経口血糖降下薬(OHA: )は、2型糖尿病において血糖値を正常化させることで慢性合併症のリスクを軽減させる目的にて処方される薬物の総称である。1998年イギリスでUKPDSという大規模比較試験が行われて以来、糖尿病慢性合併症予防目的にてこれらの薬は用いられている。特にインスリン分泌が残存している2型糖尿病のインスリン非依存状態において有効である。2型であっても、重篤な感染症の様にインスリン需要の多いとき、清涼飲料水ケトアシドーシス(ペットボトル症候群)の様に分泌を上回るブドウ糖摂取があるとき、周術期や妊娠などはインスリン治療が必要である。抗生物質の開発中、副作用の低血糖が起きて、薬効が発見された。1950年代から使用されている。開発された順に第一世代、第二世代、第三世代と分類される。第一世代にはトルブタミドなど薬理学的には重要な薬物も含まれているが、近年新規に処方される薬は殆ど第二世代と第三世代なのでそれらを表にまとめた。作用機序としては膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体のSUR1サブユニットに結合しATP依存性Kチャネルを抑制することによってインスリン分泌を促進させる。SUは経口投与可能であり、肝臓で代謝される。おもな副作用はインスリン過剰分泌による低血糖である。したがって交感神経機能が障害されている患者、意識障害がある患者、低血糖を認識できない高齢者、低血糖に対して適切に対応できない患者は慎重投与する必要がある。また、グリベンクラミド及びグリメピリドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。したがって、腎機能低下が認められた場合、代謝物の活性が低いグリクラシドやミチグリニドカルシウム水和物、超持続型以外のインスリンの自己注射への変更を考慮していく必要がある。SU薬は基本的にはインスリン基礎分泌を促進する薬であるため食前に低血糖を起こしやすく、インスリン追加分泌を促進しないため食後高血糖のコントロールが困難になりやすい。このためHbAといった平均値のみで効果判定を行うとコントロール良好であったにも関わらず心筋梗塞といった大血管障害が起こる可能性がある。インスリン分泌を高めることは同化反応を亢進させ、体重増加を起こしインスリン抵抗性を悪化させることもある。これも空腹時低血糖により過食となり食事療法が乱れた場合との区別が難しい。第三世代のアマリール®は従来のSU薬が持つインスリン分泌作用のほかインスリン抵抗性改善作用があると考えられており、副作用による体重増加が少ない。そのため、空腹時低血糖による食事療法の乱れなども発見しやすく好まれる傾向がある。2008年現在SU薬は軽症糖尿病の場合はあまり用いられなくなっている。重症糖尿病の場合は高血糖の持続がβ細胞の破壊という糖毒性を起こし、またインスリン抵抗性の悪化よりSU薬の効果がなくなる二次無効という現象が知られている。日本の場合、緩徐進行1型糖尿病 () が多いため、抗GAD抗体測定といった精査が必要だが、2型糖尿病で二次無効ならば多剤併用療法を考慮する。空腹時低血糖を起こしやすいため、そのような時間帯に悪心、強い空腹感、倦怠感、発汗、震えを感じたら食事療法関係なく、糖分の補給が必要であることの説明が必要である。αGI併用時はブドウ糖を補給しなければ低血糖の治療にならないことに注意が必要である。空腹時低血糖は意識障害を招くだけでなく、虚血性心疾患や網膜症を増悪させる可能性がある。かつての大規模比較試験UGDPではSU薬と虚血性心疾患の危険についての指摘があった。1976年、米国でSU薬のひとつであるトルブタミド(ジアベン)が心血管疾患による死亡率を増大すると報告された。この研究に対して批判も多かったが、その後クロルプロパミド(ダイアビニーズ)、グリベンクラミドなどをもちいたいくつかの研究でその結果が確認されている。SU薬が、膵β細胞だけでなく心臓の動脈(冠動脈)にも作用し、心筋梗塞などの経過に悪影響を与えることが原因とする説がある。