エンバーミング (embalming) とは、遺体を消毒や保存処理、また必要に応じて修復することで長期保存を可能にする技法。日本語では死体防腐処理、遺体衛生保全などという。土葬が基本の欧米では、遺体から感染症が蔓延することを防止する目的もある。人間をはじめとした動物の肉体は死後、臓器の消化酵素や体内中の微生物によって分解が始まる(腐敗、自己融解)。また同時期に腐肉食性のクロバエ、ニクバエの幼虫(いわゆる蛆)の摂食活動により損壊が進む。腐敗の程度は気温、湿度、衛生環境などによって大きく変動するが、数日で目に見える死体現象が生じ、数週間から数ヶ月で腐敗が進行しきり、白骨化する。こうして腐敗の進んだ死体は、結核菌などの病原菌を有していたり悪臭のする体液が漏出することがある。また死後変化による外見上の変化はおおよそ見るに耐えないもの(乾燥による陥没や死体ガスによる膨張、死斑などは遺体の状態にかかわらず起こりうる)が多く、遺族に精神的なストレスやショックを与える場合がある。このような死体(遺体)の腐敗や変化を薬液の注入により遅延させ、損傷部位を修復することで葬送まで外観や衛生を保つのがエンバーミングの役割である。また、遺体の輸送や葬送を行う施設の順番待ちと言った理由から、遺体保冷庫では時間を賄えない場合にエンバーミングが用いられることがある。国内外への遺体の輸送にエンバーミング処置を義務付けている国もある。エンバーミングは、エンバーマー(Embalmer)と呼ばれる葬儀の専門の技術者や医学資格を有した医療従事者によって、化学的・外科学的に遺体を処理される。現代のエンバーミングは、具体的には以下の方法で行われている。上記の処理を行われた遺体は注入される薬剤の濃度や量により数日〜2週間程度までは常温での保存が可能である。またこれ以上に徹底した処理を行えば、保存可能期間を更に延ばすことができ、防腐剤の交換など定期的なメンテナンスを行えば、生前の姿のまま保存展示を実現することが可能である。エンバーミングの始まりは古代におけるミイラにまで遡る事ができる。防腐、修復といった処置からは、今日のエンバーミングと共通した意義を読み取れる。近代においてエンバーミングが急速に発展する契機となったのは、1860年代アメリカの南北戦争であるといわれている。当時の交通手段では、兵士の遺体を故郷に帰すのに長期間を要し、遺体保存の技術が必要とされた。さらにベトナム戦争により、同じ理由で、一層の技術的発展をみた。キリスト教では最後の審判に際し死者の復活の教義を持つため、伝統的にキリスト教会の見解として火葬を禁止してきた。しかし20世紀に入って、1913年にはチェコ・カトリック教会、1944年に英国国教会、1963年にフランス・カトリック教会が「火葬は教義に反しない」と火葬を認めた。これに遅れて、1965年にはローマ・カトリック教会が教令1203条の「火葬禁止令」を撤廃し、バチカンの正式見解として「火葬は教義に反しない」としたため、地域による格差はあるものの徐々に火葬が許容されつつある。エンバーミングはアメリカやカナダ等欧米諸国では一般的な遺体の処理方法となっており、死後エンバーミングを行い、葬儀を行うという一連の流れが確立している。アメリカでは、上述の歴史的背景から南部地区ではエンバーミング率は95%を超えており、州によっては移動距離によってエンバーミングを義務づけるなど、州レベルの法整備がなされ、エンバーマーの教育・資格制度も整備されている。ただ、大都市部や西海岸地区、ハワイでのエンバーミング率は低く、火葬の拡大も伴ってアメリカ全土でのエンバーミング率は近年低下している。また社会主義国の指導者を権威を高めるためにエンバーミングをするだけでなく、常にメンテナンスをすることで生前の姿を保ちながら展示し続けているケースがある。ソ連のウラジーミル・レーニンはエンバーミングされてレーニン廟で生前の姿を保ちながら展示され続けたのを前例とし、何人かの社会主義国の指導者に生前の姿を永久に展示することを目的にエンバーミングとメンテナンスをする例が出てくるようになった。日本ではエンバーミングの慣習は無い。仏教の影響から火葬の慣習があり、遺体の最終処理は99%以上が火葬で行われている。また病院等で死亡した場合遺体は即時、看護師らによって体液や便の排出、全身の消毒処置(いわゆるエンゼルメイク、エンゼルケア)が行われるため、欧米と比較すると腐敗や感染症のリスクは低い。また先に書かれた様に、日本以外の国で死亡した日本国籍の所持者を日本国内に輸送する場合、エンバーミングを行う場合がある。日本においては、欧米圏のキリスト教による遺体の復活信仰やそれに伴い存在した火葬の禁忌・抵抗感の様な概念は乏しい傾向がある。また、江戸期には馬車が存在しておらず、もしも仮に旅先や遠い奉公先において急死者が出て、その遺体を遠隔地に搬送するとなれば実質的には長持などを用いて人力に頼らざるを得ず、一般庶民のレベルでは遺体をそのままの姿で長距離輸送するという考え方も選択肢も存在していなかった。