歯科医師過剰問題(しかいしかじょうもんだい)とは、主として歯科医師免許取得者が増加し、需要と供給のバランスが成り立たなくなる社会問題を指す。医科におけるあらゆる診療科全ての医師を養成する医学部定員が約9,000人であるのに対して、歯学部単独での定員が約2,500人であることからも歯科医師の供給が過剰であることは明らかである。平成22年度調査で初めて歯科医師数が10万人を突破し、急速な増加傾向を示している。そのため、受診患者数の減少・保険点数の引き下げ等の影響を受けて、全国的に歯科医院間での競争が激化、それに伴って経営状態が年々悪化している。さらには、廃業(倒産)を選択せざるを得ない歯科医院も増え、特に東京都内では1日1軒のペースで廃院に至っている。現在、全国統計でコンビニエンスストア店舗数より歯科医院数が多く(コンビニ数の1.6倍、2011年)、 収益悪化の対策として日曜診療や深夜診療等を行う歯科医院が増加している。 厚労省の2005年医療経済実態調査などによれば、歯科開業医(1医院の平均歯科医師数は1.4人)の儲けを表す収支差額の平均値は1か月当たり120万円程度であり、これを歯科医1人当たりの平均年収に直すと約737万円になるが、歯科医師の4人に1人は年収200万円以下となっている。特に地方の歯科医師過剰地域では収入が減少して経営状態が悪化する傾向にあり、札幌市中央区の開業歯科医の平均年収は300万円以下となっている。帝国データバンクによると1987年度 - 2004年度に発生した医療機関の倒産は全国で628件あり、その約43%(268件)を歯科医院が占めている。厚生労働省の調査によれば、2007年度の推定平均年収は約737万円となっているが、高額な先行投資(私立大学歯学部授業料や開業資金等)が必要であることを考慮すると、投資額を除いた実質的な収入は一般的なサラリーマン程度であるとの指摘がある。一般に歯科医師は高収入というイメージが強いが、実際の平均収入はそれほど多くはない。また、収入が年々悪化するため、歯科医師をワーキングプアとしてとりあげる報道も増加した。こうした状況を受けて、東京歯科保険医協会が都内の歯科医師を対象とした2009年調査で、「子どもを歯科医師にしようと思う」と答えたのは7%と、調査を開始した1983年の23%から大幅に減少した。歯科医院の所得減少に対して私立歯科大側から歯科医に対し、「歯科医院はヤリカタ次第でまだまだ儲かる」と言われてきたが、そういった努力は限界を迎えたとの声が大きい。歯科医師数は平成2年時と平成20年と比較すると約3割増加している。その間、医療制度改革で歯科医療行為あたりの診療平均単価が約15%減少した。国民医科医療費がその間(平成2年〜平成20年)、大幅増加(約20兆円/年 → 約30兆円/年)だったのに対し、国民歯科医療費はほとんど増加していない(約2.5兆円/年のまま)。政府は今後、歯科医の適正数などの調査を実施したうえで、抑制策の詳細をつめる。具体的には、歯大や歯学部の統合・再編を促して入学定員を早期に1割削減するほか、国家試験の合格基準を引き上げて合格者を絞り込む(第103回歯科医師国家試験(2010年)には新基準での歯科医師国家試験が行なわれた。歯科医師の数は、保険診療を主体とした上で高収入が得られるという条件では人口10万人に対して50人が妥当とされている。こうした歯科医師過剰対策を厚生労働省が行っても解決の糸口が見えないため、経営不振の歯科医院は廃業に追い込まれ、職に就けない歯科医師が増加し、また学生の集まらない私立歯科大は廃校に追い込まれる「自然淘汰」を待つしかないといわれている。う蝕(虫歯)が社会問題となりはじめ、歯科医療の充実が叫ばれつつあった1960年頃、日本には歯科医師養成大学が東京歯科大学、日本歯科大学、日本大学、大阪歯科大学、九州歯科大学、東京医科歯科大学、大阪大学の7校しかなく、国は歯学部の新設を推進した。1965年までに6校に歯学部が設置され、その後1980年代前半にかけて16校に歯学部が新設・増設され現在に至る。2010年現在で、国立大学11校、公立大学1校、私立大学17校となっている。以前より歯科医師過剰問題のひとつの要因として、歯学部新設・増設後に歯科受療率が横ばいから低下したのにもかかわらず、現存の歯学部歯学科の入学定員を減少させていないことが指摘されている。