チェス・プロブレムとはチェス・コンポジションとも呼ばれ、達成すべき特定の課題を解き手に提示する、チェスのルールに則ったパズルである。たとえばある局面が与えられ、「白が1手指し、どの応手に対しても次の手で黒のキングをメイトせよ」という解答条件が示される。チェス・プロブレムを創作する人を作局家 composer と言う。チェス・プロブレムには多数の専門用語がある(下記の「用語」の項を参照のこと)。以下、項目名を除き、単にプロブレムと記す。プロブレムと対比できるものとして、チェスコラムや雑誌によく掲載されている戦術的パズルがある。これは与えられた局面から最善の指し手(通常はメイトあるいは駒得に至る)を見つけさせる問題である。戦術的パズルは、実際の対局から採られたもの、もしくは少なくとも対局で生じる可能性のある局面であり、棋力向上目的で用いられる。他方プロブレムは、実際の対局では見られないような非常に「人工的」な局面と解を持つように創作された局面であり、棋力向上の効果よりも審美性が重視される。プロブレムの構成条件については、大いに議論の分かれるところである。しかし現実に、チェス雑誌のプロブレムのセクション、プロブレム専門誌、プロブレムを集めた書籍など、出版されたプロブレムでは、ほとんどの場合に以下の共通の特徴を持っている。現在知られている最古のプロブレムは 840年頃に発表されたものである(冒頭の図参照)。ただ、このプロブレムは詰将棋的にチェックをかけ続けるものであった。現在のようなプロブレムの萌芽は13世紀に見られていたが、1845年に Henry A. Loveday が Chess Player's Chronicle に発表した構想作以降、作家たちは新たな構想作を捜し求めるようになり、多数の作品が作成されるようになった。プロブレムは単に問題を解くだけではなく、芸術作品として鑑賞できなくてはならない。この点は特定のテーマをもっとも効率よく表現するという特徴と不可分である。ただしプロブレムの美醜を区別する公式の基準はない。判断基準は人によるし、また時代によっても変化するためである。現代においては、美しいプロブレムの重要な要素として一般的に以下の条件が認められている。プロブレムにはさまざまな種類がある。以上、直接メイト以外のものはすべて、通常と異なるルールを用いているという点でフェアリーチェスの一種である。加えて、「白が勝つ(または引き分ける)手順を求めよ」という解答条件を持つスタディがある。ほとんどすべてのスタディはエンドゲームの局面である。スタディも創作物であるため、広義のプロブレムの一種とされるが、スタディの解答条件には手数制限がないため、通常はプロブレムとは別物とされる。しかし、特にプロブレムでもn手詰にはスタディの特徴を持つものもある。したがって、プロブレムとスタディの間に明確な一線を引くことはできない。どの種類のプロブレムでも、キャスリングは、レトログレード解析(後述)によりキングとキャスリング相手のルークのうち少なくとも一方が動いたことがあることが証明されない限り可能である。一方で、アンパッサンは、直前の手がアンパッサンで取られるポーンのダブルステップ(2枡前進)であることを証明しない限り不可能である。上記の分類に従わないプロブレムも何種類かある。たとえば、ナイトツアーやエイト・クイーン問題のように数学的性質を持つパズルがある。それから、通常のプロブレムと特に関連の深いものとして次の2種類がある。これらについては専門の雑誌、書籍、賞が存在する。これは、T. Tavernerが1881年に作図したプロブレムである。初手(key move)は Rh1 である。直接的な狙いがない(次に白から詰ます手がない)ため、この手はとても見つけにくい。このとき、黒は1手パスしたいにもかかわらず、1手指さなければならないツークツワンクという状況に陥る。黒の可能な指し手19手のすべてが1手詰の局面になってしまう。たとえば、1. ... Bxh7 とすれば、d5 への効きがなくなり、2. S(=N)d5# で詰む。その代わりに、1. ... Re5 とすると、逃げ道が塞がり、2. Qg4# で詰んでしまう。黒がもしパスできれば、白は次の手で黒のキングを詰ますことはできないが、パスはできない。このプロブレムを解くためのテーマに沿った考え方は、問題図においては黒はすでにほぼツークツワンクであると気づくことである。もし黒が先に指せるとすれば、メイトを防ぐために Re3 か Bg5 と指すはずである。しかし、いずれの指し手も黒のキングの逃げ道を塞ぐことになり、もし白のルークが h2 にいなければ別の駒をそこに動かしてメイトできる(1. ... Re3 なら 2. Bh2# だし、1. ... Bg5 なら 2. Qh2#)。プロブレムの世界では、このルークが並びその両脇にビショップがある配置をOrgan Pipesと呼んでいる。黒の駒が互いの利きに入ってしまう効果(干渉)を示す配置である。たとえば、黒が 1. ... Bf7 と指すと、ルークのf5への利きが遮られ、2. Qf5# でメイトできる。この状況は"self-interference"(自己干渉)として知られる。同様に、黒が 1. ... Rf7 と指すと、ビショップの d5 への利きが遮られ、2. Nd5# でメイトである。このような1つのマスにおける2つの駒(ルークとビショップ)による相互干渉は、グリムショウ干渉と呼ばれる。この問題図にはグリムショウ干渉が多数存在する。プロブレムの雑誌では、記述スペースと言葉の問題から、プロブレムの条件を示すために様々な略記法が用いられる。一般的なものを以下に掲げる。これらの記号に、解答条件を達成すべき制限手数の数字を加えて示す。したがって#3は3手詰、ser-h=14は連続ヘルプステイルメイト14手(黒が14手連続して指した後、白が1手指してステイルメイトにする)である。