最低賃金(さいていちんぎん、)とは、最低限支払わなければならない賃金の下限額のこと。最賃(さいちん)とも略される(法律上は略称として定義されていないが、新聞記事の見出しや労働組合等では用いられている)。労働基本権に基づくもの。多くの国では労働者の基本的な権利として広く適用されているが、必ずしも全ての労働者に適用されるものではなく、外国人労働者は対象外とするような特定の層に対して減額や、適用除外が行われることがある。シンガポールのように最低賃金制度は存在せず、賃金は労働力の需要と供給のバランスで決定される国家もある。傾向としては、発展途上国やフランス語圏の国では、広範に最低賃金が適用されている。以下の状況では、最低賃金の減額や、適用除外が行われることがある。他には、事業所人数が10人未満のところは除外(バングラデシュ、スーダンなど)、事業所人数が15人未満の企業、家族経営の企業は対象外(ミャンマー)、農業は除外(カナダ、パキスタンなど)といった国もある。減額と適用除外とでは、減額とする国が一般的である。また、かつては女性に対する減額も一般的に行われていた。若年者に対しては、大多数の国が減額を適用していないが、一部の国では企業の負担が軽減されることにより労働需要が生まれるとして、減額制度を適用している。適用に際して、どの程度減額するか、何歳までを最低賃金の適用除外とするかは、国によって異なる。一般的には「18歳または17歳以下の労働者に5%から15%の間の率を減じた率を適用している。」(以下本文において若年者に対する減額率は、成人の最低賃金に対するもの)。最低賃金法の雇用に対する影響の良し悪しは論争になっている。最低賃金に関する蓄積された諸研究の解釈を巡って、最低賃金が雇用に与える影響が負だという証拠はないという者もいれば、最低賃金の研究についてコンセンサスはないと結論づける者もいる。元来、経済学者達は伝統的な完全競争モデルに基づき、最低賃金法を厳しく批判してきた。一般に経済学では、雇用量と賃金は労働の需要量(求人量)と供給量の一致する点(均衡賃金)で決定するため、失業は存在しないとされている。最低賃金法は社会保障の観点から、均衡賃金より低い場合は、それより高い水準に最低賃金を設定する。したがって、最低賃金を下回る労働生産性しか持たない人は雇用機会を奪われ、失業が発生するとされている。所得格差を是正するはずの最低賃金が、逆に格差を拡大させる可能性を生じさせるとされている。ミクロ経済理論の代表的なものの一つに、最低賃金の存在がかえって低賃金労働者の厚生を引き下げるという命題がある。企業の労働コストを引き上げ、労働需要を減少させる最低賃金制度は、労働者の最低生活保証手段として有効なツールではないこと、労働市場の需給には直接介入せず、低賃金労働者への生活保障は事後的な政府からの所得移転によって行うべきであること、の二つの基本命題は、1990年代以降、主流派経済学者間のコンセンサスであり続けている。経済学者の飯田泰之は「最低賃金の引き上げによって、労働者の余剰は増えるかもしれないが、企業の余剰と労働者の余剰の合計である総余剰は減少する。さらに、最低賃金の引き上げによって、企業は労働者の解雇で対応しようとする。つまり、結果的に(非自発的)失業者が増加する」「最低賃金の上昇による失業者の増大は『最も貧しい人から解雇される』作用をもたらす政策となってしまう」と指摘している。飯田は「最低賃金制は、『貧者の救済』という善意から生まれた政策であるが、その善意が失業を生む可能性があることを冷静に考える必要がある」と指摘している。また飯田は「最低賃金の問題もそうであるが、規制は管理コストが高い。規制強化ではみ出ると駄目という社会になると、管理型国家になってしまう」と指摘している。経済学者の岩田規久男は「賃金低下を防ごうとして、最低賃金を引き上げれば、企業は生産を縮小させるか、市場から撤退する。最低賃金を引き上げても、求職者がすべてその賃金で雇用されるわけではない」と指摘している。