スキームや代数多様体のエタール・コホモロジー(étale cohomology)はアレクサンドル・グロタンディークがヴェイユ予想を証明するための道具として考案したコホモロジー理論であり、位相空間上の有限個の定数係数コホモロジー、すなわち通常のコホモロジーの代数的な類似になっている。エタール・コホモロジーはヴェイユコホモロジーの一種である ℓ-進コホモロジーを構成する枠組みを与える。代数幾何学における基本的な道具の一つで、非常に多くの応用を持ち、ヴェイユ予想の証明や(representations of finite groups of Lie type)の構成の証明に用いられ、フェルマーの最終定理の証明の際にも用いられた。エタールコホモロジーは、ジャン=ピエール・セールが示唆したことを用いてによって提案されたもので、ヴェイユ予想を証明する為にヴェイユコホモロジーを構成するという試みが動機となっていた。この直後には、グロタンディークは(Michael Artin)とともに、基礎を固め、として出版した。 グロタンディークはエタールコホモロジーを使い、ヴェイユ予想のいくつかを証明した。((Bernard Dwork)は既に1960年には、p-進数の方法を使い予想の有理性の部分を証明していた。)残った予想であるリーマン予想の類似物は、 ℓ-進コホモロジーを使い1974年にピェール・ドリーニュにより証明された。さらに、古典理論はブラウアー群のグロタンディークのバージョンの形で発見された。このことはユーリ・マーニン(Yuri Manin)により、(diophantine geometry)へ適用された。一般的な理論の重みと成功は、確かにこれらの情報をすべて統合することと、この脈絡でポアンカレ双対とレフシェッツ不動点定理のような一般的結果を証明することの双方にかかっていた。元々、グロタンディークは、極度に一般化された設定でエタールコホモロジーを開発した。この考え方はグロタンディークトポスやグロタンディーク宇宙というような概念と一緒に考え出された。後で考えると、この機構の多くはエタール理論の実践的な応用には不必要であることを証明され、 はエタールコホモロジー論の単純化された説明を行った。グロタンディークのこれらの宇宙の使い方(この存在は(ZFC)では証明することができなかった)は、(フェルマーの最終定理のような)エタールコホモロジーやその応用がZFCを超える公理を必要としているという統一した考え方を与えた。実際は、エタールコホモロジーは、主要には整数上の有限型のスキーム上の(constructible sheaves)に使われ、この理論は集合論の深い公理を必要としない。少し注意深いすると、この場合は非可算集合を必要とせず構成することができ、ZFCの中でも(より弱い理論でさえ)容易に示すことができる。エタールコホモロジーは、他への応用がすぐに見つけ出された。例えば、ドリーニュとルースティック(Lusztig)はエタールコホモロジーを(finite groups of Lie type)の表現を構成することに使った。(Deligne–Lusztig theory)を参照。複素代数多様体に対して、基本群やコホモロジー群のような代数トポロジーの不変量は非常に有益であり、有限体のような別の体上の多様体に対してもこの類似物を得たい。(この一つの理由は、ヴェイユがコホモロジー論を使いヴェイユ予想を証明しようとしたことにある。)連接層のコホモロジーの場合は、セールが代数多様体のザリスキー位相を使い満足のいく理論を得ることができ、複素多様体の場合は非常にうまい複素トポロジーのような(連接層の)同じコホモロジー群を得ることができることを示した。しかしながら、整数の層のような定数層に対しては、このことはうまくいかず、ザリスキー位相を使って定義されたコホモロジーはうまく振る舞わない。例えば、ヴェイユは位相空間上の普通の特異コホモロジーとして同じべきを持つ有限体上の多様体のコホモロジー群を期待したが、実際は、既約多様体上の定数層は高次のコホモロジーが 0 となる自明なコホモロジーしか得ることができなかった。ザリスキー位相がうまくいかない理由は、ザリスキー位相が粗すぎることであり、あまりに少ししか開集合を持たないことである。一般的な代数多様体のより良い位相空間を使い、このことを解決するうまい方法はなさそうに思える。グロタンディークの重要な見方は、より一般的な開集合は代数多様体の部分集合であるべき理由はどこにもないということを実現することであった。層の定義は、空間の開集合の圏だけではなく、任意の圏に対し完全にうまく働く。グロタンディークはエタールコホモロジーを空間の開集合の圏を空間のエタール写像の圏と置き換えることにより定義した。大まかに言うと、これらは空間の有限不分岐な被覆の開集合として考えることができる。これらはある定数層の妥当なコホモロジー群と考えることのできる、充分に大きな開集合を与えることが分かる。特に、n が体の標数と互いに素な場合の係数 Z/nZ に対し、完成させることができる。理論の基本的な事項は以下である。