未完成発明(みかんせいはつめい)とは、発明として未完成で、日本の特許法上の「発明」とはいえないものをいう、日本の判例、特許庁の実務、学説で認められてきた法解釈上の概念である。現在まで、安全性を欠く原子炉、有効性の検証が不十分な薬剤、期待された効果を挙げることのできない器具などが未完成発明とされてきた。未完成発明とされるものは、将来的には完成して発明となる可能性がありえるから、暗号の作成方法、ゲームのルール、永久機関などもともと発明となりえない非発明と区別される。未完成発明は日本の特許法上の「発明」ではないから、特許法の手続きや訴訟上で、発明について認められているさまざまな効力を発揮することができない。未完成発明が問題となるような場面には、出願審査の拒絶理由、先願主義の下での後願排除効、優先権主張の可否などがある。拒絶理由においては、未完成発明と明細書記載不備との区別が不明確であるという問題があった。しかし、1993年6月に改訂された特許庁の特許・実用新案審査基準においては「未完成発明」という区分が除去され、1993年4月改正・翌年1月施行の特許法改正により補正の範囲が厳しくなったことにより、出願審査の拒絶理由としては明細書記載不備と区別する必要がなくなり、2005年ころには出願審査の場面では未完成発明という拒絶理由はほとんど使われなくなった。「未完成発明」を含め、発明の「完成」または「未完成」といった文言は、日本の特許法の条文に存在しない。しかし、特許法上の発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であるが、それは着想から、「一定の技術的課題(目的)の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成される」。そして、その完成段階に到達していないものは、発明として未完成であり、日本の特許法上の「発明」とはいえないとされる。未完成なものに特許を与えると、着想だけの段階で段階でいちはやく出願した者が、発明を完成させるために研究を続けている者をさしおいて、その技術を独占することになり、不公正な結果となるからである。これを、「未完成発明」や「発明未完成」という。このような概念は、特許法の解釈として、以下のように判例のほか、特許庁の実務や学説でも認められてきた。発明の完成・未完成に関して、最高裁判所は、次のように判示している:1972年2月に特許庁が公表した特許・実用新案審査基準には、「未完成発明」という区分が存在し、齋藤真由美・井上典之「発明の未完成」(96頁)によれば、これはさらに次のように細分化されていた:また、1972年以前にも、特許庁は、1962年に「発明未完成」を理由として拒絶査定を行っている。中山信弘『工業所有権法』(108頁)は、「未完成発明とは、一応発明らしき外観を呈しているものの、その発明の課題解決の具体的方法に欠けているものを指す」とする。また、吉藤幸朔『特許法概説』(58頁)、青山紘一『特許法』(94頁)も、「未完成発明」の概念を取り上げて、解説する。しかし、渋谷達紀『知的財産法講義I』(6-7頁)は、「何らかの客観的な作用効果をもたらすが、発明の目的を全く達成することのない発明」を「未完成の発明」として、それに対して「明細書から知られる発明の目的に照らして、その目的を十分に達成しているとはいえない発明や、実施上の問題を残しているような発明」を「不完全な発明」とし、後述する最高裁判所が発明としては未完成であるとした原子力エネルギー発生装置事件の原子炉について、「不完全な発明であったとはいえ、本来は特許に値するものであった」とする。旧特許法上の判断が問われた事案であるが、1969年に最高裁判所は、「中性子の衝撃による天然ウランの原子核分裂現象を利用し、その原子核分裂を起こす際に発生するエネルギーの爆発を惹起することなく有効に工業的に利用できるエネルギー発生装置」の技術について、「中性子の衝撃による原子核の分裂現象を連鎖的に生起させ、かつ、これを適当に制御された状態において持統させる具体的な手段とともに、右連鎖的に生起する原子核分裂に不可避的に伴う多大の危険を抑止するに足りる具体的な方法の構想は、その技術内容として欠くことのできない」とした上、次のように判示した:1977年に東京高等裁判所は、泳いでいる人によって発生した波が、競泳用のコースロープ用フロートによって反射され、身体に対する抵抗として作用しないようにするために、従来はたんなる円柱状であったフロートの外周面に凹陥部を設けたものについて、まず次のことを認定した:その上で、次のように結論付けた:1994年に東京高等裁判所は、化学物質発明について、次のように述べた:そして、同判決は、一般式に含まれる膨大な化合物を対象とし、そのうち1201個について化学構造式に等しい開示があるものの、80個の化合物についてだけ除草活性テストの結果が記載され、その80個の化合物のなかでも所定濃度で除草活性をほとんど示さないものがある除草剤について、「化学物質発明として成立していたものとは認められない」とした。これは、発明の未完成について判示したものと評価されている。次のような段階に留まるものは、未完成発明とされる:解決手段がどの程度まで具体化されていれば完成したとされるのかという点については、前述のように、「当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成」されている程度になっていなければ、未完成とされる。もっとも、この反復可能性についてそれがどの程度あればよいのか、発明の実際の対象の製造や効果の確認実験が必要なのかについては、発明の種類により、さまざまな裁判例が存在する。1977年に東京高等裁判所は、「化学反応の発明」については化学反応の作用効果を裏付ける実験が必要であるとして、次のように判示している:1986年に最高裁判所は、物の発明については、発明が完成したといえるために実際の製造や最終的な製作図面の作成まで至っている必要はないとして、次のように述べている:2000年に最高裁判所は、二つの品種を交配してえた種子を選択淘汰し、好ましい品質を持つ桃の新品種を育成して、これを増殖させる方法の発明について、発明が完成したといえるためには「当業者がそれを反復実施することにより同一結果を得られること、すなわち、反復可能性のあることが必要である」と確認したうえで、次のように判示している:未完成発明は、非発明とは区別される。非発明とは、例えば、日本の特許法上、暗号の作成方法、ゲームのルール、広告方法、計算方法、永久機関、自然法則そのものなどがあたる。特許法上の発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であるから、人為的な取り決め、自然法則に反するものや自然法則そのものなどは、もともと発明となりえないのである。これに対して、未完成発明は将来的には完成して発明となる可能性があるから、非発明と未完成発明は性質が異なる。未完成発明は、発明として未完成なものであって、日本の特許法上の「発明」ではない。したがって、特許法の手続きや訴訟上で、発明について認められているさまざまな効力を発揮することができない。未完成発明が問題となるような場面には、出願審査の拒絶理由、先願主義の下での後願排除効、優先権主張の可否など、以下のようにさまざまなものがある。特許を出願すれば、請求を受けて、特許庁の審査官が特許出願を審査する。出願審査の結果、問題があるときは「その特許出願について拒絶するべき旨の査定」(拒絶査定)がなされる。このとき、発明として未完成なものは、特許庁によって拒絶査定がなされていたのであり、判例も次のように認めてきた:特許法は、「同一の発明について異なつた日に二以上の特許出願があつたときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができる」と定める。この最も早く出願した者が特許権をえる主義を「先願主義」という。また、先願による後願の排除は、かつては特許請求の範囲の同一性に限られていたが、昭和45年の特許法改正により、その範囲が拡大した。現在、特許法は、特許出願された発明が先になされている特許出願の願書に最初に添付された明細書や図面に記載された発明と同一であるときは、一定の場合に、特許を受けることができないと定めている。これを「拡大された範囲の先願」などという。
出典:wikipedia
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