経済学者のデヴィッド・フリードマンは、最低賃金の引き上げは、企業に対する増税と同じだと主張している。最低賃金が上がれば人件費の負担が増え、企業が雇用を減らそうとするため、労働者が失職する確率も高まると指摘している。エコノミストの山田久は「経済学的には、最低賃金の引き上げは、『賃金が生産性を上回る状況を生み出すことで企業業績を圧迫し、失業増などにつながる』というのが標準ケースであるが、潜在的な労働供給が需要を上回る状態が常態化している『需要独占』の場合は、賃金は生産性を下回っているため、最低賃金引き上げは賃金増と雇用増の双方をもたらし得る。アメリカでは、1990年代に入って『需要独占』の存在を示唆する研究が発表されたことを機に、その後研究の蓄積が進んだが、最低賃金の引き上げは失業増につながるとする、標準的な見方が有力である」と指摘している。経済学者の大竹文雄は「最低賃金の引き上げによって、就業者は高い賃金を得られ就業者間で格差は縮小するが、最低賃金の引き上げは失業者を増加させるため、失業者と就業者の間に格差は大きくなり、運・不運の差を拡大させる」と指摘している。しかし2013年現在、労働市場を完全競争だとみなすことの不備が、経済学者自身によって指摘されている。まず賃金の上昇は労働者に一生懸命働くインセンティブを与えるので、生産性が向上し、転職が抑止される。従って雇用者はこうした効果を期待して、均衡水準より高い賃金を労働者に与える傾向がある。ジョセフ・E・スティグリッツは、最低賃金法による賃金上昇は、こうした効果による賃金上昇により相殺されるため、最低賃金法は予想していたほどの悪影響を与えないかも知れないとしている。また最低賃金法が長期的には雇用によい影響を与えるという意見もある。最低賃金法は短期的には低賃金労働者によって成り立っていた産業を壊滅させるかもしれないが、結果としてそれは労働者への投資を増大させる事に繋がり、長期的には生産性を増大させる可能性があるからである。たとえばスタンフォード大学の経済史家であるゲイビン・ライトによれば、最低賃金法は南北戦争から大恐慌の頃までのアメリカ南部での低賃金の解消に決定的役割を演じ、アメリカ南部の労働市場をより高賃金の産業へとシフトさせる上でダイナミックな役割を果たしたとしている。別の指摘としては、労働市場は完全競争ではなく需要独占である可能性がある、というものがある。このモデルによれば、企業はその独占的立場を利用し、雇用の不当な縮小と賃金の不当な値下げを行う事ができてしまう。最低賃金法はこうした状況を改善するのに役立つとしている。経済学者の鶴光太郎は「一般に完全競争的労働市場では、賃金が上がれば雇用は減るが、企業が労働市場で価格支配力を持つ買い手市場の場合では、賃金水準・雇用量とも競争市場より低く設定されており、賃金を上げてもコスト増加を上回る売り上げの伸びが期待できる余地があるため、企業は雇用を増やす可能性がある。賃金上昇による労働者の意欲向上・訓練機会増により生産性が向上し、雇用が減らないケースも理論的に考えられる」「最低賃金労働者の割合の高い中小企業・産業は相対的に不利になる一方で、高スキル労働者をより多く雇い、低スキル労働者も最低賃金より高い賃金で雇っている大企業・産業は相対的に有利になり、雇用を増やす可能性もある。また、雇用への影響以外に所得再分配・企業の収益や価格・長期的には人的資本への影響まで考慮する必要がある。雇用への影響がみられない場合でも、労働者の生産性が上がらない限り、労働者の労働時間の減少や企業の収益が悪化が起きる。企業がコスト増を価格に転嫁できれば、消費者が負担することになる」と指摘している。さらに高い水準の最低賃金はワーキング・プアの問題をなくすという利点がある。高い最低賃金は、労働から得られる収入が失業時に生活保護から得られる額よりも高い事を保証し、結果的に失業者に職探しをさせるインセンティブをもたらすとされている。カリフォルニア大学アーバイン校のニューマーク教授とFRBのワッシャーは、最低賃金が雇用へ与える影響を調べる上で、に注意する必要があるとしている。