マカームとは、マカーム(maqām, مقام。複数形はマカーマート maqāmāt)はアラビア語で「留まるところ」を意味し、「場所」「壇」「地位」などの意味で使われる普通名詞だが、中近東の音楽では特に音楽理論用語として使われ、「旋法の体系、システム」を意味する語である。音楽理論用語としてのマカームは、「旋法の体系、システム」といったようなものである。「アラブ音楽の『音階』」と説明されることも多い。旋律や音楽様式、楽曲体系そのものを指すときもある。マカームは、旋律型の集合体、旋律の型・パターンの集まりでもある。「音階と旋律のめぐり方を併せ持ったもの」とも言える。同じ音程構造、つまり同じ音階型を共有するマカームもある。その時は旋律のめぐり方や雰囲気などによって区別される。そして、通常2つ以上のジンス(جنس jins,複数形はアジュナース,ajnās اجناس 古代ギリシア語のγένος [genos,ゲノス]より。「種類」の意)と呼ばれる「テトラコルド程度の範囲の音域の旋律の単位、旋律の種」によって構成されている。マカームを西洋音楽の音階と比べると、中立音程(3/4音など)の使用が特徴的である。代表的なマカームはラースト。半音ではなく、4分の1音下げる記号をここで仮にとすると、だいたい次のような「音階」である、と描写されることが多い。C,D,E,F,G,A,BEの音はEフラットよりは高いがEナチュラルよりは低い音となる。どの程度になるかは時代・地域・楽派などによって違うが、たとえばEは音程比27:22(約354.547セント)となる。 マカームの理論付けにおいて重要な役割を果たした人物としてイスハーク・アルマウスィリー(アッバース朝期の音楽家)、キンディー(9世紀、イスラム哲学の創始者としても有名)、ファーラービー(10世紀、哲学者として有名、キターブ・アルムースィーカー・アルカビール Kitāb al-mūsīqá al-kabīr كتاب الموسيقى الكبير「音楽の大書、音楽大全」の著者)、イブン・スィーナー(哲学者。「治癒の書」キターブ・アルシファ Kitāb al-Shifā' には音楽理論に関する章がある)、サフィーユッディーン・ウルマウィー(、1216年頃現イラン西部のウルミア生まれ-1294年没、13世紀の神秘主義者。アッバース朝最後のカリフ・ムスタアスィムに仕え、キターブ・アルアドワール Kitāb al-Adwār كتاب الأدوار「旋法の書」の著者)などが挙げられる。またアブドゥッラフマーン・ジャーミーも簡潔にまとめた論文を残している。(純粋の音楽家ではないのは、当時のイスラム知識人は万事に興味を持ち、手を出すのが普通だったから)。またキンディーらの理論は古代ギリシアの音楽理論著作の流れを受け継いでいると言える内容で、その意味ではマカームの理論にはアリストクセノス、アルキュタス、プトレマイオス、ピュタゴラスなどが関わっているとも言える(マカームが1オクターブを越え、2オクターブに渡って定義されているのは古代ギリシアの音階論と関係がある)。トルコのマカームmakam、イランのアーヴァーズ、ダストガーフ、アゼルバイジャンのムガーム、ウズベキスタンのマコーム(マカーム)、中国・新疆ウイグル自治区のムカム(マカム、マカーム)、モーリタニアのブハールも、アラブ音楽のマカームと同様のものである。他の音楽文化圏では、西洋古典音楽における「旋法」、インド古典音楽における「ラーガ」、中部ジャワ伝統音楽におけるパトゥッ(パテット)、日本の雅楽における「調」である。以下に、各種のマカームについて例を挙げるが、マカームの説明は参考とした資料によって違いが大きく、ここでは表記に一体性が取れないことを注記する。出発音マブダア(開始音)、開始音アーガーズ、終止音カラール(決定音)、強調音ガンマーズ(支配音)、中間停止音マルカズ、副終止音ザヒール(ダヒールとも)などの機能音が定義される。古典音楽のマカームの伝統は、大きくマシュリク (東アラブ古典音楽)とマグリブ (西アラブ古典音楽、アラブ・アンダルース音楽、ヌーバ・マアルーフ、マアルーフ)の伝統に分かれる。ジンス(旋律の種)とは、上述のようにマカームの構成要素である。マカームはいくつかのジンスから組み立てられており、ジンスは3つの音、4つの音あるいは5つの音からできている。ここでは、1/4フラット(半音ではなく1/4音さげる)をqと表記する(なお、このqという表記は一般的ではないのに注意。よく使われるのは、フラット記号の縦の線、棒の部分に左上から右下へ向かう斜めの線を付け加えたものである)。ここでは、1/4フラット(半音ではなく1/4音さげる)をq、1/4シャープ(半音ではなく1/4音あげる)を+と表記する。主音(メロディ・曲・旋律の最後の音、終わりの音)が非常に重要であり、演奏家は絶対にこれを間違えてはいけない。これを間違えると違うマカームになってしまう。また、主音からはじまる第1ジンス(最初のジンス)も重要で、この第1ジンスが大体の場合そのマカームの肝である。1/4フラット(半音ではなく1/4音さげる)をqと表記する。「/」は上行形/下行形をしめす。イラクのバグダードで伝えられてきた声楽および小編成の器楽合奏(タフト(Takht)、ジャウクあるいはチャルギーなどとも呼ばれる)でよく用いられるマカーム。演奏の際の編成は独唱者(マカームチーあるいはカーリーと呼ばれる)、サントゥール、ジョウザ(胡弓のようなもの)、ドゥフ(タンバリンのようなもの)、ダラブッカなどからなる。別資料。