任意のスキーム X に対してエタール射 u :A→X 全体からなる圏を Et(X) で表す。この圏は位相空間 S の開部分集合の圏の類似であり、非形式的には対象は X の「エタール開集合」であると考えることができる。位相空間の 2つの開集合の交叉は、2つの X へのエタール射の引き戻しに対応する。Et(X) が「大きな」圏であって対象が集合を形成しない為、ここには幾分些細な集合論的問題がある。しかしながら、エタール射は局所有限表示である為に小さな圏と同値であるので、これを小さな圏と見なしても問題はない。位相空間 X 上の(presheaf)は、開部分集合の圏から集合の圏への反変函手である。類似によりスキーム X 上のエタール前層を Et(X) から集合への反変函手と定義する。位相空間上の前層 F は、以下の層の条件を満たすとき、層と言う。一つの開部分集合が開部分集合 U により被覆され、各 i に対して、 F(U) の元であって全ての i, j に対してその U∩U への制限が一致するようなものが割り当てられたとする。この時、それらは F(U) の一意的に定まるある元の像である。類似により、エタール前層は、同様の条件(開集合の交差をエタール射の引き戻しで置き換え、U へのエタール射の集合は U の底位相空間がそれらの像の和集合であるとき U の被覆であるという)を満たすときエタール層と言われる。より一般的には、同様の方法で圏の任意のグロタンディーク位相に対して層を定義することができる。スキーム上のアーベル群の層の圏は、充分多くの単射的な対象を持っているので、左完全函手の右導来函手を定義することができる。アーベル群の層 F のエタールコホモロジー群(étale cohomology groups) H(F)は、切断の函手の右導来函手として定義することができる。ここに F の切断 Γ(F) の空間は F(X) である。層の切断は Z をアーベル群として整数へ戻る層とすると Hom(Z,F) と考えることができる。ここの導来函手の考え方は、切断の函手は右完全ではないので完全系列と見なすことはできない。ホモロジー代数の一般原理に従うと、i = 0,1, ... に対し、函手 H の列が存在して、完全性を取り戻すために取られるべき「保証」を表す(短完全系列から長完全系列が得られる)。H 函手は切断の函手に一致する。より一般的には、f を X から Y へのスキームの射とすると、f は X 上のエタール層から Y 上のエタール層への写像 "f" を定義し、右導来函手は非負な整数 q に対し Rf で表される。Y が代数的閉体のスペクトル(一点からなる)である特別な場合は、Rf(F) は、H(F) に等しくなる。X をネタースキームとする。X 上のエタール層 F は、X のエタール被覆により再現されるとき、有限局所定数(finite locally constant)と呼ばれる。X が F の制限が有限局所定数である部分スキームの有限族により被覆されるとき、'(constructible)と呼ばれる。全ての X のエタール被覆 U に対し、F(U) が捩れ群であるときに、'(torsion)と呼ばれる。有限局所定数層は構成的であり、構成層は捩れ層である。全ての捩れ層は構成層のフィルターを通した帰納極限である。有限体 F の代数幾何学の応用の中で、主要な対象は整数(もしくは有理数)係数の特異ホモロジーを置き換えることを探すことにあった。しかし、複素数体の上の代数多様体の幾何学の同じ方法は有効ではない。エタールコホモロジーは n が標数と互いに素であるときの係数 Z/nZ に対してはうまく働くが、捩れがない係数の結果が満足できる結果ではない。エタールコホモロジーから捩れのないコホモロジー群を作るために、ある捩れを持つエタールコホモロジーの逆極限を取る必要があり、これをℓ-進コホモロジー(ℓ-adic cohomology)と呼ぶ。ここに 「ℓ」は p とな異なる任意の素数を意味し、ここの p は F の標数を表す。スキーム V に対し、コホモロジー群を考え、ℓ-進コホモロジー群を逆極限として「定義」する。ここに Z はℓ-進整数を表すが、定義は有限係数 Z/ℓZ を持つ「定数」層の系のおかげである。(ここには、恐ろしいわながある。コホモロジーは逆極限を取ることとは可換ではなく、逆極限として定義された ℓ-進コホモロジー群はエタール層 Z に係数を持つコホモロジーではない。ℓ-進コホモロジー群は存在するが、「悪い」コホモロジー群となる。)さらに一般的には、F をエタール層 F の逆の系とすると、F のコホモロジーは F のコホモロジーの逆極限として定義される。であるが、次の自然な写像も存在する。これは普通は同型ではない。ℓ-進層(ℓ-adic sheaf)とは、エタール層 F の逆の系の特別な場合で、i は正の整数を渡り F は Z/ℓZ の上の加群であり、F から Fへの写像はまさに mod Z/ℓZ のリダクションである。V が非特異な代数曲線であり、i = 1 とした場合は、H はランク 2g の自由 Z-加群であり、V のヤコビ多様体の(Tate module)に双対である。