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人工多能性幹細胞

人工多能性幹細胞(じんこうたのうせいかんさいぼう、)とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)のように非常に多くの細胞に分化できる分化万能性 (pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞のこと。2006年(平成18年)、山中伸弥率いる京都大学の研究グループによってマウスの線維芽細胞(皮膚細胞)から初めて作られた。英語名の頭文字をとって、iPS細胞(アイピーエスさいぼう、iPS cells)と呼ばれる。命名者の山中が最初を小文字の「i」にしたのは、当時世界的に大流行していた米アップルの携帯音楽プレーヤーである『iPod』のように普及してほしいとの願いが込められている。以下、「iPS細胞」という表記を用いる。元来、動物を構成する種々の細胞に分化し得る分化万能性は、胚盤胞期の胚の一部である内部細胞塊や、そこから培養されたES細胞(胚性幹細胞)、および、ES細胞と体細胞の融合細胞、一部の生殖細胞由来の培養細胞のみに見られる特殊能力であったが、iPS細胞の開発により、受精卵やES細胞を全く使用せずに分化万能細胞を単離培養することが可能となった。分化万能性を持った細胞は理論上、体を構成するすべての組織や臓器に分化誘導することが可能であり、患者自身から採取した体細胞よりiPS細胞を樹立する技術が確立されれば、拒絶反応の無い移植用組織や臓器の作製が可能になると期待されている。ヒトES細胞の使用において懸案であった、胚盤胞を滅失することに対する倫理的問題が根本的に無いことから、再生医療の実現に向けて、世界中の注目が集まっている。また、再生医療への応用のみならず、患者自身の細胞からiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞を特定の細胞へ分化誘導することで、従来は採取が困難であった病変組織の細胞を得ることができ、今まで治療法のなかった難病に対して、その病因・発症メカニズムを研究したり、患者自身の細胞を用いて、薬剤の効果・毒性を評価することが可能となることから、今までにない全く新しい医学分野を開拓する可能性をも秘めていると言える。一方で、この技術を使えば男性から卵子、女性から精子を作ることも可能となり、同性配偶による子の誕生も可能にするため、技術適用範囲については大いに議論の余地が残っている。さらには、iPS細胞は発癌遺伝子c-Mycを導入するなどして癌細胞と同じように無限増殖性を持たせた人工細胞であり、また、遺伝子導入の際に使用しているレトロウイルスなどが染色体内のランダムな位置に発癌遺伝子などの遺伝子を導入してしまうため、もともと染色体内にある遺伝子に変異が起こって内在性発癌遺伝子を活性化してしまう可能性があるなど、実際に人体に移植・応用するには大きな課題が残っている。植物は基本的には組織切片から全体を再生することができる。例えばニンジンを5ミリメートル角程度に切り出し、エタノールなどにつけて消毒し、適切な培地に入れて適切な(温度・日照などの)条件におけば胚・不定芽などを経て生育し、元のニンジン同様の形になる(組織培養)。しかし、(高等)動物では、受精卵以外の組織はこうした能力(全能性)を持たない。一方、培養下において、全ての組織に分化し得る能力(分化万能性)を持つ細胞は存在する。一般論をいえば、これらの分化万能性を持つ動物の細胞を適切な培地にいれて適切な条件で培養しても、秩序だった組織は形成されず、細胞の塊ができるだけである。しかし、これらの細胞から組織、器官を分化・形成させることができれば、ドナーからの臓器提供を受ける事無く欠損部位に必要な組織や器官を入手して移植することができる。また、ドナーに由来する組織を移植することに伴う拒絶反応の発生を抑制することも可能となると考えられる。そのため、培養による組織の形成には様々な試みがなされてきた。ES細胞はその代表例であり、体を構成する様々な細胞に分化誘導できることが知られていた。しかしES細胞は発生初期の胚からしか得ることができず、ヒトES細胞については胚の採取が母体に危険を及ぼすことや、個体まで生育しうる胚を実験用に滅失してしまうことについては倫理的な問題が伴い、その作製や実験等には厳しい制約が課せられている。