文化財返還問題(ぶんかざいへんかんもんだい)とは、外国に流出した文化財を、その原産国・原所有国に返還することに関わる、あるいは、返還を要求することに関わる問題である。主に、違法な略奪・盗掘や、植民地支配・戦争下での国家による収奪が対象になるが、売買など合法的に収集された文化財の返還を求めている場合もある。「泥棒博物館」とも揶揄される大英博物館があるイギリスのように各国は、国内に不法な手段で搬出したとされる文化財を保管している。それらの中には現在では国外への持ち出しが到底許可されないほど貴重なものも多く、原産国側が返還を求めている場合がある。エルギン・マーブルのように「略奪」されたと考えられているものだけでなく、ロゼッタ・ストーンなど合法的に流出したとされている文化財でも、「国家の重要な文化のひとつ」として返還が求められている。ロゼッタ・ストーンをはじめ返還が求められている文化財にはきわめて貴重なものもあり、それらは国家ばかりでなくそれを所蔵する博物館にとっても目玉となる展示品となるため、文化財返還要求の成就は困難であるが、成功例もある。1972年に発効した文化財不法輸出入等禁止条約は、文化財の不法な搬出を禁ずる国際的な取り決めだが、発効以前に起こった問題には適用されず、さらに対象が盗難品に限られている。加えて、返還を求められている文化財であっても、所有している側は「正当な手段で入手した」と主張することが多い。例えば、盗掘品だとされる文化財を所有するドイツの博物館は、発掘者と政府との協定を根拠にしている(詳しくは「ネフェルティティの胸像」を参照)。貴重な文化財が一国に集められることで学術的な研究が進みやすいといった点や、原産国が文化財の保護や管理に熱心でない場合もあり、現所有者側が散逸や劣化を防いでいたという点から一定の評価をする意見もある。一例として、これまで大英博物館はエルギン・マーブルの所有を正当化する主張のひとつに挙げていたが、事実ギリシアでは大気汚染によりパルテノン神殿での展示は不可能となっている。また、所蔵する博物館側が自らを「普遍的美術館」として位置づけ、その正当性を訴えた「普遍的美術館の価値とその重要性についての宣言」はその一例である。ルーヴル美術館やメトロポリタン美術館などが団結して「過去の行為は現在と異なる価値観と文脈で判断すべき」「特定の国家ではなく、普遍的にあらゆる人々へ奉仕する義務」を強調する声明だった。2002年、大英博物館をのぞく欧米の主要な18館が参加した。『返還』という語は、合法性のある文化財については避けられ、文書上は譲渡とされることもある。この点で、両国間で使用される語に齟齬が生じる場合もある。この問題については、所有権についての争いを回避できる永久貸与という形式で事実上の返還を行う場合もある。所有権を争われる可能性のある品が国外で展示された場合、差し押さえや訴訟の対象となることがある。この種の問題を回避するため、訴訟や差押え等の対象から除外する法整備を求められることがあり、日本では海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律(海外美術品公開促進法)が2011年に制定されている。返還に合意してもアクスムのオベリスクの様に、輸送能力の問題で返還が滞る場合もある。また、通常の貸与でも発生する可能性があるが、「ネフェルティティの胸像」に対して指摘されるように、輸送による損壊のリスクもある。返還要求国の文化財管理能力が疑問視されることもある。現地に残された文化財が破壊・汚損・盗難・散逸などされ、先進国が奪ったもののみが良好な保存状態で現存するというケースがしばしば見られる。もっとも、大英博物館がエルギン・マーブルを損壊したように、先進国にある文化財が必ずしも状態良好ではないことも指摘されている。この問題に対してペルーは、2011年にエール大学から譲渡されたマチュ・ピチュの文化財を収蔵するため、クスコに新たにカサ・コンチャ博物館(Museo de la Casa Concha)を建造している。この他エジプトはギーザに博物館()を建造するなど、受け入れ体制の整備は各国で行われている。返還された文化財の中では、2006年にウシャク考古学博物館で、トルコに返還されたリディアの財宝から、「金のヒッポカンポスのブローチ」が盗難にあう事件が起こった。その後、同国の博物館の管理体制を見直したところ、いくつかの盗難事件が発覚している。最近までは2ヵ国間で個別に返還を求める交渉をすることがほとんどであったが、2010年、エジプトを中心に中国、韓国、ギリシャなど21の国の代表がカイロで「文化財保護と返還のための国際会議」を開き、略奪文化財の返還を団結して求めていく姿勢が明らかにされた。またエジプトや韓国など7ヶ国はすでに優先的に返還されるべき文化財のリストを作成している。朽木ゆり子は過去20年と比較して、文化財返還問題への国際的な関心がはるかに高まっていることを指摘し、ナチスの略奪美術品の返還訴訟や中東やアジアでの文化財密輸問題が世界的に注目されたこともその一因であるとする。エジプトは、2010年までに5000件の文化財返還に成功している。韓国は、日本から日韓基本条約で1300点余りの文化財返還をうけている。2006年に朝鮮王朝実録、2011年に朝鮮王室儀軌の寄贈も得られたが、これを韓国では返還と称している。フランスからは、朝鮮王室儀軌を5年更新の永久貸与の形で返還されている。文化財が盗品として韓国に流出していると考えられており、長崎県安国寺の「高麗版大般若経」と兵庫県鶴林寺の掛軸「阿弥陀三尊像」については、韓国政府による調査を要請している。また対馬宗家文書等の文献・資料が韓国に残存していることも判明しているが、これに関しては「アクセス改善」要求に留まっている。「譲渡」と「永久貸与」を含む。
出典:wikipedia
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