この考えにもとづくと、グリメピリドやグリニド系の薬剤は心臓に作用しにくいことがわかっているので、これらはこの観点からは安全な薬剤と考えることもできる。あまり知られていないが、UKPDS34ではメトホルミンとSU薬を併用することによって心血管イベントのリスクが増加するという指摘がある。大血管障害は食後血糖値が増加するといった血糖値の大きな振れが影響しているという説もあり、決着はついておらず次の大規模比較試験の報告によって解釈は変わりうることに注意が必要である。糖尿病患者が心筋梗塞といった大血管障害を起こした場合、その原因が原疾患のコントロールの悪さによるものか、薬の副作用によるかは厳密には区別ができず、少なくとも医療過誤ではない。ガイドライン上も積極的に血糖値をコントロールすることが合併症の予防には効果があるとされている。フェニルアラニン誘導体 (グリニド系) はSU構造は持たないものの、SU薬と同様に膵臓のランゲルハンス島β細胞のSU受容体(SUR1)に作用し、インスリン分泌を促進させる。食後は吸収が悪くなるので食直前に内服する。5-15分で薬効を発現し数時間で作用消失する。この早く効いて、早く効果がなくなるという点がSU薬と大きく異なるところである。食後血糖降下薬ともいわれ、SU薬がインスリン基礎分泌の促進、グリニド系がインスリン追加分泌の促進と考えられている。インスリン療法の超速効型インスリンと中間型インスリンの対応に似ているが、SU薬とグリニド系の併用は保険診療上認められていない。なお、ナテグリニドは活性代謝物の腎排泄性が高いために、糖尿病性腎症の進行に伴う腎機能低下により、遷延性の低血糖を起こしやすい。アルファ・グルコシダーゼ阻害薬 (αGI薬) は食物性糖質の1000倍も親和性の強い糖質類似物質(アナログ)である。糖質が吸収されるためには澱粉のような多糖類から消化酵素の作用を得て二糖類(麦芽糖や蔗糖)、単糖類(ブドウ糖や果糖)に分解される必要がある。その酵素、α-グルコシダーゼを阻害し、消化吸収を緩徐にすることで、血糖の上昇をおさえるので、食後過血糖改善薬ともいわれる。これらの薬物は血糖値の食後のピークを減少させ、食事とともに摂取すると有効であるが食事以外の高血糖の治療には有効ではない。鼓腸、膨満感、腹部不快感、下痢などの副作用がよく報告される。これらの原因は消化されずに腸管にのこった糖類が醗酵し発生するガスによるものである。αGIの継続的な使用によってこれらの副作用は軽減していく傾向がある。しかし炎症性腸疾患の患者では禁忌である。腸閉塞様症状に至る場合もあり糖尿病性神経障害で消化管蠕動障害がある場合は留意する。体質的に、肝障害を来す例があるので肝トランスアミナーゼの定期的な観察を行う。肝障害は薬物の中止とともに可逆的に改善する。αGIに体重増加作用はないため、食事療法の妨げにならない。少量から開始し、体を慣らしていくことで、消化器症状によるQOL低下を防止できる。αGI薬の使用中に低血糖が発現したときは、澱粉や蔗糖では血糖上昇に時間が掛かるのでブドウ糖や清涼飲料水に砂糖の代用に使われているブドウ糖果糖液糖を低血糖の処置に用いる。2014年のMadirajuらの論文によってメトホルミンの標的分子が同定され、血糖降下、および乳酸が蓄積する機序も明らかとなった。メトホルミンの標的はミトコンドリアのグリセロールリン酸脱水素酵素であった(細胞質にも、このミトコンドリアの酵素と逆方向の反応を触媒するグリセロールリン酸脱水素酵素が存在するが、こちらはメトホルミンの標的ではない)。解糖系によりブドウ糖が(嫌気的に)酸化されピルビン酸が産生されるが、これに伴って還元物質であるNADHができる。通常はNADHの還元能はミトコンドリアに移動して電子伝達系によりATP産生につながるわけだが、NADHがミトコンドリアの内膜を通過しないために、グリセロールリン酸シャトルが働いて還元物質(Reduction potential)がミトコンドリア内に移動する(NADHのミトコンドリアへの移動にはもう一つリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルというシステムが存在する)。