あさぎり型護衛艦(あさぎりがたごえいかん、)は、海上自衛隊が運用する汎用護衛艦(DD)の艦級。計画番号はF113。先行するはつゆき型(52〜57DD)の拡大改良型であり、五六中業の昭和58年度計画より、計8隻が建造された。海上自衛隊では、ポスト4次防において、新しい艦隊編成として8艦8機体制を策定し、その基準構成艦となる汎用護衛艦(DD)としてはつゆき型(52DD)の建造に着手していた。しかし同型は海自初の汎用護衛艦であり、また予算などの制約も厳しかったことから、抗堪性やC4I機能などで妥協せざるを得ない部分も多かった。このことから、大型化しその不備を是正するとともに、搭載システムの近代化をはかったのが本型である。船型としては、52DDと同じく遮浪甲板型を基本として後部を切り欠いた長船首楼型であるが、上甲板の整一化が図られており、遮浪甲板型に近づいた。抗堪性の観点から機関区画をシフト配置としたこともあって、船体は7メートル延長され、排水量は約500トン大きくなった。ソナーの装備位置が前方に移されたことから、水線上の艦首形状は、直線状のステムが前方に鋭くつきだして、2次防艦のクリッパー型を彷彿とさせるものとなったほか、主錨直後から艦橋構造物中部にかけてナックルが付されている。また艦橋構造物は1層低くなり2層とされた。また設計の最終段階にあたる1984年、哨戒ヘリコプターを必要に応じて2機収容できるようにハンガーが大型化されたが、これは戦闘艦としてのシルエットを大きく損なったと評されている。52DDでは排水量低減のために上構にアルミニウム合金を多用したものの、これについては抗堪性の問題が指摘されていた。その後、51大綱が策定され、それまで重視されていた単年度会計における単艦の建造費の圧縮から、中期防衛力整備計画における艦艇定数の制約、すなわち質の重視へと移行したため、極端な排水量抑制を行う必要がなくなったことから、8番艦(56DD)以降では上部構造物を全鋼化した。しかしこれに伴う重量増は、それ以上の重量の固定バラストによって補償する方式とされたため、最大/巡航速力や航続性能など、各種運動性能の低下をもたらした。このことから、本型では重量増を船体設計に盛り込むことで復原性を確保することとされ、全幅が1メートル増大された。また対潜戦のパッシブ戦への移行に対応し、52DDと同様、水中放射雑音を遮蔽するため、船体にハル・マスカー、プロペラにプレーリーを装備した。52DDでは、このシステムの作動に必要な圧縮空気をコンプレッサーで発生させる方式としたため、このコンプレッサーの雑音のせいでトータルの雑音が低減されないという問題が生じたのに対し、本型ではガスタービン主機関からの抽気としたことで、雑音低減が進んでいる。なお搭載艇としては、しらね型(50DDH)と同様に、カッターを廃止して7.9メートル内火艇2隻を格納庫両舷の重力式ダビットに吊架する方式とされた。上記のとおり、本型は52DDよりも大型化しており、常備排水量5000トン級となった。しかしこの大きさで最大速力30ノットを発揮するためには主機出力54,000馬力が必要と見積もられたものの、1基で片舷分の27,000馬力を発揮できるガスタービンエンジンは当時存在せず、52DDと同様のCOGOG方式の採用は困難であった。一方、ちょうどこの時期に実用化されたロールス・ロイス スペイ(14,000馬力級)であれば、COGAG方式で所要の出力を確保できる見通しがついた。このことから、本型では英海軍の22型フリゲートバッチ3で良好な実績を示していたスペイSM1Aを1基あたり13,500馬力で使用することで、合計出力54,000馬力を確保した。これにより、主機関2基のみの運転(2分の1全力)で26~27ノットと、ソナー有効最大速力以上の速力を発揮できるようになり、特に対潜戦の遂行上の恩恵は大きかった。なお本型より、主機運転について、艦橋からの遠隔操縦が導入された。これは、従来より用いられてきたエンジンテレグラフによる速力指示機構と併設されており、適宜に選択して用いられた。一般的には、精密な操艦が求められる出入港時、洋上補給などの洋上作業時、総員戦闘配置時にはテレグラフ方式、それ以外の外洋行動時には遠隔操縦方式が選択されることが多かったとされている。蒸気タービンおよびマルチプル・ディーゼル主機関の護衛艦では、左舷軸用と右舷軸用の主機関を前後に間隔を置いて配置するシフト配置が採用されてきた。これに対し、52DDでは排水量の制約のため、複数の機械室に両舷機を左右対称に設置するというパラレル配置が採用されたものの、抗堪性の面で問題が指摘されていた。このことから、本型では蒸気タービン艦と同様に、前方の第1機械室が左舷軸、補機室を挟んで後方の第2機械室が右舷軸を駆動するシフト配置とされた。