとめ及び2009年3月「今後の道筋」等に基づき進められた。2009年12月、鳩山由紀夫首相は、日本年金機構の初代理事長に内定している紀陸孝氏ら役員と面会し、年金記録問題に重点的に取り組むよう求め、「記録問題を何とかしてほしいという国民の期待が、政権交代の原動力になった」と述べた。2007年6月、年金時効特例法が成立。従来の法(国民年金法第102条、厚生年金保険法第92条)では、年金給付を受ける権利は、5年を経過したとき時効によって消滅するとされていた。複数の加入記録がありながら、それを請求していなかった場合は、請求時から5年分しかさかのぼって給付を受けることができなかったが、この法律により、受給できるようになった。2007年12月、厚生年金特例法が成立。事業主が従業員から保険料を給与天引きしていたにもかかわらず、届出を行っておらず納付をしていなかった場合に、給与天引きがあったことが第三者委員会で認定されれば、厚生年金の額に反映されることとなった。今までの厚生年金保険法では、保険料の徴収権が時効消滅となる2年を経過している場合は、年金給付に反映されることができなかった。2009年5月、年金遅延加算金法成立、2010年4月30日施行。社会保険庁の記録漏れで年金が未払いになっていた場合に、物価上昇分を上乗せして支給する。加算金は過去5年を超す未払い期間が対象で、5年以内の人には支払われない。2009年5月、年金延滞金軽減法が成立し、2010年1月から施行された。企業が厚生年金などの社会保険料を延滞した際の利息を引き下げる。2007年6月14日、総務省は行政評価・監視機能の一環として、年金記録問題発生の経緯、原因や責任の所在等について調査・検証を行う年金記録問題検証委員会: (松尾邦弘座長)を発足させ、年金制度や情報システム等に詳しい外部有識者が、年金記録の管理・事務処理に関して、今回問題化した諸事項について、その経緯、原因、責任等の調査や検証を行った。2007年10月31日、同委員会は検証結果の報告書を公表し、年金記録問題の原因と責任の所在について以下のとおり報告した。報告書では、年金記録問題発生の根本は、厚生労働省及び社会保険庁の年金記録管理に関する基本的姿勢にあると結論づけ、その原因として次の要因を挙げている。報告書では、約5,000万件の未統合記録が存在することの原因として、次の要因を挙げている。これに加え、年金記録を電子化するさい、紙記録を廃棄させる命令が出されたこともあげられる報告書では、上記の年金記録問題発生の直接的な要因を助長する背景となった要因に、社会保険庁の組織上の問題点があると指摘している。報告書では、責任の所在を次のように結論づけている。報告書の最後では今回の調査・検証を踏まえた上で、今後の主な教訓を次のように述べている。2007年7月5日の政府・与党取りまとめ及び2009年3月31日の「今後の道筋」等に基づき進められている。(2009.10現在)2007年6月22日、年金記録の確認について、社会保険庁側に記録がなく本人にも領収書等の証拠がない場合に、本人の立場に立って、申立てを十分に汲み取り、様々な関連資料を検討し、記録訂正に関し公正な判断を示す年金記録確認第三者委員会(梶谷剛委員長)が設置された。なお従来の法律では、被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に処分に不服がある場合は、社会保険審査官に審査請求をし、その決定に不服がある場合は社会保険審査会に再審査請求することとされている。第三者委員会は、国家行政組織法第8条の審議会等として、中央委員会が総務省本省に、地方委員会が、各管区行政評価局、沖縄行政評価事務所、四国行政評価支局、各行政評価事務所、各行政評価分室の全国50か所、都道府県庁所在地等に設置されている。2007年6月25日に発足した中央第三者委員会は、本人の立場に立った公正な判断を行うための判断の基準などの審議と他の申立てのあっせんを行うに際しての先例となる事例のあっせん案の作成を行う。7月に発足した地方第三者委員会(全都道府県)は、申立てについて、策定された判断の基準などに基づき、本人の立場に立った公正な判断を行い、あっせん案の作成を行う。委員は、非常勤の国家公務員であり、専門性及び識見の高い法曹関係者、学識経験者、年金実務に精通した者(社会保険労務士、税理士、市町村住民行政関係者等)、その他の有識者等から任命され、「消えた年金記録問題」や「年金記録不備問題」等の個別苦情事案に対応する。2009年6月、第三者委員会は、設置されてから2年が経過し、その間約7万件の申立てについて調査審議を行った経験を踏まえ、2年間を総括するため報告書を作成し公表した。この報告書では、同委員会の活動実績の説明と処理事案の分析が行われている。2009年12月25日、第三者委員会は、2009年3月の年金記録問題に関する関係閣僚会議で定められた「2008年度に年金受給者から申し立てられたものについては、遅くとも2009年中を目途に処理を終えることとする。」との目標については、処理済み(受付件数35,451件のうち、35,427件(99.9%)を処理)となり、目標を達成したことを公表した。また、累計では、受付件数124,446件のうち、101,022件(81%)が処理済みとなっている。