国公立では定員を70人台に削減している学部も存在するが私立大学の場合は定員の減少は経営を圧迫する要因となり安易に踏み切ることは出来ない。この問題に拍車をかけたと考えられているのが、昭和30-40年代に行われた歯学部と定員数の増加である。この定員数の増加は社会的要請にかなったものではない。国(厚生労働省)および日本歯科医師会は、私立歯科大学に対して幾度かの定員減を要請しているが、実際の定員減はほとんど行なわれていない。定員の合計は国公立が約500人(12大学)、私立が約2,500人(17大学)であるが、私立大学側からは、むしろ。しかし、歯科医師数の過剰感と歯科医師の収入低下、昨今の不景気、大学受験者総数の減少、医学部定員の増加、歯科医師国家試験合格率の低下、私立歯科大の高額な授業料などが要因で歯学部が受験生に不人気となり、2008年度大学入試から私立歯科大・歯学部の定員割れが目立つようになった(私立歯科大学定員割れ問題)。2010年度大学入試では、全国17の私立歯科大・歯学部のうち、入試競争率が2倍以下の大学・学部は14校 (82.4%) で、そのうち松本歯科大では81人の受験者全員が合格となり、事実上全入である私立歯科大が出始め、将来の歯科医師の質的劣化による歯科医療水準の低下が懸念されている。大学関係者の中には、学問の自由などを根拠に定員の削減等に反対する者も少なくないが、歯学部については、公共性の高い専門職の養成機関でもあることから、定員・補助金・統廃合などに関して、相応の国策的な制約を受けることはやむをえないとする意見もある。国としては歯学部の定員の削減を更に図るとともに、歯科医師国家試験の難易度を上げ、歯科医師免許交付率を下げることで歯科医師の過剰を抑制しようと考えている。事実、この施策を講じ始めた2004年度(第97回)の歯科医師国家試験は、合格率74.2%と史上2番目(当時)の低率となり、中には受験者の半数近くが不合格となる大学もあった。内訳は、国立大学590名(合格率 87.4%)、公立大学76名 (82.6%)、私立大学1,529名 (68%) となっている。しかし、毎年輩出される歯科医師国家試験合格者数(第108回合格者は2,003名)と厚生労働省が発表した現状歯科医師数を維持するに必要とされる歯科医師国家試験合格者数(約1200名)とが大きくかけ離れているため、結果的にそれを放置した形となった厚生労働省を非難する声もある。歯科医師国家試験合格率が低い大学は国からの補助金が減らされるため、特に私立歯科大では卒業時に学部生を留年させて合格率を調整する。近年、卒業時における歯学部生の留年率は高くなる傾向にあり、国の歯科医師国家試験合格率低下策の影響も重なって、私立歯科大では国家試験の合格者が半数以下にまで落ち込んでいるところもある(松本歯科大(23.6%が合格)、奥羽大学歯学部 (30.0%)、岩手医科大歯学部 (47.9%)、鶴見大学(49.4%)、 など(2014年度))。その結果、私立歯科大学が経営していくために入学定員を減らせない都合上、留年率と浪人率、学部生の退学率が高まる新たな問題を引き起こしている。大学によっては定員不足による収入減分を補うために、進級試験の難易度を上げて留年させ、その分を補填させることもできるため、留年率30%以上の大学もある。結果として、歯学生が入学から歯科医師免許取得までの期間が延長し、一方で歯科医師になれなかった学生数が増え、これからの歯学部入学は時間的または資金的投資が無駄になるか、あるいはそれらの投資がかかり過ぎで歯科医師の実際の収入に見合っていないとの指摘がある。最低修業年限(6年)での国家試験合格率は、2013年度では徳島大学(92.5%)から松本歯科大(8.5%)まで各大学でかなりの差があり、問題点とされている。歯科医師過剰問題のもうひとつの要因として、高齢の歯科医師が引退せずに診療を続けていることが指摘されている。歯科医療行為の特性上(視力、手先の器用さ、瞬時に診断を下す頭脳、体力などが必要)、新しく国家試験に合格する者の人数を抑制するだけでなく、年配歯科医師の診療現場からの現役引退(歯科医師定年制)を促進する必要があると考えている歯科医療関係者は。なお、歯科医師定年制はドイツなどで導入されている。歯科医師過剰により歯科医院数が増えることや歯科受療率の低下で、歯科医院収入は低下傾向にある。