大竹文雄は「最低賃金が引き上げられた場合、企業側は時間をかけて機械化を進めたり、より質の高い労働者に代替するのが一般的であり、すぐに労働者を解雇するということではない。ある程度時間を経た影響を調べる必要がある。また、狭い範囲の産業だけ分析対象にすると結論を誤る可能性がある」と指摘している。大竹は「最低賃金の引き上げは、雇用量を低下させ、失業期間を長期化させるかもしれないが、安易に低賃金労働に従事する人を減らす可能性がある。また、未熟練の低賃金労働が禁止されることになるため、企業側は技能の高い労働者だけを採用するようになる。技能が低い労働者は失業することになるが、合理的な労働者は、教育・訓練を受けて技能を高めて就職しようとするかもしれない」と指摘している。山田久は「政策論的には、景気回復持続に向けたマクロ政策と生産性向上誘導策としてのミクロ政策の同時実施が、最低賃金引き上げを望ましい形につなげる条件である」「最低賃金引き上げと同時に、景気回復の持続・生産性向上、就業形態多様化・職業訓練強化など、総合的な政策をパッケージで行うことが必要性であるが、そうした政策によっても所得格差の解消は困難であり、勤労所得控除制度の創設など『所得再配分政策』が必要である」と指摘している。経済学者の中山惠子は「失業を回避し、セーフティ・ネットとして最低賃金を機能させるためには、政府が労働者に労働生産性の向上につながる教育訓練の機会をもうけ、企業には設備投資などの支援を実施するとともに、労働需要を増加させる政策を進めることが必要となる」と指摘している。 特定最低賃金(産業別最低賃金)については、理論的には労働集約型産業に適用した場合には、労働者の厚生が高まるという理論的な裏づけがあるが、現実の適用業種は、支払能力が高い業種、産業に適用されており、理論的裏づけとは関係していない。また、特定最低賃金には、その産業への新規参入への障壁となる効果もあるため、その産業側の利益という意味合いもある。実証的には、最低賃金の雇用の縮小の効果が出るような大幅な最低賃金の上昇をした例がないため、雇用の縮小効果は小さく、好影響・悪影響を判断・確認できるような研究ができていない。ビル・クリントン政権であった1996年に最低賃金が引き上げられた際に、失業率の上昇はみられず、低所得者層の給料が増加した。オーストラリアでは、トヨタ、フォード、ホールデンなどの撤退が相次いでおり、2017年には自動車の生産拠点が無くなるなど、製造業全体が先細りして雇用が減少しているが、この原因として、経済成長で最低賃金が上昇し、国際的な競争力を失ったためとの意見がある。いくらかの経済学者は最低賃金に代わる制度を提案している。大竹文雄は「賃金規制という強硬手段で失業という歪みをもたらすのではなく、税・社会保障を用いた所得再配分政策で貧困問題には対応するべきである」と指摘している。『法と立法と自由』を著したフリードリヒ・ハイエクのように労働市場への不介入の原則と法の支配による個人の生存権の保護を両立させるために『ベーシックインカム』を主唱する経済学者もいる。以下は、各国の法定最低賃金及びその推移である。なお、デフレート等物価変動の調整は行われていない。EUでも加盟国間における最低水準の格差が指摘されている。アメリカ合衆国の最低賃金は、公正労働基準法(, 1938年)によって連邦最低賃金が定められている。この他に、各州が定めている最低賃金もある。州の最低賃金が連邦最低賃金よりも高い場合には、州の最低賃金が適用される。2014年現在、アメリカ合衆国の連邦最低賃金は7ドル25セントである。また、アメリカ合衆国にはチップという習慣があり、これが賃金とみなされるため、チップを貰う職種の連邦最低賃金は2ドル13セントとなっている。アメリカでは、以下の場合において最低賃金が適用されない。なお、最低賃金以下の賃金を支給されている労働者は、全労働者の約3%(2003年時点)となっている。