巡礼(じゅんれい)とは、漫画・アニメなどの熱心なファン(愛好家)心理から、自身の好きな著作物などに縁のある土地を「聖地」と呼び、実際に訪れることである。宗教において重要な意味を持つ聖地に赴く行為(巡礼)から転じてドラマや映画、漫画・アニメ・小説などの舞台となった場所や、スポーツなどの名勝負の舞台となった場所、登場人物の名前の由来地や同名地など、本人にとって思い入れのある場所を「聖地」と呼び、この「聖地」を実際に訪れ、憧れや興奮に思いを馳せることを、「巡礼」と呼ぶようになった。一般には各フィクションの舞台になった場所を探訪することから、「舞台探訪」、あるいは映画などでは「ロケ地巡り」などと呼ばれる。実写の形で公開されるテレビドラマや映画のロケ地が名所となるような事例に比べ、漫画・アニメに端を発する聖地巡礼では、聖地とされている場所(地名)で、そこであると作中において明確に示されているわけではないにもかかわらず、ファンから神聖視されるという点が異なる。通常の意味で「聖地」とされる場所は、視覚的にもそれ以外の場所から区別されるようになっているのに対し、アニメファンなどが巡礼の対象とする「聖地」は、それまで通りの風景をほとんど変化させることなく、なんらかのいわれを付加するだけで成立している。巡礼の対象となる場所は“聖地”と呼ばれるが、この「聖地」の主な類型には以下のものが挙げられる。こうしたファン行動のはしりとしては1990年代からその萌芽はあったとされる。アニメや漫画などに限らなければ、様々な文学作品・映画の舞台を訪れるといったことはそれ以前から数多く見られた。アニメに限れば、特に作品(メディア)側がロケ先等の具体的地名を隠さずメタフィクション的に作品に取り入れていき、その結果としてファン側が「聖地」を発生させた例として『究極超人あ〜る』OVA版が、一方でロケ地のみならず登場人物名や作内の固有名詞に一定圏域の地名に由来する命名を用い、積極的にこれらのロケ地および命名由来地を結びつけて「聖地」とアピールし、メディア側からニーズを掘り起こした例として『天地無用!シリーズ』などが、その筆頭かつ代表例として挙げられる事が多い。逆にメディア側のアピールに拠らず「ファンがロケ先を探し出して探訪する」という形式による場合は『美少女戦士セーラームーンシリーズ』を源流に挙げるケースが見られる。以降、テレビアニメが聖地巡礼を誘発した初期の例としては、2002年放送の『おねがい☆ティーチャー』が挙げられるが、特にゼロ年代末の聖地巡礼ブームのきっかけとなったのは、2007年に放送された『らき☆すた』である。『らき☆すた』に後続する聖地巡礼を呼び起こすようなアニメでは、しばしば「実際の風景や建物の写真を用意し、それをトレースしてアニメの背景を作る」という手法が採用されている。アニメ化に際して原作の舞台となった場所のロケーションハンティングを行うこと自体は以前から行われていたが、それが聖地巡礼として結びついたのは『涼宮ハルヒの憂鬱』がきっかけであり、原作者谷川流の出身校でもある兵庫県立西宮北高等学校が聖地巡礼の対象となった。2012年3月7日にNHK総合テレビの報道番組『クローズアップ現代』にて、アニメの聖地巡礼の特集(題は「激変 アニメ産業 聖地巡礼の謎」)を放送したことがあった。美術家であり批評家でもある黒瀬陽平は、アニメ製作の際に現実の風景をトレースする手法について「この手法を用いると、アニメという虚構空間の中に現実空間の風景がそのまま入り込むことになり、齟齬を生じさせることになるが、そのようなぎこちなさこそが作品にリアリティを与える」ということを、美術史家のアビ・ヴァールブルクが提唱した「情念定型」という概念を駆使して説明している。文芸評論家の福嶋亮大は、前述したようにもともとあった土地に「謂れ」を付加するだけで聖地化されることに注目し、聖地巡礼は現実の「いま」(正史)に対してなんらかの架空の起源(偽史)を与える偽史的想像力のひとつだと論じている。評論家の宇野常寛は、ゼロ年代の日本の現代社会において、デジタル技術でいうところの「仮想現実(VR)から拡張現実(AR)へ」というテーゼと同様の流れが文化空間でも進行しているとし、その一例としてアニメの聖地巡礼ブームを挙げている。つまり、緻密に設計された虚構世界へ消費者を没入させるタイプのものから、物語性を後退させた空気系へとトレンドが変遷したのに従い、「虚構」の作用が「異世界へ接続すること」ではなく「現実世界を読み替えること」に変化しているのだと考えられる。批評家の村上裕一は、(前述の黒瀬や福嶋の論考などを受けて)「現実と虚構の狭間」に存在するのが聖地であり、それを虚構に射影すれば「風景」になり現実に射影すれば「巡礼」になると整理している。このように考えれば、もともと土地と結びつけて論じられはじめた聖地巡礼という概念はより広い範囲に一般化することが可能となる。例えばアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』でのエンディングテーマ曲の振り付けを実際に踊ることが流行した事例(ダンス=身体の聖地化)や、アニメ『けいおん!』のヒットに伴い作中に登場するギター(ギブソン・レスポールなど)が現実で売り上げを伸ばした事例なども広義の聖地巡礼的な現象といえる。有名作品の舞台または原作者の出身地となると、登場人物の思いや心境に馳せようと多くの人が訪れることとなり、観光資源としての価値が生ずる。特に、テレビアニメになると関東広域圏・関西広域圏の広域テレビ局で積極的に放送されることによる宣伝効果が期待される。また、関連グッズが販売されることや、それに付随して特産物や土産物なども買われていくだけでなく、宿泊施設、飲食店、交通機関などの需要も増す。