ワインバーグ=サラム理論(ワインバーグ=サラムりろん、、WS理論)は、弱い相互作用と電磁相互作用を統一的に記述する電弱統一理論である。グラショウ=ワインバーグ=サラム理論(GWS理論)とも呼ばれる。その名の示すとおり、シェルドン・グラショウ、スティーヴン・ワインバーグおよびアブドゥス・サラムの尽力によって完成した。彼ら3人は、この研究により、1979年にノーベル物理学賞を受賞した。1961年、シェルドン・グラショウは量子電磁力学と弱い相互作用を統一する枠組みとして、アイソスピンとストレンジネスとの類推から SU(2)×U(1) の対称性を考えた。これを、自発的対称性の破れを使い、洗練させたのがワインバーグ=サラム理論である。連続的な対称性を持った系において、ある種の場がエネルギーが最低の状態(真空)にあるときに、その場がゼロでない値(真空期待値)をもち、対称性を破るようなポテンシャルを実現していた場合、このような対称性の破れ方を自発的対称性の破れという。南部=ゴールドストーンの定理によると、対称性が自発的に破れている場合には零質量の南部・ゴールドストーン粒子()という粒子が現れる。1967年に発表されたワインバーグ=サラム理論では、ある形で SU(2)×U(1) のチャージを持つヒッグス場を導入し、ヒッグス場とゲージ場のゲージ相互作用において、ヒッグス場が真空期待値をもった時に質量項を持つ3つのゲージ粒子と一つの無質量のゲージ粒子が現れる。これらのゲージ粒子は SU(2) および U(1) の場とは別物であり、これらの場の混合によって再定義された場である。場の混合を表す混合角は弱混合角()、もしくはワインバーグ角()と呼ばれる。ゼロでない真空期待値を持つスカラー場の導入によって質量を持つゲージ粒子の予言に成功しており、その質量はヒッグスの真空期待値の大きさ(246GeV)とゲージ群 SU(2) および U(1) に対応する2つのゲージ結合定数によって表され、これらの値は実験から精度よく決まっている。ヒッグス粒子の発見により、実験的にもワインバーグ=サラム理論は完全実証に至った。ワインバーグ=サラム理論の特徴は、高エネルギーの状態(10GeV)では、ウィークボソンが光子と区別できなかったとしていることである。このエネルギー領域はビッグバンから10秒後の状態に相当し、この状態においては、ヒッグス粒子は約1000兆ケルビンもの高温によって蒸発してしまう。これによって、ウィークボソンはヒッグス粒子の抵抗と無関係になり、光子と区別できなくなる。つまり、宇宙が始まってから10秒より以前では、弱い相互作用が電磁相互作用と区別できず、電弱相互作用として力の統一状態にあったということを意味している。また、この温度においては、クォークとレプトンも質量がゼロになる。(ただし標準模型で扱う質量は基本的にヒッグス粒子による慣性質量であり、この温度において重力子の挙動にも影響があるかどうかは不明である。)ワインバーグ=サラム理論はゲージ群 に対するヤン=ミルズ=ヒッグス理論である。SU(2) の部分はウィークアイソスピンなどと呼ばれ、U(1) の部分はウィークハイパーチャージ(弱超電荷)などと呼ばれることもある。ヒッグス機構により、 は 元の U(1) とは異なる U(1) に破れる。これを電磁相互作用のゲージ群 U(1) と同一視する、と言うのがこの理論における電弱相互作用の統一の流れである。この理論のゲージ場の部分に含まれるパラメータは二つのゲージ群に対応するゲージ結合定数 g, g'、或いはその組み合わせである素電荷 e と弱混合角 formula_1 である。弱混合角の大きさはである。電弱対称性が破れる前のラグランジアンはの形で表すことが出来る。第一項はヤン=ミルズ項である。第二項はフェルミオンの運動項で、である。理論に含まれるフェルミオンについて和をとる。第三項はヒッグスの運動項とポテンシャル項で、である。第四項は湯川相互作用項である。ヤン=ミルズ理論に従い、フェルミオンとヒッグスの運動項の微分は共変微分へと置き換わっている。共変微分はの形で書かれる。T (a=1, 2, 3) は SU(2) の生成子で、Y は U(1) の生成子である。formula_2 はそれぞれのゲージ群に対応するゲージ場で、g, g' はそれぞれのゲージ群に対応する結合定数である。ヒッグス場は SU(2) の下での表現(2表現)をもち、U(1) の電荷 Y=1/2 をもつ。2表現で変換する場に対する生成子は (a=1,2,3; σ はパウリ行列)であり、ヒッグス場に対する共変微分はとなる。