


木造ビル(もくぞうビル)は、木材を使ったビルディング。特にCLT(クロス・ラミネテッド・ティンバー、直交集成板、直交集成材)を構造材とすることで、高層ビルの建設が可能となった。2000年代後半に入り、CLTと呼ばれる厚板パネルを使った新しいビル工法で、ニューウッド・テクノロジー(New Wood Technology)と称される新しい木造技術によって実現されあるいは、実現に向け各国で計画、検討されている。高層ビルの基本であったコンクリート、鉄骨、鉄筋に替わり、マス・ティンバー(Mass Tinber)と称される木材で高層建築を実現する動きが加速した。すでに、2009年にはイギリスで9階建ての集合住宅が建設されているほか、2013年にはイタリアで9階建ての公営住宅、オーストラリアで10階建ての集合住宅が、さらに2017年完成を目指し、カナダで18階建ての宿舎が建設中である(壁には鉄筋コンクリート使用)。また、アメリカ合衆国では高層ビルのコンペティションが実施され、ニューヨークには10階建てのの、ポートランドで12階建ての高層ビル建設が検討されているほか、2016年には80階建ての高層ビル建設構想がロンドン市長に提出された。こうした動きは、海外では「木材の革命(Innovations in Wood)」と呼ばれている。CLTはヨーロッパ、北米では十分な供給が可能であり、CLTパネルは工場で製造されるため現場での施工時間の大幅な短縮が望め工期の短縮が期待でき、普及により将来的にはコストカットが可能である。また、高層ビルでこれまで難しかった木の風合いを施せるようになったメリットは大きい。背景には、環境問題がある。木材には、伐採、植林、伐採、植林というサイクルがあり、樹木は無限にこのサイクルの中で供給され、さらに生育過程で二酸化炭素を吸収し、建築用材として利用される限りは二酸化炭素を放出することはない。このサイクルを実現するためには、計画的な植林と伐採を行えば無計画な樹林の伐採は防止でき、森林保護は実現できる。繊維方向に揃えた板(ラミナ)をクロスさせて重ね接着剤で圧着した木材で、和名は「直交集成材」である。板を交互に合わせることで互いの層を抑え合うことから収縮が少なく強度も高くコンクリートに匹敵する。組み合わせにより、壁、床など幅広く使用できる。コンクリートのような現場での型枠作業などの工程が不要であり、くり抜きや裁断も自在であるため応用度が高い。接合には金具が使われるが、シンプルであるため設計と施工両面での省力化が可能である。日本初のCLT構造の3階建てアパートは、鉄筋コンクリートなら通常1カ月弱はかかるところ、ほぼ丸1日で構造体が完成した。1995年ころからオーストリアを中心に研究・開発が進められた。木材により高層ビル建設が可能になったのは、木板の繊維の方向を直角に交わらせ集成・接着したCLTの開発によるところが大きい。従来の木造建物では、柱や梁など線材により構造を支えていたが、CLTでは、壁や床などにこれを利用し、「面」で構造を支える。また木材の繊維方向を交互に貼り合わせる工法による素材であるため、木材特有のねじれ、割れなどを防止できるほか、建築材としての強度も増している。ヨーロッパでは法令などの見直しが進み、かつては木造は2階建てまでしか認められなかった国が大半だが、2020年にはヨーロッパのほぼ全土で、5階建て以上の木造建築が可能となる見通しだ。ヨーロッパなど海外に比べ普及は遅れているが、これはかつて空襲などで木造建築が燃え大被害を出した反省から1950年、建築基準法で大型建築物の木造が禁止され、その後、2000年の法改正まで空白が続いたことによる。2010年には耐火性能が向上したとして、公共建築物の木造化の推進を目的とした「公共建築物等における木材利用の促進に関する法律」が成立、2014年には、林野庁及び国土交通省による「CLTの普及に向けたロードマップ」が策定されるなど普及への動きが加速されている。2015年8月には「CLTで地方創生を実現する首長連合」が、翌2016年5月には衆参両院議員により「CLTで地方創生を実現する議員連盟」が設立され、国土の68%を森林が占める森林国である日本の林業再生の切り札として期待される。竹中工務店はカラマツを使った「燃エンウッド」の商品名で最も厳しい市街地の防火地域での基準を満たした木造部材を開発、横浜市の「サウスウッド」と大阪市の3階建てオフィスビル「大阪木材仲買会館」に採用。鹿島は「FRウッド」で国産スギに難燃薬剤を注入し1時間耐火認定を取得した。オリンピックが国産材の使用に追い風となり、2020年の東京オリンピック開催時には、日本の都市の姿がコンクリートジャングルから木造ビルが林立する木の街に一変する可能性を指摘する意見もある。 日本で初めてのCLTを使ったビルは、2014年3月竣工の高知県内の製材会社の3階建て社員寮である。日本ではCLTに関する建築基準が皆無であったため、建設には個別の国土交通省の認定が必要であったが、2016年4月には国土交通省により「CLTパネル工法」の告示が実施され、この告示に基づいた構造計算を行うことで大臣認定が不必要となり、CLTを使った建築が可能となった。日本には木造ビルの階数制限は存在しないことから、木造高層ビルの建設は可能である。日本政府は、2015年度概算要求ではCLTの開発普及に11億円を計上し、東京オリンピックを前に普及に努める。地震大国特有の事情から海外よりも厳しい性能が求められる。また、現状では生産量が低くコスト面ではコンクリートが有利である。また、CLT工法は、法隆寺や東大寺大仏殿など釘1本使わない伝統的日本建築の工法とは本質的に異なるものであり、京都大学教授の五十田博によれば「木造」の言葉から想起する「材料の特性や合理性をとことん考えた美しさ」とは趣を異にするものである。
出典:wikipedia
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