過当競争・予防知識の周知・再発率の低下・少子化による人口減少・格差社会による低所得者層の増大・先行き不安感などから、家計費における優先順位の低い傾向のある歯科医療費は減少傾向にあり、歯科医院収入の低下が問題となっている。歯科業界においても一部の医院で収入の低下が見られ、経費節減のため診療時間外に技工作業等を行うことによる労働の長時間化が認められる。人件費を節約したり、経費の節約としてアシスタント(歯科衛生士等)を使わずに単独で診療を行うケースもある。保険点数の決まっていない技工物に対しての価格値下げ要求、未承認歯科材料の使用や中国・東南アジア製技工物の導入問題がある。また、現在の治療ありきの保険点数制度も経営を圧迫していると指摘されている。う蝕(むし歯)や歯周病が生活習慣病の一つであると言っても過言でなく、歯科において重要なのは治療よりも予防であり、生活習慣病である以上、生活習慣の改善(正しい食習慣とブラッシング(指導)習慣、フッ素・キシリトール入りガムの使用など)によって概ね予防が可能であることも事実である。ところが一般的に、緊急性や即時に命にかかわる可能性の低い歯科の予防的(原則として生活習慣の改善に向けての暫定的な)通院を、日常生活において優先順位を低く位置づけて(軽視して)しまう人は多い。国民のQOLの向上と口腔衛生への意識向上、そして歯科医院の収入安定・収入向上のためにも予防関連の診療行為をもっと評価し点数を配分するべきであるという意見もある。なお、生活習慣病に対する合理的な評価方式は、疾患の発生率・再発率の低下に比例して、点数(医療機関の収入)が増加するような一種の定額方式(人頭払い制など)であると考えられている。しかし、定額制では、真に必要な診療まで控えられる可能性も否定できないため、日本の歯科保険制度においては出来高を基本としつつ、各種の指導・管理料等により定額制への移行を試みている段階にあるとみられる。ただし全般的に低い点数であるため、その効果を十分ではないとする声もある。前述した歯科疾患有病率の低下は、歯科医師をはじめとした歯科医療関係者がう蝕(むし歯)の治療に尽力した結果と言っても過言ではない。しかし、う蝕予防や歯周病予防・治療にも積極的に取り組み、口腔衛生についての国民の理解を得る努力をもっと早期に始めていれば、歯科受療率の低下はもう少し抑えられたであろうという意見もある(受診率低下抑制の一部は、予防知識の普及・生活習慣の改善・歯科医療関係者の予防に向けての努力によってもたらされたものでもあるのだが)。もちろんある程度のレベルまでは、歯科医療関係者の努力に比例して、真に治療・生活習慣の改善が必要な患者の受診率の低下を抑えられたかもしれない。しかし、歯や口腔に対して、どの程度の関心や費用を割くか(割けるか)というのは、国民性・価値観・経済力などにも左右される面があり、民意の集大成・結果である低医療費政策の現状から見る限り、ある程度の限界があると言わざるを得ない。患者(消費者)の見地から考えると、歯科医師過剰問題が話題に上がることによって、自身が罹る歯科医師を見極めることになり、また歯科医師業界においても競争原理が働くことになり、個別的にみれば医院同士の切磋琢磨も促されるように考えられるため、利点のほうが多いと一見考えられる。しかし、医療提供者側の増加が患者側の利益にならない可能性も指摘されており、歯科医院の収益状況が悪化すると、コスト削減のために「衛生面など安全管理の不徹底」、「過剰診療」、「過剰請求」、「スタッフ人件費を抑制」といった歯科医が増加してしまうことも考えられる。保険制度は、元は鉱山労働などの危険な事業に就く労働者の組合から始まり、貧しい国民が一人でも多く医者にかかれるように当初は極めて低料金であった。その後国民皆保険が実現すると、医科は、命に関わることや医師会自身の努力があって概ね診療行為に見合う点数が与えられてきたが、歯科は、(短期的・直接的には)命に関わることは少なく、国も手が回らなかったということも重なって、歯科医師会は保険点数を診療行為に見合うものにするような地道な努力をしないで自費などで補うというかたちをとってきた(自費にかかわるトラブルは比較的多い)。しかし歯科医師過剰のなかにあって、かつてのような薄利多売的な経営方針が破綻し、自費収入が減少している事情から、料金の適正化を望む歯科医師側の声もある。