ここに g は V の種数である。種数 g のリーマン面の第一ベッチ数は 2g であるので、 Z 係数の複素代数曲線の普通の特異コホモロジーである。これはまた、条件 ℓ ≠ p が求められているとテイト加群もランクである ℓ = p は大きくとも g であることの理由の一つでもある。捩れ部分群は、発生させることができ、(Michael Artin)やデヴィッド・マンフォード(David Mumford)により幾何学的問題として考えることに適用された。ℓ-進コホモロジーより捩れ部分群を削除し、標数 0 の体の上のベクトル空間上のコホモロジー群を得るためには、と定義する。(しかし、この記法は Q がエタール層でもなく、ℓ-進層でもない場合は誤りとなる。)一般的に多様体のℓ進コホモロジー群は、複素多様体の特異コホモロジー群と似たような性質を持つ。ただ、特異コホモロジーは整数もしくは有理数上の加群であるのに対して、ℓ進コホモロジーは ℓ進整数もしくは ℓ進数上の加群になる。非特異な射影多様体上の ℓ進コホモロジーはポアンカレ双対性を満たし、また、不複素多様体の「mod p のリダクション」の ℓ進コホモロジーは、特異コホモロジー群と同じランクをもつ。(Künneth formula)も成立する。例えば、複素楕円曲線の第一コホモロジー群は、整数上ランク 2 の自由加群であるが、一方、有限体上の楕円曲線の第一 ℓ-進コホモロジー群は、ℓ-進整数上のランク 2 の自由加群であり、(Tate module)の双対である。ℓ は関連する体の標数ではないものが与えられているとする。特異コホモロジー群よりもよい ℓ-進コホモロジー群を定義する方法がひとつ存在する。 ℓ-進コホモロジー群は、ガロア群が作用することである。例えば、複素多様体が有理数上で定義されていれば、その ℓ-進コホモロジー群上には有理数の(absolute Galois group)が作用する。絶対ガロア群はガロア表現を与える。複素共役や恒等元以外の有理数のガロア群の元は、普通は、有理多様体上で定義された複素多様体上に連続的に作用しないので、特異コホモロジー群の上にも作用しない。グロタンディークはガロア群が基本群の一種と見なすことができることを示したので、このガロア表現の現象は、位相空間上の基本群が特異コホモロジー群上作用することと関係している。(グロタンディークのガロア理論を参照)多様体のエタールコホモロジー群の計算の最初のステップは、代数的閉体 k 上の完備で連結で滑らかな代数曲線 X について計算することである。任意の多様体のエタールコホモロジー群は、ファイブレーションのスペクトル系列のような、代数トポロジーの普遍的な機構の類似を使い、計算することが可能である。曲線に対する計算は、 に従うといくつかのステップとなる。(層 G は 0 とならない函数の層である。エタール層の完全系列は、コホモロジー群の長完全系列をもたらす。ここに j は生成点の単射で、i は閉点 x の単射、G は(X の生成点) 上の層 G であり、Z は X の各々の閉点の Z のコピーである。i>0 であれば(iZ が「摩天楼層(skyscraper sheaf)」であるので)群 H(iZ) は 0 となり、i=0 であればそれらは Z であるので、和はまさに X の因子群となる。さらに、第一コホモロジー群 H(X, jG) は、ヒルベルトの定理90により 0 となるガロアコホモロジー群 H(K, K) に同型である。従って、エタールコホモロジー群の長完全系列は、完全系列を与える。ここに Div(X) は X の因子の群であり、K はその函数体である。特に、H(X, G) はピカール群 Pic(X) である(また、G の第一コホモロジー群は、エタールとザリスキー位相については同じである)。このステップは、曲線のみならず、任意の(余次元 1 により点を置き換えて)任意の次元の多様体 X についてうまく働く。上記の同じ長完全系列は、i ≥ 2 であれば、コホモロジー群 H(X, G) は H(X, jG) と同型であることを導き、後者はガロア群 H(K, K) と同型である。(Tsen's theorem)は代数的閉体上の 1変数の函数体 K のブラウアー群(Brauer group)は 0 となることを意味している。このことはまた、全てのガロア群 H(K, K) が i ≥ 1 に対して 0 となることを意味しているので、全てのコホモロジー群 H(X, G) は i ≥ 2 であれば 0 となり消滅する。μ を 1 の n 乗根の層、n は体 k の標数と素とすると、i = 0 であれば H(X,μ) は μ(k) であり、i = 1 であれば Pic(X) の n-分点の群であり、i = 2 であれば Z/nZ であり、i ≥ 3 であれば 0 である。このことは、次の長完全系列を使うことにより、前の結果より得ることができる。この長完全系列は、エタール層のクンマー完全系列より得ることができる。