NK-33とNK-43は1960年代末から1970年代初頭にかけてソビエト連邦のクーイブィシェフ・エンジン工場(現在のN・D・クズネツォフ記念サマーラ科学技術複合)によって開発、生産された二段燃焼サイクルのロケットエンジンである。米国に次いで、旧ソ連の有人月旅行計画を目的とするN-1Fロケット(まだ米国と月一番乗りの座を争っていた頃の主力想定機N-1ロケットの改良型)に搭載するために開発された。NK-33エンジンは地上から発射されるロケットエンジンの中で推力重量比と比推力が最高水準に達した。NK-33はこれまでに開発された推進剤がケロシン/液体酸素のロケットエンジンの中で最も高性能である。西側に比べてコンピューターによる設計や解析が遅れていた1960年代のソビエト連邦で既にこの水準の先進的なエンジンが開発されていたことは特筆に価する。NK-43はNK-33と似ているが1段目用ではなく上段用として設計された。気圧の低い高高度または真空中での使用に適した膨張比の高い長いノズルを備える。これにより高い推力と比推力が得られるが長く重くなった。2010年にオービタル・サイエンシズ社のトーラスIIロケット(後にアンタレスに改名)に使用するため、当時から保管されていたNK-33の試験を行い、これが成功したことから、2013年4月に打ち上げられたアンタレスロケットの1段で、初めて打ち上げに使われた。2014年10月28日のアンタレスロケット5号機の打上げはNK-33エンジンが爆発して失敗したため、以後はアンタレスロケットでのNK-33(AJ-26)エンジンの使用は廃止し、別のエンジンに置き換えることになった。NK-33と-43は初期のNK-15とNK-15Vエンジンの改良型である。エンジンは高圧で再生冷却式の二液推進系二段燃焼サイクルである。予備燃焼器からの酸素が多い燃焼ガスでターボポンプを駆動する。この種の燃焼サイクルは高温、酸素過多の排気によって酸化性の高いガスが循環するのでエンジンを構成する金属部材に損傷を与え焼損に至るため、滅多に使用されない。開発過程では酸素が多く含まれる燃焼ガスにより焼損が多発した。米国では現在でもまだ酸素リッチエンジンの実用機の開発には成功していない。しかしながらソビエト連邦では冶金学によって実用化した。ノズルはひだの付いた金属で構成されており外側と内側の部材をロウ付けによって接合されており、単純で軽量だが強固な構造になっている(チャンネルウォールノズル)。さらにNK-33は一軸で連結されたタービンで密度の近いケロシンと液体酸素の両方のターボポンプを駆動するため、並外れて軽量である。真空中での推力重量比は競合するいかなるエンジンよりも高い136.66:1である。より長く重いノズルのNK-43の真空中での推力重量比は約120:1である。酸素リッチ技術はRD-170/-171と派生系であるRD-180、RD-191に引き継がれた。しかし、これらのエンジンはいずれも(ソユーズのRD-107と同様に)複数の燃焼室とノズルを持っており、それが原因で推力重量比はNKエンジンに劣るものとなっている。当初N-1ロケットの開発を率いていたセルゲイ・コロリョフはソビエトの液体燃料ロケットエンジンの大半の設計を担当していたヴァレンティン・グルシュコに比推力の優れたケロシン/液体酸素液体燃料ロケットエンジンの開発を打診したが、グルシュコはICBMに用いられていたのと同種の有毒で比推力は低いが常温で保存可能な自己着火性推進剤(ハイパーゴリック推進剤)を使用したエンジンの開発を主張した。両者の主張は平行線を辿り、やがて決裂した。そのため、やむなくコロリョフはロケットエンジンでの開発実績は乏しいが航空機用ジェットエンジンの開発で実績のあったニコライ・クズネツォフにケロシン/液体酸素を推進剤とする新型のロケットエンジンの開発を打診した。N-1ロケットの原型ではNK-15を第1段に、第2段には高高度用に改良したNK-15Vを搭載する予定だった。しかし、連続して4回打ち上げに失敗したので計画は中止された。ロケットが改良、再設計されている間にクズネツォフはNK-33、NK-43のそれぞれの向上に貢献した。第二世代のロケットはN-1Fと呼ばれた。しかし、この時点で月への競争は大きく出遅れ、ソビエトの宇宙計画はエネルギアを将来の重量物打ち上げ機として採用した。そのためN-1Fが発射台に載ることは無かった。N-1計画が中止された当時、ロケットの全てを破壊するように命じられたが、エンジンはそれぞれ数百万ドルするので倉庫に保管された。エンジンの噂はアメリカに広がり、組み立てられてから30年近く後にロケット技術者が倉庫を訪れた。後にそれらのエンジンはアメリカへ運ばれ試験装置でエンジンの詳細な仕様が調べられた。残りのNK-33をどうするかしばしば問題になった。それらのエンジンの先進的な設計は現在でも十分競争力を保持していた。1990年代半ばの時点においておよそ150基のエンジンが残存しており、ロシアは36基のエンジンをエアロジェット社にそれぞれ110万ドルで売却した。この会社は新しいエンジンを製造する権利も買収した。エアロジェット社はNK-33とNK-43をそれぞれAJ26-58とAJ26-59に改名した。AJ26は、米国での商業打ち上げ用に米国製の電子機器を追加して改良(ジンバル機構の追加、信頼性向上、計測機器の近代化、米国の推進薬への適合性確認などを実施)したタイプであり、アンタレスロケットで使用したエンジンはAJ26-62となった。2006年8月にNASAの国際宇宙ステーション (ISS) への商業軌道輸送サービス (COTS) の候補として選定されたロケットプレーン・キスラー社 (RpK) のK-1ロケットでは、1段目と2段目にそれぞれ3基のNK-33と1基のNK-43を搭載する計画が建てられた。しかし、2007年9月、NASAはRpKがいくつかの契約のマイルストーンを満たしていなかったことによりCOTSの合意を白紙撤回するとした。同社は2010年7月にChapter 7の適用を受け倒産、K-1ロケットが実現することはなかった。残されたエンジンはオービタル・サイエンシズ社に買い取られ、アンタレスロケットの一段目に2基が使用されることとなった。また、日本のGXロケットの初期案でも、保管されているNK-33をロシアから買い付けて使用する案があったが、RpK社に売買契約を先に結ばれてしまったため断念した。ソユーズロケットでもNK-33を使用する計画が進められ、ソユーズロケットの中央のRD-108を1基のNK-33または5基のNK-33によってRD-108と4基のブースターRD-107を置き換えることにより、より軽量で高効率になり積載量が増える。類似の設計と余剰品の使用によってコストを削減できる。1基のNK-33 を使うタイプのロケットはソユーズ2-1vと呼ばれており、2013年12月28日に初打ち上げに成功した。オービタル・サイエンシズが開発したアンタレスロケットでは第一段に2基のNK-33 (AJ26-62)、第二段に固体ロケットを使用している。アンタレスロケットは2013年4月に初打ち上げに成功したが、5号機で打ち上げに失敗したため、このエンジンの使用は中止することになった。RSC エネルギアはアウローラ-L.SKロケットの第一段をNK-33、第二段をブロック DM-SLとする構成を検討中である。TsSKB-プログレスも同様にNK-33をソユーズ-1と呼ばれる現在開発中の軽量型のソユーズ2ロケットの主エンジンとして計画している。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。