最低賃金が履行されているかの調査、勧告は、労働省賃金時間部の調査官が行う。権限の法令根拠は、公正労働基準法11(a)条による。調査官は、なお、未払いに対しては、上記の是正措置の他にも労働者による訴訟が公正労働基準法によって認められている。2006年の段階で、アメリカではジョセフ・E・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ローレンス・クライン、クライブ・グレンジャー、ケネス・アロー、ロバート・ソローなど幾多のノーベル経済学賞受賞者らによる最低賃金引き上げの重要性が論じられている。最低賃金を緩やかに引き上げることで低所得労働者層の福利を増進させることができ、労働市場、さらには経済全体にも好影響を与えるとしている。2012年にはスティグリッツをはじめ、ローラ・タイソン、ロバート・ライシュさらにはジェフリー・サックスなども協同し、米国議会へ2014年度までに現行の時給7.25ドルから9.80ドルへの最低賃金引き上げを求める手紙を送っている。2013年、米国大統領であるバラック・オバマが最低賃金を時給9ドルに引き上げる政策を提示しており、クルーグマンはこの政策が以下の理由により低所得者の給与水準を改善するとして、これを歓迎している。2014年1月、ジョセフ・スティグリッツやピーター・ダイアモンドを中心に、ロバート・ソロー、ケネス・アロー、マイケル・スペンス、エリック・マスキン、トーマス・シェリング、アラン・ブラインダー、ロバート・ライシュ、ローレンス・サマーズ、ローラ・タイソンなど総勢75名の米国の主要な経済学者が 、米国の最低賃金を時給10.10ドルにまで引き上げるために米国の民主党が提示した最低賃金引き上げ法案を支持した。彼らは米国大統領と議会へ手紙を書き、2016年までに最低賃金を10.10ドルにするよう請願した。最近の研究が示すように、最低賃金の上昇は低所得者の可処分所得を増加させ、消費が高まることで経済に好影響をあたえることがわかっている。その最低賃金引き上げ法案はthe Fair Minimum Wage Actと呼ばれ、米国議会においてトム・ハーキンらによって提出された。その法案が可決されれば、最低賃金水準で生活する労働者の年収は2014年時の1万5千ドルから2万1千ドルへと上昇し、貧困層の3世帯に1世帯が貧困から脱することができると見積られている。最近の調査では、米国の主要な経済学者の約半数が、最低賃金を物価上昇とリンクさせて引き上げることによる経済的ベネフィットは最低賃金引き上げによる経済的コストを上回ると考えている。最低賃金の上昇は労働者の離職・転職率を減少させ、会社の労働生産性を向上させるとしている。この労働生産性の上昇は、最低賃金引き上げによるビジネスコストの上昇を埋め合わせるとしている。明日山陽子は論文「米国最低賃金引き上げをめぐる論争」で「最低賃金の引き上げは、雇用への影響を中立的にしても貧困対策とならない」と指摘している。また明日山は、労働需要の増加があれば、最低賃金引き上げがもたらす失業は減少するとしている。経済学者のジョセフ・サビアは、最低賃金引き上げはオバマ大統領が考えているような貧困撲滅にはならないと指摘している。サビアは、最低賃金引き上げは高失業率の時期には特に未熟練労働者の雇用に大きな打撃を与えるとしており、「最低賃金引き上げに最適な時期などないが、経済的に不透明な時期や景気後退時は最悪である」と述べている。エイドリアナ・クルーガーは「非常に慎重な調査で通常、就業率に特に影響は出ていないことが明らかにされている」と指摘している。クルーガーは、最低賃金の引き上げは先送りされすぎていると指摘しており、「10.10ドルへの最低賃金の引き上げによって200万人が貧困から抜け出せる」とし、「最低賃金の停滞は賃金分配の最下部で不平等の拡大を招いている」と指摘している。