善きサマリア人の法(よきサマリアびとのほう、英:Good Samaritan laws、良きサマリア人法、よきサマリア人法とも)は、「災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない」という趣旨の法である。誤った対応をして訴えられたり処罰を受ける恐れをなくして、その場に居合わせた人(バイスタンダー)による傷病者の救護を促進しよう、との意図がある。アメリカやカナダなどで施行されており、近年、日本でも立法化すべきか否かという議論がなされている。聖書に書かれた以下のたとえ話が名称の由来となっている。「善きサマリア人の法」はコモン・ロー(英米法)上のGood Samaritan doctrineに基づいており、基本的には民事上の概念である。コモン・ローでは、法律上の義務又は権限なく他人の事務を行うことは、いわばお節介であるとみなされることもあり、大陸法の事務管理に相当する制度が発達していない。そのため、この法理は、不法行為法における責任軽減事由として位置づけられている。これに対し、日本の法体系の源流である大陸法では、法律上の義務又は権限なく他人の事務を行った場合の処理に関する緊急事務管理という制度がローマ法以来存在しており、その中で事務を管理する者の義務内容として位置づけられていると言う主張もある。カナダでは、善きサマリア人の法は州レベルで定められている。各州の法は、オンタリオ州やブリティッシュコロンビア州では"good Samaritan acts"として、アルバータ州では"Emergency Medical Aid Act"、ノバスコシア州では"Volunteer Services Act"として定められる。ケベック州の法では、市民判事による裁判であり、市民は“Quebec Charter of Human Rights and Freedoms”(ケベック自由人権憲章)で定められる一般的義務を持っている。ブリティッシュコロンビア州では、子供が危険にさらされている場合のみに保護する義務がある。典型的なカナダの州法として、オンタリオ州の“Ontario's Good Samaritan Act, 2001, section 2”(2001年のオンタリオ善きサマリア人の法)を記載する。Protection from liability2. (1) Despite the rules of common law, a person described in subsection (2) who voluntarily and without reasonable expectation of compensation or reward provides the services described in that subsection is not liable for damages that result from the person's negligence in acting or failing to act while providing the services, unless it is established that the damages were caused by the gross negligence of the person. 2001, c. 2, s. 2 (1).仮に手当て者が何らかのミスを犯し、患者が死亡または著しい障害を負うという結末になった場合、手当て者の責任はどうなるだろうか。以下のように、日本の民法上にも「善きサマリア人の法」に相当する規定が既に存在するという学説はあるが確定的なものではなく、責任を問われる可能性が無いとは言えない。には緊急事務管理に関する規定があり、これによると、「管理者(義務なく他人のために事務の管理を始めた者)は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」とされており、この規定によりコモン・ローにおける「善きサマリア人の法」が目的とすることが実現できるとする学説がある。しかし、現時点では通説とまでは言えず、また民事上の判例も存在していない。また、緊急事務管理による免責成立のためには「重大な過失」がないことは手当て者が証明せねばならず、手当て者にとってはやや重い立証責任が課せられることとなる。手当て者が医師である場合、真に「義務のない管理者」と言えるのかについては、医師法19条の応召義務が問題となるが、院外での事故・疾病発生時にたまたま居合わせた勤務外の医師の医療過誤に関する判例は現段階では存在しない。医師に対する無制限の応召義務を否定した地裁判例もあるが、緊急時は自宅にいる勤務時間外の勤務医にさえ応招義務が課せられるとする学説もある。医師が道端で倒れた傷病者の手当てを始めた事例などでは、診療時に当事者間に契約が成立したかが争点となり得、成立が認められれば債務不履行責任を問われ得る。また、航空機内でドクターコールに応じた事例などのように過誤発生時に契約関係がない場合にも、不法行為を根拠に損害賠償請求訴訟が起こされることは想定され、その請求が認容される可能性はある。刑法第37条では、違法性阻却事由の一つである緊急避難に関する規定があり、「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」とある一方で、「業務上特別の義務がある者には、適用しない」とも規定している。謙抑的な運用が期待される刑事上は、緊急避難が成立して違法性が阻却される可能性が高いと考えられるが、やはり判例は存在せず、生じた害と避けようとした害との比較衡量、また医師の場合には応召義務成立による業務上特別の義務の成立の有無等での争いが生じる可能性は否定はできない。万一阻却が認められない場合は、業務上過失致死傷罪、過失致死傷罪、重過失致死傷罪などが成立し得る。判例は存在しないものの、日本でも紛争に至った事例はいくつか報告されている。例えば、日本国内の医師に対して行われたあるアンケート調査によると、「航空機の中で『お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか』というアナウンス(ドクターコール)を聞いたときに手を挙げるか?」という質問に対して、回答した医師全員が上記の緊急事務管理の規定と概念を知っていたにも関わらず、「手を挙げる」と答えたのは4割程度に留まり、過半数が「善きサマリア人の法」を新規立法することが必要だと答えたという。これは国外の航空会社がいわゆるドクターコール時に応じた場合、傷病者が亡くなっても航空会社がその行為を保障すると述べていたのに対し、国内の航空会社では「医師や看護師など名乗り出た者の責任」としていたため、法的責任を問われるリスクから消極的な回答が多いと考えられる。また国際線でも、米国以外では医師の法的責任に関する問題には明確な法律あるいは法律家の間で統一された見解はなく、どの国の法律を適用するのかについてすらはっきりしていない。実際に、上記アンケートでは2/3以上の医師がドクターコールに応じないと思う理由として「法律」を挙げたという。より最近のアンケート調査では、89%もの医師が医療過誤責任問題を重要視し、ドクターコールに応じたことのある医師の4人に1人が「次の機会には応じない」と答えている。「適切な処置を怠った、救命できた高度の蓋然性がある、応召義務があると解釈できる。あっという間に犯罪者だ」「日本の司法の現状からすると、下手をすると業務上過失致死に問われそう」「今の世の中とマスコミの報道の状況では、絶対に応じない」といった声があり、近年の司法・医療報道のあり方が傷病者の救護を阻害している現状もあることが分かる。医療先進国であり訴訟回数も世界一のアメリカ合衆国では、ほとんどの州でGood Samaritan doctrineに基づく制定法が存在しており、手当て者が善意の第三者として万一の過失の際の訴訟を気にすることなく傷病者に処置を施せる状態にある。上記のような事例の存在を踏まえて、近年日本でもこの趣旨の法の制定を求める声がある。
出典:wikipedia
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