以下は、第三者委員会が2年間に約7万件の申立について調査審議を行った活動実績の説明と処理事案の分析結果についての報告書(2009年6月)の概要である。元来、日本の年金制度は職種別に作られており、各年金制度の記録を繋げるシステムがなかったため、年金の裁定請求は申請主義を取ってきた。そのため、転居や転職などにより別の制度に移る際に申請の届出がなされない場合には、記録が途切れてしまうという可能性が制度的にはあったとされる(国会での政府答弁)。また、行政管理庁(現:総務省行政評価局)が1958年度の行政監察で1950年から1957年にかけて整備された戦後の年金記録の台帳について「整備後も整備不能、整備不完全、不明台帳が少なからず残されている」と報告しており、当時から年金記録の不備が指摘されていた。その後、コンピュータシステムができて、1974年から年金記録をオンライン化し1989年に完成した。しかし、年金記録を繋げるシステム開発は行われなかった。1997年1月に基礎年金番号を導入し、基礎年金番号通知書(約1億通)が郵送で送られたが、統合処理は通知書についていた本人からの回答書(ハガキ形式)及び氏名・生年月日・性別・住所で検索して一致した人に対して(約1割)行われただけであった。統合処理を進める計画性がなく、統合チェックもされなかった。社会保険庁改革関連法は、2007年6月30日に野党三党の反対の中、自民党・公明党の賛成多数により成立した。当時の安倍首相によれば、不祥事を重ねた社会保険庁を2010年に解体し、日本年金機構の新設による職員の非公務員化が柱であった。民主党は、「日本年金機構」の新設に反対し、その対案として「歳入庁法案」を国会に提出したが、当時の安倍首相からは、「さまざまな問題があった社保庁を公務員組織のまま温存する案だ」として批判された。これに対し民主党の山井和則議員は「今でさえ加入記録が分からないのに(政府案通り)特殊法人化すればさらにうやむやになる」と反論した。また、職員の給与は税金から支払われる「みなし公務員」であると批判した。また、公務員労働組合(全日本自治団体労働組合、日本教職員組合、日本国家公務員労働組合連合会など)は、公務員改革法案に対しては、能力・実績主義を押し付ける内容だとして反対を表明していた。自民党の中川秀直は、「社保庁改革案があったため、解体されて非公務員化されれば、いずれ隠していた年金記録問題が明るみに出てしまうので、それならばということで、改革案潰し(自民党潰し)のために社保庁が『自爆テロ』として年金記録問題の情報をリークしたのではないか」と語った。2008年7月29日、閣議決定された日本年金機構の業務運営に関する基本計画の中で、国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から、社会保険庁からの採用は、懲戒処分を受けた者(ヤミ専従、年金記録のぞき見、年金横領、年金改ざんを行った職員等)は採用しないとされた。ただし、機構に採用されない職員については、退職勧奨、厚生労働省への配置転換、官民人材交流センターの活用など、分限免職回避に向けてできる限りの努力を行うとした。全日本自治団体労働組合の岡部謙治委員長は、民主党の仙谷由人衆議院議員同席で問題のあった社保庁職員の分限免職回避・雇用の確保を前政権の舛添厚生労働大臣に要請していたが、結果的に2009年12月28日、長妻昭厚生労働大臣は、懲戒処分を受けていた251人の職員を含めた525人を分限免職とする方針を決定し公表した。また、当時の社会保険庁長官渡辺芳樹も、1996年の厚生省汚職事件に関して減給の懲戒処分を受けていたため、機構に副理事長として採用されず、他のポストへの異動も認められなかったことから、12月31日付で退官した。「自治労国費評議会(現・全国社会保険職員労働組合)」は年金記録検証委員会の報告書で指摘されたように、オンライン化に反対し、その導入にあたっては社会保険庁と、「コンピューター入力の文字数は一日平均5000字まで」「端末の連続操作時間は45分以内」「45分働いたら15分休憩」「ノルマを課してはならない」などの内容を含む「覚書」「確認事項」をいくつも結んでいた。これらについて、産経新聞は2007年6月16日付の紙面で、下記のように労組を批判する記事を掲載した。また、読売新聞は、2007年6月16日付の紙面で、上記の「覚書」等を指摘した上で、「実際に国民から『社会保険事務所が混雑しても、職員は平然と休憩している』『職員向けマッサージチェアの購入など年金保険料が流用された』といった批判が出ているのも事実だ。」と批判した。年金記録問題が大きな政治的争点に浮上したことにより与党は、これらの「覚書」「確認事項」を取り上げ、混乱を招いた責任は、職員の怠慢を引き起こした労組にあるとする主張を展開した。また一部メディアや言論人らも、同様の批判を行った。これら批判に対して自治労本部と全国社保労組は、6月11日付で「『年金記録問題』に対する基本的考え方」を発表し、これらの批判に対して以下のように反論した。年金記録問題は日本以外の外国でも発生している。アメリカでは年金財源を集める内国歳入庁と、年金を給付する社会保障庁との間に、米企業従業員の給与記録の不一致が10兆円以上に上ることが明らかになった。両者の記録の整合性をあわせるのに8年間要した。
出典:wikipedia
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