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル誌が2014年2月に48人のエコノミストを対象に行った調査では、54%が最低賃金引き上げは、雇用主の採用意欲を減退させ景気を損なうため実施すべきでないと回答しており、28%が最低賃金引き上げは景気に貢献すると回答、18%が特に有意な影響はないと回答しているデイヴィッド・カードとその研究グループの1994年の論文では、アメリカの2州のファースト・フード店における最低賃金の引き上げと雇用実態を分析し、通説とは逆に、最低賃金の引き上げが、むしろ雇用量を増やす効果をもたらしているとしている。最低賃金の引き上げが雇用量の減少をもたらすという事実は観察されないとしている。一方で、カードらの研究に対する有力な反論も出現している。経済学者のディヴィッド・ニューマーク、ウィリアム・ワッシャーニューマークは、アメリカを中心とした膨大な実証研究を調べた上で、最低賃金は未熟練の雇用を減少させ、最低賃金の変化に直接影響を受ける人々に限れば、そのマイナス効果は明確だと指摘し、雇用への正の効果を示す論文は限られており、数の面では負の影響を示す研究が圧倒的で、最も納得できる実証に限ればその傾向はより鮮明だとしている。彼らの約100本におよぶ最低賃金に関する研究の調査の結果、3分の2ほどの論文は最低賃金が雇用に対して負の効果をもつと示唆していた一方で、100本中10本ほどの論文は最低賃金が雇用に対して正の効果を持つことを示していた。彼らは、信頼のおける分析だと判断した33の論文の内、28本が負の効果を示唆したものであることから、最低賃金の引き上げは雇用に対して悪影響をもつと結論づけている。エコノミストのジェフリー・トンプソンは2009年の論文で、10代の雇用を対象にアメリカの最低賃金の影響を分析し、アメリカ全体でみれば影響は小さく明確ではない一方で、最低賃金の影響が強い郡では雇用への負の効果がかなり大きいとしている。アランドラジット・デューブ、ウイリアム・レスター、マイケル・ライシュの2010年の論文では、アメリカの州の境界に隣接する郡を比較すると負の雇用効果はないことを示している。アメリカのシンクタンク「経済政策研究センター」(CEPR)は、最低賃金を上げれば、ファストフードの食品加工・レジ係・小売店の販売員などの職種の離職率が下がり、組織の効率性が上がるなど、好循環が生じることで、雇用にはほとんど影響を及ぼさないと結論づけている。日本では、日本国憲法第25条の趣旨に基づき、最低賃金法(昭和34年4月15日法律137号)によって最低賃金が定められている。最低賃金制度の在り方について労働政策審議会の意見の提出があったときは、政府は速やかに必要な措置を講ずるものとされている(昭和43年法律第90号附則第8項)。制度の目的は、全ての労働者を守るための安全網としての役割がもっとも重要であり、公正な賃金設定という役割は、あくまで補助的なものである。使用者は最低額以上の金額を賃金として労働者に支払わなければならない。これは全ての賃金に対して適用されるため、正社員やパート・アルバイトといった勤務形態の違いにかかわらず、最低賃金以上の賃金を支払わなければならない。ここで言う最低賃金は、基本的な賃金の額であり、例えば時間外割増賃金(いわゆる残業代)や通勤手当(いわゆる交通費)、精皆勤手当、家族手当は含まれない(住宅手当は含まれる)。また、最低賃金には地域別(都道府県単位で設定)と特定の産業とが設定されている。優先順位は特定産業別賃金が地域別賃金より優先されることとなっており、特定産業別で設定されている特定産業(業種)については特定産業別の最低賃金が適用され、特定産業別で設定されていないその他の産業については、地域別の最低賃金が適用される。なお、厚生労働省ホームページにおいて全国の地域別最低賃金/特定産業別最低賃金が閲覧できるようになっている。地域別においての全国加重平均額は798円。最高額は東京の907円、最低額は鳥取・高知・宮崎・沖縄の664円となっている(2015年10月18日現在)。地域別の最低賃金は都市部と地方で年々差が大きくなっており問題視する意見も増えている。