そのため、皮膚や血液など、比較的安全に採取でき、かつ再生が可能な組織からの分化万能性をもった細胞の発見が期待されていた。ヒトの体はおよそ60兆個の細胞で構成されているが、元をたどればこれらの細胞はすべて、たった一つの受精卵が増殖と分化を繰り返して生まれたものである。この受精卵だけが持つ完全な分化能を全能性 (totipotency) と呼び、ヒトを構成するすべての細胞、および胎盤などの胚体外組織を自発的に作り得る能力を指す。受精卵が胚盤胞まで成長すると、胚体外組織を形成する細胞と、個体を形成する細胞へと最初の分化が起こる。後者の細胞は内部細胞塊に存在し、胚体外組織を除くすべての細胞へ分化できることから、これらの細胞がもつ分化能を分化万能性または多能性 (pluripotency) と呼ぶ。この内部細胞塊から単離培養されたES細胞もまた分化万能性を持ち、個体を構成するすべての細胞に分化できる。なお、成人にも神経幹細胞や造血幹細胞など、種々の幹細胞が知られているが、これらの幹細胞のもつ分化能は、神経系や造血系など一部の細胞種に限られており、多分化能 (multipotency) と呼ばれている。ES細胞などの分化万能細胞は、培養条件によって分化万能性を維持したまま増殖したり、多種多様な細胞へ分化することができる。しかしながら、同一個体においては、分化万能細胞も体細胞も核内にもつ遺伝子の塩基配列は(テロメアなど一部を除き)全く同一であり、分化能の違いは、様々な遺伝子の発現量と、それを制御するクロマチン修飾、及びDNAメチル化などのエピジェネティックな情報の違いに由来すると考えられている。例えば、ES細胞はOct3/4やNanogなどの遺伝子を発現してES細胞としての分化万能性を維持しているが、終末分化した体細胞ではこれらの遺伝子は発現していない。全ての体細胞はOct3/4やNanogの遺伝子を核内に持ってはいるが、様々な転写因子やエピジェネティック機構により、発現が抑制されている。こうした遺伝子発現パターンの違いを解析し、人為的に切り替えることができれば、分化した体細胞を未分化な分化万能細胞へと戻すこと(初期化[リプログラミング])ができると考えられていた。この仮説を裏付けていたのが、1962年にジョン・ガードンが核移植技術を用いてアフリカツメガエルのクローン胚作製に成功した事例にはじまるクローン動物の存在である。すなわち、体細胞の核を取り出し、核を取り除いた未受精卵内に移植することによって、核内の遺伝子発現パターンが未分化な細胞のパターンにリプログラムされることが示されている。また、体細胞をES細胞と融合させることにより、体細胞の遺伝子発現がES細胞様に変化することも知られていた。これはつまり、卵やES細胞の中に、核内のエピジェネティックな情報をリプログラムすることが可能な因子が含まれていることを意味している。ただし、その因子が一体何であるのかは、長い間謎に包まれていた。山中らのグループは、体細胞を多能性幹細胞へとリプログラムする因子を探索する過程で、ES細胞に特異的に発現するFbx15という遺伝子に着目し、Fbx15遺伝子座中の構造遺伝子をネオマイシン耐性遺伝子と入れ換えたノックインマウスを作製していた。このマウスには明らかな異常は認められなかったが、山中らは『通常はFbx15を発現しない線維芽細胞が、何らかの方法で多能性を獲得するとFbx15を発現するようになる』との仮説を立て、このノックインマウス由来の線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて候補遺伝子を導入した後、ES細胞増殖の条件でG418を添加して培養するという実験系を構築した(図)。彼らの仮説に基づけば、Fbx15を発現しない線維芽細胞はG418によって死滅するが、多能性を獲得した細胞はFbx15遺伝子座上のネオマイシン耐性遺伝子が発現し、G418耐性となって生き残ると考えられた。ES細胞で特異的に発現し、分化万能性の維持に重要と考えられる因子を中心に、24個の候補遺伝子を選んで導入実験を行ったが、どの遺伝子も単独ではG418耐性を誘導できなかった。そこで24個すべての遺伝子を導入したところ、G418耐性の細胞からなるコロニーを複数形成することに成功した。この細胞を分離培養するとES細胞に酷似した形態を示し、長期に継代可能であった。彼らはこのES様細胞株を「iPS細胞」と命名し、24遺伝子の絞り込みを行い、最終的にiPS細胞を樹立するには4遺伝子で十分であることを突き止めた。