集団的知性(しゅうだんてきちせい、英語:Collective Intelligence、CI)は、多くの個人の協力と競争の中から、その集団自体に知能、精神が存在するかのように見える知性である。Peter Russell(1983年)、Tom Atlee(1993年)、Howard Bloom(1995年)、Francis Heylighen(1995年)、ダグラス・エンゲルバート、Cliff Joslyn、Ron Dembo、Gottfried Mayer-Kress(2003年)らが理論を構築した。集団的知性は、細菌、動物、人間、コンピュータなど様々な集団の、意思決定の過程で発生する。集団的知性の研究は、社会学、計算機科学、集団行動の研究などに属する。Tom Atlee らは、Howard Bloom が「グループIQ」と呼んだものから一歩進み、人間の集団的知性に研究の焦点をあてている。Atlee は集団的知性を「集団思考(集団浅慮)や個人の認知バイアスに打ち勝って集団が協調し、より高い知的能力を発揮するため」のものと主張している。集団的知性研究のパイオニアである George Por は、集団的知性現象を「協調と革新を通してより高次の複雑な思考、問題解決、統合を勝ち取りえる、人類コミュニティの能力」と定義している。Tom Atlee と George Por は「集団的知性は、関心をひとつに集中し、適切な行動を選択するための基準を形成する能力がある」と述べている。彼らのアプローチは Scientific Community Metaphor を起源としている。集団的知性の概念を最初に提唱したのは昆虫学者 William Morton Wheeler である。彼は個体同士が密接に協力しあって全体としてひとつの生命体のように振舞う様子を観測した。1911年、Wheeler はこれを蟻の観察で発見した。彼はコロニーによって形成される生命体を「超個体」と呼んだ。集団的知性の先行概念としては、ウラジミール・ベルナドスキー の「叡智圏(ノウアスフィア)」やH・G・ウェルズの「世界頭脳(world brain)」があるが、その後も ピエール・レヴィの著作、Howard Bloom の "Global Brain"、Howard Rheingold の "Smart Mobs"、Robert David Steele Vivas の "The New Craft of Intelligence" などで言及されてきた。"The New Craft of Intelligence" では、全市民を「知性召集兵(intelligence minutemen)」として正当で倫理的な唯一の情報源とし、それによって公僕や企業経営者を正す「公的知性(public intelligence)」が生み出され、さらに「国家的知性(national intelligence)」となるとした。1986年、Howard Bloom は、アポトーシス、コネクショニズム、集団選択、超個体といった概念を統合して集団的知性に関する理論を生み出した。後に彼は細菌コロニーや人間の競争社会のような集団的知性をコンピュータ上に生成した「複合適応システム」と「遺伝的アルゴリズム」で説明できることを示した。David Skrbina は、「集団心(group mind)」の概念はプラトンの汎心論(精神や意識は遍在し、あらゆるものに存在している)から導き出されるとした。彼は「集団心」の概念をホッブズのリヴァイアサンやフェヒナーの集団心理に関する主張に基づいて展開した。彼は集団心理に関して最も重要な人物としてデュルケームやテイヤールを挙げた。集団的知性は創始者の指針の増幅である。トーマス・ジェファーソンは「国家の最大の防御は、教育された市民である」と述べている。工業化時代、学校と企業はエリートを一般市民から選別する方向に向かった。政府も民間組織も官僚制を美化し、知識を秘匿することを良しとした。最近の20年間で、知識の秘匿が公共の利益に反する利己的な決断を生むことが明らかとなってきた。集団的知性は人々の力を社会に還元し、富の集中を生む情報処理の既得権を無効にする。集団的知性の好例は政党である。政治的方針を形成するために多数の人々を集め、候補者を選別し、選挙活動に資金提供する。その根本とは、「法律」や「顧客」による制限がなくても任意の状況に適切に対応する能力を有することである。この観点の信奉者の1人としてアル・ゴアが挙げられる。彼は2000年の民主党の大統領候補であり、「米国憲法は、我々が個人ではできないことを集団でなさしめるプログラムである」と述べた。緑の党の4つの柱(エコロジー、社会正義、草の根民主主義、非暴力)もそのような「プログラム」の例である。これは緑の党や関連する組織での合意形成の基本となっている。