筋病理学(Muscle pathology)とは骨格筋の病気を扱う病理学の分野である。生検部位としては術後の歩行制限が不要であることから上腕二頭筋が好まれる傾向がある。しかし近年はMRIによって炎症反応がある部位を選択することが多い。STIRによる高信号域やGd増強効果がある部位である。針筋電図を施行した部位は局所性の壊死性炎症反応が起こるため、生検しないことが一般的である。皮膚切開の前にその部位の筋が収縮するか肉眼で確認する。切開部位は予めマーキングし、局所麻酔後皮膚切開する。鉗子を用いて皮下組織を鈍的に開き、筋膜に到達する。血管は切断する時は結紮し、皮神経はできるだけ温存する。筋膜はメスかはさみで切開し、鉗子で筋膜の裏を剥離する。筋線維の走行と直角に糸をかける。ペアンを用いて筋束を確保し、はさみで採取する。筋膜を吸収糸で縫合する。真皮縫合を吸収糸で行うこともある。これは創の離開を防ぐために行う。ナイロン糸を用いて皮膚縫合を行い、消毒して終了する。3日ほどは免荷する。骨格筋には持続的な運動に適した遅筋である赤筋(タイプ1)と素早い運動に適した速筋である白筋(タイプ2)の2種類に分かれる。赤筋と白筋を決定するのは筋を支配する神経によると考えられている。赤筋を支配する神経を切断し、白筋を支配する神経による再支配がおこるとその筋は白筋となる。筋線維の組織学的な性質はATPaseによる染め分けが有名である。この場合は白筋にほぼ相当するタイプ2はさらに細かく2A、2B、2Cに分けられる。成人の骨格筋、特に生検をよくされる上腕二頭筋や大腿直筋では1、2A、2Bがモザイク状に分布し各々1/3ずつとなる。2Cはタイプ1とタイプ2の中間的な性質をもつ。乳幼児では正常筋でも認められるが4〜5歳になると殆ど皆無に近い。2C線維が認められるのは以下の3つの条件下であることが殆どである。一つ目は筋線維の分化異常である。筋線維が未熟なまま残存する病態、先天性ミオパチー、先天性筋強直性ジストロフィーなどが該当する。また再生筋も2C線維となるため、筋ジストロフィーや多発性筋炎などでは長期にわたって2C線維が認められる。また神経原性疾患で脱神経が起きた時、神経再支配で筋線維のタイプが変化するときに2C線維を経由して変化する。筋芽細胞が融合し筋管細胞を形成する。一部の筋芽細胞は衛星細胞となる。筋管細胞内でタイプ2C線維が作られる、神経支配を受けて核の周辺移動、基底膜の形成がおこる。その後タイプ1、2A、2B線維の分化が起こる。生下時は5〜10%が2C線維である。筋線維がどのように壊死に陥るかは2010年現在も詳細は不明である。何らかの原因で細胞膜が壊れ、細胞外液が細胞内に流入することで筋線維は崩壊すると考えられている。細胞外液が細胞内に流入すると蛋白分解酵素が活性化され、筋線維内の筋原線維は消化され壊死に至る。筋線維は長い細胞のため筋線維全部が壊死することはなく、通常は線維の一部であるsegmentalな壊死となる。筋原線維が消化された壊死の初期は筋線維の染色性の低下(HE染色やゴモリ・トリクローム変法で淡く染まる)が認められる。12時間ほど経過すると単核球や多核球といった炎症細胞が壊死線維に周囲に認められるようになる。24時間で壊死線維内に貪食細胞が認められ、48時間で壊死線維は単核細胞で埋もれてしまう。貪食細胞はライソゾーム酵素を多く持つため酸ホスファターゼ染色で赤染する。筋線維内の壊死した部分が清掃された後、障害から3〜4日で筋線維は好塩基性(HE染色で紫)の胞体をもつ多核の細胞として認められる。この細胞が筋芽細胞のように働き筋再生を行う。筋線維が再生する状態は筋組織の発生と非常によく似ている。異なる点は基底膜が残っているため基底膜内で起ること、また神経支配下であることが多いことである。筋芽細胞の役割をするのは衛星細胞である。衛星細胞は筋障害が起こったら速やかに活性化され、筋線維の変性と同時に分裂する。壊死を起こした5〜7日で大型の核と、抗塩基性の胞体、明瞭な核小体をもつ再生線維が認められる。筋線維の再生は神経と比べると非常に早く、実験的に壊死させると2週間後には壊死筋の約半数、1カ月にはほぼすべてが再生筋に置き換わる。再生筋は2C筋でありおよそ3週間で白筋、4週間で赤筋に分化する。但し、これは実験での話であり実際には2C反応が2〜3カ月続くとされており、人体内での再生はもう少し遅いと考えられている。筋再生の時も筋発生と同様に筋分化誘導遺伝子(myogenin)が発現する。炎症細胞の浸潤など間質の評価や基本構築の乱れなどの評価に適している。HE染色で確認すべき項目は前記の基本構築の乱れの他、筋線維の大小不同、核の変化、壊死、再生、筋線維内空胞形成、筋線維内構築異常などが確認できる。