また日本の最低賃金はOECD加盟国の中でも最低ランクである。なお、地域別最低賃金は、派遣労働者であれば就業場所の最低賃金が適用されるが、出張による作業では、出張者が所属する事業所の地域の最低賃金が適用される。このため、地域別最低賃金には、地域別最低賃金の低い地域から出張の形態をとれば、その低い地域の最低賃金が適用されるという問題をはらんでいる。額の決定、変更については、中央最低賃金審議会(厚生労働省)が厚生労働大臣へ引き上げ(引き下げ)の答申を行い、その答申を元に、各都道府県の地方最低賃金審議会(都道府県労働局)がそれぞれの最低賃金を審議・答申し、都道府県労働局長が定める形式となっている(法第10条)。2007年(平成19年)11月28日、最低賃金法の改正により、ワーキングプア解消を目指し最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記し「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」との文言も加えられた(法第9条)。最低賃金未満で働かせた企業への罰則も、労働者1人あたり「2万円以下」から「50万円以下」に引き上げられた。上記の様に最低賃金は全ての賃金に対して適用されるが、以下の要件に該当する場合で、都道府県労働局長の許可を得た場合は適用除外となる(法第7条)。なお、2007年の改正により、適用除外について使用者が上記の通り都道府県労働局長の許可を得た場合に、厚生労働省令で定める率を減額した額を最低賃金額とすることができるように改正されるとともに、減額事由から「所定労働時間の特に短い者」が削除された。地方自治体の中には発注する公共工事などを請け負う会社に対して、日本国政府の規定を上回る最低賃金を支払わせることを目的としている公契約条例が制定されている例もある。小泉純一郎による構造改革やリーマンショックでの派遣切りや世帯主が非正規である家庭が増加したことが問題となり、低所得者の問題がクローズアップされ始め、2005年以降最低賃金は大幅引き上げの傾向にある。2013年(平成25年)の最低賃金引き上げによって、北海道を除いて、生活保護問題で指摘されている逆転現象は、解消される見通しである。日本共産党は、最低賃金を1000円以上に上げ、地域格差も無くすべきと主張している。最低賃金を巡る議論をいくつか挙げる。経済学者の鶴光太郎は、日本の各種大規模なミクロデータを使った分析において、としている。大竹文雄は「労働市場が買い手独占であれば、最低賃金の引き上げは、雇用も賃金も増やす可能性がある。日本国外での実証研究の多くは、最低賃金引き上げで雇用が減少するという報告が多いが、最低賃金が雇用に影響を与えないという研究結果も存在する。日本では、1990年代終わり頃から、最低賃金が雇用にマイナスの影響を与えているというものが多い。最低賃金の引き上げは、短期的には財政支出を伴わない政策であるため、貧困対策として政治的に好まれるが、最低賃金水準で働いている労働者の多くは、500万円以上の世帯所得がある世帯における世帯主以外の労働者であり、最低賃金は、貧困対策としては、あまり有効ではない政策である」と指摘している。大竹は「実証分析によれば、日本において最低賃金引き上げで雇用が失われるという意味で被害を受けてきたのは、新規学卒者・子育てを終えて労働市場に再参入しようとしている既婚女性・低学歴層といった生産性が低い人たちである。貧困対策として最低賃金を引き上げても、職を維持できた人たちは所得が上がるかもしれないが、失業した人たちは貧困になってしまう。最低賃金引き上げで雇用が失われるという実証的な結果は、労働市場が競争的な状況における最低賃金引き上げに関する理論的な予測と対応している。ただし、最低賃金引き上げによって仕事を失うのが、留保賃金が高い労働者から低い労働者という順番であれば、雇用が失われることによる社会的余剰の減少よりも、雇用を維持できた人たちの賃金が上昇する効果による余剰の増加の方が大きくなる可能性がある」と指摘している。