特にグローバルグリーンズを組織するにあたって、この4つの柱が有効に働いた。軍隊、労働組合、企業もより特定の目的に特化しているが、集団的知性の本質の一部を備えている。特に人工知能方面で「集団的知能指数」(あるいは「協力指数」)が測定の尺度として使われる。これは個人の知能指数(IQ)のように測定でき、集団に新たに個人が参加することによって知性が増すことを数値で示し、集団思考や集団での愚かさの危険を防ぐのに使われる。2001年、ポーランド AGH 大学の Tadeusz (Ted) Szuba は集団的知性現象の形式モデルを提案した。それは、無意識的で、ランダムで、並行的で分散化された計算プロセスであり、社会構造によって数学的論理を実行するものである。このモデルでは、個人と情報は、数学的論理の式を運ぶ抽象情報モジュールとしてモデル化される。それらは、自らの意図と環境との相互作用に従って準無作為的に配置を変える。抽象計算空間でのそれらの相互作用はマルチスレッド化された推論プロセスを生成し、それが集団的知性として観測される。つまり、そこでは非チューリング的計算モデルが使われている。この理論では集団的知性に社会構造の属性としての単純な形式的定義を与え、細菌コロニーから人類の社会構造まで様々な面をうまく説明できる。集団的知性を特殊な計算プロセスと捉えることで、いくつかの社会現象も説明できる。この集団的知性のモデルでは、IQS(IQ Social)の形式的定義が提案され、「社会構造の推論活動を反映したN要素推論ドメインと時間の確率関数」と定義されている。IQSを計算で求めることは難しいが、上述の社会構造の計算プロセスとしてのモデル化によって近似値を得る可能性が出てくる。考えられる応用としては、企業のIQSを高めるための最適化や細菌コロニーの集団的知性による薬剤耐性の分析などがある。人工知能的なものに批判的な人々(特に人間を人間たらしめているのはその身体性であると信じている人々)は、集団が流体のように移動して被害を最小限にするよう行動する点を強調する。この考え方は反グローバリゼーションの立場を取る人々により顕著であり、学界とは一線を画している John Zerzan、Carol Moore、Starhawk らの業績などに端的に現われている。彼らの主張によると、「知性」は、存在するかどうかも疑わしい単なる「賢さ」であるとし、存在論的区別をする合意形成の役割やエコロジカルな集団的知恵を好む。倫理的観点から人工知能を批評する人々は、「集団的知恵」を構築する手法を追求している。それを集団的知性の一形態と呼べるかどうかは不明である。ビル・ジョイなどは自律的人工知能全般を排除したいと考え、集団的知性には人工知能を関わらせないようにしたいと考えているように見える。2013年に中公新書から出版された日本の情報学者である西垣通氏が執筆した著書『集合知とは何か -ネット時代の「知」のゆくえ-』において、集合知の特性や機構に関する哲学・思想的な側面からの深い考察が行われており、集合知の無闇な礼賛が批判されている。氏は著書の中で、Googleが実行しようとしている集合知を利用して汎用人工知能を作成する試みは、日本の研究者が集結し1980年代に遂行したものの、実用的では無かった第五世代コンピュータの開発の試みとそれほど違わないと述べている。氏は未知の事柄について人々の間に集団的偏見が無く、あくまで中立的にランダムな判断をするという仮定が成立する場合にのみ、集合知が有効であるとの見方を示している。また、氏は人間の思考は自律的な閉鎖システム(オートポイエーシス)であり, 計算機システムの処理は他律的な開放システム(アロポイエーシス)であるため、人間と計算機の動作機構は大きく異なるとしている。従って、各個人の思考・行動において自己の裁量が介入する余地が殆ど無くなり、行動パターンの変化が無くなり環境変化への柔軟性が損なわれてしまうため、個人を集合知から導いた結論へ意図的に誘導することは避けるべきであるとの見解を示している。さらに、人間の自律性を維持したまま集合知を活用するために、社会を階層的な自律システム(著書内ではHierarchical Autonomous Communication System (HACS)と呼称)とし、個人から大規模な集団に至るまでの各階層において思考の閉鎖性を維持し、下位階層内の暗黙知や感性的な深層を集約して上位階層に掬い上げ、その上位階層に属する個人の間で広く共有するべきとの提案も行っている。人間の意識が完全なオートポイエーシスかどうかに関しては未だに学界全体での合意は得られていないが、大まかにそのような性質を持つことに関しては西垣氏以外にも複数の研究者が指摘している。
出典:wikipedia
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