アブシシン酸(アブシシンさん、アブシジン酸、、ABA)は、植物ホルモンの一種。構造的にはセスキテルペンに属する。休眠や生長抑制、気孔の閉鎖などを誘導する。また乾燥などのストレスに対応して合成されることから「ストレスホルモン」とも呼ばれる。分子式CHO。CAS登録番号は [21293-29-8]。植物の休眠・生長抑制物質に関する研究は1950年代から1960年代にかけて精力的に行われた。1961年、LiuとCarnsはワタの葉柄から単離した落葉促進物質をabscission(葉などの離脱)にちなみ「アブシシン (abscisin)」と命名した。1963年には大熊和彦らがワタ未熟果実から同様の物質を単離し「アブシシンII (abscisin II)」と命名した。同じく1963年に、イーグルス (Eagles) とウェアイング (Wareing) は、ヨーロッパダケカンバ ("Betula pubescens") に含まれる出芽休眠物質を「ドルミン(dormin)」(休眠 dormancy にちなむ)と命名した。1965年に、アブシシンIIの構造がアディコット (Addicott) らによって提唱され、同年にコーンフォース (Cornforth) らは、カエデ葉からドルミンを単離し、構造解析および全合成によってアブシシンIIと同一物質であることを明らかにした。絶対立体配置はコーンフォースらによって1967年に決定された。名称の混用を避けるために、1967年の第6回国際植物生長物質会議 (IPGSA) において、化合物名を「Abscisic acid(アブシシン酸)」、略称を「ABA」と統一することとなった。なお、現在では、正式な日本語表記は「アブシシン酸」であるとされているが、「アブシジン酸」「アブサイシン酸」と呼ばれることも依然として多くある。高等植物におけるアブシシン酸生合成は、ピルビン酸とグルタルアルデヒド3-リン酸(いわゆる非メバロン酸経路)からカロテノイド、キサントキシン、アブシシンアルデヒドを経由して合成される経路(間接経路)が主であると考えられている。合成経路のカロテノイドまでは色素体内、キサントキシンから後は細胞質内での反応である。このなかで、カロテノイドからキサントキシンが生成される反応を触媒する、9-シス-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ (NCED) がアブシシン酸生合成の主な律速酵素であると考えられている。アブシシン酸を生産する植物病原菌もいくつか知られている。これらの菌におけるABA生合成経路は植物とは異なり、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸 (IPP) を合成し、カロテノイドを経ずファルネシル二リン酸(炭素数15)からアブシシン酸を生合成する直接経路が主であるが、カロテノイド経路を持つ種もある。直接経路におけるファルネシル二リン酸以降のABA生合成は種によって様々な経路が知られている。2006年以降、植物においていくつかのABA受容体が報告されたが、ABAの機能に関連する役割については論争があった。2009年に、PYR/PYL/RCARタンパク質として知られるタンパク質ファミリーが、有力なABA受容体であることが報告された。この受容体の発見をきっかけに、ABAのシグナル伝達経路の解明が急速に進んだ。通常、植物では2C型タンパク質脱リン酸化酵素 (PP2C) が、キナーゼ(リン酸化酵素)SnRK2 (SNF1-related protein kinase 2) を脱リン酸化し不活性状態としている。ABAが受容体であるPYR/PYL/RCARタンパク質に結合すると、PYR/PYL/RCARタンパク質とPP2Cが複合体を形成し、PP2Cによる脱リン酸化が外れてSnRK2が活性型となる。活性型SnRK2は下流のロイシンジッパー型転写因子をリン酸化して活性化し、ABA-responsive promoter element (ABRE) の制御下にある関連遺伝子が転写される。アブシシン酸は高等植物のほかにコケ、緑藻、また藍藻と一部の植物病原菌からも見出されており、コケと緑藻では生長抑制作用が明らかにされている。また苔類(コケ)に多量に含まれるルヌラリン酸(lunularic acid、構造がアブシジン酸にやや似る)についても類似作用が示されている。
出典:wikipedia
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