経済学者の若田部昌澄は「企業側に最低賃金を引き上げるというインセンティブはないため、デフレで実質賃金が上がっている状態で、最低賃金を引き上げると、企業側は雇用に慎重になる。最低賃金の引き上げは、デフレ不況を解消するほどの需要にはならず、悪い効果を与える可能性が高い」と指摘している。経済学者の田中秀臣は「名目経済成長をないがしろにした最低賃金の引き上げは、地方・若年層の雇用を悪化させる可能性が大きい」と指摘している。経済学者の川口大司は、最低賃金の水準については、最低賃金の推移を平均賃金の推移と比較すると、両者は乖離しているとしており、日本における最低賃金が実際は賃金水準の決定に大きな制約となっていない可能性が考えられてきたとしている。地方最低賃金審議会では、経営者側の委員は中小企業の経営者等が多いにもかかわらず、労働者側の委員は大企業労働組合の代表が多く、地域別最低賃金により影響を受ける中小零細企業の労組代表がほとんど選任されていない。このことは国会でも取り上げられた。これは主に中小零細企業の労組では、労働者側委員を出せるだけの組織率を有している労組がないことが大きく影響しているといわれている。最低賃金を満たしているかどうかの計算式は以下によって求めることが出来る。なお、通勤手当・皆勤手当・家族手当・深夜割増手当・時間外労働または休日労働手当は算入しない。臨時に支払われる手当(結婚手当など)も算入しない。住宅手当は除外賃金に指定されていないので、参入して計算する。除外する賃金は最低賃金の種類ごとに指定できることになっているが、どの最低賃金も同じ手当が除外手当として指定されている。以下に挙げるの計算式は簡略したもので、時間額に換算するものである。※業種は日本標準産業分類による、(1)(2)とも該当無しなら大企業。イギリスの最低賃金は、全国最低賃金法 ("National Minimum Wage Act")(1998年)によって定められている。なお、イギリスは判例法(コモン・ロー)が重要な役割を担っており、制定法は補助・追認的な位置づけとなっている。歴史的には、1909年に賃金委員会法を制定し、特に低賃金労働者が多い一部の産業について、最低賃金を定めた(1945年に賃金審議会法に改正)。その後、労働市場の硬直化、生産性低下の回避等を理由として、1993年に「労働組合改革及び雇用権に関する法律」によっていったん廃止されている(当時政権は保守党)。その後、1998年にブレア首相時代に全国最低賃金法が施行、翌1999年に制度が復活した(当時政権は労働党)。2004年からは、義務教育修了(16-17歳)への最低賃金が定められた。最低賃金の額は、低賃金委員会が諮問機関となり、政府に答申を行うことで決定される。なお、1945年から1993年までは、賃金審議会が各産業の賃金を定めていた(1993年の廃止時には、26の各産業の審議会が存在した)。最低賃金が履行されているかの調査、勧告は、内国歳入庁 ("The Inland Revenue") の最低賃金監督官 ("National Minimum Wage Compliance Officers") が行う。権限の法令根拠は、全国最低賃金法13条などによる。飯田泰之は「最低賃金規制をした場合、企業側はほとんど守らない。工夫をして事実上の最低賃金以下の雇用を行おうとする。表面上は守られているとされる日本の最低賃金の遵守率は、実質はかなり低い。サービス残業などを活用しどこも守っていない」と指摘している。労働者育成の観点から、就業後訓練を行っている間は、最低賃金が減額される。「これは、16-17歳は完全な労働力というよりは職業生活の準備をしており、労働市場の中で異なる区分を形成しているという我々の見解を反映したもの」その後、若年労働者を使用者の搾取から守るという観点から制度の改定が行われている。