『皇帝のいない八月』(こうていのいないはちがつ)は、小林久三による小説、またそれを原作とする1978年公開の松竹製作の映画。松本清張の系譜を受け継ぐ、「社会悪」を抉り出す社会派推理小説の一種にして、鉄道ミステリの変形。新風社文庫版のあとがきによれば、自衛隊のクーデター計画があったと聞かされたことが執筆の原因であると作者は述べている。右翼政権樹立を武力クーデターで一気に目指す自衛隊反乱分子と、それを秘密裏に鎮圧させようとする政府の攻防を描くポリティカル・フィクションとして映画化された。映画は、クーデター当日の夜に藤崎顕正元1等陸尉率いる少数精鋭の部隊に乗客乗員ともども乗っ取られたブルートレイン「さくら」の車内が舞台の中心となり、和製『カサンドラ・クロス』の趣で作られた列車パニック映画ともなっている。なお、原作ではタイトルの意味は特に明らかにされず、石森の回想でおぼろげに想像させるだけに留まっているが、映画では決起作戦の名前となっており、同名の交響曲を収めたLPレコードも劇中曲として登場する。8月、岩手県の国道4号線で謎のトラック事故が発生した。その翌日、三流業界紙に勤務する石森宏明は、ブルートレイン「さくら」への乗車を妨害しようとする謎の一団に狙われる。暗躍する一団の靴にはある特徴があった。また車内には突如姿をくらましていたかつての恋人、杏子が乗り込んでいた。姿を現す巨大な陰謀に、石森の脳裏にはかつて「死の商人」ともいうべき総合商社に勤めていた過去の、夏の日の光景が甦る・・・保革伯仲し与党内でも分裂が危ぶまれる政局不安定な198X年(予告編による)の暑い夏の夜、国道4号線で不審なトラックを追跡していたパトカーが銃撃される事件が発生した。現場に残された弾痕から、犯行に用いられたのは自衛隊が保有していない5.56mm NATO弾であることが判明し、内閣総理大臣の佐橋と内閣調査室長の利倉を驚かせる。数日後、鹿児島で法事に出席していた江見為一郎陸上幕僚監部警務部長は、急遽東京への帰還を命じられる。途中博多に寄り、娘の藤崎杏子を訪ねた江見だったが、杏子の夫で元自衛官の藤崎顕正は数日前から外出しているという。顕正の行方に一抹の不安を覚える江見。父の訪問に不穏なものを覚えた杏子は、博多駅へ向かい、かつての恋人である石森宏明と再会する。そして顕正の姿を追った杏子は、杏子を制止する若い男達を振り切り、強引にブルートレイン「さくら」号に乗り込んだ。杏子の只ならぬ雰囲気に「さくら」号に乗り込んだ石森だったが、下関駅停車中に列車の周りで不審な動きをする男たちを目撃する。石森は杏子に真相を言うよう言い寄るが、そこへ陸上自衛隊の65式作業服姿で64式小銃を構えた男達が車両を制圧し始める。彼らは顕正を中心に、アメリカに媚を売り、腐敗しきっている民政党の現政権、そして民主主義による日本古来の伝統の不純化に対してクーデター「皇帝のいない八月」を宣言。西日本各地から乗車した自衛官と共にさくら号をトレインジャックし、右派系の元首相で政界の黒幕の大畑剛造や一部の自衛隊の最高幹部とともに武装蜂起したのだ。彼らの目的は自衛隊を国防軍に再編成すること。そのために軍事力で政府を制圧し、内閣総理大臣を拘束、憲法改正を断行するという。藤崎元1尉の乗客向けの演説には三島事件の三島由紀夫の檄文と類似したものが用いられている。自衛隊による武装蜂起という未曽有の自体に、佐橋首相は利倉室長にクーデターの秘密裏の鎮圧を指示。未蜂起の部隊を次々と武装解除する一方で、蜂起した部隊も包囲した上で全滅させていく。一方、江見は6年前にUPI通信社が誤報した自衛隊クーデター計画「ブルー・プラン」の首謀者とされた真野陸将を尋問するが、真野は舌を噛み切って自殺。佐橋は大畑に、クーデター鎮圧後の議席数の配分を相談して大畑に咎められる。さらに、CIAが戦略・情報・人脈を使って介入してくる。石森は、車掌を射殺し関東の蜂起部隊が次々と鎮圧されてもなおクーデターを敢行しようとする顕正たちを責めるが、杏子は顕正に夫としての思いを寄せる。