また、これへ i ≥ 2 のときの知られている値 H(X,G) = k, H(X,G) = Pic(X), H(X,G) = 0 を代入すると結果をえることができる。特に、完全系列を得る。1 の p 乗根は標数 p の体上ではおかしな振る舞いをすることから、n が p により割り切れるとこの議論は破綻する。0 ではない函数は普通ザリスキー位相にたいして局所的に n 番目の根を持たないので、ザリスキー位相では、クンマーの系列は右に完全ではない。従ってこれはザリスキー位相が本質的というよりも、エタールトポロジーが役に立っている場所である。1 の原始 n 乗根を固定することにより、群 Z/nZ を 1 の n 乗根の群 μ と同一視する。従って、エタール群 H(X,Z/nZ) は i = 0 のときはランク 1、i = 1 のときはランク 2g、i = 2 のときはランク 1、i ≥ 3 のときはランク 0 の環 Z/nZ の自由加群である(ここで g は曲線 X の種数である)。曲線のピカール群は曲線のヤコビ多様体という次元 g のアーベル多様体の点であり、n が標数と互いに素であれば代数的閉体上の次元 g のアーベル多様体の n 分割点は (Z/nZ) に同型であるという事実を使うことで、前の結果からこのことが導かれる。エタールコホモロジー群 H(X,Z/nZ) に対する値は、X が複素曲線であるときの対応する特異コホモロジー群に同型である。同じ方法で位数を標数でわった定数係数をもつエタールコホモロジー群を計算することができて、このときはクンマーの系列の代わりにアルティン・シュライヤーの系列を使う。(Z/pZ の係数に対し、(Witt vector)を含む似たような系列が存在する。)結果として分かるコホモロジー群は、普通、標数 0 のときに対応する群のランクよりも小さなランクを持つ。多様体 X のコンパクトな台を持つエタールコホモロジーは、と定義される。ここに j は固有な多様体 Y への X の開埋め込みであり、j は Y 上のエタール層 F の 0 による拡張である。これは埋め込み j とは独立である。X が多くとも次元 n であり、F をねじれ層とすると、q > 2n に対しては、コンパクトな台を持つこれらのコホモロジー群 formula_16 は 0 となる。条件に X が分離的な閉体上の有限型のアフィン多様体であれば、コホモロジー群 formula_17 は q > n に対して 0 となり消滅する。(最後のステートメントは SGA 4, XIV, Cor.3.2 を参照)より一般的には、f を X から S への(X も S のネター的とする)有限な分離的射とすると、コンパクトな台 Rf を持つ高次の直像(higher direct images)は、任意の捩れ層 F に対し、と定義される。ここに j は S への固有射 g を持つスキーム Y への X の任意の開埋め込みであり(f = gj )、前に示したように、定義は j と Y の選択と独立ではない。コンパクトな台を持つコホモロジーは、S が点である特別な場合である。f が有限型で分離的な射であれば、Rf は X の上の構成層から S 上の構成層へ写す。加えて f のファイバーが多くとも n 次元であれば、Rf は q > 2n に対して捩れ層の上で 0 となり消滅する。X が複素多様体であれば、Rf は(複素多様体の)捩れ層のコンパクトな台を持つ普通の高次直像と同じである。X が次元 N の滑らかな代数多様体であり、n が標数と互いに素であれば、トレース写像が存在し、Z/nZ に値をもつ双線型形式 Tr(a∪b) が各々の群ととを互いの双対として同一視することができる。これはエタールコホモロジーでのポアンカレ双対の類似である。これはどのように代数曲線へ局所ゼータ函数を適用するかの方法である。定理. を 個の元を持つ 上に定義された種数 の曲線とすると、 に対して、が成り立つ。ここに は を満たす代数的数である。これは、 個の点を持つ種数 の曲線である 射影直線(projective line) ̼ である。このことは、任意の曲線の点の数が射影直線の点の数に近い( 以内である) ことも示している。特に、このことを一般化すると楕円曲線のハッセの定理(Hasse's theorem on elliptic curves)となる。レフシェッツ不動点定理に従い、任意の射 の不動点の数は、に等しい。この公式は、通常の位相多様体やトポロジーに対しても有効であるが、ほとんどの代数的トポロジーに対しては正しくない。しかしながら、この公式はエタールコホモロジーに対しては成立する(証明は容易ではないが)。次元が での のエタールコホモロジーのベッチ数は、それぞれ , である。これらに従い、を得る。この式は定理を一般化した形である。全体のアイデアは、モチーフのフレームワークに適合する。公式には、[X] = [point]+[line]+[1-part] で [1-part] は 点のようなものである。
出典:wikipedia
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