筋線維の大小不同に規則性がなく、広範であれば筋原性疾患であることが多く、小角化線維があって、群委縮の所見があれば神経性疾患であることが多い。特に小径の線維が筋束の周辺を取り囲むように存在する筋束周辺委縮は多発性筋炎に特徴的な所見である。核の数は正常では筋線維内に0〜3個である。5個以上の場合は異常であり筋強直性ジストロフィーなどの可能性がある。また中心部に核が認められる(中心核)場合は筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィーなどで認められる。筋線維内空胞としてはアーチファクトが多いがタイプ1線維に数多く認められる場合は脂質代謝異常の可能性もある。アーチファクトの場合は冷却が不十分になる中心部に集中し、筋選択性がない場合が多い。筋線維は青緑色に、結合組織は緑色に、有髄線維は赤色に染まる。筋内神経の評価の他、ミトコンドリアやライソソームが赤くそまるためミトコンドリア病の診断、ネマリン小体の検出に用いられる。周期性四肢麻痺のtubular aggregatesや遠位型ミオパチーの縁取り空胞(rimmed vacuole)やミトコンドリア病の赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)、ネマリンミオパチーのネマリン小体が確認できる。赤色ぼろ線維は異常ミトコンドリアの集積像と考えられている。神経線維のタイプ分別の他、神経線維間網の異常の検出に優れて方法。セントラルコア病の診断に有効である。セントラルコア病では中心部がミトコンドリアや小胞体が少ないため本染色法で抜けてみえ、coreといわれる。coreは筋線維全長にみとめられる。広がりが狭く、中央部が淡く染まり、周辺部が濃く染まるものにtarget/targetoid線維がある。中心部にspheroid小体を認め、神経原性筋萎縮症でよく認められる。筋原性疾患では虫食い像が認められることがある。筋線維のタイプ分別に最も適した方法である。成人の骨格筋、特に生検をよくされる上腕二頭筋や大腿直筋では1、2A、2Bがモザイク状に分布し各々1/3ずつとなる。ある筋線維タイプが55%を超えるとき、ある筋線維タイプが欠損しているとき、ある筋線維タイプが細い時、2C線維が多く存在する場合は異常である。筋線維のタイプが群化している時は脱神経後の再支配が起こっていると考えられ神経原性疾患の証拠となる。群化の傾向が強い時は生検筋内すべてが特定の線維パターンになる時もある。明らかな神経原性疾患が指摘できないにもかかわらず、タイプ1線維が55%以上認められるときはタイプ1線維優位といい、先天性ミオパチーでよくみられる所見である。セントラルコア病、ネマリンミオパチー、ミオチュブラーミオパチー、先天性筋線維タイプ不均等症などがあげられる。タイプ1と2線維の径が12%以上の差がある場合も異常である。タイプ1線維が細いのは筋強直性ジストロフィー(先天型、成人型)、不動性委縮、強直性脊椎症候群、微小重力状態などでも認められる。タイプ2線維が細い場合は中枢神経障害(脳性麻痺、脳卒中後、変性疾患)、ステロイドミオパチー、廃用症候群、低栄養、老人、膠原病など多くの状態で認められ非特異的な所見である。ジストロフィン染色や表面マーカー染色を行うことがある。小さい線維や大きい線維が多数存在する場合を筋線維の大小不同という。筋線維の大小不同に規則性がなく、広範であれば筋原性疾患であることが多い。多角形を失い正常よりも小さく三角形になった筋線維を小角化線維という。これは通常では存在しない。線維があって、群委縮の所見があれば神経性疾患であることが多い。小さな多角性の線維を背景にして、はっきりとした円形をし、クロマチンにとむ特徴をもつ。筋ジストロフィーで高頻度に認められる。筋線維が大きくなりそれによりしばしば多角形を失う。肥大線維は代償性の変化であり、しばしば中心核やスプリッティングを伴う。萎縮線維は筋疾患では丸みを帯びて、神経原性変化では角ばっている。萎縮の最終段階では核袋となり筋原線維基質を大きく退けた筋細胞内の核凝集が認められる。この段階では神経原性、筋原性の区別はない。萎縮線維を確認する場合はその分布が重要である。不規則か、どのような集団をなしているかである。繊維束萎縮や群集萎縮は脱神経の特徴であり萎縮線維が筋束の一部をなして集簇する。筋束周辺萎縮は萎縮線維が筋束の端にならび、萎縮の程度は縁に近いほど強い。筋束周辺萎縮は皮膚筋炎で認められる。不規則に散在した萎縮線維は特異な疾患の特徴ではなく、両方の筋線維のタイプを含むときは脱神経の初期段階をしめす。筋線維のタイプごとの萎縮もある。タイプ1線維萎縮は通常は筋強直性ジストロフィーや先天性ミオパチーで認められる。発育障害の結果と考えられる。タイプ2線維萎縮は高頻度に認められ廃用、慢性疾患、ステロイド治療など様々な状態と起こる。