一方、社会保険庁には総点数・平均点の高い歯科医院を指導の対象とする、主に財政的な事情に基づく選定基準があることから、保険医が保険診療・請求を手控える傾向にあり、必然的に格差社会における低所得者層などにそのしわ寄せがくることとなる。また指導内容・基準が統一されていないためか、それが技官に徹底されていないためか、指導内容に地域差等も認められ、技官の恣意性や不公正な指導を許すこととなっている。また社会保険庁の医師や歯科医に対する指導・監査により、これまでの地域貢献を否定されたり、不合理な自主返還を迫られたりするなど不利益処分を受ける可能性が指摘されており、2007年10月25日の参議院厚生労働委員会でも舛添厚生労働大臣が、「そういうことがあってはいけない。指導は懇切丁寧にやる。監督官だけじゃなく第三者・学識経験者などが付いて、暴言を吐くようなことは許さないシステムになっているはずだ。しかしそれが機能していないということは大変由々しいことであり(今後このようなことが起きないように)きちんと指導していきたい」と答弁している。しかし、単なる口約束ではなく、より公正で信頼される医療制度を目指すためにも、立会人制度、指導・監査現場のビデオ撮影、必要に応じて司法当局へのビデオ等の提出義務、義務違反者への制裁など抜本的な指導・監査制度の改善が望まれている。なお立会人については、現在でも歯科医師会推薦の立会人が2人以上いるものの、技官との力関係などから、通常は技官側の立場をとらざるを得ず、本来の立会人としての働きができないといったジレンマもある。こういった状況の下、厚生労働省の田中智也医療指導監査室長補佐は、全国保険医団体連合会の要請に対し「国民の権利を守る弁護士の同席はやむを得ない」「録音も拒否しない」と述べ、指導時における弁護士帯同・録音についても認めた(2007年11月)。ことから、主に個別指導や監査逃れのために、数百万といった高額な入会金を払って歯科医師会に入る者もおり(歯科医師会を通じて行政にパイプをつくるため)、これを裏付けるかのように、都心から地方へ行くにしたがって歯科医師会への入会率が高くなる傾向が認められる。行政の指導・監査についての情報開示(歯科医師会員・非会員の個別指導・監査率など)が不十分なこともこの傾向に拍車をかけている。一方で歯科医師会への入会率・組織率の低下は、圧力団体の弱体化や歯科医師全体にとって不利益につながる可能性もあることから、デリケートな問題でもある。行政側は、責任問題が波及することを恐れるあまり自らは非を認めにくいということは、しばしば指摘されている。こういった様々な事情から、恫喝指導などによる被害者の大半は泣き寝入りすることとなり、結果的に抜本的な指導・監査制度の改善がなされることなく、同様の被害が周期的に繰り返されるという反省から、被害者を中心とした訴訟を起こすことなどでこれら様々な事情を踏まえた上での客観的な立場に立った真相究明や公正な判断を仰ぐことも必要とされている。また指導医療官への贈収賄事件も起こっており、国民の医療への信頼を裏切ったことから、厚生労働省の辻事務次官は記者会見で「本当に遺憾で、事実なら情けないの一語に尽きる。捜査に全面協力し、厳正な処分を行いたい」と述べ、「医療機関の監査に携わる全ての職員に綱紀を遵守し、監査を厳正に行うよう指示した」との厳しい姿勢を示している。特に疑惑のある技官等に対しては重点的に、指導時の記録などを開示請求し、例えば技官等と関係の深い病院・医院とそうでないところを比較検証することで審査情報等の漏洩疑惑を含めて公正な返戻・指導等が行われているか否かを監視する一助としている。厳しく返戻・指導などを行っていると評判の技官等が、一方で自らと関係の深い病院・医院では甘い審査等を行うことで結果的に医療費が無駄に使われていること(背任罪)も否定できないことから、さらなる監視・疑惑解明・再発防止・制度改善が必要である。特に指導・監査の公正を図るため、以下のような制度改善は急務である。皆保険制度のもとでのこのようなしくみは、WHO(世界保健機関)が世界で最も高い総合評価(質の高さ・費用の安さ・利用しやすさなど)を与えた一因であるとする説もある。ただし、実態からかけ離れたといわれる点数・要件設定は、歯科医側の過剰請求・不正請求に対する罪の意識を失わせ、大義名分を与えるような心理効果をもたらすため、その料金抑制効果を疑問視する声もある。またこれらの事情は、どの程度の不正請求に対して、どの程度の違法性が問えるかという法的な問題にも影響してくる。