ポリプロピレン ("polypropylene") 略称PPは、プロピレンを重合させた熱可塑性樹脂である。工業的に入手可能であり、包装材料、繊維、文具、プラスチック部品、種々の再利用可能な容器、実験器具、スピーカーコーン、自動車部品、紙幣など幅広い用途をもっている。汎用樹脂の中で比重が最も小さく、水に浮かぶ。強度が高く、吸湿性がなく、耐薬品(酸、アルカリを含む)性に優れている。しかし、染色性が悪く、耐光性が低い為、ファッション性の高い服地の繊維用途には向かない。汎用樹脂の中では最高の耐熱性である。2011年の全世界の生産能力、生産実績、総需要は、おのおの62,052千トン、50,764千トン、49,366千トンであった。一方、2012年の日本国内総需要は、2,297,562トンであった。同年の生産・輸入・輸出は、おのおの2,390,256トン(415,809百万円)、302,133トン(51,258百万円)、308,229トン(41,035百万円)であった。立体規則性は、ポリプロピレンの構造と物性を理解する上で非常に重要な概念である。隣り合うメチル基(右の図中のCH)の相対的配置が最終ポリマーの結晶形成に強く影響を与える。なぜなら、各メチル基が空間配座を決めるからである。立体規則性の違いにより、アイソタクチック(イソタクチック)、シンジオタクチック、アタクチックの立体規則性(タクティシティー)の異なったポリプロピレンが合成される。アイソタクチックとは、不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造である。具体的には、プロピレン側鎖のメチル基がすべて同じ方向を向いていてかつプロピレンが頭-尾結合している構造である。一方、シンジオタクチックとは、不斉炭素の絶対配置が交互に並ぶ構造である。絶対配置がランダムな構造をアタクチックという。アタクチックポリマーは通常結晶化しない。大部分の工業的に入手可能なポリプロピレンは、結晶性のアイソタクチックポリマーを主成分とし、0.5から2%程度のアタクチックポリマーを含んでいる。アタクチックポリマーは、キシレン等の溶媒に可溶であるので、この性質を用いて市販のポリプロピンから分離することが可能である。タクティシティーは、C-MNR(Nuclear Magnetic Resonance: 核磁気共鳴分光法)を用いてメチル基のメソ配置(隣り合うメチル基が同側)と配置(隣り合うメチル基が反対側)の分率を測定することにより得られる。アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンは、結晶性の樹脂である。アイソタクチックポリプロピレンの結晶構造は、3/1螺旋鎖を基礎とする、α晶、β晶、γ晶、スメクチック晶などの結晶構造をとることができる。支配的な結晶構造は、α晶(単斜晶)であり、これは、α(空間群C2/c)とα(空間群P2/c)に分けられる。α晶は、ラメラ構造が特異であり、親ラメラにほぼ直角方向に娘ラメラが成長したクロスハッチ構造を形成する。β晶は、六方晶でありラメラ構造は通常のα晶のようなクロスハッチ構造はとらない。γ晶は、三斜晶である。通常工業的に用いられる加工条件では、発現しない。スメクチック晶は、工業的には、フィルム成形での急冷によって現れる。シンジオタクチックポリプロピレンの結晶構造は、8/1螺旋鎖を基礎とする斜方晶である。ポリプロピレンは、コモノマー(主としてエチレン)との共重合の形態において3種に分類される。すなわち、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーである。ホモポリマーは、プロピレンの単独重合体である。プロピレンと連鎖移動剤としての水素のみを用いて重合する。上述の立体規則性のほか、分子の一次構造の違いは、末端のメチル基の挿入による違いによりn-ブチル基あるいはi-プロピル基になる。メタロセン触媒により得られるポリマーでは、2,1挿入や1,3挿入により見かけ上エチレンが共重合された構造となる。アイソタクチックポリプロピレンのDSC(Differential Scanning Calorimeter: 示差走査熱量計)によって測定される融点は、約165℃である。(一方、平衡融点は、187.5℃とされる。)融点は、タクティシティーが高いほど向上する。ランダムコポリマーは、エチレンを通常4.5重量%以下を共重合体中に含有する。エチレンにさらにブテン-1を共重合した三元共重合体(ターポリマー)も工業的に入手可能である。プロピレンとブテン-1の二元共重合体(エチレンを含まない)も工業的に入手可能である。