なお、最低賃金以下の賃金を支給されている労働者は、全労働者の約1%(2003年時点)となっている。イギリスでは、雇用への影響も実証分析が積み重ねられたが、最低賃金の上昇が緩やかだったこともあり、「明確な影響はない」という研究者のコンセンサスが得られている。ミルコ・ドラカ、ステファン・マヒン、ジョン・ファンリーネンの2011年の論文では、イギリスで低賃金労働者を雇っている企業の収益率は他の企業に比べより減少していることを示している。ジョナサン・ワーズワースの2009年の論文では、最低賃金労働による消費者サービス価格の上昇は一般消費者物価上昇よりも高いことを示しており、企業の収益・価格への影響は明確となっているとしている。山田久は「イギリスで最低賃金の引き上げが失業増につながらなかったのは、景気回復の持続のもと、外資導入・地域再生策の効果もあり、生産性の持続的向上が人件費増を吸収できたためである」と指摘している。また、ブリストン大学のホール教授、プロッパー教授とロンドン大学のヴァン・リーネン教授は、イギリスの看護師の賃金が、全国率一律で決められていることが、高賃金地域での患者の死亡率を高めていることを明らかにしており、「賃金規制が、死亡率を高めている」と主張している。ドイツはEU参加国のうち最低賃金法を導入していない7つの国の一つであった。だが2014年7月、ドイツ下院はドイツ国内の最低賃金を時給8.50ユーロとする法案を可決した。この法律は2015年1月から施行される。下院での採決では法案賛成が圧倒的多数であり、投票数605のうち賛成が535票、反対が5票、棄権が61票という結果だった。この最低賃金水準はフランスの時給9.43ユーロには劣るが、英国の6.31ポンド(換算値約6.50ユーロ相当)や米国の7.25ドル(約4.20ユーロ相当)よりも高い。最低賃金導入はアンゲラ・メルケル政権の連立与党である中道左派ドイツ社会民主党の重要課題だった。ドイツ副首相のジグマール・ガブリエルは「これはドイツにとって歴史的な日である」として最低賃金法の立法化を歓迎した。フランスの最低賃金は、全業種を対象に法律が定める基準(SMIC)と、業種別に労働協約によって定められた基準とがあり、双方を上回る必要がある。均等待遇の原則(同一労働同一賃金)が根付いているため同種の職種で賃金格差が付きづらいが、職歴の浅い者は最低賃金に近い水準となっている。2014年現在、フランスの最低賃金は、9.43ユーロとなっている。最低賃金で働く者の割合は、全労働者のうち13.9%。また、小規模な事業所は30.1%となっている(2001年7月現在)。なお、週39時間制から週35時間制に移行したときには、労働者の賃金を保証するために最低賃金を上げ、使用者側に対しては補償措置として社会保障費の減免を行った。最低賃金が履行されているかどうかの監視については、官庁に所属する監督官によって行われる。監督先の企業を選ぶ方法は2種類あり、一つは労働者側からの監督要請、もう一つは監督者による任意の選定となっている。調査の方法は、給与支払い明細やタイムカードを調べることによって違反が無いかをチェックする。違反があった場合には、まず使用者に対し書類によって改善勧告が行われる。勧告によって改善されなかった場合には、刑法手続きが取られるが、手続きに1年半ほどかかるため、その間に改善されることがほとんどであるという。スイスでは、全国一律の最低賃金は定められていない。2014年5月18日、最低賃金を22スイスフラン(約2500円)という、世界最高額の最低賃金を定めるかどうかの国民投票が行われた。結果は賛成24%、反対76%で否決された。スイスの労働組合は、最低限の生活も維持できない労働者が約33万人に上ると指摘している。スイスの労働者の9割は、すでに時給22スイスフラン以上の賃金を得ているとされるが、スイスの物価を考えると十分ではないとする意見もある。
出典:wikipedia
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