この4遺伝子はOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycで、発見者の名を取り“山中因子 (Yamanaka factors)”とも呼ばれている。これらの研究成果は、2006年8月にセル誌に掲載された。Fbx15遺伝子の発現によって選別され樹立されたiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)は、細胞形態や増殖能、分化能などにおいてES細胞と極めて良く似ていたが、一部の遺伝子の発現パターンや、DNAメチル化パターンなどはES細胞と異なっていた。また、ヌードマウスの皮下に移植すると3胚葉成分からなる奇形腫をつくることができるが、胚盤胞に注入してもiPS細胞由来の細胞が混在したキメラマウスは産まれなかったことから、ES細胞と同様の分化万能性を持つとは言い難かった。山中らは、ES細胞の万能性維持に重要なNanog遺伝子の上流にGFPおよびピューロマイシン耐性遺伝子を挿入したトランスジェニックマウス ("cf." ) を作製し、このマウス由来の線維芽細胞に上述の4遺伝子を導入して、Nanogの発現レベルによってiPS細胞を選別、樹立した。2007年7月に発表されたこの改良iPS細胞(Nanog-iPS細胞)は、最初のiPS細胞(Fbx15-iPS細胞)に比べてよりES細胞に近い遺伝子発現パターンを示し、胚盤胞への注入により成体キメラマウスを得ることが可能で、さらにキメラマウスとの交配で次世代の子孫にiPS細胞に由来する個体が産まれること (germline transmission) が確認された。時をほぼ同じくして、マサチューセッツ工科大学 (MIT) のルドルフ・イエーニッシュらのグループ、ハーバード大学ハーバード幹細胞研究所のコンラッド・ホッケドリンガー (Konrad Hochedlinger) とカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) のキャスリン・プラース (Kathrin Plath) らのグループからも、同様の研究成果が報告された。遺伝子導入によって多能性を獲得した細胞を選別する際に、Fbx15やNanogなど特定の遺伝子の発現を指標とする場合、GFPや薬剤耐性遺伝子などのレポーター遺伝子を特定の遺伝子座に組み込んだトランスジェニックマウスやノックインマウスなどの遺伝子改変動物が必要となる。しかし、ヒトの細胞に対してこれらの遺伝子改変技術は適用できないため、ヒトiPS細胞の樹立に際して大きな障害となっていた。2007年8月、ヤニッシュらのグループは、野生型マウス由来の線維芽細胞に4遺伝子を導入後、細胞の形態変化によってiPS細胞を選別、単離することに成功し、遺伝子改変マウスを用いなくてもiPS細胞が樹立できることを報告、ヒトiPS細胞の樹立へと道を拓いた。同年9月には、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のミゲル・ハマーリョ-サントス (Miguel Ramalho-Santos) らのグループも、薬剤による選別を行わず、c-Mycの代わりにn-Mycを、またレトロウイルスベクターの一種であるレンチウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立した。iPS細胞の癌化への対策についても、様々な方法が試みられている(後に詳述)。マウス(ハツカネズミ属)とヒト(ヒト属)は遺伝子レベルで多くの類似性があるものの、マウスES細胞とヒトES細胞とでは、培養法や発現している遺伝子の種類などにおいていくつか異なる点がある。マウスiPS細胞の成功を受けて、同様の手法がヒトへも応用可能であるか大きな関心が集まった。山中ら京大グループは、マウスiPS細胞の樹立に用いた4遺伝子のヒト相同遺伝子であるOCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYCを、ヒト由来線維芽細胞(36歳女性の顔面の皮膚由来の線維芽細胞、69歳男性由来の滑膜細胞、および新生児包皮由来の線維芽細胞)に導入してヒトiPS細胞の樹立に成功した。