ゲージ変換の自由度を用いて formula_3 の形になるように選べば、ヒッグス場のポテンシャル項からend{pmatrix} の真空期待値をもち、励起状態はend{pmatrix} となる。ヒッグスが真空期待値をもつとき、ゲージ対称性は第一成分の位相変換の自由度を残して破れる。破れずに残るこの位相変換の生成子はであり、これが電磁相互作用のゲージ群 U(1) の生成子である電荷と同一視される。対称性が破れた後のヒッグス場に対する共変微分はend{pmatrix} となる。ここで formula_4 は formula_5 の線型結合で(W_mu^1mp iW_mu^2)によって定義され、Wボソンと呼ばれる。formula_6 は formula_7 の線型結合でによって定義され、Zボソンと呼ばれる。ここで formula_1 は弱混合角と呼ばれcos heta_W =frac{g}{sqrt{g^2+g'^2}} で定義される。formula_6 に直交するゲージ場は電磁場(光子)と同一視される。これらのボソンで前述の共変微分を書き換えれば、となる。formula_10 を電磁場と同一視することから、結合定数は電磁相互作用の結合定数(即ち素電荷 e)と同一視される。ゲージ場はヒッグス場の運動項の共変微分を通してヒッグス場と相互作用する。ヒッグス場が、真空期待値を持ち対称性を破るとき、ウィークボソンはヒッグス場の運動項から質量を得て、となる。電弱対称性はウィークボソンの質量程度のエネルギースケールで破れ、このエネルギースケールはウィークスケールと呼ばれる。弱い相互作用はパリティ対称性を破っており、ベータ崩壊はV-A相互作用と呼ばれる形をしている。これは左手型粒子のみが相互作用をして、右手型粒子(左手反粒子)は相互作用をしない。これを反映して左手粒子はクォークの上系列と下系列、レプトンではニュートリノと荷電レプトンが二重項となって SU(2) の下で非自明な表現となり、左手反粒子は自明な表現となる。フェルミオンの左手型と右手型でゲージ群のチャージが異なり、ゲージ不変な質量項を持つことが出来ない。添え字 i=1, 2, 3, ... は世代数を表し、c は荷電共役を表す。SU(2) の下で 2表現で変換する場に対する生成子はパウリ行列であり、例えばクォークに対してとして Q=T+Y を再現するように Y を決める。ゲージ場はフェルミオンの運動項の共変微分を通してフェルミオンと相互作用する。対称性が破れたとき、ゲージ場はフェルミオンとの形で相互作用をする。電磁場 A と結合する相互作用カレントは、量子電磁力学と同じものである。Wボソンと結合する相互作用カレントは荷電カレント()と呼ばれる。このカレントはベータ崩壊などの粒子の種類を変える相互作用として既に知られていたカレントである。SU(2) の二重項に対しては T が具体的にとなるので、荷電カレントはとなる。低エネルギーではとなってフェルミ相互作用と比較すればフェルミ結合定数がとして真空期待値 v と関係付けられる。Zボソンと結合する相互作用カレントは () と呼ばれる。このカレントはこの理論によって予言された相互作用である。この形の相互作用が発見されたことによってグラショウ、サラム、ワインバーグはノーベル賞を受賞した。フェルミオンとヒッグスは湯川相互作用項で結合する。ここで、である。formula_11 は湯川相互作用の結合定数である。なお、湯川相互作用の形はゲージ原理から要請されるものではないが、例えばレプトンの項で、formula_12 の部分は SU(2) 一重項となり、U(1) も Y=-1/2+(-1/2)=-1 となっていて(formula_13 は複素共役で符号が変わって Y=-1/2 である)、formula_14 と相殺され、全体としてゲージ不変性が保たれている。ヒッグスが真空期待値を持ち、対称性を破るとき、となって、フェルミオンが質量を得る。ユニタリ変換で行列 formula_15 を対角化するように取り直せば、e=e, e=μ, e=τ, ... となる。同様に formula_16 を対角化すれば、d=d, d=s, d=b, ... , u=u, u=c, u=t, ... となる。このとき、formula_17 と formula_18 は二重項 formula_19 として変換するので、それぞれを同時に対角化できない。その際のずれがCKM行列である
出典:wikipedia
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