一方で社会保険庁等には、主として料金抑制のためのノルマが課せられており、ノルマ偏重主義の弊害が危惧されている。いっそのこと基本的な診療領域で適正な料金設定をした上で、なお予算が足りない領域は完全な自費診療とすることによって、自由市場と競合しない(自費・民間領域を圧迫しない)公的保険診療と民間自由診療の完全分離型(必要に応じて民間保険の活用)を採用することが、一般的な先進国に近い(実態に合った)料金体系が実現しやすく、患者・歯科医師双方の信頼関係を妨げる料金に対する誤解・あいまいさを解消する早道と言える。しかしそうすることによって現在の皆保険制度の利点が失われてしまう可能性も高いことから慎重な検討が必要であろう。歯科医師の場合、歯科診療の性格上(細かい作業・姿勢などによる目・肩・腰にかかる負担や切削器具による粉塵問題など)中年期以降の仕事量が落ち込む傾向にあること、開業医の場合は、経営者としてのリスク・開業資金なども負うことから、所得水準が高水準だが、所得から開業資金返済に追われ倒産する開業医も多い。また「歯科医師は一般的に、一握りの審美美容(営利追求型の)歯科医や、歯科収入が赤字であっても資産家の派手な暮らしぶりにより、歯科医全体が儲かるという誤ったイメージが国民に伝わっている。」と歯科医師たちは感じている。歯科医は儲かるというイメージがあるが、1か月あたりの医院の収支差額(いわゆる儲け)の平均値は、110〜120万円(一医院あたりの平均歯科医師数は約1.2人)である。これは平均年収に換算すると1,028万円となる。ここから税金、借入返済金、賃料、などを引けば生活費はそれほど多くはない。このような状況から、歯学部入学希望者は減少傾向にあり、2009年入学試験においては私立歯科大学への受験者総数は前年に比べ約2,800人減少し4,973人(延人数)となった(前年比約36%減少)。その結果、私立大学の11学部で定員割れが生じている。いっぽうで、国公立大学の中には定員割れしている大学はない。患者側の要望・医師側の要望については、双方理想を言えばきりがない面もあるので、まずは客観的かつ国際的な基準から考えていく必要がある。前述の通り、WHO(世界保健機関)によれば、日本の医療は世界で最も高い総合評価(質の高さ・費用の安さ・利用しやすさなど)を得ている(これは、歯科を含めた総合的な医療制度に対する評価である)。この基本的な要因は、民間資本を利用して医師養成から開院までを行い(歯科医の約7割が私立大学出身、大半が民間の歯科医院に勤務)、公的な料金・要件設定(公的保険診療による収入が全体の約9割を占める)で料金等を統制・抑制している点にあると考えられている。しかし、現在の客観的・国際的評価(歯科も含めた医療における世界で最も高い総合評価)は、WHOによって更なる厳しい査定や萎縮診療が行われれば、医師による手抜き・消毒の不徹底が起こる可能性が増大し、結果として日本の医療の総合評価に悪影響が出るのではないかとも言われている。一般の業種では競争原理が働けば、顧客にとってサービスなどの対価を低く抑えることができると考えられるが、日本の医療保険制度下においては、保険診療の占める割合が多く(歯科では約9割)、価格は保険点数により定められており、このような保護市場では競争原理は機能しにくい。歯科医師過剰において1歯科医院あたりの患者数が減少すれば、収入を確保するために、過剰診療や過剰請求などを行おうとする医師が増加する可能性があり、患者側のメリットとなる予防・早期治療・再発防止などによる医療負担軽減効果は期待できない。歯科の場合は、などから、供給過剰であるほど低廉な費用で良い治療に直結するとは限らないところに歯科医師過剰問題の難しさがある。これから先、日本は急速な少子化などから人口減少社会に突入し、歯科受療率も下降の一途を辿っていることも考慮すると、日本歯科医師会・全国保険医団体連合会・厚生労働省における政治的解決を含む対策をとることにより、現在の保険制度を実態に沿って、例えば以下のように改善していく努力を続けていくことが大切であろう。また8020(80歳で20本以上の自分の歯を持つ)達成者と非達成者でかかる医療費を調査した結果、達成者に比べ非達成者が診療報酬点数で20%以上高かったというデータもあり、歯科医療費(全体の約9%)の微増(手厚くすること)が、全体の医療費を引き下げるテコのような働きをすることを示唆している。