また、世界で初めてヒトES細胞を樹立したことで知られるらのグループも、山中らがマウスiPS細胞を初めて樹立した時と同じ戦略を用い、14個の候補遺伝子の中からOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4遺伝子を選び出してヒトiPS細胞の樹立に別個に成功した。両グループの研究成果は、2007年11月20日、山中らの報告がセル誌に、トムソンらの報告がサイエンス誌にそれぞれ同日発表された。そのわずか後の12月には、ハーバード幹細胞研究所のジョージ・デイリー (George Daley) らのグループも、OCT3/4・SOX2・KLF4・C-MYCの4遺伝子にhTERT・SV40 large Tを加えた6遺伝子を用いてヒトiPS細胞の樹立に別個に成功しており、競争の激しさが窺える。この報告では、山中らやトムソンらが市販されている培養細胞を用いたのとは異なり、成人男性の手掌の皮膚から採取した細胞をもとにiPS細胞を樹立しており、実際にヒトの個体からiPS細胞を樹立可能であることが示された。ヒトiPS細胞の樹立については、山中ら京大グループよりもバイエル薬品が先行していた可能性が指摘された。山中らの実験を聞いた2006年8月に開発に着手し、2007年春には作製に成功していたという。これは山中らの論文発表(2007年11月)に先行する。一方、実際の特許出願時期は、バイエル社の2007年6月に対して京大グループは2006年12月であり、山中らの方が先んじていたことが判明している。しかしながら、特許記載内容からも、ヒトiPS細胞はこの時点で作製されておらず、2007年7月に作製されたことが公表されている。2011年8月現在、日本、アメリカ、ヨーロッパ等で特許が成立している。バイエル社の樹立法は山中らの樹立法と異なる点もあるので、バイエル社の特許は方法を限定して部分的に認められる可能性もある。同様のことは、アメリカの研究グループの方法についても当てはまる。その後、バイエル薬品が出願していた特許はアメリカのベンチャー企業アイピエリアンに権利が移り、2010年イギリスで特許が成立した。2011年2月1日、アイピエリアンが京都大に特許を無償譲渡し、京都大が同社に特許使用を許諾することで合意したことが発表され特許紛争は回避された。2016年現在、京都大学iPS細胞研究所は欧米など30以上の国・地域で基本特許を保有、特許管理会社を通じてライセンスを無償提供している。2015年1月28日、東京大学と特許管理会社のiCELLが「胚盤胞補完法」と呼ばれるiPS細胞を使って臓器を再生する特許が日本で成立する見通しになったと発表。同特許は英国で既に成立している。iPS細胞自体を作製する技術の特許は京都大学が取得しているが、同特許はiPS細胞を使って臓器を再生する特許となる。2016年1月4日、東京大学の中内啓光教授らのグループが、がん細胞や感染症のウイルスを攻撃する免疫細胞をiPS細胞を使って再生する技術の基本特許が米国で成立したと発表。iPS細胞樹立の成功により、ES細胞の持つ生命倫理上の問題を回避することができるようになり、免疫拒絶の無い再生医療の実現に向けて大きな一歩となった。2007年11月には宗教界からの評価の一例として、ローマ教皇庁(ローマ法王庁)の生命科学アカデミー所長の司教(肩書きはいずれも当時のもの。なお、同司教は2010年11月に枢機卿に親任されている)は「難病治療につながる技術を受精卵を破壊する過程を経ずに行えることになったことを称賛する」との趣旨の発表を行った。またこの成功に対して、2007年11月23日に日本政府が5年間で70億円を支援することを決定。さらに、山中は2010年4月より京都大学iPS細胞研究所長を務めている。「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」により、山中は2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。iPS細胞に於ける癌化の懸念は、少なくともタイプが2つ想定される。ひとつは初期化因子の導入に伴う遺伝子異常、もう一つは分化しきれないままに、万能性を残した細胞の残存による奇形腫(テラトーマ)の形成である。マウスの実験において表面化した最大の懸念は、iPS細胞の癌化であった。iPS細胞の分化能力を調べるためにiPS細胞をマウス胚盤胞へ導入した胚を偽妊娠マウスに着床させ、キメラマウスを作製したところ、およそ20%の個体において癌の形成が認められた。これはES細胞を用いた同様の実験よりも有意に高い数値であった。