加えて自治体による自発的な宣伝ではない自然発生的なものもあるため、宣伝・広告に費用を必要としないケースも多い。更に連載・放送終了後もファンによる探訪が断続的に行われる。したがってこれらは観光振興として自治体としてもシナジーが大きい。このため戦後から町おこしの一環として地元自治体、観光協会およびフィルム・コミッションなどが積極的に作品制作に協力したり、作品の舞台となった事実を宣伝し活用する例も増えている。地元の商店などが作品ポスターを掲示して盛り上げたり、ロケ地などの関連ポイントの地図を作製したり、地元サイドによって来訪者のコミュニケーションを目的としたノートが設置されることもある。その主となっていたのは一般小説・映画・テレビドラマであり、漫画・アニメ・ライトノベルに関しては消極的であったが、水木しげるの出身地である鳥取県境港市が『水木しげるロード』を整備し、鬼太郎のまちとしてPRして成功を収めたことで転機を迎え、後に藤子不二雄Ⓐの出身地である富山県氷見市でも『忍者ハットリくん』にちなんだ町おこしを行うなどしている。また、近年では観光振興とは別に作品の舞台となった土地のPRを目的とする例もある。埼玉県春日部市では『クレヨンしんちゃん』の主人公一家・野原家に特別住民票を与え、子育て応援キャラクターとして育児、教育のプロモーションを行っている。2005年の『電車男』ヒットに伴い、オタク文化(俗に萌え文化・萌え産業)が一般に浸透するようになると、一般知名度が低いマニア向けアニメ作品などによる経済効果もニュースで採り上げられるようになり、長野県大町市(『おねがい☆ティーチャー』『おねがい☆ツインズ』)、埼玉県鷲宮町(現:久喜市)(『らき☆すた』)、宮城県七ヶ浜町(『かんなぎ』)などはその典型例であるといえる。これらは前述のドラマ・映画などと比較し、その影響者(おたく層)の絶対数が少ないものの、関連グッズ販売の回転率が良いことが特徴であり、地元商店街などに活性化をもたらす例もある(またドラマや映画と違い、出演俳優の財産権が発生しないことで高額な広告料が不要であり、グッズも比較的安価で制作できるのも大きい点といえる)。特に鷲宮町の事例はおたく向けコンテンツの町おこしへの活用の成功例として学術的・経済的見地から高い注目を集めるまでとなった。また、和歌山県みなべ町では『びんちょうタン』が地方公共団体の運営施設のキャラクターとして使われた。2009年にはお台場に実物大のガンダムを設置し、わずか公開2週間で見物客が100万人を突破した。一方神戸市長田区では同市出身の漫画家・横山光輝にちなんで巨大な鉄人28号像が建設されている(既に横山版『三国志』にちなんだ町おこしは行われている)。また、作者尼子騒兵衛の出身地である兵庫県尼崎市が『忍たま乱太郎』の聖地として若い女性ファンが多く押し寄せるようになったことが読売新聞で記事として掲載され、見出しに「萌え」という表現を用いている。また地元を舞台とした新たな作品を世に送り出すため、自治体が中心となって漫画やライトノベルなどのコンテストを主催するケースもある。熱心なファンが愛媛県松山市への巡礼を行った映画『がんばっていきまっしょい』も、松山市が主宰する「坊っちゃん文学賞」を受賞した青春小説が原作である。経済的な利点にとどまらず、コンテンツのファンからその地域への愛着の創出、タイアップ事業を通じて地域の事業者間の交流が深まるなど、人的つながりを広めていく効果もある。北海道大学准教授の山村高淑は下記のようなトライアングルモデルを著した。三者が、コンテンツを敬愛することで良好な関係が成り立つものであるとしている。巡礼の対象となっている場所は視覚的区別の見られない施設や建物が多く、一般の住宅や学校などの施設が近隣に含まれている場合もあり、事情を知らない地元住民に不安を与えるなどして日常生活の妨げ・迷惑になる可能性がある。テレビ番組が巡礼のきっかけになった場合、その多くは放送期間3か月(1クール)から1年間程度なので、そのテレビ番組の人気が一過性のブームである場合は、急増した巡礼者(観光客)の受け入れ態勢が整った頃にはブームが過ぎ去り、対象となった場所は混乱や負担が残るだけに終わることもある。後述する「アニ玉祭」主催者側も、これらの点を指摘している。また、テレビアニメ(特に地上波民放やCS放送の深夜アニメ)の場合、実写作品と異なり出演者が参加するロケ撮影が行われることはないうえ、舞台となる地元のローカル局・自治体・商工会などによる宣伝があまり行われないことも多いため認知度・認識も低く、先の場所事情も含め『地元が勝手にアニメで使用された』とみなされることもある。またこれはフィルムツーリズムにおいても同様のことは起こりうるが、巡礼者が(作品と事情を知らない地元住民から見て)不審者とみなされるような奇怪と見られる行動をすることがあり、中にはマナー違反や明らかな違法行為に出る者もいる。例として、前述した『涼宮ハルヒシリーズ』の原作者の出身校で、主人公らが通う学校のモデルとされる兵庫県西宮市の県立高校の敷地に侵入し、落書きをする者がいたり、アニメ『Free!』のモデル地とされる鳥取県岩美町の荒砂神社に落書きをされているのが見つかり、インターネット上で批判が殺到する事態となっている。こうした事情・理由から作品によっては、発行元・製作者が「聖地巡礼の自粛」を呼びかけた例もある。もっとも、このような違法行為・マナー違反の問題については、漫画・アニメなどの舞台地とされる地域に限らず全ての観光地においても起こりうることではある(「マスツーリズムの弊害と批判」も参照)。
出典:wikipedia
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