スタディでは、「白先白勝ち」と「白先引き分け」を示すために + と = の記号が用いられる。プロブレムの創作および解答を競う競技会(tourney)が存在する。創作競技には公式なものと非公式なものがある。公式な創作競技では、各プロブレムは審査されてから公開されるが、非公式な創作競技ではまず公開されたものを対象に審査を行なう。非公式な創作競技は、よくプロブレム専門誌やプロブレムのセクションのある雑誌で開催される。ある年度にその雑誌に掲載された全プロブレムを審査の対象とするのが普通である。公式競技は、特別なイベントや人物を記念して開催されることが多い。FIDEのプロブレム創作常置委員会が開催する世界チェス創作競技会(World Chess Composing Tournament:WCCT)は国別のチームによる公式競技会である。公式・非公式を問わず競技会では、通常プロブレムのある特定のジャンル(たとえば、2手問題、n手問題、ヘルプメイト)が指定される。さらに付加的な制限(たとえば、パトロールチェスのプロブレム、ラツニのテーマを表現したプロブレム、使用駒数が8駒以下のプロブレム)が課されることもある。通常、表彰は3段階のクラスで行なわれる。上から"prize"(優秀賞)、"honourable mention"(佳作)、"commendation"(準佳作)である。審査員は、そのクラスに値すると思えばいくつのプロブレムに賞を与えてもよい。当然、該当作なしのこともある。同じクラス内の作品には差をつけることもあるし、つけないこともある。賞が発表された後、受賞作に先例がある(すなわち、同一または類似のプロブレムが過去に発表されている)こと、あるいは不完全である(すなわち、別解があるか解がない)ことを主張する期間(通常は約3か月)を置く。有効な主張があれば、受賞が取り消されることがある。この期間を過ぎて始めて賞は確定する。その後にプロブレムが公表される場合には、受けた賞を示すことが普通である。解答競技も公式・非公式の2種に分かれる。通信により運営される大会では、参加者が郵便や電子メールによって解答を送る。これは非公式の創作競技と似た方式で行なわれる。実際、非公式な創作競技の対象となったプロブレム群がそのまま解答競技の出題となることも多い。このような非公式な大会ではコンピュータの使用を排除できないが、解が特に長いようなプロブレムにはコンピュータでの解答に適さないものもある。もうひとつ、日時と場所を決めて参加者が集まって開催される競技もある。解答には制限時間があり、盤駒以外の補助手段は使用できない。この種の解答競技で最も有名なものは、PCCCが開催する世界チェス解答選手権(World Chess Solving Championship)である。2012年の第36回大会は若島正を実行委員長として日本の神戸で行なわれた。どちらの解答競技でも、プロブレムごとに配点がある。作意解を答えた場合、満点が与えられる。別解や無解を指摘した場合には、ボーナス点が与えられることもある。不完全な解答でも、解答内容に応じて部分点が与えられる。最高得点を獲得した参加者が優勝者となる。同点の場合は解答の所要時間がタイブレークに使われる。実戦チェスと同じように、特に優れたプロブレムやスタディの創作者や解答者に対しても、プロブレム創作常置委員会(Permanent Commission of the FIDE for Chess Composition, PCCC)を通じてFIDEからグランドマスター(GM)、インターナショナルマスター(IM)、FIDEマスター(FM)の称号が授与される。チェスと異なり、プロブレムでは女性限定の称号はない。創作部門では、1959年にIMの称号が創設され、同時に、André Cheron、Arnolodo Ellerman、Alexander Gerbstmann、Jan Hartong、Cyril Kippingの5人に与えられた。またGMの称号は1972年に創設され、Genrikh Kasparyan、Lev Loshinsky、Comins Mansfield、Eeltje Vissermanの4人に与えられた。またFMの称号も1990年に創設された。後には、FIDEアルバムに選出掲載された作品の数によって称号が与えられるようになった。FIDEアルバムは、3年間に創作されたすぐれたプロブレムとスタディの選集で、FIDE の任命する審査員が選定にあたる。アルバムに掲載されたプロブレムには各1点、スタディには1 2/3点が与えられる。共作の場合には、この点数を各作者に等分に分配する。FMになるには12点、IMには25点、GMには70点が必要である。解答部門では、GMとIMの称号が1982年から、FMの称号が1987年から授与されている。GMとIMは、世界解答選手権(World Chess Solving Championship, WCSC)の成績によってのみ獲得できる。GMになるには、「優勝者の得点の90%以上を獲得し、かつ10位以内」の成績を連続10回のWCSCで3回達成しなければならない。IMになるには、「優勝者の得点の80%以上を獲得し、かつ15位以内」の成績を連続5回のWCSCで2回達成しなくてはならない。あるいは、1回のWCSCに優勝する(または優勝者と同得点を獲得する)ことでもIMになれる。FMになるには、2つのPCCC公認大会で優勝者の得点の75%以上を獲得し、上位40%の順位に入らなければならない。日本人では解答IMに若島正、解答FMに山田康平がいる。International Judge of Chess Compositionsの称号は最高の水準で創作競技の審査にあたれると判断された個人に与えられる。ここにあげた用語は一部である。なお、項目名が"斜体字"のものはフェアリーチェス由来の項目である。
出典:wikipedia
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