この原因は、iPS細胞を樹立するのに発癌関連遺伝子であるc-Mycを使用している点と、遺伝子導入の際に使用しているレトロウイルスは染色体内のランダムな位置に遺伝子を導入するため、元々染色体内にある遺伝子に変異が起こり、内在性発癌遺伝子の活性化を引き起こしやすい点が考えられた。このため、iPS細胞を作出するのに、癌遺伝子を使わない手法の開発が多くのグループにより進められている。2007年12月には、c-Mycを除くOct3/4・Sox2・Klf4の3因子だけでも、マウス・ヒトともにiPS細胞の樹立が可能であることが山中らによって示され、iPS細胞が癌化するのを抑えるのに成功した。ほぼ同時にヤニッシュらのグループも同様の実験にマウスで成功している。しかし、作出効率が極めて低下するとの問題があり、効率を改善する手法の開発が進められている。2011年6月9日、Oct3/4・Sox2・Klf4の3因子にGlis1という遺伝子を加えることで、c-Mycを加えた時と同様の作製効率となる上に癌化するような不完全なiPS細胞の増殖も防ぐという研究が山中らによって発表されている。また、レトロウイルスを用いずiPS細胞を作出する手法の開発も進められている。慶應義塾大学医師の福田恵一らのグループではTリンパ球にセンダイウイルスを導入する方法を報告している。2009年3月には、英エディンバラ大学の梶圭介グループリーダーらにより、ウイルスを使わないでiPS細胞を作製する方法が発表された。他にも、プラスミドと呼ばれる環状のDNAをベクターとして用いるという方法を、2008年、京都大学iPS細胞研究所の沖田圭介らのグループが発表した。この方法の場合、導入した遺伝子が染色体に取り込まれることが無い為、ウイルスベクターを用いる方法と比べ安全性が高い。しかし、iPS細胞生成の効率が低いことが課題だった。そこで彼らは、プラスミドを使用する方法を更に改良し、2011年4月には細胞内で自律的に複製されるエピソーマル・プラスミドを使用し、加えて初期化因子として"Otc3/4,Sox2,klf4,lin28,L-Myc,p53shRNA"と呼ばれる6つの因子を使うことで、iPS細胞の作製効率を高める事に成功した。さらに、体細胞に分化する過程で生じた変異が蓄積することも明らかになっており、iPS細胞の作出に用いた体細胞核にも何らかの変異が生じている可能性がある。この場合、がん化に限らず、様々な疾患等のリスクになり得ることが指摘されている。ES細胞をつくるときには、未受精卵を受精させるなどして、一度発生させ、発生を開始した胚をばらばらにして、その細胞を培養しES細胞を作製する。ES細胞において最大の倫理的な問題は、発生を開始した胚をつぶす必要があるという問題であった。iPS細胞は、体細胞から直接初期化できるため、この問題を孕まない。しかし、新たな倫理的問題が浮上している。臓器をつくるときに、動物の体内で臓器をつくるアイデアがあるが、その場合動物とヒトとのキメラをつくる必要がある。ヒトのキメラ動物をつくってもいいのかという倫理的な問題がある。2012年10月、京都大学の斎藤通紀らのグループがマウスにおいてiPS細胞から精子と卵子を作製し、それらを元に受精、出産に成功したと発表した。これにより、不妊治療への応用の道が開かれた半面、「同性愛者間での妊娠・出産の是非」や、「同一人物の精子と卵子を受精させ、出産させる」ことが可能であるという倫理的問題が浮上している。従来はiPS細胞は、元になる細胞を提供した個体に戻しても拒絶反応は起こらないと考えられていたが、マウス実験ではiPS細胞でも拒絶反応が起こりうることが報告された。しかし逆の結果を示す実験結果も報告されており、現時点ではiPS細胞に対して免疫拒絶反応が起こり得るかどうかは決着がついていない。iPS細胞の樹立にあたって分化能や多能性に劣るものも発生していたが、どのような仕組みでそうなるのか分かっていなかった。2014年8月、高橋和利らのグループは、内在性レトロウイルス(HERV-H)がiPS細胞の樹立に関与していることを発表した。iPS細胞の作成にはかなり長い日数がかかる。まず1〜2ヶ月かけてiPS細胞を作り、そこから目的細胞の作成にさらに数ヶ月かかる。また、目的細胞により作成効率がまちまちなのも問題である。そこで、免疫応答の少ない人から作った細胞をストックしておく、他家移植が対応案として考えられている。コストの問題も大きい。