mTOR(日本ではエムトールと呼ばれることもあるが、正しくはエムトアである)は哺乳類などの動物で細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼ(セリン・スレオニンキナーゼ)の一種。mTORはラパマイシンの標的として発見されたため、mammalian target of rapamycin、つまり「哺乳類ラパマイシン標的タンパク質」の略として命名された。mTORは、複数のタンパク質による複合体(complex)を形成し、複合体はmTORCと呼ばれる。インスリンや他の成長因子、栄養・エネルギー状態、酸化還元状態など細胞内外の環境情報を統合し、転写、翻訳等を通じて、それらに応じた細胞のサイズ、分裂、生存などの調節に中心的な役割を果たすと考えられている。初め、酵母におけるラパマイシンの標的タンパク質が見出されてTOR(target of rapamycin)と命名され(TOR1、TOR2の2種類がある)、後に哺乳類のホモログが見出されてmTORと命名された。酵母のものも栄養状態等に応じた調節機能を果たすが、詳細な作用機序は異なる。さらに多くの真核生物でホモログが知られるが、これらの作用機序も必ずしも同じではない。語源となっているラパマイシンは、まずFKBP12タンパク質に結合し、このタンパク質複合体がmTORに結合してこれを阻害する。mTORは2種類の分子複合体(ラパマイシン感受性および非感受性)を形成し、それぞれにおいて触媒(mTORキナーゼ)サブユニットとして働く。mTOR複合体1(mTORC1)はmTOR、mLST8/GβL(mammalian LST8/G-protein β-subunit like protein)、Raptor(regulatory associated protein of mTOR)およびPRAS40とDEPTORからなる。この複合体は、栄養・エネルギー・酸化還元状態に関する情報により、タンパク質生合成の制御に関わる。mTORC1はラパマイシンにより阻害され、また低栄養状態、成長因子の不足、還元ストレス等の刺激により抑制される。これらの刺激があるとmTORとRaptorの相互作用が弱くなりmTORキナーゼが活性化される。逆にこれらがなくなると相互作用が強まることにより、mTORキナーゼは不活性化される。mTORC1の重要な標的にはp70-S6キナーゼ1 (S6K1)や4E-BP1(真核生物翻訳開始因子4E[eIF4E]結合タンパク質1)がある。mTORC1はS6K1をリン酸化し、これにより活性化されたS6K1はS6リボソームタンパク質や他の翻訳関係成分の活性化を通じてタンパク質合成を開始させる。また、リン酸化されていない4E-BP1はeIF4Eに結合し、これが5'キャップ構造を持つmRNAに結合するのを妨げでいるが、mTORC1が4E-BP1をリン酸化すると、eIF4Eの機能が回復する。mTOR複合体2(mTORC2)は主にmTOR、GβL、Rictor(rapamycin-insensitive companion of mTOR)、およびmSIN1(mammalian stress-activated protein kinase interacting protein 1)からなる。mTORC2も成長因子や栄養状態により調節を受けるが、ラパマイシンによる阻害は受けない。一方で、長時間のラパマイシン処理によって阻害されることが報告されている。TORC2は細胞の増殖や生存の調節に重要なセリン・スレオニンキナーゼであるAkt(別名タンパク質キナーゼB[PKB])をリン酸化し、これによりAktの別位置のリン酸化が促進され、Aktは完全に活性化される。mTORC2は細胞骨格の調節にも関与する。mTORは、細胞の栄養状態を反映し、蛋白合成、細胞増殖、血管新生、免疫などを制御する。mTOR阻害剤は、ステントの再狭窄防止、抗癌剤、免疫抑制剤として実用化されている。
出典:wikipedia
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