「ランダム」とは、統計的にランダムであるということを必ずしも意味しない。エチレンのポリプロピレン主鎖中の分布(ランダムネス)は、触媒の種類によって異なる。必ずしもすべての分子量分画において、エチレンの分率が等しいという訳ではなく、低分子量鎖と高分子量鎖では、エチレンの含有率が異なっている。すなわち、エチレン含有量に分布(共重合組成分布)が存在する。メタロセン触媒を用いて得られるポリマーは、固体触媒を用いた場合より共重合組成分布が狭く、均一である。ランダムコポリマーは、ホモポリマーより結晶性が低く、透明で、靭性に優れ柔軟なポリマーである。ランダムコポリマーの透明性は、ポリスチレンやアクリル樹脂などの非晶性ポリマーほど透明ではない。コモノマー(共重合されるモノマー)の含有率が多いほど融点が低くなる。ブロックコポリマーは、インパクトコポリマー、異相共重合体(heterophasic copolymer)とも呼ばれる。これは、ホモポリマーの重合に続き、後続の反応槽でエチレンが共重合されたエチレン-プロピレン重合体を含有する組成物を意味する。ブロックコポリマーは、ホモポリマーの「海」の中にエチレン-プロピレン重合体の「島」が浮かぶ構造(海島構造)をしている。この「海島構造」は、エチレン-プロピレン重合体のエチレン分率、分子量およびホモポリマーの分子量により制御可能である。ポリプロピレンにおける「ブロック」の語は、特に断りのない限り通常の「ブロックコポリマー」を意味しない。すなわち、ホモポリプロピレン連鎖とエチレン-プロピレン共重合体連鎖が化学的に結合されていることを意味しない。エチレン-プロピレン共重合体の含有率を40 - 50重量パーセントあるいはそれ以上に高くしたブロックコポリマーをリアクターメイドTPO()あるいは、リアクターTPOまたは、単にTPOと呼ぶことがある。ブロックコポリマーはホモポリマーより耐衝撃性に優れる。ホモポリマーより透明性に劣る。MFR(Melt Flow Rate: メルトフローレート)が、PPの分子量の指標となる。MFRが高いほど分子量が小さい。溶融した原材料が成型時にどの程度良く流れるかを表すのに役に立つ。MFRの高いPPは、金型への充填が容易なため射出成形に適しており、MFRの低いPPは、押出機のダイから出た溶融樹脂が垂れにくいため押出成形に適している。MFRが高くなると耐衝撃性などの物性が低下する。単独重合体、共重合体ともにその分子量は、連鎖移動剤として作用する水素の濃度によって制御される。また、同じ水素濃度であっても触媒によって水素の応答が異なるため、同じ分子量を与えるとは限らない。分子量のより基本的な指標は、固有粘度(IV: Intrinsic Viscosity)であり、ポリプロピレンの場合は、通常はデカリン(デカヒドロナフタレン)またはテトラリン(テトラヒドロナフタレン)溶媒中で測定される。分子量分布も重要な指標である。分子量分布は、GPC(Gel Permeation Chromatography: ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定される。分子量分布が広いと射出成型品の剛性は、分子鎖の配向により向上するが、「そり」は増大する傾向にある。分子量分布を制御する方法は、主として3種類ある。一つは、2つ以上の重合槽または重合領域を用い異なった重合条件を適用することにより分量分布を広げる方法。もう一つは、広いまたは狭い分子量分布を与える特性を持った触媒を用いて重合する方法、さらには、有機過酸化物を用いてポリプロピレンの分子切断を行い分子量分布を狭くする方法である。いずれも、工業的に広く用いられている。酸、アルカリ、沸騰水、鉱物油など多くの薬品に対して侵されないという優れた耐薬品性を有している。重合されたままのなにも添加されていないポリプロピレンは、空気中の酸素により酸化されやすい。生成された三級炭素ラジカルは、さらに酸素と反応してヒドロペルオキシドを生成するなど連鎖的に劣化反応がおこる。高温下では酸化劣化を起こすため成型時には、特に問題となる。このため劣化を防ぐために抗酸化剤が添加される。すなわち、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、フォスファイト、チオ化合物を添加することで安定化される。屋外の使用においては、太陽光の紫外線(UV)照射による分子鎖の切断による劣化が避けられない。このような用途にはUV吸収剤(ベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなど)が必ず添加される。カーボンブラックもUV吸収剤として作用する。