例えば、理化学研究所多細胞システム形成研究センターの高橋政代らが2014年に行った、網膜上皮細胞に分化させて細胞シートを作ることで加齢黄斑変性症を治療する再生医療の研究では、細胞の作製だけで5000万円が費やされた。医療への目覚ましい貢献は期待されるが、ここまでコストが高いと現行の保険制度を崩壊させるおそれがあるため、実用には向かないといえる。今、iPS細胞を用いた再生医療研究の中で最もヒトへの応用が近いとされるものが加齢黄斑変性に対する再生医療である。この病はアメリカに於ける中途失明の原因の一位とされ、日本に於いても高齢化や生活の欧米化等より、近年著しくその患者数を増やしている。この病には滲出型と萎縮型があり、前者に関しては血管の新生を抑える薬を眼に注射する方法や、レーザーを照射し、新生血管を閉じる治療などが行われているが、萎縮型の加齢黄斑変性に対する有効な治療法は今のところは無い。また、レーザーを照射するといった既存の治療の場合、新生血管と接触する網膜の視細胞をも破壊してしまい、光が感知出来なくなる点、絶対暗点を生じさせるといった問題点もある。このような問題に対し、以前に他人から提供された眼や胎児細胞を使った網膜色素上皮細胞の再建が海外で試されることもあった。しかしながら、この方法では強力な拒絶反応が起きるとされ、実用には及ばなかった。この課題について、本人の細胞から作製するiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞を使うことで解決が出来ると考えられている。なお、網膜色素上皮細胞は一種類の細胞から成る一層のシート状の構造をしており、他の「複雑な組織と比べ作製し易い組織といえる。さらに、「色素」という名前が示すように、黒い色素がついており、他の細胞と区別がし易く、使いやすい細胞といえる。移植する細胞数が少なく、元々腫瘍化しにくい組織なので、安全性も高い。万が一癌化した場合も、レーザー治療などで比較的簡単に対処が出来る。以上の理由により、他の再生医療と比べてリスクの排除がし易いというメリットがある。ただし、未知のリスクは排除しきれないことに加え、シートの移植には通常の眼科手術が必要で、その手術に伴う危険性は存在しうる。更なる課題として、将来、多くの患者が利用する為には、網膜色素上皮細胞の製作時間の短縮、製作費用の削減する工夫が必要とされる。2013年2月28日、高橋政代をプロジェクトリーダーとする理化学研究所と先端医療振興財団のチームが世界で初めてiPS細胞を使った目の難病(加齢黄斑変性)の臨床研究の計画書を厚労省に提出、厚労省は3月27日に18人の専門家らが参加する『ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会』を開催し、理化学研究所、先端医療振興財団が申請したiPS細胞を使った初の臨床研究計画について審査を始めた。同年6月27日、厚生労働省の「ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会」は理化学研究所などが申請していたiPS細胞で目の難病「加齢黄斑変性」を治療する臨床研究の実施を条件付きで了承した。臨床研究では、患者の皮膚からiPS細胞を作り、シート状に培養して網膜に貼り付ける方法をとり、既存の薬物治療などでは効果がない6人の患者が対象となる。7月19日、田村憲久厚生労働相は実施計画を正式に承認した。同年8月1日より加齢黄斑変性の患者の募集を始め、臨床研究が開始された。2014年9月12日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターと先端医療センター病院がiPS細胞から作った網膜の細胞を、「加齢黄斑変性」の患者に移植する臨床研究の手術を行ったと発表。今回は安全性の確認を目的とした臨床研究であり、実際に患者の体に移植したのは世界初となる。患者女性の腕から直径約4ミリの皮膚を採取し、6種類の遺伝子を組み入れてiPS細胞を作製。さらに特殊なたんぱく質を加えて網膜組織の一部「網膜色素上皮」に変化させ、約10ヵ月かけてシート状に培養した後、長さ3ミリ、幅1.3ミリの短冊形に加工。手術は同日14時20分執刀開始、同16時20分に終了(手術時間2時間)。("「高橋政代」も参照")一夜明けた9月13日、患者は「見え方が明るくなった」と話している。