筋線維の比率は筋毎に異なる。しかし三角筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、腓腹筋ではタイプ1線維、タイプ2線維どちらでも55%を超えたら優位性の異常である。タイプ1優位性は先天性ミオパチーで、タイプ2優位性は筋萎縮性側索硬化症で認められるサルコイドーシス、アミロイドーシス、血管炎などの診断につながることもある。筋内膜の線維化は筋ジストロフィーを示唆する。筋ジストロフィーや炎症性筋疾患では炎症細胞浸潤が認められる。どんな疾患でも最終段階は筋組織が線維結合組織や脂肪組織に置き換わる。中心核(内在核)が筋線維の5%以上に認められれば異常である。再生段階にある筋はしばしば中心核をもつ。核内封入体は封入体筋炎や眼咽頭筋型ジストロフィーといった疾患で認められる。肥大線維で認められる。筋腱移行部では病的意義はない。壊死線維はHE染色で細胞質が均一化し、ガラス様になり淡くそまる。縦断像では横紋が消失する。筋線維に徐々に空砲ができ、炎症細胞が基底膜を超えて浸潤する。筋細管内にマクロファージやTリンパ球が浸潤し、筋線維の知覚から再生筋芽細胞が出現する。最終的には血管周囲の炎症細胞が移る。線維の変性は筋ジストロフィーや炎症性筋疾患、中毒性筋疾患が特徴である。壊死線維、変性線維は神経原性筋萎縮の最終段階としては認められることもあるが、原則は筋疾患を示唆する。再生筋線維のことでRNAが豊富である。ターゲット線維は正常標本でも、とくにNADH-TRではよく認められる。ターゲット線維はタイプ1線維であることがほとんどであり、中心に酵素活性を欠き、色がぬける。その外側は酸化酵素が豊富で環状にくらくなる。さらにその周囲は正常という構造であり、脱神経で認められる。外側が暗くならない場合は類ターゲット線維という。この場合は脱神経の特異度は低い。McArdle病の糖原やカルニチン欠損症の脂肪がこれにあたる。酸ホスファターゼ染色や蓄積物により見分ける。酸ホスファターゼ染色により明らかになる。封入体筋炎で認められる。周囲は顆粒状でHE染色では好塩基性、Gomoriトリクロームでは赤くなり、電子顕微鏡では、膜の残屑や中間フィラメントより構成されているのを認める。筋内膜下や筋原線維間に集塊で存在し、ミトコンドリア筋症に目立つ。Gomoriトリクロームでは赤く、HE染色では青い。主に異常なミトコンドリアからなり酸化酵素を多く含み、そのためNADH-TRやSDH染色で濃染する。超微構造では糖原や特に脂肪の蓄積を認める。60歳未満で認められればミトコンドリア筋症を強く示唆するが高齢者ではミトコンドリア以外の障害でも赤色ぼろ線維を散見する。また赤色ぼろ線維がなくともミトコンドリア病を否定出来ない。低カリウム性周期性四肢麻痺に認められる。筋病理における神経原性、筋原性の鑑別点をまとめる。筋ジストロフィー、遠位型ミオパチー、筋強直症候群、先天性ミオパチー、ミトコンドリア病、炎症性ミオパチー、ミオパチーなども参照とする。遺伝性ミオパチーは筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、代謝性ミオパチーの3つに分類される。分子解析が進むにつれ、この古典的分類は意味をもたなくなりつつある。筋線維の変性と再生により典型的に特徴づけられる進行性ミオパチー。典型的には超早期に発症し、非進行性または非常に緩徐に進行する傾向があり、特有の筋病理変化により特異的な形態学的診断ができる。主としてグリコーゲン、脂質蓄積、ミトコンドリア病を含む。上位ニューロン障害では廃用性萎縮を示し、非特異的な2B線維萎縮が認められる。下位ニューロン障害では脱神経による小径化、神経再支配による筋線維タイプ群化(fiber type grouping)がおこる。脱神経によって筋線維は小径化する。小径化した線維は正常大の筋に圧迫され角張ってみえるため小角化線維(small angular fiber)という。萎縮線維は群をなす傾向があり、小群萎縮(small groups of atrophic fibers)を示し、進行すると筋束全てが萎縮筋となり大群萎縮(large groups of atrophic fibers)となる。大群萎縮はウェルドニッヒ・ホフマン病で必ず認められる。また神経再支配がおこると再支配神経にあわせて筋線維のタイプが変化する。このため通常はタイプ1とタイプ2の線維がモザイク状に分布するがその分布がくずれ、筋線維タイプ群化(fiber type grouping)がおこる。筋線維タイプ群化は神経再支配を示す重要な所見である。
出典:wikipedia
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