ダマスカスでのアラブ音楽のマカームの基本的なもの。単数形タブウ(もしくはタバア)、複数形トゥブーウ。サナーアート(複数形。単数形サヌア)とも言われる。サフィー・アッディーンは、主要なものをマカーマート、派生的なものをアーヴァーザートと呼んだ。ラテン文字によるトルコ語の正書法ではマカームはmakamと表記する。複数形はアラビア語に基づくmakamatが用いられるが、トルコ語固有の複数形語尾を用いてmakamlarとも言う。イラン伝統音楽の旋法。7種類のダストガーと5種類の派生、アーヴァーズの全12種類がある。ダストは「手」、ガーはDogāhやSegāhのgāhと同じ。旋律型グーシェgushehを持つ。アゼルバイジャンのムガームについては情報が少ないが、アゼルバイジャンの作曲家で、ショスタコーヴィチの弟子カラ・カラーエフ(バレエ音楽「雷の道」が有名)によればムガームとは「アゼルバイジャン特有の旋法の名称、またはその旋法を基とし、組曲と狂詩曲を結合したような構成を持つ楽曲形式の名称」と定義される。7つの主要なムガームがあるとされ、シャシュマカーム Shashmaqom(6つのマカーム)は長大な一連の曲の集まり、組曲である。ラーストならラーストという「音階・旋法」で統一された声楽曲や器楽曲の集まり、そしてその体系である。音楽体系とも言い得る。
シャシュマカームには以下の6つの「旋法」があり、6つの長大な「曲群」にあたる。17世紀ころにブハラやホラズムの宮廷音楽家によってかたちづくられていった。タスニフ(tasnif, テスニフとも)、タルジェ(tardzhe)、ガルドゥン(gardun)、ムハマス(mukhammas)、サキル(sakil)の5つの楽章からなるムシキロト(mushkilot, 「困難」の意、器楽部分)とサラフバル(sarakhbar)、タルキン(talkin)、ナスル(nasr)、ウファル(ufar)の4楽章からなるナスル(nasr, 「散文」の意、声楽部分)から構成されている。ウイグル族のムカム(マカム、マカームとも)は長大な一連の曲の集まり。楽曲体系。音楽様式。「新疆のウイグルの大曲(ムカム)芸術」としてユネスコの無形文化遺産に登録されている。10世紀から13世紀にかけて、突厥族の間でその基礎が固められ、14世紀になって天山山脈の南北の地方に広がり、15世紀には「ムカム」の語も、ムカムとしての構造も一応整ったといわれている。ムカムを構造的にも不動のものとして確立させたのは、16世紀、ヤルカンド汗国の2代目の君主アブドヴァシデの妃、アマンニサが時の優れたムカムの演唱家、カディールと協力して、民間に散逸散在していたムカムのチョンラクマン(チョン・ナグマとも)、ダスタン、マイシュラップ(マシュラップとも)を整理し体系化したことに因るものとされている。(楽師伝 - ウイグルの古典音楽家の詳細について書いてある)ウイグル族の住むそれぞれの都市に伝承されている。ヤルカンドの近くにある小さな村(バスで大体1時間半程)、メリケット(メルキット)には12ムカムの古い形、12ムカムより歴史の古い?ドラン・ムカム Dollan Muqamが残っているという。アラブのマカームなどと、同じ様な名前が散見される。ムカムとは楽曲の体系。曲の集合体。1ムカム分演奏すると大体2時間はかかる。12ムカム全てとなると、丸々1日はかかる。12ムカム全曲を聴ける機会は今日はまずない。大概はあるムカムのごく一部を断片的に演奏したりする場合がほとんどで、それも合奏ではなく、単独楽器で演奏されたり、多少演奏されやすく手が加えられた簡易版を演奏する場合も多い。経験をつんだウイグルの音楽家でも、1ムカム分を覚えるのは至難の業で、12ムカムの内1ムカムだけでも覚えて演奏出来れば賞賛に値するとされる。東アラブ古典音楽における「ワスラ」、トルコにおける「ファスル」といった組曲形式(あるいは組歌形式;いくつもの声楽・器楽曲を集めたもの。能でいう「番組」)にあたる?また西アラブ古典音楽における「ヌーバ」、「マアルーフ」、ウズベキスタンやタジキスタンにおける「シャシュマコーム;6つのマコーム」も曲の集合体というので、ムカムに似ているかもしれない。イランにおける「ラディーフ」も同様のもの?名前はチョンラクマン、ダスタン、マイシュラップとも。モーリタニアには、ブハール(複数形はブフール)と呼ばれる「旋法」のようなものが30以上存在する。ヒンドゥースターニー音楽(北インド古典音楽)には、ペルシャやアラビアから来たといわれるラーガ、ヘセイニ(Heseini)、ヘジャス(Hejaz)、カフィ(Kafi)、バハル(Bahar)等がある。カシミールのスーフィー音楽ではマカームという言葉が使われる。ただしマカーム・トーディーなどと言い実態はマカームの伝統より北インドのラーガの伝統に近い。(トーディーは北インド、ヒンドゥースターニー音楽でよく使われるラーガの一つ。)いずれにせよこれらはインドの異端の響きである。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。