これに伴って、煙突も主マスト後とヘリ格納庫直前の2本に変更され、それぞれ左右にシフトして設置されている。COGAG機関のシフト配置という方式は、本型以降に建造されたすべての甲型警備艦(DD, DDG, DDH)において踏襲された。なお、上記の通り、設計の最終段階で急遽ハンガーを大型化したために、後部主機の煙路が複雑化し、排気路抵抗から主機関出力に悪影響を及ぼす懸念が指摘されていた。電源としては、第1・2機械室に川崎重工業M1A-02ガスタービン原動機による1・2号主発電機(出力 各1,000kW)、後部発電機室にディーゼル原動機による3・4号主発電機(出力 各500kW)が搭載された。本型より非常発電機が廃止され、停泊時は3・4号主発電機が用いられることとされたが、その排気は両舷に設けた排気口から排出される構造となっているために、特に横付け係留中の場合、そのディーゼル排気が隣接艦の艦内に流入して苦しめるケースが多発した。本型の搭載する戦術情報処理装置は、52DDのOYQ-5を基本としているが、その能力は大幅に強化されている。OYQ-5はDDに求められる最小限の機能を保有していたが、電子計算機の性能上、将来発展余裕に乏しく、プログラムの柔軟性発揮が難しかった。また特にリンク 11の未装備は、艦隊の情報共有に参加できないという点で、戦力の大きな減殺となった。このことから本型では、電子計算機のメモリサイズを拡張するなど強化することで、対空レーダーやヘリコプター戦術情報表示装置(HCDS)との連接やリンク 11の送受信に対応するなど機能を充実させたOYQ-6が搭載されており、アメリカ海軍協会()は「full destroyer CDS」とも称している。また本型では、パッシブ対潜戦に対応するためのOYQ-101対潜情報処理装置(ASWDS)の搭載が計画されたものの、その開発は遅延したことから、実際の搭載は最終艦である「うみぎり」(61DD)までずれこむことになった。これに伴い、同艦ではASWDSとの連接に対応したOYQ-7に発展した。これにより、対潜戦におけるパッシブ情報の統合・表示および哨戒ヘリコプターとのデータ・リンク機能が強化されており、この情報処理所要の増大に伴い、電子計算機はデュアルプロセッサ化されている。これはのちに、あさぎり型の他艦にもバックフィットされたとされている。対空捜索用レーダーとしては、前期建造艦4隻(58・59DD)では52DDと同系統のOPS-14Cを前檣下段に搭載した。その性能・安定性は用兵者を満足させるものであったが、主隊から分派されての単独行動時の対空警戒能力には不安が残った。このことから、後期建造艦4隻(60・61DD)では、新開発の3次元レーダーであるOPS-24が採用された。これは航空自衛隊のレーダーサイトで用いられていたJ/FPS-3をもとに艦載化したものであったが、搭載後より問題が多発し、用兵者からの評価は惨憺たるものとなった。その後、ほぼ新造に近いレベルの抜本的な改良を施したB型が開発され、その成果は本型のOPS-24にもバックフィットされた。これによって何とか艦隊での使用に耐える性能には達したものの、これらの改善処置も完全なものではなかったとされている。本型の対空戦システムは、基本的には55DDのものがベースとされており、個艦防空上のブラインド・ゾーン発生防止の観点から、艦首甲板に62口径76ミリ単装速射砲、艦尾甲板にシースパローIBPDMSの8連装ミサイル発射機を振り分けて配置するとともに、また近接防空用として高性能20mm機関砲(CIWS Mk.15 mod.2; ファランクス ブロック0)を上部構造物両舷に搭載している。射撃指揮装置(FCS)は、前期建造艦(58・59DD)では、主砲用(GFCS)としてFCS-2-22A、IBPDMS用(MFCS)としてFCS-2-12Eが装備された。後期建造艦(60・61DD)では、GFCSとしてFCS-2-23が装備され主砲の指揮管制とともにシースパロー短SAMの管制が可能となった。8連装ミサイル発射機は、57DDと同型のGMLS-3A型とされている。これはイタリア製のアルバトロス用発射機のライセンス生産・改良型であった。ミサイルは、当初はRIM-7Fが用いられていたが、後にRIM-7Mに更新された。対水上捜索用のレーダーとしては、52DDのOPS-18-1にかえてOPS-28が搭載された。これはしらね型(50DDH)で装備化された動揺修正機能付の機種であった。対水上打撃力としては、52DDと同様にハープーン艦対艦ミサイルが搭載された。52DDでは煙突両舷から前方にむけて発射する方式であったのに対し、本型では後部煙突直前から両舷にむけて発射する方式とされている。