ただし、この見え方の変化に原因が、手術で病気の部分を取り除いたことによるものなのか、それとも移植したiPS細胞が機能していることによるものなのかについては、まだ判明していない。目の検査では、異常はなかったという。9月18日、合併症等の有害事象の発生はなく、移植したiPS細胞シートは所定の位置に留まっており異常なく、経過良好で患者退院。iPS細胞シート移植の安全性や視機能への影響を客観的に評価するためには、約1年間の観察期間が必要としている。2015年3月20日、プロジェクトリーダーの高橋政代が神戸市で開かれた日本再生医療学会で講演し、2例目の患者は京都大学などが整備を進める「iPS細胞ストック」の細胞を活用し、他人のiPS細胞を使うことを明かした。患者本人の細胞を使えば免疫拒絶が起こる可能性は低いが、治療に膨大な費用と時間がかかるため、拒絶反応が起こりにくいタイプのiPS細胞を利用する。2015年10月2日、加齢黄斑変性症の手術から1年が経過したことを受け、理化学研究所多細胞システム形成研究センターと先端医療振興財団が、神戸市内で記者会見を行い、手術から1年を過ぎた患者の状態について、「がんなどの異常は見られず、安全性の確認を主目的とした1例目の結果としては、良好と評価できる」と発表した。視力は術前とあまり変わらない0.1程度を維持しており、患者女性は「明るく見えるようになり、見える範囲も広がったように感じる。治療を受けて良かった」と話していると報告された。2014年2月、京都大学iPS細胞研究所の高橋淳らのグループがドーパミンを分泌する神経細胞を大量に作製する方法に成功。研究グループは同年6月をめどに、パーキンソン病の臨床研究のための安全性の審査手続きを厚労省に申請すると報道されており、2013年11月に成立した再生医療安全性確保法に基づいた初めての臨床研究になる見込みである。更に2014年8月には、2015年に自分の細胞から作製したiPS細胞による臨床研究を開始し、2018年には再生医療を実現させる構想を発表。2018年には自己由来のiPS細胞による再生医療と、健康な他人由来の細胞について治験をスタートさせる計画を明らかにした。2014年3月6日、慶應大学の中村雅也准らのグループが京都市で開かれた日本再生医療学会で、脊髄損傷の患者に対するiPS細胞の臨床研究を2017年度に始める計画を発表した。2015年2月10日、国立成育医療研究センターなどからなる研究グループが、ヒトのips細胞(人工多能性幹細胞)から神経線維(軸索)を有する視神経細胞の作製に世界で初めて成功したと公表し、同時に電子版の英科学誌に論文を掲載した。成功したのは、眼球と脳をつなぐ視神経細胞で、細胞本体から軸索が1〜2cm伸びている特徴を持つ。最初は立体で培養した後に、途中で平面培養に切り替え、約1ヶ月かけて視神経細胞に分化させる手法を確立、その結果作製された視神経細胞が神経としての機能を持つことを電気反応などで確認した。研究グループは、緑内障に伴う視神経の障害、視神経炎などの治療薬開発、視神経が冒される疾患の病態解明などにつながることが期待されるとしている。2015年4月22日、理化学研究所の古関明彦らと千葉大学病院の研究グループが、iPS細胞から癌を攻撃する免疫細胞であるナチュラルキラーT細胞を作製し、主に舌癌の患者に対する臨床試験を2018年をめどに開始すると発表。2016年4月27日、バイオベンチャー企業の「再生医療iPSGatewayCenter」と慶應義塾大学医学部のグループが、人体由来の多能性幹細胞やiPS細胞を用いて靭帯を再生する共同研究を開始すると発表。上述した例のように、iPS細胞を用いて臓器を初めとした人体の細胞の作製は着実に進んでおり、一部では実際に成果が出始めている。メディアでは臓器細胞などの作製がiPS細胞によって初めて成された成果であるかのような報道がなされることもあるが、これには語弊がある。幹細胞と同等の能力を持つiPS細胞を作り出す技術と、幹細胞を臓器など他の細胞に変化させる技術は全く異なるものであり、幹細胞を人体の別の細胞に変化させる研究はiPS細胞の作製よりも遥かに以前から行われ、成果も出されていた。iPS細胞作製の功績は他の細胞を作り出すための幹細胞に非常に近い「素」をこれまでよりも容易かつ大量に得ることを可能にした点にある。【目次へ移動する】(関連組織・会社)(関連プロジェクト)(情報・ニュース)

出典:wikipedia

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