異常磁気モーメント(いじょうじきモーメント、anomalous magnetic moment、記号formula_1)とは量子電磁力学 (QED)において、粒子の磁気モーメントへの量子力学的効果による寄与である。異常磁気モーメントはファインマン図のループによって表現される。ディラックの理論(これはループのないファインマン図に対応する)では、磁気モーメントはディラック方程式によって計算され、g因子の項として表現される。ディラック方程式による計算では、正確にformula_2である。電子のような粒子では、このディラック方程式による古典的な結果は実際に観測される値とはごく僅かに異なる。この違いは異常磁気モーメントとよばれ、記号formula_3で表され以下で定義される。電子の異常磁気モーメントは1948年にR. KuschとH. M. Foldyが実験で発見した。電子の異常磁気モーメントは物理定数の中でも極めて高い精度で測定されており、その値は以下である。電子の1ループの異常磁気モーメントの寄与は右上のファインマン図で表され、頂点関数を計算することで求められる。1ループの計算は比較的単純で、その結果は以下となる。ここでformula_7は微細構造定数である。この結果は1948年にシュウィンガーによって初めて導かれた。現在までに、電子の異常磁気モーメントのQED公式はformula_8のオーダー(4ループ)まで計算されている。木下東一郎らによる最近の計算結果は以下のようになる。QEDによる計算結果は実験による測定値と10桁以上一致しており、電子の磁気モーメントは物理学の歴史上でも最も正確に理論と一致した数値となっている。ミュー粒子の異常磁気モーメントは電子の場合と似た手法で計算されるが、弱い相互作用、強い相互作用の寄与も含まれるという点で電子の場合より複雑である。この計算結果と実験値を比較することで標準模型のワインバーグ=サラム理論の正確さの評価ができる。ミュー粒子の異常磁気モーメントの値の予言は3つの部分から構成される。最初の2つの項はそれぞれフォトンとレプトンのループとWボソンとZボソンのループによる寄与であり、電子同様正確に計算することができる。3番目の項はハドロンのループによる寄与であり、理論単独からは正確に計算することができない。これは実験によるeeの衝突の断面積比formula_11(ミュー粒子の断面積に対するハドロンの断面積の比)の測定によって推定することができる。2006年11月の時点では測定値は標準模型と標準偏差3.4程度の不一致がある。ミュー粒子の異常磁気モーメントの測定値は以下である。異常磁気モーメントに寄与する量子効果は、厳密には電磁相互作用だけでなく、弱い相互作用と強い相互作用の寄与も含まれている。しかし、電子の異常磁気モーメントの場合、ウィークボソンやハドロンの効果は非常に小さく、電磁相互作用だけを考えたとしてもかなりの精度で理論値と実験値が一致する。一方、ミュー粒子の異常磁気モーメントの場合は弱い相互作用、強い相互作用の寄与が比較的大きく、電子の場合より複雑な計算を必要とする。この事情から、電子の異常磁気モーメントは量子電磁力学(QED)の検証、ミュー粒子の異常磁気モーメントはワインバーグ=サラム理論の検証に適している。また、タウ粒子の異常磁気モーメントは、ミュー粒子以上に弱い相互作用、強い相互作用の寄与が大きくなるが、実験で測定することが困難なため、理論の検証に用いるのは難しい。2ループ以上の頂点補正では、光子の真空偏極によって電子、ミュー粒子、タウ粒子の3種類のレプトン対生成が起こるため、3種類の閉じたレプトンループを持つファインマン図が含まれる。これより、異常磁気モーメントの式中にレプトン質量比(m/mなど)に依存する項が現れる。これを考慮すると、例えば、電子の異常磁気モーメントはと書ける。ここで、第1項はどのレプトンに対しても等しい値を持つ、すなわち、レプトン質量に依存しない普遍的な項である。第2項、第3項はレプトンの質量比に依存する項で、2ループ以上の計算において現れる。第2項は電子の頂点関数にミュー粒子ループの補正が存在する図、第3項はタウ粒子ループの補正が存在する図に対応している。第4項は2種類の質量比に依存する項で、3ループ以上の計算において現れる。実際には、電子の異常磁気モーメントに対して、m/mやm/mに比例する項の寄与は非常に小さい。一方、ミュー粒子の異常磁気モーメントの場合は、m/mに比例する項の寄与は比較的大きく、m/mに比例する項の寄与は非常に小さい。これは、電子と比べてミュー粒子の異常磁気モーメントの計算が複雑な原因の一つである。上式の各項は電磁相互作用の結合定数(微細構造定数)αによって摂動展開される。シュウィンガーによって導出された電子の1ループ異常磁気モーメントは上のAの第1項に対応している。また、レプトン質量に依存しない普遍項Aは、どのレプトンに対しても共通の値を持つ。例えば、1ループのQED頂点補正を表すファインマン図は1種類だけであるので、当然、光子の真空偏極は存在せず、レプトンループを考慮する必要はなくなる。これより、QEDの範囲においては、電子、ミュー粒子、タウ粒子の1ループの異常磁気モーメントは厳密に等しくなる。つまり、である。QED2ループの異常磁気モーメントの普遍項は、7種類のファインマン図を足し上げることで計算され、その結果は以下となる。ここで、ξ(3)はリーマンゼータ関数である。この計算は1950年にKarplusとKrollによって行われたが、その結果は間違っていたため、1957年にPetermannとSommerfieldによって再導出された。QED3ループの異常磁気モーメントの普遍項は、72種類のファインマン図を足し上げることで計算され、その結果は以下となる。ここで、formula_23である。3ループ計算の値は1995年に木下東一郎によって数値的に計算され、1996年には上式のような解析的な表記がLaportaとRemiddiによって導出された。QED4ループの異常磁気モーメントの普遍項は、891種類のファインマン図を足し上げることで計算される。この中で、373個の図は真空偏極による閉じたレプトンループを持ち、残りの518個の図はレプトンループを持たない4個の光子が飛ぶだけの過程である。木下らによる2007年の数値的な計算によると、その結果は以下のようになる。複合粒子(バリオンなど)は非常に大きな異常磁気モーメントを持つことがある。これは電荷をもったクォークで構成されている陽子や中性子などで起きる。陽子は核磁子の2.792 847 356(23)倍、中性子は電荷をもたないので本来0のはずだが-1.91304273(45)倍の値を持つ。即ち異常磁気モーメントは以下である。これは中間子の理論では、陽子 (uud) が中性子 (ddu) とπ中間子 (formula_27)に分裂したり、反対に中性子 (ddu) がπ中間子 (formula_28) と陽子 (uud) に分裂したりという過程が起き、陽子や中性子単独でも電気的な構造があるためである。標準模型のクォーク模型では、陽子や中性子の磁気モーメントはその構造や、それを構成するクォークの磁気モーメントなどを研究する際の重要な手がかりである。
出典:wikipedia
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