本型の対潜戦システムは、あらゆる面で52DDのものの改良型となっており、艦の近くでは従来通りのアクティブ対潜戦、遠くでは国内開発のえい航式パッシブソーナー(TASS)および哨戒ヘリコプター(HS)のソノブイによるパッシブ対潜戦を組み合わせて実施する計画とされた。船体装備ソナーは、52DDのOQS-4をもとにラバードームを採用するなどの改良を加えたOQS-4A(II)とされた。また52DDでは、機関室の騒音からの隔離不十分や艦首波の影響など、装備位置の配慮不足のためにソナー性能の低下を招いた反省から、本型では装備位置を前方に移したこともあって、探知性能は大きく改善された。TASSの開発は大幅に遅延し、制式化は1986年となったが、建造工程に余裕があったことから、60DDから装備化が実現した。ただし52DDと同様、後甲板におけるTASSの投入・揚収作業は危険を伴い、特に夜間・荒天時の作業は安全確保上特別の配慮が必要であった。また上記の通り、61DDで、さらにOYQ-101対潜情報処理装置(ASWDS)がOQR-1とインターフェースをとった上で初度装備され、これらはその他の艦にも順次にバックフィットされた。なお、TASSが後日装備されるまでは、哨戒ヘリコプターのソノブイが唯一のパッシブ戦センサとして用いられたが、その情報を受信・処理するソノブイ信号処理装置(SDPS)としては、しらね型(50DDH)と同じOQA-201が搭載された。対潜兵器は52DDを踏襲しており、艦橋構造物直前にアスロック対潜ミサイルの8連装発射機を、艦中部両舷に68式3連装短魚雷発射管HOS-302を設置した。これらは艦近傍でのアクティブ対潜戦に用いられ、SFCS-6水中攻撃指揮装置による射撃指揮を受けている。また魚雷対策用の曳航式デコイとしては、52DDではアメリカのを国産化した曳航具3型が搭載されていたのに対し、本型では、ファンファーレの後継としてやはりアメリカで開発されたAN/SLQ-25ニクシーが装備された。電波探知装置(ESM)としては、58・59DDでは52DDと同じNOLR-6を搭載した。その後、60DDにおいて、新型のNOLR-8が装備化された。これは、従来の電波探知装置とはまったく別系列で、対艦ミサイル防御(ASMD)を重視した機種である。通信波帯ESM機能を削除する一方で、ミサイル・シーカー波の瞬時探知・全方位同時捜索など、技術研究本部が試作していた水上艦用電波探知妨害装置(水電妨)の成果をバックフィットして開発されたものであった。その後、58・59DDにもバックフィットされ、また60・61DDではOLT-3電波妨害装置と連接された。8艦8機体制をとる護衛隊群のワークホースとして考えたとき、本型のもっとも重要な装備と言えるのが、搭載する哨戒ヘリコプターである。本型では、初めて当初よりSH-60Jの搭載を想定した設計がなされており、その機上のヘリコプター戦術情報処理装置(HCDS)とのデータ・リンクのため、ORQ-1ヘリコプター・データリンクを搭載する。また発着艦支援装置も、従来のベアトラップをもとに、SH-60Jの最低地上高にあわせた薄型のシャトルを用いたRAST-Jに変更されている。上記のとおり、通常の搭載機のほか、緊急時にはさらにもう1機を収容できるよう、ハンガーも拡張されている。ただしヘリコプター着艦拘束・移送装置は1基しか装備していないため、SH-60Jを用いて行われた2機格納検証作業の際には、途中で危険な状態に陥って作業中止となっており、実際に2機搭載が行われた実例はないとされている。長らく護衛艦隊の編制においては、4つの護衛隊群に20隻のDDが配属されているが、護衛隊群にむらさめ型(03〜09DD)とたかなみ型(10〜13DD)が就役するに従い、あさぎり型の初期の2隻「やまぎり」と「あさぎり」は相次いで練習艦に種別変更された。しかしその後、2011年3月16日に「やまぎり」が、2012年3月14日には「あさぎり」が護衛艦に種別変更され、それぞれ護衛艦隊直轄護衛隊(2桁護衛隊)に護衛艦として復帰した。2012年以降、護衛隊群にあきづき型(19〜21DD)が就役するのに伴い、護衛隊群所属のあさぎり型は護衛艦隊直轄護衛隊(2桁護衛隊)に押し出されつつあるが、あきづき型の建造が4隻に止まる為、25DDの就役まであさぎり型のうち2隻は護衛隊群にて保持される可能性がある。平成23年度から28年度予算までに、あさぎり型の艦齢延伸のための8隻分の改修予算と、のべ17隻分の先行的部品調達予算が計上されており、順次、艦齢延伸改修工事が実施される予定である。艦齢延伸措置を行い、運用期間をこれまでより5~10年程度延伸する計画を予定している。
出典:wikipedia
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