メトホルミンはミトコンドリアのグリセロールリン酸脱水素酵素を阻害することにより、グリセロールリン酸シャトルの機能を阻害するため、細胞質でNADHの蓄積が起きる。このためピルビン酸を乳酸へ変換するとともに、NADH(とH)をNADに変換する反応が進む。したがって多くの乳酸が蓄積することになる。NADHが蓄積していると、ピルビン酸からオキザロ酢酸を介してブドウ糖新生(糖新生gluconeogenesis)へ向かう経路を阻害することになる。またブドウ糖新生の基質の一つであるグリセロールからグリセロールリン酸を介してブドウ糖新生への経路も阻害される。アミノ酸もブドウ糖新生への基質となるが、その中間産物のリンゴ酸からオキザロ酢酸への転換もNADHを産生するのでこの経路も阻害されると考えられる。したがってメトホルミンによる解糖系から電子伝達系への還元物質の転送阻害はブドウ糖新生を阻害し、血糖低下につながると考えられる。エタノールがアセトアルデヒド、さらにアセチルCoAに代謝される際にもNADHができるため、アルコール飲用による低血糖も同様にNADHが蓄積することによるものと考えられる。メトホルミンは乳酸アシドーシスを起こしやすい病態、すなわち、肝障害、腎障害、心障害の既往がある患者には使用を避ける。ビグアナイドの内では塩酸メトホルミンが主流である。塩酸ブホルミンは塩酸メトホルミンに比べて薬効が低く、乳酸アシドーシスを起こしやすいといわれている。最近では肥満を伴う糖尿病患者に第一選択として広く使われるようになった。TZDとの合剤(商品名メタクト)等も販売されている。その他の問題点は軽度の胃腸障害であるが、これは一時的なもので少量から開始し、ゆっくりと漸増すれば軽減できる。発熱時、下痢など脱水のおそれがあるときは休薬する。ヨード造影剤使用の際は2日前から投与を中止する。ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ (PPAR‐γ) 作働薬やインスリン抵抗性改善薬とも呼ばれる。核内受容体のひとつであるPPAR-γに結合し、インスリンの抵抗性を悪化させる様々な因子の転写調節をする。主として末梢組織のインスリン抵抗性改善にあたる。有効性及び安全性に性差を認め、女性で浮腫を来し易い一方で、小用量で血糖降下作用を見る事が多い。脂肪細胞に作用しブドウ糖の取り込みを増やす事で血糖が低下する。その代わり肥満を助長しやすくなる。塩酸ピオグリタゾン(商品名:アクトス®)だけが現在、国内で上市されている。最初に商品化されたトログリタゾン(商品名:ノスカール®)は肝障害の死亡例が相次ぎ、その原因の一つとして肝臓での薬の代謝に関わるグルタチオン抱合酵素GSTT1とGSTM1の変異が重なると特に副作用の発症率が高い事が示された。類薬ではトログリタゾン程の肝障害は報告されていないが留意して使用するのが望まれる。副作用として浮腫や貧血を合併することがあるが、腎でのインスリン感受性亢進のため、Naの再吸収を促進するためだといわれている。脂肪細胞を分化誘導する一方で骨芽細胞の減少により骨折のリスクが増加するのではないかと云われている。副作用に浮腫があるために心不全の既往がある患者には禁忌となる。浮腫が出現しなくとも効果が出ると体重が増加する傾向があるため、食事療法のコントロールに気をつける必要がある。大血管障害の既往を有する2型糖尿病患者に対して、心血管イベントの発症の抑制、およびインスリン治療の導入を遅らせるという欧州での成績がある。インクレチンは主に小腸で産生され、膵臓のβ細胞に作用しインスリン分泌促進させるホルモンで、インクレチンを増強させる薬として以下がある。DPP-IV阻害薬は、インクレチンの分解酵素のDPP(dipeptidyl peptidase)-IVを阻害する事で、インクレチンの血中濃度を上昇させる。