表面自由エネルギーが低いため接着性、印刷性に劣る。印刷する場合には、表面処理(コロナ処理)などを行った後、印刷を行う。ポリプロピレンは、基本的に絶縁性のポリマーである。誘電率は、2.2-2.6である。結晶部と非晶部の屈折率の違いによりポリプロピレンは、半透明になる。ソルビトール系の透明化造核剤の添加により球晶サイズを小さくし、透明化度あげることが可能である。また、二軸延伸により透明化することができる。1950年代の初期にカール・チーグラーは、TiCl(四塩化チタン)とAlR(トリアルキルアルミニウム)の混合物(反応してTiCl(三塩化チタン)を形成する)がエチレンの最適な触媒となることを発見した。しかし、このような触媒は、アタクチック生成物が多かったためプロピレンの重合触媒としては、使用できなかった。1954年にジュリオ・ナッタとカール・レーンは、TiCl(三塩化チタン)とAlRCl(ジアルキル塩化アルミニウム)の混合物が高活性なアイソタクチックポリプロピレンを与えることを発見した。1957年イタリアの社(後の社)が商業生産を開始した。ナッタの触媒の活性は、触媒(Ti)1グラムあたりポリプロピレン4キログラムであった(4kg/g)。製品に含まれている触媒残渣(ポリプロピレンの購入者、製造者の製造設備を腐食する問題がある)を除去するための洗浄(脱灰)が必要であった。また、アイソタクチックインデックス(立体規則性指標)は、92%であり、アタクチックポリプロピレンの除去が必要であった。1971年ソルベー社は、高沸点エーテル(ジブチルエーテル)の存在下で粉砕したTiClの混合物からなる新触媒を開発した。エーテルは、ルイス塩基として作用し、TiClの好ましくない活性点を不活性化した。助触媒としてDEAC(ジエチル塩化アルミニウム)を用いて、活性は、16kg/gとなり、アイソタクチックインデックスは約96%となった。アタクチック成分の除去の問題を解決した。4年後、TiClとほぼと同等の結晶構造を持つ担体であるMgCl(塩化マグネシウム)担持TiClを基礎とする新触媒が開発された。触媒は、ルイス塩基として2−エチルヘキシル安息香酸を添加して活性化された。325kg/gの高活性であり、残触媒の除去を不要にした。が、一方アタクチック成分の除去は再び問題となった(アイソタクチックインデックス約92%)。1981年、安息香酸エステルにかわりフタル酸エステルを添加した触媒は、アイソタクチックインデックスが97%にあがり、活性が600-1,300kg/gの高活性であった。ポリプロピレンは、アリル位の水素が高い活性を示すためラジカル重合によって高重合度の重合体を合成することはできない。ラジカル重合によって得られるポリマーは、重合度が低いアタクチックなPPとなる。チーグラー・ナッタ触媒は、固体触媒表面でプロピレンモノマーの挿入を規制するアイソタクチックな活性点を有する。現在、最も広く用いられているチーグラー・ナッタ触媒は、ルイス塩基(内部ドナー)としてフタル酸エステルを用いたMgCl担持TiClを基礎とする物である。第二のルイス塩基(外部ドナー)として、アルコキシシラン化合物を添加し、アルキルアルミニウム化合物(一般的には、トリエチルアルミニウム)の存在下でプロピレンを重合する。メタロセン触媒は、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などの遷移金属に剛直な配位子に配位したメタロセンとMAO(メチルアルミノキサン)から構成される。配位子の分子構造によりアイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックにポリプロピレンを与える。MAOにかわり、ボレート化合物やモンモリロナイトなどの鉱物も使用される。単一種の活性点を有するためシングルサイト触媒と呼ばれ、これにたいして、チーグラー・ナッタ触媒は、複数種の活性点を有するためマルチサイト触媒と呼ばれる。ポリプロピレン製造プラントの規模は、年産4万トンから55万トン程度である。近年の新設プラントにおいては、年産20万トンから30万トン以上の規模が一般的である。ポリプロピレンの重合には、純度99.5重量%以上のポリマーグレードプロピレン(PGP, Polymer Grade Propylene)が用いられる。水分、酸素、一酸化炭素、硫黄化合物は触媒毒となるので、一定量以上含有してはならない。反応圧力15-60bar、反応温度60-100℃で重合されるのが一般的である。反応圧力、反応温度は、製造プロセス、製造銘柄に依存する。反応は発熱反応であるので、熱交換器、冷却ジャケット、モノマーフィードによって除熱される。