そして大畑が佐橋の別荘で毒殺される中、対ハイジャック部隊による藤崎隊の武装鎮圧が密かに進められていた。※映画クレジット順当初、映画版で主役(原作ではあくまでも脇役)の藤崎役には渡哲也のキャスティングが想定されていたが、所属の石原プロが自ら製作しているテレビドラマ中心に起用する方針を曲げず、そのスケジュールを解放しなかったために断念(同時期の角川映画『人間の証明』も同様の理由で渡の起用を断念)。そして白羽の矢が立ったのが実弟の渡瀬恒彦。それまで東映でヤクザ役やチンピラ役など粗暴な役が多かった渡瀬は、信念を持った元自衛隊エリートの反乱分子の内なる狂気を見事に演じ切り、以後俳優としての芸域を広げることになる。また吉永小百合は、この作品で初めて死ぬ場面を演じたと語っている(プログラムより)。監督の甥でもある山本圭については、市民を代表し軍国主義の狂信者と対峙する重要な場面で、渡瀬恒彦の熱演に圧されぎみとなってしまい悔いが残ったと、山本薩夫は回想する(山本薩夫著『私の映画人生』)。閣議は本来、総理大臣官邸内の円卓のある会議室(閣議室)で行われるが、撮影セットをニュース映像などでおなじみのマスコミの写真撮影用に用意されている閣僚応接室をもとに作ったため、応接室で閣議をひらいているようなシーンになってしまった。もっとも、こうした事例は他の映画やドラマにもよく見られる。列車が舞台のパニック映画では、東映が『新幹線大爆破』(1975年)、東宝が『動脈列島』(1975年)などを制作しており、この作品はそれらと比較対象されることもある。これら諸作と同様、内容が内容だけに国鉄(当時)の協力は得られず、「さくら」は車両の外観、車内共にすべてセットで撮影された。予算の制約もあって車両などの考証は「雰囲気」重視となっており、外観のセットは三菱大夕張鉄道の明治生まれの客車に14系寝台に見立てた張りぼてを付けて、南大夕張駅構内で撮影されている。クライマックスの爆破シーンでは大正時代設計のTR11イコライザ台車らしき台車を使用しているのが画面から判別できる。「さくら」号を最後に爆破したということで国鉄は大激怒し、製作元の松竹をはじめとした国内の映画各社には「以後、国鉄は映画の撮影には一切協力しない」との通達が出された。また、自衛隊員がクーデターを起こすという内容から、自衛隊の協力も得られず、火器や車両等は『戦国自衛隊』(1979年)で使用されているものと同じものが使われている。また物語では、内閣打倒後に臨時軍政府を樹立して戒厳令を施行するクーデター計画が明らかにされるが、戒厳令に相当する国家緊急権は日本国憲法下では存在しない(似たものに自衛隊の治安出動はあるが、内閣総理大臣の命令または都道府県知事の要請が必要)。山本薩夫は、監督の依頼に応じて撮影に入ってから、軍事組織が一般人に混ざって列車で移動することは行動の迅速性という問題からあり得ないことだ、という指摘を軍事専門家から受けてしまい、物語の中心なので変えるわけにもいかず、悩んだと語っている(山本薩夫、前掲書)。ちなみにEF30形電気機関車及びEF81形電気機関車は関門トンネルの内での撮影が不可能だった為、登場しない。山本圭演じる石森が藤崎杏子と共に過去に遭遇したチリ・クーデターを回想するシーンには、実際の記録映像の他に、1975年制作のフランス・ブルガリア合作映画、『サンチャゴに雨が降る』(原題:"Il pleut sur Santiago")の戦闘シーンが流用されている。『サンチャゴ~』では戦闘シーンはブルガリアで撮影されており、登場している戦車はT-34戦車をM41軽戦車に模して改造したものである。公開当時、CBS SONY(現:ソニー・ミュージックエンタテインメント)よりEP盤のOSTがリリースされた。2010年3月に、CD盤で再発売された。
出典:wikipedia
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