また歯を失う原因の約8割は歯周病によるものであり、歯周病は早期に治療するほど歯を残せる確率が格段に上がる。しかし、早期には自覚症状が出にくいことから、放置されることが多い。こういう点からも、窓口負担を軽くして受診を促進することや定期健診の保険導入は歯を喪失しにくくする上で極めて重要と言える。また保険医協会では、窓口負担ゼロ運動を行いつつある。つまり、日頃から病気や怪我に備えて、保険料・税金などを払っているのであればヨーロッパ諸国やカナダ、オーストラリアなどと同様、受診時の患者負担は原則無料にすべきという考え方である。日本の医療費水準は経済規模に比べて極めて低く、OECD(経済協力開発機構)30か国で22位に過ぎないことから、医療の進歩と高齢化に応じた経済力に見合う医療費を確保することが不可欠である。加えて、以前から指摘されていることではあるが、現状の問題点として、日本人の約9割は痛くなったり自覚的な問題が起きないと受診せず、ひどくなってから(ひどいところをためておいて)受診する傾向が高い。日本の医療制度は、出来高払いだから、治療の程度が重くなるほど点数も上がる。結果、欧米よりはるかに料金設定が安くても、一人当たりの平均歯科医療費が高くなりがちである(当然ながら多少の地域差・患者層の差はある)。受診を我慢して病気が重症化する方が、結果的に医療費は高くつくことになることから早期受診・早期治療こそ、医療費を抑える効果的な方法と言える。必要最小限の定期健診は、義務化(罰則なし)するとさらに効果的となる。こういった政策が実現すれば、医療の充実化と受診を活発化することで歯科医師過剰問題をも一挙に解決する可能性を持っている。なお、より適正かつ合理的な診療要件・料金設定については、例えば、厚生労働省内にある公務員向けの歯科診療所などを活用し学術団体の指導医の資格を持つ者、歯科医師会、保険医協会などの団体から派遣された者がその妥当性をチェックしつつ診療内容ごとの平均的な所要時間・カルテ記載時間・診療水準・経費などに基づいてより実態に即した診療要件・点数を設定するといった方法が提案されている。また、現時点では実現可能性は薄いが、この問題を解決する手立てとして歯科医の医療の範囲を広げることが検討されている。医科の診療科である「麻酔科」、「放射線科」、「精神科」などである。医師不足と歯科医師過剰の両方を解決する画期的な方法ではあるが、医師会その他からの大きな反発や、技能をどのように育成するのかなど数多くの問題をはらんでおり早急な実現は難しい。しかし、人的資源の有効活用という観点から歯科医師に対する十分な研修強化と医科における麻酔医のような法定の歯科麻酔医制度設立等が望まれる。歯科医師の質の向上を目指すため、文部科学省の有識者会議は2009年1月30日、歯科医師国家試験の合格率が低い大学などに対し、入学定員の削減を求めていくとする提言をまとめた。臨床実習の終了後に実技試験を必ず行うことも求めている。歯科医師を目指す学生が学ぶ大学は現在、27大学(29学部)あるが、。有識者会議は「志願者の減少で優れた学生が確保できなくなっている」と指摘したうえで、国家試験の合格率が毎年低い大学や臨床実習に必要な患者を確保できない大学について定員削減を提言。これを受けて、文科省は各大学に対し、自主的な定員見直し計画を2010年度中に提出するよう求める。また、有識者会議は、質の高い教育を実現するため、臨床実習に必要な単位数を国が明確化することや、臨床実習後に実技試験を行う必要性も指摘した。以上のように、現状では、国民皆保険制度(料金統制)のもと、歯科医師供給過剰が進むにつれて、健全な歯科医院経営や自由診療への圧迫、診療の質の低下が進む傾向にある。企業も経済的に厳しいこともあり、行政が予算を確保して適正な点数(欧米並みにするには、約5〜10倍の料金設定が必要)にすることが現状では不可能であるため、不正・不当な個別指導や監査などで、歯科医側に圧力をかけ、途上国並みの料金設定で、先進国並みの歯科医療を提供させるという世界でも例のない過剰な要求を続けている。これは景気が厳しいことに加えて、日本の医療費配分の低さ(主要先進7か国中最下位)による問題でもある。
出典:wikipedia
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