インクレチンは血糖値依存的に膵β細胞からのインスリン分泌を促進させると共に膵α細胞からのグルカゴン分泌を抑制し、上昇した血糖値を正常値へと下げる働きを持つと共に、胃からの内容物排出速度を遅らせて血糖値の急激な上昇を抑える効果が有る。DPP-IVと阻害薬の結合部位は5箇所有り、其々S、S、S'、S'、SEと呼ばれているが、DPP-IV阻害薬は結合部位によりクラスI(S、S)、クラスII(S、S、S'(、S'))、クラスIII(S、S、SE)に分類される。DPP-IV阻害薬がより効き易い患者は、1.肥満度(BMI)が小さく、2.HbAが高く、3.治療開始後3ヶ月以内にHbAが低下し、4.冠動脈疾患が無い 患者であるとの研究が有る。FDAは2015年8月、7年間で33例の重篤な関節炎が報告された事を公表した。その中には、投与中止後に改善した症例や、他のDPP-IV阻害薬に切り替えて再発した症例も有る。下部小腸に存在するL細胞から産生されるインクレチンの一つである「GLP-1(glucagon like peptide-1)」の受容体に作用することで、インスリン分泌を増強する薬剤。膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを放出させ、α細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。従って、膵機能が低下した患者では充分な効果を期待出来ない。切り替えた後に糖尿病性ケトアシドーシスが生じ、死亡した症例が有る。この系統の医薬品の添付文書の「重要な基本的注意」には、以下の様に記載されている。ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT2)阻害薬は、腎臓の尿細管内腔に存在するNa-ブドウ糖共輸送体(SGLT:sodium-dependent glucose transporter 2)を阻害する。通常、糸球体で濾過された原尿にはブドウ糖が血漿と同じ濃度含まれており、SGLT2はそのブドウ糖をナトリウムと共に尿細管細胞内に再吸収するので、尿糖閾値までブドウ糖が外に失われずに済む。SGLT2阻害薬は、尿糖を増やせば血糖が減るので、血糖が正常化すれば、膵でのインスリン分泌の負担が軽くなり、糖毒性が取れるのではないかというコンセプトで開発された。同様の蛋白(SGLT1)は小腸上皮粘膜細胞にもあり 腸管からの糖の吸収に携わっている。SGLT2阻害薬は、SGLT2に選択的に作用し、SGLT1に対する影響は軽微である。糖排泄に因り、グルカゴン濃度上昇と肝に於ける内因性糖産生が起こり、ケトアシドーシスに繋がることが有ることに注意が必要である。2015年5月、米国FDAはSGLT2阻害薬に因りケトアシドーシス(DKA)が発生した症例が集積している(2013年3月~2014年6月で20例)として警告を発した。それとは別に、本剤に共通する可能性のある副作用として皮疹・紅斑が挙げられている。この系統の薬剤はその作用機序から高度又は末期の腎障害患者での有効性は期待できない。他、SGLT2阻害薬が糖尿病新薬として、2014年から相次ぎ発売されるようになったが、服用していた患者2人が死亡していたことが2014年10月に判明している。これらの患者は利尿薬と併用するなどしていた模様である。日本糖尿病学会は『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』を2014年6月に作成しており、臨床経験の蓄積等に伴い改訂を重ねている。その中では、低血糖、脱水、ケトアシドーシス、薬疹、尿路感染症等への注意が具体的に記載されている。など幾つかの健康食品や漢方薬にSU薬などの経口血糖降下薬の含有があったと報告されている。中国語を列記する。「格列本脲(ニクヅキに尿)」グリベンクラミド、「伏格列波糖」ボグリボース、「二甲双胍(ニクヅキに瓜)」メトフォルミン
出典:wikipedia
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