未反応のプロピレンは、分離・除去され系内でリサイクルされる。分離されたポリプロピレン粉体は、触媒の失活、乾燥過程を経て安定剤などの添加剤が添加された後、押出機でペレットになる。以下のPPの製造プロセス技術が、ライセンスされている。これらは、バルク(液化プロピレンを重合溶媒とする)、気相またはそれらの組み合わせであり、プロピレン以外の溶媒を必要としないプロセスである。全世界で稼働中のほとんどのプラントは、以上のいずれかのプロセスでポリプロピレンを生産している。いずれのプロセスも無脱灰(触媒残渣の除去を必要としない)プロセスである。一方で、日本国内および諸外国においては、脱灰を必要とする古いプロセスも同時に稼働している。日本国内のポリプロピレン樹脂の製造業者は、以下である。既存のポリマーや充填材をブレンドすることで改質された新しい組成物を得る。ポリプロピレンは、建築・建設資材や家庭用品として容器、おもちゃ、スポーツ用品、電気器具、カーペット、包装材料、繊維、文具、プラスチック部品、実験器具、スピーカーコーン(振動板)、自動車部品、紙幣などに用いられる。素材形態としては吸水性が無いために衣料繊維として用いられることは少なかった。 性に優れているため汗を蒸発させる速乾性素材として使用される。以下の用途に用いられる。熱可塑性が高く、成型も容易なため家電製品、自動車、電子製品、家庭用品など広く用いられている。250μmより厚い物をシート、薄い物をフィルムと呼ぶ。日本国は、食品衛生法により、「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着して人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装又は食品若しくは添加物に接触してこれらに有害な影響を与えることにより人の健康を損なうおそれがある器具若しくは容器包装は、これを販売し、販売の用に供するために製造し、若しくは輸入し、又は営業上使用してはならない」と定めている。この法律をもとに、食品包装用プラスチックの安全性を確保するための具体的な規格として「食品添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示370号)が定められている。ポリオレフィン等衛生協議会(JHOSPA)は、自主規制を設け、これに適合したポリオレフィン樹脂に対して登録番号を付与し「碓認証明書」を発行している。日本国外で使用される場合は、当該国の法規制に合致する必要があるが、一般にアメリカ食品医薬品局()の基準(21 CFR Sec. 177.1520 - Olefin polymer)が要求されることが多い。難燃化されていないほとんどのポリプロピレン樹脂は、消防法の指定可燃物(合成樹脂類) (指定数量:3,000kg) に該当する。貯蔵及び取り扱いには、市町村条例の定める技術上の基準に従う必要がある。税関の区分によるプロピレンの共重合体は、コモノマー(エチレン、ブテン-1など)の合算重量が5%以上のものと定義されているため前述のランダムコポリマーの多くは、税関上ホモポリマーとなる。一方、ブロックコポリマーの多くは、プロピレンの共重合体に分類される。なお、関税率表の番号(統計品目番号)は、ポリプロピレン、プロピレンの共重合体に対して、おのおの 3902.10010、3902.30010 である。熱可塑性である、ポリマー鎖中に塩素を含まない、完全燃焼するとほぼ水と二酸化炭素になるという性質によりリサイクルの比較的容易な合成樹脂である。米国プラスチック工業協会()のコードは、5番である 。経済産業省は、リサイクル識別表示マークとして、プラマーク の下にPPと表示することを推奨している。2012年、216万トンが廃プラスチックとして排出され、39万トンがマテリアルリサイクルされた。製鉄所高炉還元剤化(原料の塩素含有率0.5%以下の原料を使用)によりケミカルリサイクルされている。ポリプロピレン廃棄物は熱エネルギー源としてサーマルリサイクル可能である。燃焼熱は、44.0 MJ/kg である。カーボンフットプリントによるポリプロピレン1 kg あたりの温室効果ガス排出量は、1.68 kg-COeである。樹脂ペレットは、流出により海洋漂着/漂流物となり環境汚染の原因となるので、『樹脂ペレット流出防止マニュアル』に従った対応が必要である。ポリプロピレンは、立体規則性や組成の違いにより異なったCAS番号が与えられている。CAS番号と既存化学物質の官報公示整理番号の関係は、以下のようになる。
出典:wikipedia
LINEスタンプ制作に興味がある場合は、
下記よりスタンプファクトリーのホームページをご覧ください。