この考えは欧米人によって馬車と牽引用の重種馬が持ち込まれた幕末から明治期、そして動力近代化が進んだ明治後期以降も本質的にはあまり変わることなく、戦時中も戦死者は現地で火葬され、戦後もまた長らく、多数の死者が発生した災害や事故では現地で火葬許可を得て早々に荼毘に付して遺骨を持ち帰るという形が一般的であった。長らく土葬習慣が残っていた地域も多いが、これらでも火葬も完全には否定されておらず、火葬の技術の進歩や施設の導入によって近現代に急速に土葬が衰退した。その様なことから、日本においては欧米圏の様なエンバーミングの習慣が広まることはなかった。2003年に「犯罪被害者の遺体修復費用の国庫補助予算」が国会で成立し、海外でテロの被害によって死亡した外務官に対し公費で遺体処置が施された。しかし、公費負担による遺体の修復は、国内では北海道と埼玉県以外では行われていない。また、遺体に対する切開や縫合は認められず、遺体の清拭と化粧・着付けの処置範囲に留まり、遺体の創部へは絆創膏や包帯でのカバーが行われているために、エンバーミングとは言えないのが現状である(費用も数万円でエンバーミング費用の7分の1程度)。同処置は司法解剖を受けた遺体に限定されることや、都道府県の予算化が進んでいないことも地域が広がらない原因の一つである。日本ではエンバーミングに関して制定された法令はない。そのため、エンバーミングに関するトラブルは死体損壊罪などとして刑事事件として立件することは難しいのが現状である。2008年4月には感染性廃棄物やホルマリンの廃液等を違法に運搬・野焼きを行ったとして、複数のエンバーミング施設を有する業者が行政機関により告発され刑事事件として強制捜査が実施された。その後、2009年4月には同業者とエンバーマーを含む同社幹部4名、その他の依頼先である関係者2名の検察官送致(書類送検)が行われ、同年7月には起訴された(退職後の元社員も含む)。また、残る3名の社員(元社員も含む)へは罰金50万円が求刑されており、依頼先の2名は起訴猶予処分(懲役5年以下もしくは罰金1,000万円以下であるが常習性がないと判断)が決定した。これらの動きは全国の行政機関にも広まりつつあり、違法行為に対して現行法令や自治体条例での規制や監視の強化、告発や起訴処分が進むと考えられる。現在は遺体に対しエンバーミングを含む種々の処置が行われた結果、顔貌が生前と大きく変わってしまう場合があり、これも苦情や民事訴訟の原因となっている。近年、日本でも遺体の修復や保存に関する商品化が葬儀業界内で高まりつつあり、葬儀業界団体である日本遺体衛生保全協会(IFSA, "International Funeral Science Association in Japan")が1994年に設立され、環境省からの行政指導を受けながら、エンバーミングを日本に定着させようとする動きがある。日本でエンバーミングを行う場合、葬儀の商業行為の一つのオプションとして行われるが、日本では長期保存の文化はなく、葬儀社などが有している遺体保冷庫による低温保存が主となる。国内の葬儀社で行われているエンバーミングはアメリカやカナダの州資格を持った外国人が担当することが多く、その作法は彼らの州法や規則に従い行われ、企業内での教習も日本国内の法や規制には即していない部分も多い。そのため日本の文化、法律に適した作法を有するエンバーマーの養成が課題となっている。しかし、エンバーマーは多種多様な葬儀に関する知識のほか、医学、解剖学、組織学、公衆衛生学、化学といった幅広い知識も必要な専門職であるが、現在その公的な資格はなく、葬儀業界団体の認定資格や企業内資格に留まっている。医療機関の中ではエンバーミングを行う施設もあるが、医師や医療関係者が行うエンバーミングであっても法規制に則ったものではなく(しかしながら行政指導を受け設けられたIFSAの自主基準は、有事の際一定の効力を持つといえる)、医療行為の中での立場(医療行為の範疇、費用の算出方法など)に問題がある。また、エンバーミングの費用も日本では全社統一価格が設定されており、業界による価格調整も指摘されている。民族主義・社会主義などの政治形態をとった全体主義国の指導者の遺体については、定期的なメンテナンスを行うことで生前の姿のまま保存展示を目的とした永久保存処置が施されている例がある。 金正日までの人物のうち、永久保存目的のレーニン、ホー・チ・ミン、毛沢東、金日成、金正日と、大陸に埋葬されるまで保存予定の蒋介石、蒋経国、英雄墓地への埋葬を待つフェルディナンド・マルコス以外は、その後の政治的変遷により改葬されて埋葬された。ウゴ・チャベスはいったん永久保存の方針が発表されたが、その後防腐処置の困難などの技術的な理由により断念された(遺体の扱いについては未決定である)。その他、埋葬ないし火葬に付される予定の人物であっても、国葬等の追悼行事の挙行までに日数を要し、かつその間多数の国民による弔問が予想される場合、遺体にエンバーミングが施される場合は多々ある。
出典:wikipedia
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